7月17日に産経新聞の一面を見た人は、驚いたのではないだろうか。
前川元事務次官が、先の国会証言だけでなく、ことあるごとに自信満々で自説の正当性の根拠としてきた例の「獣医学部新設4条件」(以下)の真相が暴露されている。
- 現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化し、
- ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになり、
- かつ、既存の大学・学部では対応が困難な場合には、
- 近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。
産経新聞の記事は次のように記す(*以下傍線太字筆者)。
「学部の新設条件は大変苦慮しましたが、練りに練って、誰がどのような形でも現実的には参入は困難という文言にしました…」
平成27年9月9日。地方創生担当相の石破茂は衆院議員会館の自室で静かにこう語った。向き合っていたのは元衆院議員で政治団体「日本獣医師政治連盟」委員長の北村直人と、公益社団法人「日本獣医師会」会長で自民党福岡県連会長の蔵内勇夫の2人。
(略)このいわゆる「石破4条件」により獣医学部新設は極めて困難となった。
(略)獣医師会にとっては「満額回答」だといえる。北村は獣医師会の会議で「(4条件という)大きな壁を作ってもらった」と胸を張った。
なんと、この「4条件」なるものは、そもそも日本獣医師会と通じた石破茂が獣医学部の新規参入を阻止する目的で作成した、というのだ。
果たしてこれは事実なのか。
どうやら事実らしい。以下は同会のサイトである。
サイト左にあるインデックスの三番目「主要会議・委員会の開催状況」を開くと、総会・理事会の資料が出てくる。
今現在、平成27年(2015)度以降の理事会の報告書は削除されているが、まだデータとしては残っているようで、このアドレスで以下の資料が出てきた。
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/06811/a2.pdf
上は、平成27年9月10日に開かれた日本獣医師会の第4回理事会の会議報告の冒頭部分。そして、下がその報告の中に含まれる「日本獣医師政治連盟の活動報告」の部分。
分かり易いように、私のほうで赤線を引かせてもらった。
(以下赤線部分の起こし)
なお、昨日、蔵内会長とともに石破茂地方創生大臣と2時間にわたり意見交換をする機会を得た。その際、大臣から今回の成長戦略における大学、学部の新設の条件については、大変苦慮したが、練りに練って誰がどのような形でも現実的に参入は困難という文言にした旨お聞きした。このように石破大臣へも官邸からの相当な圧力があったものと考える。しかし、特区での新設が認められる可能性もあり、構成獣医師にも理解を深めていただくよう、私が各地区の獣医師大会等に伺い、その旨説明をさせていただいている。
産経新聞の報道もこの内部資料を参考にしたようだ。これは「9月10日」の報告なので、たしかにその前日に石破・北村・蔵内の三者会合が行われたことになる。
ちなみに、この「私」とは北村直人元議員のこと。酪農学園大学の獣医学部卒で、自ら獣医師免許を持ち、日本獣医師会の政治団体の委員長をしている。
この文面からすると、北村氏の安倍政権批判は、とても公正とは思えない。
「策士、策に溺れる」を地でいく話
このように、日本獣医師会の報告書にも記載されていることなので、これが事実という前提で話を進めても無問題だろう。仮に石破氏側が「虚偽記載で名誉を毀損された」として日本獣医師会を訴え、勝訴したら、私もこの記事を撤回する。
要は、自分でこの「4条件」を作っておきながら、表ではしれっと、「この4つが証明されるか否か」を争点にして、「されなければ新設してはいけない」などと正論を吐いてきたわけだ。おれは公正な立場からモノ申しているぞ、というツラをしながら。
しかも、当然、自身が総理に成り代わらん目的で現政権の揚げ足を取ったと、世間は想像する。党内でも、「石破は自分が裏でコソコソと作ったものを強請りのタネに使った」として、私利私欲のために党利を犠牲にしたという悪評が立とう。
策士の策にも、褒められるものと嫌悪されるものがあって、これは明らかに後者。倒閣だろうが何だろうが、石破のしたことは日本人の美醜の基準に著しく抵触する。魑魅魍魎だらけの政界でも、こんなやり方で、仮にも身内を斬ったら、誰もが引く。
というわけで、彼は急速に人心を失うのではないか。世間や党内はおろか、周辺の人からも見放されるかと。そうでなくとも、次期総理レースからは完全に外れた。
こんな姑息なことをせずとも、ただじっと待っていれば、いずれチャンスが回って来たろうに・・。もう議員もやめて、郷里でプラモ屋でも開いたほうがいいのでは。
前川氏と文科省も共犯ではないのか?
さて、この4条件を政治的な武器にしてきたのは、前川氏も同様である。先の国会証言でも、「4条件を守る必要がある。今治市からの提案は4条件を満たしていない」などと、しきりと“4条件”を強調し、自説の盾としている。
私は石破に知恵を貸した者たちが隠れていると推測する。私のような門外漢であっても、当初、この4条件の文言を見た瞬間、違和感を覚え、下のように記した。
私は、もともとこの文面を考えたのも役人であり、しかも文科省が関わっていて、本音では獣医学部を新設させないために事細かな条件を付けたのではないかと疑っているが、これはただの憶測である。(略)
この4条件をクリアせねばならないとしたら、新設に漕ぎ着けるためにあと十年はかかること受け合いである。事実上の不可能化ルールかもしれない。
上の記事では、一応は、加計学園がこの4条件を満たしているとは思えないので、この件に関しては、私も前川氏に軍配を上げる、という内容を書いてしまった。
しかし、今、それを撤回しなければならない(過去記事の過ちは、それを明らかにするために、あえて訂正せずに、そのままにしておく)。
違和感という伏線が、今回、完全に解消された。この4条件は、やはり新規参入を阻止するために練られたものだったのだ。その点に関して「憶測」は事実だった。
しかも、前川氏も絶対に知っていたはず、というのが私の確信。というのも、この4条件の文面は、官僚の作文くさい。「ライフサイエンスなんとか」という専門用語が石破の頭から出てくるはずがない。すると、やはり「知恵袋」がいたのではないか。
今回、日本獣医師会の内部資料を見ていくうちに、2008年末に文科省内に獣医学教育の改善・充実を目的とした「調査研究協力者会議」が立ち上がったことを知った。
担当するのは「高等教育局」である。ここの、あるいはここの出身だった文科官僚が、4条件の作成に関わったのではないかと、私はそう推測する。
前川氏は畑違いだが、彼の地位からすると、おそらく承知のはずである。
仮に、直接であれ間接であれ、前川氏も関わっていたとしたら、完全に彼の政治的公正さにトドメを刺す格好になる。
そうでなくとも、彼がこの経緯を“知っていた”だけでも(当然、部下が作成に関わったとしたら最高官が知らないでは済まされない)、彼の人格を疑うには十分だ。
というのも、自分たちが獣医学部の新設を阻止するために裏でコソコソと作ったルールを、そうと明かすことなく、さも新設判断の公正な基準であると世間に錯覚させ、「加計学園がどうクリアしているのかを説明してほしい」などと官邸に詰め寄り、それを自身の正義の外見としてきたわけだから。とんだ茶番だった、と支持者も呆れるだろう。
むろん、すべては「事前に知っていたら」の話であるが・・。
いずれにせよ、石破に4条件を考える知識があるわけがないとして、世間の追求の矛先は次に「誰が石破にアドバイスしたのか」という点に向かうだろう。
つまり、前川喜平と文科省が追求の対象になる。
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