ベストの策は北朝鮮を内戦に引きずり込むことだ

オピニオン・提言系
出典:newsweekjapan




さて、前回、韓国の裏切りにより「日米韓の連携」という伝統的な戦略が破綻しつつあるという話をしたが、「ではそれに代わる策は何か?」を述べるところで終わった。

正直、対案というほどご大層なものではない。

要点をいえば、「日米とも朝鮮半島から完全に撤退する。日本は核武装することによって北朝鮮(ないし南北朝鮮)との軍事バランスをとる」というものだ。

今の局面を逆用して核武装しよう・・・要するに、私はそれが言いたい。

ただ、それをくどくどと述べる前に、(今となっては現実性はないが)「そもそも本当はどうするのがベストだったのか」について、私見を述べておきたい。



なぜ日本が「他人の戦争」に関わりを余儀なくされるのか?

これまで表明してきた通り、私はアメリカの対北戦争には反対している。アメリカの安全保障のためになるが、日本のためとしては、いささか時期を逸しているからだ。

北朝鮮の核開発はすでにアメリカにとって自衛権の問題になった。

アメリカとしては、日韓がどうであろうが、北朝鮮が米本土向けのICBMを完成させる事態を阻止したい。ただし、兵器としての性能が安定していなければ北朝鮮としても実戦配備に至らないわけで、そういう意味での完成にはまだしばらくかかる。

アメリカは自国(と、あとはイスラエル)の安全保障のために、そのリミットまでに軍事力でもって強制的に北朝鮮の非核化を成し遂げようと目論んでいる。

しかし、日本にとって、朝鮮半島での戦争は、一文の得にもならないどころか、大きなリスクや代償を伴う。北朝鮮からの報復核攻撃やテロ攻撃、大量の難民の押し寄せ、アメリカからの戦費の請求、戦後の復興支援・・等など、面倒ばかりである。

一文の得にもならない戦争をする国を指して、人は「馬鹿」と呼ぶ。「日本の安全保障に資するじゃないか」との考えは、そもそも在日米軍基地の存在が日本を米朝戦争(又は米韓と北との戦争)に巻き込む元凶との認識を欠いており、倒錯している。

北朝鮮には元来、日本を攻撃する理由もなければ、対日戦の国力もないのだ。

たしかに北朝鮮の核・ミサイル開発は脅威だし、日本人の大量拉致という許し難い犯罪もある。しかし、米軍基地がなければ米朝戦争の際に狙われることもなく、恐れる必要もなかったこともまた事実ではないだろうか。また、戦争は何だかんだと言って国と国との殺し合いだ。仮にまともな独立国家だったら、今回のケースでは、他国の問題だとして、いち早く局外中立を選択して高みの見物を決め込んでいただろう。

なぜそういう当たり前の選択ができないのか。日本が独立国家ではないからだ。

前回の記事で紹介した河合克行議員は「対馬海峡が「新たな38度線」とならないために」の中で次のように述べている。

国際連合の旗の下で戦った米英仏加など16ヶ国からなる国連軍(UNC)の後方司令部はいまでも米軍横田基地に置かれています。また、横田、座間、横須賀、佐世保、嘉手納、普天間、ホワイト・ビーチの在日米軍七基地は国連軍の基地としても指定されているのです。半島の事態によっては、自衛隊を含め、日本は好むと好まざるに関わらず、“当事者”としての判断が求められるのです。

河合氏はさも当たり前というふうに述べている。

しかし、70年以上昔の戦争で日本を打ち負かした連合軍が未だに日本を占領しているというのは極めて異常な状況である。ただ、それ以上にアブノーマルなのは、こういう異常な状況を異常とも思わなくなってしまった日本人の感覚麻痺だ。

この占領状態のせいで、日本は、本質的には米韓と北朝鮮との問題に関わりを余儀なくされ、しかも国家としての選択に際して大きな制約を強いられている。

実はベストの対北戦略を選んだ安倍総理

しかし、そういう制約の中にあって、実は「最善の策」ではないかと私がやや感心しているのが、実は安倍総理の対北外交である。なぜか?

