本当にロシアが悪いのか? 改めてウクライナ・クリミア問題を振り返る
さて、前回の「ウクライナ政変の“アブノーマルさ”」に引き続き、今回は第二弾。その直後の、ロシアによるクリミア併合の是非についてである。
周知の通り、2014年の暴力革命以降、クリミア半島の帰属をめぐって、ロシアとウクライナの間に深刻な争いが生じている。ただ、米欧日のG7諸国は、一貫してロシア側を非難している。のちに開かれた二度のG7サミットでは、他国の主権を犯す「力による現状変更」に反対することを表明し、中ロを名指しで批判した。つまり、西側国際社会は中ロに対して公式に「国際秩序を乱す存在」という烙印を押している。
まあ、中国はそうだが、果たしてロシアも同類と決め付けてよいのだろうか。
また、このウクライナ政変以降、世界的に異常な事態が頻発し、たちまち世界大戦の火種が各所に作られてしまった現実は、以下の記事でまとめている。
クリミア半島の所属は双方に理
やはり真っ先に考えねばならないのは、クリミア半島は本来、どちらのものか、ということ。時代ごとに所属が変わるが、やはり現代から見ると、1783年に帝政ロシアがクリミア・ハン国を征服して同地を領有した辺りから基点になるかと思われる。
その後、ロシアは革命を経て、同地の所属はどう変遷したのか。ウィキペディア「2014年クリミア危機」から引用させていただきたい(*傍線筆者)。
クリミアは1921年にクリミア自治ソビエト社会主義共和国となり、第二次世界大戦中にヨシフ・スターリンによるクリミア・タタール人の強制移住が行われ、同共和国が廃止される1945年までロシア・ソビエト連邦社会主義共和国の中で自治権を有した[38]。
1954年、ニキータ・フルシチョフの指導下のソ連の主導でクリミア州のロシアからウクライナへの帰属替えが行われた(クリミア州のロシアからウクライナへの移管(ロシア語版、英語版))。当時はこれは取るに足らない「象徴的ジェスチャー」であった。なぜなら両国ともソ連を構成する共和国だったからである[39][40]。ソ連が存在した最後の年である1991年の住民投票(英語版)によって、1945年以前の自治が復活した[41]。
このように、歴史的にはロシア側に有利であるが、それでもウクライナにも理はある。双方に理があるなら、結局は「その地域に住んでいる人々がどう考えるか」が最大の判断材料ではないだろうか。つまり、一番の正当性の根拠は住民投票の結果である。
ロシアによる住民投票は無効だ
しかし、その場合、領有争いをしているどちらか一方の監督下ではなく、第三国か又は国連の下で行われたものでなければ、公平で民主的とはいえない。つまり、ロシアが軍事力で同地域を切り離した直後に実施した多数決は、真の正当性になりえない。
上のウィキペディアでも、ウクライナ側の言い分を次のように紹介している。
外国軍が占領している状態で実施された住民投票に、法的効力はない。クリミア自治共和国では、どの条件も満たされていなかった。クリミアでは、閣僚会議が違法に解散され、自称「政府」や「議会」が「住民投票」を決定・準備・実施し、その間、ロシア軍がずっと監視をしていた。
これが事実か否かはともかく、そういう疑いがあるだけでも、国際社会の基準には合致しない。だから、ロシアの実施した住民投票の結果は、たとえそれが民意を反映したものであっても慎重な立場を取らざるをえない。のちに訪ロした鳩山由紀夫氏がロシア側の説明だけを鵜呑みにして同国に軍配を上げていたが、極めて軽率の謗りを免れない。彼はロシア側の政治宣伝に加担し、事態をややこしくした馬鹿に過ぎない。
やはり、いかなるロシア側の関与も排除した上で、第三者が全プロセスを厳重に管理する中での公正・透明な、全住民参加による投票でなければ、正当性を認められない。
せっかく日本はG7の中で完全に欧米側でもなければロシア側でもない唯一の国なのだから、本当はこういった紛争調停の知恵を出し、役を買って出るところに国際社会における存在意義があるのではないだろうか。安倍総理は主体性もなく欧米に続いてロシアの言い分をシャットアウトし、一方的に経済制裁を課したが、恨みを買っただけだ。
しかし迅速に切り離したこと自体はよかった?
