さる7月下旬、オウム真理教死刑囚の残る6人が死刑執行されました。
これで7月6日(金)に執行された7人と合わせて、教祖麻原彰晃(本名:松本智津夫)死刑囚も含めて、13人すべての刑が執行されました。
当事件で被害を受けたすべての被害者に対して、あらためてお悔やみを申し上げます。
この少し前ですが、映画監督の森達也氏をはじめとする会が発足しました。
「オウム事件真相究明の会 麻原彰晃にほんとうのことを喋らせよう」
会のサイトによると、呼びかけ人や賛同者は次のような人たちです。
オウム事件真相究明の会 呼びかけ人・賛同人
1.1. ■呼びかけ人
1.1.1. 青木理(ジャーナリスト)
1.1.2. 雨宮処凛(作家)
1.1.3. 大谷昭宏(ジャーナリスト)
1.1.4. 香山リカ(精神科医、評論家)
1.1.5. 佐高信(評論家)
1.1.6. 鈴木邦男(「一水会」元顧問)
1.1.7. 鈴木耕(デモクラシータイムス同人)
1.1.8. 想田和弘(映画監督)
1.1.9. 田原総一朗(ジャーナリスト)
1.1.10. 原田正治(犯罪被害者ご遺族)
1.1.11. 藤井誠二(ノンフィクションライター)
1.1.12. 二木啓孝(ジャーナリスト)
1.1.13. 宮台真司(社会学者、首都大学東京教授)
1.1.14. 森達也(作家・映画監督・明治大学特任教授)
1.1.15. 安田浩一(ジャーナリスト)
1.1.16. 山中幸男(救援連絡センター事務局長)
1.2. ■賛同人
1.2.1. 石井光太(作家)
1.2.2. 井上淳一(脚本家、映画監督)
1.2.3. 岩井俊二(映画監督)
1.2.4. 大島新(映画監督)
1.2.5. 緒方貴臣(映画監督)
1.2.6. 奥田知志(牧師・ホームレス支援)
1.2.7. 海渡雄一(弁護士)
1.2.8. 川口有美子(社会実業家)
1.2.9. 小林節(憲法学者、弁護士)
1.2.10. 小中和哉(映画監督 自由と生命を守る映画監督の会)
1.2.11. 小室等(ミュージシャン)
1.2.12. 是枝裕和(映画監督)
1.2.13. 今野敏(作家)
1.2.14. 坂上香(映画監督)
1.2.15. 坂手洋二(劇作家「燐光群」主宰)
1.2.16. 佐藤優(作家)
1.2.17. 篠田博之(ジャーナリスト、月刊『創』編集長)
1.2.18. 下村健一(白鴎大学客員教授、ジャーナリスト)
1.2.19. ジョー横溝(ライター、ラジオDJ)
1.2.20. 鈴木正文(雑誌編集長)
1.2.21. 瀬々敬久(映画監督)
1.2.22. 高田昌幸(ジャーナリスト)
1.2.23. 高橋裕樹(弁護士)
1.2.24. 田口真義(LJCC事務局、元裁判員)
1.2.25. ダースレイダー(ラッパー)
1.2.26. 田中冬一郎(本屋「KENKADOU511」店主)
1.2.27. 津田大介(ジャーナリスト)
1.2.28. 友清哲(ルポライター)
1.2.29. 中川亮(弁護士)
1.2.30. 中村文則(作家)
1.2.31. PANTA(ロックミュージシャン)
1.2.32. 平岡秀夫(弁護士・元法務大臣)
1.2.33. 堀潤(ジャーナリスト、キャスター)
1.2.34. 安岡卓治(映画プロデューサー)
1.2.35. 山口二郎(政治学者、法政大学法学部教授、北海道大学名誉教授)
1.2.36. 山本直樹(漫画家)
1.2.37. 吉岡忍(ノンフィクション作家)
1.2.38. 綿井健陽(ジャーナリスト・映画監督)
1.3. ご賛同の声
(46歳 会社員)
まあ、いつものメンバーかなと。
これと「反安倍運動家」が完全に被っているのが興味深い。
一般の人たちからの「ご賛同の声」が一人というのは寂しい限りですね(もっといるのかもしれませんが、紹介されているのは一人のようです)。
彼らは会として次のような声明文を発しました。
「昏迷状態にある地下鉄サリン事件の死刑囚に治療を受けさせ、国は真相解明に取り組んで下さい!」
要約すると、麻原は精神疾患だから、ちゃんとした治療をほどこし、証言能力回復の努力をやるべきなのに、そういった努力が行われているとは言えない、という内容。
これに関しては、私も一理ないこともないと思う。