安倍総理は北朝鮮に対して「最大限の圧力をかけ続ける」という、戦争でもなければ対話でもない「第三の道」を選んでいるからだ。

上で述べたように、私は戦争には反対だし、かとって安易な対話にも反対だ。そもそも1994年の米朝枠組み合意以降、ずっと北と対話してきて、失敗だった。

だから、対話、対話と、何とかの一つ覚えみたいに叫んでいる者たちは、自分が平和主義者のつもりなのかもしれないが、実際にはただの無責任人間でしかない。

対して、安倍総理は、北朝鮮との対話が無駄に終わったこれまでの教訓をよく踏まえている。他方で、アメリカの武力行使には必ずしも全面賛成ではないようだ。

最大限の圧力を維持すれば、北朝鮮は泣く泣く非核化するか、それとも自壊に追い込まれるか、どちらかしかないはずだ・・・おそらく安倍総理はそう考えている。

そのために安倍外交は、国連安保理の全会一致でオーソライズされた「国際社会としての経済制裁」の実現に尽力し、成功に漕ぎ着けた。

金正恩にしてみれば、独裁者とはいえ、内政的に核放棄の選択は至難だ。かといって、検証可能な非核化をしなければ「輸出収入9割減」の制裁が続く。

白旗を掲げるか、それとも自壊するか・・。しかも、時間が刻々と体制を締め上げていく。つまり、北朝鮮は将棋でいえば「詰んだ」状態へと追い込まれているのだ。

これは日本の制約された立場にあって、ベストの戦略であろうと思われる。

事実、経済制裁によって北朝鮮が非常に困っていることは間違いない。というより、繊維産業や海外出稼ぎなどの分野で大量の失業が生まれ、石油の輸入も制限されて、ほとんど死活問題となっている。北朝鮮の独裁体制にとって残された時間は少ない。

「対話しろ」派と「武力行使せよ」派が拮抗する中で、そのどちらでもない安倍外交の妙技はもう少し評価されてもいいのではと思うのは私だけだろうか。

文在寅に謀略のセンスさえあれば勝てるのに

さて、この安倍総理の対北政策は、やることをやったら(制裁をマックスまで持って行ったら)、「人事を尽くして天命を待つ」というか、あとは待つだけだ。

しかしながら、北朝鮮のほうも制裁に対して耐性があるのも事実だ。

第一に、北朝鮮の民衆は「飢餓慣れ」している。彼らはこれまでずっと耐えることを強いられ、徹底的に国家権力によって飼いならされてきた。

第二に、北朝鮮は兵齢期の若者を軍隊(体制)側に取り込んでいる。

よって、日本の策だけでは今ひとつ決め手に欠くのも事実だ。あと何か一つ「駄目押し」の策がほしいのである。ここで問題なのは韓国側の対応だ。

日本側は「人事を尽くし」ても、韓国にはまだまだやれることがある。

本来、このタイミングで韓国側にとってベストの策とは、日本の策に呼応して、金正恩独裁体制を内部から揺さぶることのはずだ。

つまり、最上策は朝鮮人自身に体制を打倒させることだ。要するに、シリアで外国の支援を受けたアサド政権打倒の民兵が立ち上がったのと同じ構造である。

文在寅大統領に謀略のセンスさえあればそれができたに違いない。

北朝鮮は韓国との国境線付近に戦力を集中しているため、北部が比較的手薄になっている。だから、北部の複数の箇所で反乱の火の手を上げる。

最初の決起グループは、韓国の特殊部隊員や諜報員・工作員が主導する形でもいい。あとは武器・食糧・資金などをどんどん供給していく。

「真人民軍」とでも名乗ればいい。「人民を苦しめる独裁体制を打倒して真の共和政を実現する」というスローガンならいけるかもしれない。北朝鮮のような国ではとくに食糧が“武器”になる。米、袋麺、ビスケットの類いなど、とにかく何らでもいいから反乱軍に食糧を撒かせる。対して、食糧を配給できない政権側は人々から見限られていく。

北朝鮮は北部が手薄だし、海岸線も入り組んでいるので、補給路には事欠かない。潜水艦や航空機などを通して物資を補給し続けることができる。西側の高性能小火器やトヨタのランドクルーザーなどをどんどん下ろしていく。複数箇所で決起することにより、政権側の戦力を分散することができる。人民軍将兵には食糧・金・論功行賞などをエサにして寝返りを呼びかける。こうして地方の役所と軍基地を順番に落とし、解放区を広げていく。最終的には首都を包囲し、政権直下の親衛部隊を孤立させる・・。

金正恩にとって、こんなふうに内戦に引きずり込まれることが一番恐ろしいはずだ。また、この方法は費用対効果も高いに違いない。だから韓国にとって最善策のはず。

だが、言ったように、文大統領では駄目。一国の指導者たるもの、やはり「悪」の顔もなければならない。彼は悪い意味での善人だ。対して、かつてのパク・チョンヒやチョン・ドファンのような軍人出身者なら、こういった謀略を是としたに違いない。

国際社会による経済制裁で北朝鮮が弱っている時こそ、本当はこのような政権転覆の謀略を発動するチャンスなのに、文大統領はくだらない反日ばかり実行している。

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