さて、少し前の記事(下)が伏線になっているので、一応目を通してほしい。
実質2013年からスタートを切った安倍政権は、政治主導の目玉として、同年の12月に国家戦略特区構想の実現に向けて動き始めた。
文科省と日本獣医師会は、それ以前の丸5年間にわたり、有識者会議を立ち上げて、地域や分野の偏在等の獣医療問題に取り組んでおり、彼らの主観では、いわばポッと出の素人集団(安倍政権)によって「縄張り」を侵される格好になった。
それが「行政が歪められた」発言の奥にあると、前々回の記事で述べた。
現在、この問題で、マスコミが主に焦点を当てているのは、愛媛県と今治市が16回目の申請をした2015年度半ば以降の動きである。
しかし、日本獣医師会の資料を見ていくと、彼らが2014年の段階から非常な危機感を募らせ、新設潰しに奔走していた事実が浮かび上がってくる。
その尖兵として動いていたのが、同会の大物族議員たちだった。
その経緯をトレースしていくうち、まさかと思うある重大な疑惑に気づいた。
(*以下、資料内の(中略)の字は筆者入れ。以下同)
2014年度の日本獣医師会と官邸・新規参入組とのつばぜり合い
以下は「平成26年(2014年)度 第2回理事会の議事概要」からの引用だ。
(http://nichiju.lin.gr.jp/conference/rijikai/20140627r.pdf)
報告者は日本獣医師政治連盟委員長の北村直人である。同医師会の要請を受けた麻生太郎ら大物議員が新設反対に向けて動き始めたことが分かる。
他方、加計学園や愛媛県側の関係者もこの頃から積極的に攻勢に転じたようだ。
以下、「平成26年(2014年)度 第3回理事会の議事概要」より。
(http://nichiju.lin.gr.jp/conference/rijikai/20140919.pdf)
だが、四国の獣医師団体は彼らに対して「既成事実を作られぬよう対応」した。
上には、菅官房長官が「既に終わったことと話された」「これは現内閣がこれ以上は対応しないという方向」とあるが、主語がぼけているので分かりにくい。
つまり、菅官房長官が加計学園・愛媛県側に「もう君たちを相手にしないよ」という意味のことを言ったのか、それとも日本獣医師会と北村側に対してそう言ったのか、どちらか判然としない。後者が前者の意味に誤解しているとも取れる文面だ。
だが、政府としては、国家戦略特区の指定において獣医学部新設もありえる方針を決めたわけで、結果的には、後者に対する三行半だったことになる。
で、この時点では、候補は二つあった。一つが今治市、もう一つが新潟市である。
上記の資料では、新潟市の業者の主張を載せている。それを読む限り、素人目には、新設理由は正当としか思えないが・・。
これに対して、今度は、北村と同期で盟友の石破茂が動き始めた。
ちなみに、産経新聞の報道に拠ると、自民党が政権に返り咲いた直後、日本獣医師会は当時石破幹事長の自民党選挙区支部に対して100万円を献金したという。
そして、まさにその石破のところに、新潟市の案件が転がった。
石破茂が国家戦略特区案件の権限者になる前後の動き
妙にタイミングが良すぎないだろうか、と引っかかった。
以下はウィキペディア「石破茂」からの引用である(赤線筆者)。
2014年9月3日の第2次安倍改造内閣発足に先立ち、安倍は石破に対し、新設する安全保障法制担当大臣への就任を打診していたが、石破は8月25日にラジオ番組に出演し、安全保障法制担当相への就任を辞退する意向を明言(後略)。
つまり、石破はいったん安保関連大臣の椅子を蹴った。そこで、安倍総理側は、同大臣以外のポストを提示して、入閣を打診する。
(安倍・石破が)8月29日に正式に会談した際、石破もこれを受け入れた[19]。9月3日に発足した第2次安倍改造内閣では、内閣府特命担当大臣(国家戦略特別区域)及び「元気で豊かな地方の創生のための施策を総合的に推進するため企画立案及び行政各部の所管する事務の調整担当を行う国務大臣(地方創生担当大臣)」に任命された[20]。
さて、日本獣医師会の内部資料(一番上)では、2014年6月27日の報告の時点で、すでに同会の意を受けた麻生太郎らが新設潰しに動いた事実が記載されている。
逆にいえば、日本獣医師会とその政治連盟の北村議員は、この時点で懇意の政治家に積極的に働きかけていた、ということ。
同年7月には、新潟市が国家戦略特区に獣医学部新設を申請。
同年8月29日には、石破が担当大臣のオファーを了承。
同年9月3日には、第2次安倍改造内閣発足。
同年9月19日の日本獣医師会の理事会では、石破大臣が特区構想を受け付けたという情報が北村委員長に届いた旨が報告されている。
しかも、文面からすると、石破本人から聞いたというニュアンスである。
そして、以下の資料からすると、なんと9月22日には、もう石破の腹は決まっていた。
(http://nichiju.lin.gr.jp/conference/rijikai/20141212.pdf)
上のように、北村によると、石破が「この1、2年で経済効果が得られるものでなくてはならない」という意味のことを話したという。ちなみに、産経新聞(2017年7月17日付)は、北村側がそもそも石破を説得したというふうに報じている。
どちらにせよ、石破大臣の態度は、新潟市の案件が(風前の)灯火であるとの印象を北村に与えるほど、日本獣医師会の意向に沿ったものだった。
そして事実、新潟市の申請は却下された。
ある疑い――石破茂はなんのために担当大臣になったのか?