しかし、声明の締めくくりの文章を紹介しますが、この方面のプロが言うならまだしも、素人がこういうことを言っては、あまり説得力がないのも確かです。
なぜ凶悪な犯罪が引き起こされたのか、真相を究明するため国はやれることを全てやりきったと言えるのでしょうか。
私たちは国に対して求めます。
麻原彰晃こと松本智津夫に対して、死刑執行前に精神疾患に対する治療を速やかに行い、その情報を公開することを要請します。
オウム事件真相究明の会 2018年6月29日 13:00更新
これは十分に裁判を吟味した人でないと、言っちゃいかんだろと。
というのも、裁判記録のほんの一部に目を通しただけでも、非常に事細かであり、関係者によって真相究明に大変な努力が払われたことは明らかだからです。
全文は「裁判所」のサイトから、判例ファイルの一つとして見ることができます。
興味ある方はご覧下さい。
このような森達也氏らの「オウム事件真相究明の会」の主張に対して、長年にわたってオウム事件を取材してきた江川紹子氏が激怒したのはご承知の通りです。
江川氏は会見で次のようにコメントしたそうです。
「真相究明と仰るが裁判をずっとウォッチしてきた方はいない。松本智津夫の裁判以外にも様々な裁判が開かれ事実関係はほぼ解明された。『麻原に喋らせよう』などと軽く言うが、共犯者たちが血が迸るような説得を試みても喋らなかった」
私も江川氏の反論には基本的に賛成です。
「真相究明の会」はまず麻原の証言能力の回復を図らねばならないと言うが、彼らの主張に沿うならば、意図的であれ精神疾患であれ黙秘によって死刑執行を免れることができるという悪しき前例を作ってしまいかねない。弁護士もその判例を戦術利用するだろう。
すると、オウム事件との共通性も指摘されている相模原障害者施設で入所者19人を刺殺した植松聖が、さっそく沈黙戦術に出たらどうなるのか。むろん、実際には雄弁なまでに動機を語っており、あくまで「今後に続く大量殺人犯一般」の例えとしてだが。
何十人、何百人殺そうが、黙っていれば死刑は免れることはできる。そうと分かれば、私が犯人だとしても、意図的に黙る戦術に出るでしょう。
つまり、法律上定められた刑法の一つが事実上無効化されるわけであり、しかも事件の真相究明や再発防止の観点から見ても最悪の結果となる。「真相究明の会」には何十人もいるが、そういった負の可能性を想像する人が誰もいないのだろうか。
だいたい、「真相究明の会」の記者会見でも、いかにも市民派受けしそうな決まり文句を言う人が少なくなく、事件に対する疑問としては具体性に乏しかった。しかも、第一人者の江川昭子氏から知的怠慢ぶりを見抜かれてしまった。声だけはノイジーだが、結局は「左派系知識人」として「国家権力と戦っているぞ」という自己アピールに事件を利用しているのではないか・・。今回はさすがに世論の支持も少ない。来年の今頃には、会を立ち上げた人たち自身が関心を減らして、開店休業状態になっているのではないか。
1996年10月の下旬、麻原彰晃は突然、意思疎通困難者になった
さて、私からすると、「真相究明の会」の言うことは、なんかズレている。
しかし、彼らの言う事がまったく間違いかというと、そうとも思わないんですね。
というのも、私自身もオウム事件の「真相」というか、「全容」は解明されていないと信じているから。よくオウム事件絡みの陰謀論で「黒幕」と指摘されるのが北朝鮮。
これは間違いではないと思うが、本当は「もう一重の背後」があるはず。
で、その存在が麻原を口封じしたと推理するのがもっとも合理的と私は考える。
まず、当時を時系列で振り返ってみる。
1995年3月20日、地下鉄サリン事件
1995年(平成7年)5月16日、地下鉄サリン事件の首謀者として麻原逮捕
1996年(平成8年)4月24日、第一審の初公判
初公判は、本当は麻原逮捕から約5ヶ月後の10月26日に設定されていたが、麻原が前日に私選弁護人横山昭二を解任したため、延期となった。
それで、あの有名な安田好弘(やすだ よしひろ)氏が国選弁護士に選ばれる。
いずれにしても、逮捕から一年弱でなんとか初公判に漕ぎつけた。
この頃の麻原の言動や精神状態はノーマルでした。ところが、裁判が始まってからわずか半年で、それがアブノーマルになりました。