前回言ったように、私はもともと2014年2月の暴力革命自体が違法で異常なものという認識でいる。これはアメリカが南北ベトナム統一選挙を妨害した時から自明のことだったが、謀略と暴力でウクライナ国民が多数決で選んだ政権を打倒したことによって、アメリカの標榜する民主主義が一層説得力を持ちえないことが改めて明確になった。むろん、知ってか知らずか、加担した日本を含む西側諸国も当然同罪である。
したがって、その暴力によって成立した半ネオナチ政権から、プーチン大統領がすばやく軍事力を用いてクリミア半島を切り離したことは、結果的には正解だったと思われる。というのも、4月には続いてウクライナ東部の二州が独立を宣言し、新政府との内戦に突入した。その後の東部二州の状況を見れば、ロシアの国益に基づいた強引な行動であっても、迅速な切断によって同地の内戦化を防いだという見方も不可能ではない。
むろん、クリミア半島はロシアにとって黒海艦隊の拠点であり、地中海へと進出するための絶対不可欠な橋頭堡であるし、また切り離しに際して公式にはロシア軍を動かしていないという体裁を取り繕うために無徽章化した兵士を使った欺瞞はある。
だが、一時的に社会秩序の崩壊した異常な状況にあって、最優先されるべきことは何か。地域住民の人命第一という観点からすれば、それは人々の「安全保障」である。
仮に躊躇していれば、ロシア系住民の多いクリミアで悲惨な戦闘が起こり、ロシア人の死傷者数次第では、両国の全面的な戦争へと発展していた可能性もあった。つまり、たとえプーチン大統領が国益から行動する必要に迫られただけだとしても、結果的に大規模な戦争になることを阻止し、市民の犠牲を最小限に留めたという見方もできる。
たとえクリミア編入は武力によってウクライナの主権・領土の一体性を侵害する行為であると、ロシア以上に欺瞞的な西側諸国がそれを断罪するとしても。
「コソボ独立」という先例を見ると・・
さて、以上のように、プーチンの迅速な決断と行動は、地域の人々の安全保障に資するものだったと私は考える。
当時、私が疑問に思ったのは「コソボのケースとどう違うのか」ということだった。
1991年、旧ユーゴで内戦が始まった。その時、住民の大半がアルバニア人のコソボ自治州が、セルビアに対して独立を要求した。しかし、セルビアは認めず、1998年には内戦に突入した。当時、セルビアのミロシェヴィッチ大統領といえば、コソボ独立軍を掃討しつつ、アルバニア系住民に対する虐殺行為を(容認)したとして、国際社会から非難の的だった。西側メディアは、彼を「戦争犯罪者」として吊るし上げ、米の広告代理店が「エスニック・クレンジング」なる用語を発明してまでセルビアを叩いた。
もっとも、当時私はある雑誌で、ベトナム戦争における米の戦争犯罪を取り上げ、「マクナマラに比べたらミロシェヴィッチなんか少年ギャングに過ぎない」と書いたが・・。
1999年、クリントン大統領が音頭をとり、NATO軍は「人道的介入」を名目にしてセルビアへの空爆に踏み切った。この時、ドイツは国内的に揉めたが、結局、NATOの一員として軍事作戦に参加した。当時、NATO軍はセルビアの首都ベオグラードを激しく爆撃し、NATO軍兵士がコソボに入ってアルバニア系住民を守った。
そして、2008年、西側諸国はコソボ独立を支持し、国交を結んだ。2010年には国際司法裁判所は「コソボの独立宣言は国際法に違反しない」との判断を表明した。
NATO軍はキエフを空爆したらどうなのか?
だから、西側(米・英・独・仏)のダブルスタンダードは異常だ。
同じルールを適用するなら、西側はウクライナからの独立を宣言したクリミア自治州や東部2州(ドネツク・ルガンスク)のほうを支持しなければならない。また、ウクライナ政府が東部のロシア系市民の自治独立を認めず、軍隊を派遣している以上、セルビアのコソボ弾圧のケースと同じと見なすことも無理筋ではない。
つまり・・・NATO軍はウクライナの首都キエフを爆撃しなければならない、ということになりはしないか!?
