過去2回の続編です。
では、戦争によって中東からの石油供給の多くが止まると、どうなるのか。
つまり、従来の国内需要の8割、9割弱が欠落した格好です。
200日程度はある日本の石油備蓄
まず「備蓄」というものがあります。
以下は「JOGMEC(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)」より引用。
JOGMECによると、石油備蓄の方法は三本立て。
国の直轄事業である「国家備蓄」、民間石油会社等が法律に基づいて義務実施している「民間備蓄」、産油国と連携して行っている「産油国共同備蓄」です。
国家備蓄は、全国10ヵ所の国家石油備蓄基地と民間石油会社等から借上げたタンクに約4,954万klの原油および石油製品が貯蔵されており、
民間備蓄は、備蓄義務のある民間石油会社等により、約2,983万klの原油および石油製品が備蓄されています。
産油国共同備蓄は(略)約167万klが貯蔵されています。
(略)合わせた約8,104万klの石油が、私達国民の共通財産であり、その量を備蓄日数に換算すると約208日分(2017(平成29)年3月末現在)となり、万一石油の輸入が途絶えた場合でも現在とほぼ同様の生活を維持できます。
おそらく、その時には節約モードになるから、二百と何十日かは大丈夫そうです。
見てきたように、日本の経済活動と国民生活は、石油を消費することによって成り立っています。私たちが生活水準を極端に落とす事態はあまり考えられないし、石油消費の大半も必需に当たるので、備蓄分だけで1年以上もたせるのは難しいと思います。
原油は急には増産できないし、サプライサイドも積極的になるとは限らない
中東以外からの輸入は増やせないのでしょうか。
全世界の原油生産量のうち、OPEC系が占める割合が約4割、中東地域としては約三分の一、サウジとイランだけで約18%にもなります。
つまり、戦争で互いの石油施設に対する攻撃が続けば、世界の原油生産のうち、2割以上が欠落する可能性があります。日本だけでなく世界的に供給不足になります。
ですから、ロシアやアメリカなどの他の産油国が増産できる分は、奪い合いになるでしょう。日本はまだ金持ちの方なので、信じがたいほどの高値で少量を輸入することができると思いますが、国内需要の中東輸入分を埋めるにはとうてい及ばない。
そもそも石油生産は、急に増産ができないんですね。
上のケースだと、既存の設備能力で増産できる域をはるかに超えますから、新たに巨額の設備投資をしなければならない。
私は専門家ではないですが、これには数年くらいかかるのではないでしょうか。
そうすると、サプライサイドは「増産ができた時には、戦争も終わって、サウジが本格復興に着手するかもしれない」と想像する。石油施設が破壊されるだけで、地下にある石油そのものが消えてなくなるわけではないので、時間が経てば元通りになる。
ま、米軍が破壊して、ベクテル社が再建するというのは、毎度のパターンです。
そうなると逆に石油がダブつく。そのリスクを考えると、サプライサイドは、新たな設備投資は控え目にして、高値で売れる間はできるだけそうして、自らリスクを負わない(タイトな市場を積極的に改善しない)道を選ぶのではないでしょうか。
日本経済と私たちの暮らしへの甚大な悪影響
よって、最悪の場合、新規輸入量が全然必要量に届かないまま、備蓄を食い潰してしまうケースも考えられる。
たとえば、輸入可能な量が以前の半分以下であり、それにも関わらず外貨による支払いは以前よりもはるかに多い、などという事態が現実化しても全然不思議ではない。
そういう場合、経済や暮らしはどうなるのでしょうか。
前回述べたように、石油は基幹資源なので、これが高騰すれば、あらゆるものの価格が高騰することは避けられません。
もっとも打撃を受けるのが運輸部門と産業部門(の中の特定業種)です。
運輸部門でいえば、石油系燃料に依存する交通手段が打撃を受けます。
上はちょっと古い統計ですが、と言っても、運輸部門のエネ消費の98%が石油系に依存するため、運輸部門が丸ごと打撃を受けるに等しい形です。
この部門でのコスト増は、すべての物価に転嫁されることになります。
電車以外は基本的に甚大な経済被害を受けると考えて間違いないでしょう。
不幸中の幸いですが、発電燃料となる天然ガスや石炭は、世界中に豊富に分布しているため、EVも含めて、電気で動くもは比較的影響が小さい。
ただし、外洋船舶の輸送コスト自体は跳ね上がります。
天然ガスと石炭はまた、石油とは違い、輸入元も分散しており、第三次世界大戦にでもならない限り、まず遮断しません。
また、石炭は国内にも豊富にある。今は採算の問題から安価な輸入品に頼っているだけです。だから電力の供給は一応大丈夫なわけです。
産業部門への直接的な影響については、もう一回この表を掲げるのが早いでしょう。
紙製品やプラスチック製品、その他のマテリアル系の生産は大打撃を受けるでしょうか、私が何よりも心配すべきだと思うが、農業と食料品の生産です。
私たちの食生活は、肥料製造、農機の稼動、農産物の輸送などで、やはり石油に全面的に依存しています。ただし、田舎だと、各農家が燃料抜きの手作業で、穀物・豆類・野菜などを育てて、互いに融通し合えるので、それほど酷い事態にはならない。
一番困るのは都会の消費者でしょう。冗談抜きで一部で奪い合いが起きるかも。
皮膚感覚で「都会にい続けたら危ない」と思ったら、何がなんでも田舎に疎開して、人力農業をやって、互いに助け合うことも、人生の選択肢の一つです。
ただ、幸いなことに、稲作に関しては、日本はかなり地産地消体制に近く、田植えと稲刈りに人力を動員すれば、飢える事態にだけは、ならなくてすみそうです。
そして政治の大混乱とラジカルの台頭、昭和維新再来の悪夢
ところで、食料品と生活必需品の値上げが凄まじいことになれば、当然、私たちの暮らしだけでなく、政治のほうも大変なことになります。
というか、そもそも政権の対応能力を超えている。戦後の累積矛盾が急拡大するため、政治が大混乱すると共に、デモなどで社会が騒然とした雰囲気になるでしょう。
おそらく、その時には、従来の「右か、左か」という対立軸よりも、「穏健派か、急進派か」という対立軸のほうが目立つようになると思います。
つまり、思想的には左であろうと右であろうと、極端な手法によって一挙に事態の打開を図らねばならないという考えに突き動かされたラジカル層が厚くなる。
共産党や労働組合などは、もとはラジカルな存在だったが、今ではすっかり戦後体制における実質保守に落ち着いて、新たな急進的改革派の求心力にはならないでしょう。
つまり、「別の勢力」が台頭して、むしろ共産党のほうが引きずられる格好になる。
今の安倍政権というのは、しょせん漸進的改善派です。
これに対して、左であれ右であれ、戦後(55年)体制の打破を掲げる「令和維新運動」を掲げる勢力が、必ず台頭するようになると予想します。
1920年代の連続的な経済危機によって、昭和のはじめには「昭和維新運動」が勃興し、その流れが結果的に明治日本体制を破滅へと導きました。
私たちはこれからまた似たようなサイクルを経験するということです。
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