さて、以上の経緯を時系列で見ていくと、状況証拠から不審な点が浮かび上がってくる。しかも、まさかと開いた口が塞がらないようなストーリーである。
それは石破が、担当大臣になる何ヶ月も前から、麻生太郎同様、北村・日本獣医師会側から「新設潰し」の要望を受けており、それに応える形で、担当大臣に就任するや否や、電光石火で新潟市の案件を潰したのではないか、ということだ。
いや、もっと言えば、そのために担当大臣に就任したのではないか。
つまり、国家戦略特区案件を担当するために、わざわざ安保関連大臣の椅子を蹴って、安倍総理との話し合いに持ち込んだ。そして、自分から希望のポストを提示した、又はそのポストが回ってくるよう誘導した・・という事実はないだろうか。
真相は、直接会談した安倍総理なら知っている。
繰り返すが、石破と北村・日本獣医師会側は、この時に突然コネクションが出来たわけではなく、もとから旧知の間柄だった。
「先般、その特区構想を、今回、担当大臣に就任された石破大臣が受け付けた」という、日本獣医師会資料の淡々とした記述からは、偶然を臭わせるものがない。
通常なら「天恵だ、幸運だ」と、歓迎の含みがあってもよさそうなもの。だが、まるで外電のように無感情。それは偶然ではないことを知っていたからではないか。
実際、上の疑惑を想像しても許されるだけの十分な前科が石破にはある。“練りに練って誰がどのような形でも現実的に参入困難”な「獣医学部新設4条件」を影で作成したことだ。2015年の前半中にこの“仕事”をしたようなので、時系列でいえば正確には「後科」となるが、ともあれ新設潰しに暗躍した「一犯」がすでに暴露されている。
お人好しの安倍政権は、仕掛けられた罠とも知らず、同年6月末に閣議決定してしまう。ここを石破・前川・北村・獣医師会長らが猛烈に突付いたわけだが、仮に、後ろ三者が石破プロデュースと知りながら、さも新設判断の公正な基準であるかのように世間を欺いてきたとすれば、共犯関係が成立し、道義上の問題が浮上する。
とくに前川喜平は「二つ目の嘘」となり、信用失墜は決定的。別途記事にする。
もちろん、本人は「4条件作成」を否定しているので、それはまだ疑惑の段階ではある。そして、それを第一の疑惑とするなら、私がここで述べたことは第二の疑惑だ。
いずれにしても、だとするなら、その前年に日本獣医師会から100万円の政治献金を受け取った事実が、かなり“きわどく”なって来ないか。
はっきり言えば、これは贈収賄を疑われても仕方がないのではないか。
しかも、これはただの汚職ではすまない。一業界の既得権益のために、政府が決めた国家戦略を歪めたのだ。「元気で豊かな地方の創生のための施策を総合的に推進するため」に企画立案をやる責任者が、その企画を自ら潰した格好だ。どういう法律に抵触するのか私には分からないが、少なくとも道義的には最低に近いことは分かる。
これは政府の要職にある人物による、国家に対する背信行為といえよう。
地方創生大臣? 何のジョークか。「地方暗殺大臣」のほうがふさわしくないか。
(敬称略)
(*筆者から皆様へのお願い)
(当サイトが今後とも無料記事を維持できますよう、「この続きはメルマガで」とかならないよう、読者の皆様にも、できる限りツイッターやSNSなどで、当サイトの記事を取り上げていただけると、とても助かります。ツイッターで「プッ、アホだろ、コイツwww」とかリンクして呟いてもらうだけでも、検索的には評価になりますので・笑)
View Comments (2)
これすごい記事ですね
推理力が素晴らしい!
石破4条件を京都産業大学ならクリアできるので、その意見は却下です。