金正恩の「怒りの核攻撃」という可能性

テロ・紛争・戦争・崩壊




9月9日、北朝鮮が5回目の核実験、それも「核弾頭」の爆発実験に成功したと発表したことで、日本全国に激震が走った。仮に日本全土を射程に収めるノドンミサイルにこれを搭載すればどうなるのか。しかも、北朝鮮が移動式発射台を有し、複数基の同時発射もやってのけることは、9月5日の弾道ミサイル発射実験でも証明された。

かくして、「被核攻撃リスク」がようやく一般にも認識されるようになったわけだが、私は個人的にかなり以前からそれを認識し、「when・where・why」という予測と共に「How:どうやって防ぐか」という対策まで考え、すでに一部を発表させていただいた。

一般には、北朝鮮が実際に核を使用する可能性について、依然として疑う向きが強い。最大の理由は、使用すれば100%自分たちも滅びるからだ。それゆえ、あくまで政治的な恫喝のツールであって、本当に使用することはないという見方が今でも大勢のようだ。

だが、必ずしも合理的・理性的な判断を下すとは限らないのが人間である。ましてや戦争中の異常な集団心理下にあっては。

たとえば、なぜ日本帝国は、1945年3月の東京大空襲を経験した後も、勝つ見通しがまったくないにも関わらず、戦争を継続したのだろうか。なぜ原爆投下の後でさえ、天皇の聖断を仰がねばならなかったのだろうか。なぜ将校たる者が「一億玉砕」などという自暴自棄的なスローガンを唱え、突っ走ったのだろうか。

それゆえ、私は予測に際して、相手が必ず合理的な選択をするはずだという思い込みは真っ先に捨てた。それは北朝鮮に対する良い意味での偏見であり、期待であり、勝手な願望・希望的観測の類いに他ならない。

すると、むしろ敗北が確実な断末魔の状況だからこそ金正恩が核攻撃を命じるのではないか、という考えが浮かんできた。以下に説明する。



地下施設で死を待つ状況下に置かれた時

独裁国家の場合、国家の行動を決めるプロセスで、専制者個人のパーソナリティが大きな比重を占めることは周知の通りである。

だから、これは基本的に「ある人物(金正恩)が、ある状況下に追い込まれた場合、どういった行動に出るか」という想定だ。

金正恩の人格については、幼少の頃から彼を見知っている専属料理人の藤本健二氏の情報が参考になる。彼は少年時代から年上たちを自在に動かし、命令し、叱りつけさえした。非常に甘やかされており、周囲の人間を奴隷的に扱うことに慣れている。だから、一切我慢できず、異常なほどキレやすい。

私がはっきりと危険性を感じたのは、ナンバー2の張成沢とその一族を処刑した時だ。子供の頃から身近に接してきた人物でさえも、邪魔だと思えば殺してしまうのである。こんな人間が核使用の決定権を握っているのが現実だ。

では、この男が以下のような状況に追い込まれた際、どんな行動に出るだろうか。

まず、開戦の理由はいろいろと考えられる。たとえば、国境での故意又は偶発的な衝突が拡大していくケースなどだ。ただ、どんな形であれ米軍が介入――それはほとんど確実な想定だ――すれば、必ず北朝鮮の軍事施設に対する大規模な空爆が行われる。北朝鮮に迎撃能力はほとんどないので、初期の空爆作戦で軍事施設はほぼ壊滅する。

つまり、彼我の圧倒的な戦力差を考えると、米軍が動いた時点で雌雄が決したも同然だ。

さて、金正恩と参謀本部は、米軍の精密誘導爆撃にも関わらず、首都平壌の広大な地下ネットワークに避難することで、うまく生き延びるだろう。つまり、ファースト・ストライクでの「斬首」は失敗である。

ただ、レーダーと通信施設を破壊されたことにより、総司令部は盲目に近い状態に置かれる。そこへ米韓軍の特殊部隊がいつ突入してくるかも分からない状況だ。

その時、金正恩はどんな精神状態に陥るだろうか。おそらく極度の恐怖心と疑心暗鬼とで発狂一歩手前まで行くはずだ。そして、自分をこんな目に合わせた韓国の朴クネ政権と米軍に対して、激しい憎悪と復讐心を燃やすに違いない。

独裁者が自殺的核攻撃を命ずる日

このような精神状態で、果たして核攻撃を命じないという保証があるだろうか。もちろん、彼は残忍であっても馬鹿ではないので、そんなことをすれば自分も金王朝体制も終焉することは分かっている。その認識がブレーキとして働く、という見方が多いわけだが、果たしてそうだろうか。

独裁者にしてみれば、戦争に敗北すれば、どっちにしろ終わりである。少なくとも彼個人の命脈は尽きる。良くて、裁判でさらし者・一生監獄の運命だ。この男にとって、それは世界が終わるのと同じことだ。だから次のように考えるはずだ。

「核を撃とうが、撃つまいが、どうせ自分はおしまいだ」

「これまで自ら陣頭指揮を取って核・ミサイルを開発してきたのに、その切り札を温存したまま死ぬことは耐え難い」

「自分が死ぬときには、できるだけ大勢の敵を道連れにしてやりたい」

かくして、死を覚悟した金正恩は、いわゆる「火病」(ファビョン)を発病した狂乱状態となり、「核ミサイルを発射しろ!」と命令するだろう。

つまり、必ずしも軍事戦略上の理由から攻撃するとは限らない。そもそも、そうしなければならない宇宙の法則があるわけでもない。また、「同じ民族に対して使うはずがない」というのも、ただの思い込みであり、この独裁者に対する過大評価の類いだろう。

私はその時、韓国大統領官邸に向けて発射する可能性も十分ありえると思っている。もしかすると、青瓦台と国会議事堂を結んだ直線の中間(梨大駅付近)あたりを狙うかもしれない。

また、「日本にある侵略の拠点」も核攻撃対象だと、わざわざと北朝鮮自身が声明している。対日核攻撃については、私自身もまだ半信半疑だが、最悪の事態だけは想定しておかなくてはならない。

第二次大戦の時も、結局、最悪の事態が現実になったわけだから。

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