現在、子供の貧困率が最悪を更新している。厚生省の統計によると月の可処分所得10万円以下の人が2千万人ほどいて、中でも母子家庭で平均所得以下の人は約96%を占めると、NPO法人「もやい」の大西連氏は言っている。
もちろん、月10万以下といっても、それが年金や不動産・配当からの所得であったり、持ち家のあったりする世帯は、必ずしも「貧困」とは言えない場合も多い。おそらく、この中でもっとも暮らしが大変なのは、パートタイムの勤労者で、借家住まい、しかも子育てまでしている世帯である。イメージでいえば「時給千円前後のアルバイトを、ほぼフルタイムでこなしながら、一人で子育てし、アパート暮らしをしている女性」である。いったい、どれほど大変なことか。想像するだに、こちらの胸まで苦しくなってくる。
他方で、総務省によると、現在、空き家が820万世帯もあるという。土地は値上がりしない上に固定資産税までがかかるということで、今や「負動産」とも称されている。これからの人口減少・少子高齢化を考えると、空き家は増えこそすれ減る見込みはない。
そこで、自治体行政が両者を仲介する市民サービスを始めたらどうかと思う。そうすれば、貧困世帯と空き家のオーナーの双方にとってメリットとなる。
具体的には、たとえば、空き家のオーナーは、物件を登録するにあたり、月1万円以下の家賃を設定できる。しかも、固定資産税の減免措置も受けられる。むろん、空き家だからといって「何を提供してもいい」というものではない。小額なりとはいえ、お金をとって人に貸す以上は、賃貸物件としての設備水準を満たしていなければならない。
一方で、貧困世帯や生活の苦しい大半の母子家庭は、そこへ移転することによって、たとえば、従来4~5万円だった家賃負担を1万円以下に下げることができる。また、生活保護世帯にも移転してもらえば、行政にとっても同じだけの経費が削減できる形になる。
はっきり言って、空き家のオーナーにとっては、家屋の維持費くらいにしかならないが、少なくとも資産の「負動産」化は防ぐことができる。貧困世帯にとっては、月に数万円の経費が浮く(=可処分所得が増える)ことの意味や効果は非常に大きい。
ちなみに、このような行政サービスを立ち上げる場合、実際に実務を担う市役所や町村役場の中で、具体的にどのセクションが担当するのかという課題がある。私は福祉課に担当部署を新設したらいいと思う。ここに建築や資産税を担当する他課の係が協力する形になる。また、その自治体内の格差解消に留まらず、全国的な広域性ともリンクしてほしい。
最近、現金を与える・一律にばら撒く、という支援のあり方が議論になっているが、それも一つの方法だろうが、その前にもっとも知恵を絞りたい。なにしろ、知恵はいくら絞っても「タダ」なのだから。
2016年02月12日「アゴラ」掲載
(再掲時付記:うっかりしていましたが、これに近い政策はすでに一部の自治体で行われていたんですね。つい最近ですが、管轄省庁が動いて、これを全国的にやろうという方針になったようです。たいへん良いことだと思います。)