というわけで、なぜロシアが受益者だと西側は善悪の基準を逆さまに変えてしまうのかと、私はずっと訝っていたわけだが、今回改めてウィキペディア「2014年クリミア危機」を読み返してみて、プーチン氏がとっくに同じ主張をしていたことを今さらながら“発見”した。しかも、非常に説得力がある。よって以下引用したい(*傍線筆者)。
(略・プーチンは)ウクライナの暫定政権を批判し、「クリミアの独立は正統であり、ロシアはこれを編入という形で受け入れたのは当然である」と言った。またプーチンは「ロシアのクリミア併合は西側によるコソボ独立のようなものであり、ユーゴスラビアのアルバニア人に許されたことが、ウクライナのロシア人とクリミア・タタール人にはなぜ認められないのか? かつてドイツ再統一の時に(略)ロシアは誠実な対応をした。従ってドイツはクリミア編入によるロシア人の統合に理解を示してくれる筈だ」と皮肉を交えた。
(略)「クリミア編入は民族自決の原則に基づいたものであり、国際法と国連安保理が出した判例に則り行われたものである」と正統性を主張した。その一方で「コソボ問題ではNATOは空爆を行ったし、アラブの春ではリビアに武力行使をした、西側はロシアを批判出来る程国際法を順守して平和的な紛争解決をしてきたのか? 否。西側の元締めであり、『コソボとクリミアは違う』とロシアに反論するアメリカ合衆国は、力を信奉する『アメリカ合衆国のみ特別だ』という『一国例外主義』を止めるべきだ」
以上のプーチン氏の主張は何もおかしくない。おかしいのはアメリカであり、EUであり、それに盲従するしか能のない日本政府のほうなのだ。
Putin Justifies Russia’s Annexation of Crimea (with English subtitles)
だいたい、ロシアの行為を“侵略”と呼ぶなら、アメリカがイラクやアフガニスタンでした行為は何なのか。比べるのが馬鹿らしいほど、アメリカのほうが酷い。
しかし、西側メディアは、世界の人々が米の戦争犯罪を忘れ、ロシアを悪と考えるように巧妙に誘導している。彼らは常にロシアの悪魔化に尽力している。
私はことさらロシアの肩を持つ者ではないが、しかし、クリミア問題でロシアが各国から経済制裁を受けているのに対して、他国を侵略・虐殺しまくりのアメリカ(とあと中国も)が罰せられることがない現状は、実にアンフェアで、不愉快と言わざるをえない。
危険水準に達しつつあるロシアのナショナリズムと日本にできること
ロシア人にしてみたら、「クリミアは元々われわれが血を流して獲得した土地であり、しかも今回は住民投票という民主的な手段で分離したのに、なんでロシアばかりが裁かれねばならないのか」という不満で一杯だろう。危険なことに、こういった「国際社会から不当につま弾きにされている」という被害者意識は、ナショナリズムへと転嫁しやすい。プーチンへの支持率が8割に達するのも、その表れではないだろうか。
私が思うに、今のロシアの空気は大戦前の日独の空気に似ているのではないか。帝政ロシアからいきなりソ連という変な体制に改造されてしまったため、ロシア人のナショナリズムが本格的に勃興するのは、実は厳密には今回が始めてかもしれない。
ただ、言ったように、プーチン大統領とロシアが住民投票で下手を打ったのも事実。「こんなロシア流の住民投票では、いくらロシア人が最大限民主的と信じるものであっても、国際社会には通用しない」と、しっかりアドバイスできる側近もいなかったようだ。
だから、やはり言ったように、ここに日本が真に国際貢献できる――しかも従来のようにただ金をばら撒くだけでなく真の尊敬を得る形で――余地があるはずなのだ。
聞いていますか、安倍さん? ぜひとも昭恵夫人から説得してほしいと願います。
◇ ◇ ◇
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