今は世界大戦の政治戦の段階であり後に実戦が訪れる

テロ・紛争・戦争・崩壊




「今度の戦争はヒロシマ・ナガサキから始まる」で、ここ2年の間に発生した戦争紛争の火種を淡々と羅列していったが、どうやらこの間に世界の潮目が変わったようだ。

やはり世界大戦が起きるとしたら「NATO VS 中ロ陣営」の可能性がもっとも高いが、すでに政治レベルでの戦争は始まっているのではないだろうか。広義の戦争では、実戦は最後であり、それ以前に情報や宣伝面での戦いがスタートする。

実は、国家にとって大切なのは「戦争の大義名分」を得ることだ。これは歴史的な正当性を獲得し、敵に“倫理的に勝つ”ためには、不可欠な行為ともいえる。

なぜG7サミットで「大義名分の獲得」が行われているのか

すでにG7ではそのことが強く意識されていると私は見る。

2015年6月、ドイツのエルマウで開かれたG7サミットは「中ロ非難共同声明」を採択した。同声明は、クリミアを併合したロシアと、南シナ海を一方的に埋め立てて軍事基地化を進める中国を名指しして、領土の一体性・国際法・人権の尊重を謳い、「力による現状変更」に反対すると表明した。

つまり、西側国際社会は「公式」に、中ロに対して「国際秩序を乱す存在=現世界システムへの挑戦者」という烙印を押したわけだ。

日本では前回のG7はすでに忘れられたフシがあるが、この「儀式」は象徴的意味としても大きい。なぜなら、第二次大戦前の国際連盟において、日独が公式に「国際秩序を乱す側」に認定された歴史をなぞっているからだ。当時の日独は憤然として国際連盟を脱退し、ますます勝手に振る舞って孤立し、結局は英米との戦争に突入していった。

今回、国連ではなくG7サミットでその認定が行われたのは、国際連盟と違って国連では「ベトパワー(拒否権)」をもつ安保理常任理事国を排除できないからにすぎない。その意味では、国連は国際連盟以上の欠陥組織なのかもしれない。

国際連盟の問題点としてよく喧伝されるのが「戦争を防止できなかった」だが、国連はそれ以前に一部の国に「パーマネント・メンバー」なる特権を与え、どれだけ侵略をしても敵国認定・侵略国家認定すらできない仕組みになっている。だから西側国際社会は、わざわざ国連とは別の場所を設けて、中ロ非難を共同採択しなければならなかった。

伊勢志摩サミットでも中ロに公式に悪者のレッテル

さて、前回の「中ロ非難共同声明」から約1年後の、今年5月の終わり頃。西側諸国は、今度は日本の伊勢志摩に集まってサミットを開いた。

「G7伊勢志摩首脳宣言」は、前文で「既存のルールに基づく国際秩序」「全人類に共通する価値及び原則」を掲げる。そして、「我々は,自由,民主主義,法の支配及び人権の尊重を含む共通の価値及び原則によって導かれるグループとして引き続き結束する」と謳いあげる。この部分を読めばG7が自分たちをどう位置づけているのかが一目瞭然だ。

つまり、倫理面での自分たちの正当性を世界に向けて高らかに謳いあげているわけだ。よって、このG7の首脳宣言でわざわざ批判される国というのは、これらの“正しい”価値観や原則に反する異質な国家、ということになる。

伊勢志摩サミット

今回、公式に「非難」の対象となったのは、核実験と弾道ミサイル発射実験を行った北朝鮮と、依然として「クリミア半島の違法な併合」を続けるロシアだ。G7は「我々の非難を改めて表明し,同併合の不承認政策及び関係者に対する制裁を再確認」した。

この対ロ制裁継続決定に対して、ロシアは即刻、非難している。

また、中国への名指しは行われなかったが、その代わり海洋安全保障分野の懸案として東シナ海と南シナ海が名指しされ、国際法の遵守や自国の主張を通すために力や威圧を用いないこと、仲裁などの法的手続による平和的手段による紛争解決の重要性が再確認され、“重大警告”という形で全面的に中国にあてつけた内容となっている。

笑えるのは、どこにも中国とは書いていないのに、宣言の翌日、中国外務省が「強い不満と徹底反対」を表明し、わざわざ「おれの悪口を言ったな!」と名乗り出たことだ。

総じて、二度のG7サミットは、世界に対して「中ロは国際秩序を乱す悪者」だと、上手に印象付けることに成功している。

いつか来た道をなぞっている

当然ながら、この首脳宣言に対して中ロは猛反発している。だが、今のところ、戦争の前段階としての、外交を主な舞台とした大義名分を獲得するための激しい争いは、西側諸国が有利に進めている。

だが、デジャブに思えるのは私だけだろうか。第二次大戦前も、ちょうどこんな感じだったはずだ。ただし、われわれはうまく悪者にされる側だったが。

現在の状況は、第二次大戦前に例えるなら、1930年代の半ば辺りだろうか。ちょうどこの辺りを境にして日独は後戻りできなくなってしまった。当時のアメリカもまた政権レベルでいったん戦争を決意したら、逆に日独に追い込みをかけてきた。

もしかすると、今の中ロも、もはや(国内政治的にも)後戻りできないのではないか。しかも、2017年に誕生する予定の米新政権――たぶんヒラリー・クリントン大統領――は「戦争政権」として、中ロに対して経済制裁強化などの追い込みをかけていくのではないか。

伊勢志摩サミット3

すでに実戦を想定した戦略が動いている

今が政治戦の段階ということは、いずれ「実戦」が来るということでもある。

欧米のトップは、すでにそれを意識していて、勝つための体制を整えようとしているようだ。当然、NATOとしては中ロを挟撃するほうが有利だ。そのためには日韓を自陣に組み込むことが必須だ。少なくとも韓国を中国側から引き剥がさなければならない――。

実は、この文脈で考えると、先の、15年9月の安全保障関連法制成立、集団的自衛権の行使の容認、米の異様なまでの日韓両国への和解圧力、それに安倍総理が諾々と従ったこと、韓国の急な親中外交の見直し……等など、一連の出来事の謎がすべて氷解する。

先のオバマ政権とキューバとの急な和解も、だ。中ロ側から同国を引き離さずして、アメリカに勝利はないからだ。

しかも、ある意味、アメリカはすでに「好きな時に戦争を始められるボタン」を手に入れている。たとえば、経済制裁でロシアを追い詰めた末、最後には「何年何月までにクリミアから撤退せよ」という「対ロ版ハルノート」を突きつけるやり方がある。

同じことは、対中国にも当てはまる。「公海の自由」や「国際ルール」を盾にして、「何年何月までに南沙諸島の軍事基地を撤去せよ」と要求すればいい。

戦前の日本帝国も、こういう急な要求を突きつけられて、対米開戦を決意した。アメリカは世界最強の暴力装置(軍事力)を持つから、こういう真似が平気でできる。だから、今回も、すべての準備が整った段階で、アメリカがこの「ボタン」を押す可能性があると覚悟しておくべきだ。

その時、日本も否応なしに戦争に巻き込まれるに違いない。

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