まず“言い訳”から。
この記事は本来、7月11日に朝日新聞の朝刊を読んで、すぐに書こうと思ったものです。ところが、他の記事やら、調べものやら、その他何やらで、大幅に遅れてしまった。
とくに、紙面を一度にスキャンできず、4分割して貼り合わせないと駄目だった点が難儀でした。ただ、やってみると意外に簡単にできました。
というわけで、本題。
2017年7月10日、一回目の閉会中審査が行われました。夕刊紙の時刻をとうに過ぎた夕方までやっていたので、新聞の本格報道は翌11日の朝刊になりました。
で、翌日の朝日新聞を開いて、「これはいくら朝日でもヒドい」と思った人も多かったのではないでしょうか。私もそうでした。
「この紙面はあまりに政治的すぎる」と思いました。いわば、加計学園問題ならぬ「加計学園報道問題」です。今回はそれを取り上げます。
朝日新聞はいかに加戸前愛媛県知事の発言をカットしたか
断っておくと、「朝日新聞は加戸守行氏の国会での証言を全く報じていない」などの誤った情報が一部で広まっているようですが、一応は載せている。
完全に黙殺しているわけではなく、あくまで取り上げ方に問題があるというのが正しい。政治的な取捨選択と、政治的な紙面構成が、問題の本質なのです。
加戸氏の発言は、7面の「やりとり詳報」で、下だけ報じています。
え、たったこれだけ?
しかも、この短い文章ですら、何か政治的な意図を感じさせるには十分。
加戸氏の「加計ありき」の言葉が、わざわざ三回も繰り返されている。
まるで、前川氏の「はじめから加計ありき」の主張が、加戸氏の主張からも裏付けられていると、臭わせているよう。暗に読者の誤解を誘っていますね、これは。
加戸さんの渾身の証言は、私もその核心部分だけ紹介させていただきました。
ところで、産経新聞のネット版が、閉会中審査の全発言を報じていたんですね。もっと早くに知っておけば、ヘッドホン付けて動画を見ては止めながらキーを叩く必要なんかなかったのに(笑)。とりあえずネットの声では、以下の発言に心を揺さぶられたという人が多かったようです。もちろん、朝日がカットした部分です(*赤字筆者)。
「私は少なくとも10年前に愛媛県民の今治地域の夢と希望と関心を託してチャレンジした。厚い岩盤規制ではね返されはね返され、やっと国家戦略特区という枠の中で実現を見るようになった今、本当にそれを喜んでいる。行政がゆがめられたという発言は、私にいわせると少なくとも獣医学部の問題で強烈な岩盤規制のために10年間、我慢させられてきた岩盤にドリルで国家戦略特区が穴を開けていただいたということで、ゆがめられた行政が正されたというのが正しい発言ではないのかなと思う」
出典:【閉会中審査=参院=詳報(1)】2017.7.11 00:28更新
(http://www.sankei.com/politics/news/170711/plt1707110006-n1.html)
加戸氏はこんなふうに前川氏の「行政が歪められた」発言を切り返しました。
他紙はこの要点を報じているのに、朝日だけは黙殺したんですね。
なぜわざわざ7面に「不都合な事実」を持ってきたのか?
それでも7面はまだしも“客観報道”が行われたところです。
というのも、この部分で、少ないながらも上の加戸前愛媛県知事の発言と、貧困調査でないと事実上認めた前川氏の発言の、二つを載せている。
そして、実はここが朝日新聞の陰険・狡猾なところなんですね。
1面から3面では報じず、わざわざ7面のところに持ってくる。
一般紙でもっとも読まれるのは、最初のほうと最後のほうのページです。
対して、7面は、記事ページとして、相対的に読まれないところ。
しかも「閉会中審査やりとり詳報」なる題を付け、淡々と事実関係だけを羅列している。中心のない文章というか、そもそも記事というよりただの記録に近い内容。
記事ページとしては、読者が一番読む気の起こらない紙面であり、構成でしょう。
つまり、朝日は、言ってみれば、読者が一番スルーするところで“客観報道”を行い、不都合な事実をできるだけ大量の平坦な記述の中に埋もれさせているわけです。
しかも、これが「ちゃんと報道してますよ」というエクスキューズにもなる仕掛け。
朝日マジック――7月11日の朝日新聞の紙面構成は何が異様なのか?
それに対して、よく読まれる1面から3面の政治欄と、39面(テレビ欄の裏側にある事件欄)で、社としての本領を発揮するわけです。
単なる記録的内容をえんえんと羅列しているだけの抑揚のない7面とは打って変わって、見出し・内容ともドラマ性・スキャンダル性に富ませる。
こんなふうに。
(上から1・2・3面)
この辺は、昔ながらの編集テクニックです。ドンと大きな写植で、恣意的な見出しをつけ、読者の目を釘付けにする。記事は載せたい内容だけを載せる。なにしろ7面で“客観報道”しているので、加戸発言や、前川氏の貧困調査否定発言を無視したという批判も封じることができる。こうして、社としての政治的結論へと読者をミスリードする。
とくに39面(記事ページの最後)は、社会的に「事件性」のある出来事を取り上げるところなので、もっともセンセーショナルな空気を醸し出している。
ここでドンと見出しを付ければ、読者が興味をそそられないはずがない。
そこでの見出しは、以下をご覧の通り。
「個人攻撃」に前川氏反論
ですね。もうね、最初から善玉と悪玉が決まっています。
だから、この部分では、彼のイメージを損なう貧困調査否定発言は取り上げない。
また、前川氏だけを大きく取り上げる一方、加戸氏の証言は事実上黙殺する。
閉会中審査に参考人として出席した加戸守行・前愛媛県知事が今治市での獣医学部の必要性に触れたことについては、「私たちの思いを代弁してくれた」と述べた。
これだけ。しかも、今治市長の発言を引用する形であり、あくまで間接的な紹介に留めています。これでは加戸さんが何を発言したのかまでは分からない。
言ったように、朝日は、わざわざ新聞紙の中ほどの、一番読まれない場所に、パッと見でスルーしたくなる構成の紙面を作って、そこに彼の証言を埋もれさせている。
報道者としての責務をギリギリ守りつつ、できるだけ加戸証言が大衆に広まらないように工夫している印象です。朝日の涙ぐましい努力を感じます。
以上、レイアウトを悪用した、非常に政治的な紙面作りと言わざるをえません。
こういった報道は、信頼という目に見えない自分の財産を少しずつ切り崩していくという意味で、長期的にはマイナスでしかありません。
言うならば、大手報道機関として自殺行為に等しいのではないでしょうか。
(*当記事の画像はどんどん流用してもらって結構ですので。私に許可を求める必要はありません。ま、もともと朝日の紙面だけど・笑)
(*なお、加戸氏の証言に関しては、以下の記事でも、産経新聞のインタビュー記事をつまみ食いさせてもらう形で紹介しておりますので)
(最新記事↓)
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