このたび、「れいわ新選組」を立ち上げ、代表に就任された山本太郎さん。
一部の人たちから熱狂的に支持されています。
彼は小沢代表の自由党を離党して、独自の公約を発表しました。
「政権を取ったらすぐにやる」と約束しているのが以下の「8つの緊急政策」です。
(1) 消費税廃止
(2) 全国一律!最低賃金1500円『政府が補償』
(3) 奨学金徳政令
(4) 公務員増やします
(5) 第一次産業戸別所得補償
(6)『トンデモ法』の一括見直し・廃止
(7) 辺野古新基地建設中止
(8) 原発即時禁止・被曝させない
この8つについてそれぞれ私なりの意見がありますが、今回は二つに絞ります。
まず初めに、(4)の公務員を増やす政策についてですが、具体的には「保育、介護、障害者介助、事故原発作業員」などを新たに公務員化するという内容になっています。
当然、公務員を増員するとなると、新規にコストがかかります。
ここでは介護職員のみを対象として、いったいどれだけ人数がいて、どれだけ新規にコストがかかるのか、具体的に見てみることにします。
今後必要な介護職員数と公務員化した場合のコストは?
まず人数ですが、少子高齢化の加速に伴い急増中ですので、少し古い統計はあまり当てにしないほうがよいようです。業界を管轄する厚生労働省によると、2020年度で216万494人、2025年度で244万6562人の介護職員が必要であるとしています。ただし、供給が追いつかないことが予測され、外国人材の確保が不可欠と考えられています。
山本太郎氏が政権入りして公約を実行する段を考えると、2020年度あたりの人数が参考になりそうです。つまり、介護のみで216万人の公務員が新規に誕生するわけです。
仮に公務員化すると、給与は上がり、現状の離職率も改善され、深刻な人手不足に悩まなくてもすむかもしれません。さっすが山本先生!・・なのでしょうか?
ここでコストのほうを考えてみましょう。
公務員の給与は法律で定められており、それに準じなければなりません。総務省資料によると、国家公務員と地方公務員の平均年収にはあまり違いはなく、前者が20万円程度上回る程度です。また、地方公務員の場合は自治体ごとに少し差があり、東京神奈川だと年収700万円を超えるところもありますが、それほど極端な違いはありません。
介護職員を公務員化した場合、地方公務員法に順ずる形になります。
総務省資料によると、平成30年度の地方公務員の平均年収は663.6万円。
すると「1人663.6万円 × 216万人」ですから、介護職員の公務員化政策により、
新たに14兆3千億円強の人件費が生ずる計算になります。
ちなみに、期近の2025年度基準であれば「×244.7万人」ですから、16兆2千億円強のコストに膨れ上がります。
しかも、これは人件費のみという点にご留意下さい。
当然、事務所経費、車両費、備品費、光熱費などの維持運営コストもかかります。
一般に介護事業における人件費の割合は6~7割であることから、事業全体のコストはさらにこの3~4割増しということになります。
おそらく、公務員のコスト感覚だと、4割増しのほうになる確率が高い。
つまり、2025年度には「最大27兆円」もの新規コストが生じる試算になります。
山本太郎シナリオは“公務員倍増計画”だった
しかも、山本太郎氏が公務員化の対象を「保育、介護、障害者介助、事故原発作業員」としている点にご留意下さい。公務員にするのは介護職員だけではないのです。
2015年度の資料によると、保育士として勤務している人は約43万人。その他についてはもう調べませんが、どうやら「8つの緊急政策」のうちの4番目の公約だけでも、2025年度には大雑把に30兆円以上の新規コストを要するのは間違いないようです。
ちなみに、人数面でいえば、介護・保育分野を足して約260万人。2025年度には約290万人になります。これだけの人々を公務員化せよというのが山本緊急政策。
老齢者人口は2040年頃まで増加の一途を辿ります。よって、2025年度以降にあっても、当然「介護公務員」もそれに合わせて増えていくわけです。
人事院資料によると、平成30年の地方公務員数は273.9万人であり、国家公務員は58.3万人です。現状、公務員と呼ばれる人は332万人以上いるわけです。
つまり、山本太郎シナリオとは、今いる公務員をほぼ倍増する計画と言ってよいのではないかと思います。
莫大な国民負担増となる山本太郎シナリオ
さて、この「山本太郎シナリオ」ですが、これだけの増加コストを無理なくどこからか引っ張ってくることができれば、別に問題はないわけです。
やはり介護に絞って見てみましょう。
公的介護保険制度の規模は令和元年で11兆円強予測ですが、高齢化の進展で今後さらに膨らんでいくことは必然です。現状、以下の割合でコストが捻出されています。
周知のように、40歳以上になると、介護保険料の支払いが義務付けされています。現状では64歳までは医療保険と一括徴収され、65歳以上からは別個に徴収されます。地方自治体による強制であり、その支払い義務は一生涯に渡って続きます。
しかし、上の円グラフが示すように、この保険料によってカバーできるのは予算の半分でしかなく、残りは国と自治体による持ち出しになっています。
余談ですが、これは医療と似た構造です。医療費もまた年々膨張しているため、われわれ国民被保険者が支払う健康保険料だけでは賄いきれずに一般会計による補填が以前から恒常化しており、しかも少子高齢化の進展でそれは進む一方です。
記事「2020年代には毎年約75万の人口が消失、その後には」
いずれにしても、現在、私たちが支払っている介護保険料は6兆円弱程度でしかありません。2025年度には「最大27兆円」もの予算規模となる「山本太郎シナリオ」だと、負担割合を現状維持とする場合、私たちは直接的には13.5兆円を負担しなければなりません。残りの同じ額を国と自治体が拠出しますが、その原資も元は国民負担です。
しかも、言ったように、これは介護のみの話。
約43万人の勤務保育士その他まで公務員化していったら、ごく近い将来、新規コストは確実に30兆円以上になります。大変な負担増です。
その財源をどうすればよいのか、山本議員からは具体的に示されていません。
山本議員へのメッセージ――政府は魔法使いではない
ここで遅まきながら、山本議員の「8つの緊急政策」に関して、二個目の意見表明を簡潔にしたいと思います。それは「(1) 消費税廃止」についてです。
現状8%消費税による歳入は17兆円強です。
山本太郎氏はこれだけの財源を無くせと言っているわけです。そして「庶民を苦しめている安倍政権を倒せ!」の人々がそれに同調し、拍手喝采しています。
誰だって消費税がないほうがいいに決まっています。私もそうです。
しかし、上で見てきたように、山本太郎氏の公約の(4)だと政府の歳出のほうは大幅に増える形になりますが、公約の(1)だと歳入のほうは大幅に減る形になります。
これでそもそも政府が正常に機能するのでしょうか?
家計に例えれば、収入は減るけど、支出は増やすと宣言しているに等しい。しかも、それをこの先歳入が細っていく可能性の高い人口急減時代にやると言っている。
さらに、国民生活者目線で言っても、山本シナリオは結局は負担増です。
なぜなら、消費税廃止によって17兆円がわれわれの懐に戻ってくるが、彼のもう一つの公約である公務員増によってそれ以上の支出を余儀なくされるからです。
すると、実質増税と何が違うのか?
はっきりしているのは、政府は魔法使いではないということです。
合理的でない思いつきの方法では、社会システムは維持運営できないのです。