1996年9月、法廷で麻原元教祖と教団諜報省トップの井上嘉浩被告との「師弟対決」が起こりました。この時、井上嘉浩は決定的な証言をしました。
それが「リムジン謀議」の内幕です。簡単に言えば、リムジン内で教祖と幹部があれこれ話している時、麻原がサリン散布を指示したのを聞いたという証言です。
これは地下鉄サリン事件でなんとしても麻原を有罪に持ち込みたかった検察サイドにとって、喉から手が出るほど欲しい証言でした。
当然、安田弁護士らは井上被告への反対尋問に打って出ようとする。ところが、その受益者である当の麻原が弟子を追い込むことに反対した。
それが同年の10月18日のこと。そして突然、麻原がおかしくなる。
以下は、当時の証言を収録した『AERA 2004年3月1日号』の再掲記事です。私のほうで抜き出し・強調をしているので、素文を読みたい方は是非リンク先を。
「法廷で空中浮揚」計画も… 麻原彰晃が本気で明かしたかった「私の真実」とは? 元主任弁護士が語る 井原圭子2018.7.6 15:19AERA
「僕は、懸命に彼を説得しました。反対尋問をしなければ、井上被告の証言がそのまま認められてしまう。弁護人としてそのようなことはできない。とにかく、僕たちと彼とがじっくりと話し合うことが必要。それで、裁判所にその日は裁判を打ち切ることを求めた。しかし、裁判所は認めなかった。それで仕方なく、彼の意思を無視し、反対尋問を続けることにした。
翌週、他の弁護人が面会に行った。そのときの彼は錯乱しており、顔は、流れ続ける鼻水や涙でぐちょぐちょだったそうです。
僕は、他に用があってすぐには会いに行けなくて、1週間後、ようやく面会ができた。様子がすっかり変わっていました。いつもの彼の姿はそこにはありませんでした。終始うつむき、僕の言葉が届いているのかどうか、彼の反応はとても心もとないものでした。それからというものは、たまに言葉が通じることがあったが、状態は悪化の一途で、結局、面会さえ拒否されるようになりました。
彼の不可解な言動についてはいろいろと取りざたされています。詐病説、乖かい離り性人格障害、過去の統合失調症発病による人格崩壊、そして薬物のフラッシュバック。あるいは心理的な閉じこもり、拘禁性の防御反応。本当のところはわからないが、僕には、詐病とは思えない。結局、彼はその後も沈黙し、事件は多くの未解明な部分を残したままです」
時系列にします。
1996年9月、麻原を死刑にできる「井上証言」が飛び出した。
麻原の意向を無視して、安田好弘弁護士らは井上被告への反対尋問を続けた。
その翌週、1996年10月下旬、麻原の様子が一変した。
なんとか意思疎通が出来たのは1997年の初め頃までで、あとはひたすら症状が悪化していく一方。2000年頃から会話も不能になってしまう。
また、それでも国選弁護人を務めていた安田弁護士は、1998年12月、旧住宅金融債権管理機構の債権回収がらみで、強制執行妨害の容疑で逮捕された。
オウム事件とは全く無関係の経済事件で、麻原の主任弁護士が挙げられた。
麻原が東京拘置所内で何者かに薬を盛られた可能性
とまあ、こういう感じです。
「オウム事件真相究明の会」は「証言能力回復の努力をやるべきだ」と訴えていますが、もう20年も昔に彼は廃人になったと考えるべきです。だいたい、会のメンバーの大半は心から「事件の真相を究明したい」と願っているようには見えない。
いろいろなルートからの情報を総合すると、実は、この会のメンバーが言わんとすることとはまったく別の次元で、想像を絶する真相が隠されている可能性がある。
いずれにせよ、事実として、麻原は裁判が始まってわずか半年後には、まともに喋れなくなった。しかも、麻原を死刑にできる決定的な証言が飛び出した直後だった。
なんか、話が出来すぎていないだろうか?
私は麻原が薬を盛られた可能性があると思う。ただ、じゃあ受益者である検察が盛ったのかというと、そうは思えません。むしろ、「麻原だけが知っている真相」があり、それが外部に漏れると困る連中が別にいる、と考えるほうが妥当です。
陰謀論と批判する人もいるだろうが、まったく根拠がないわけではない。
たとえば、事実上の教団ナンバー2であり、サリン製造の最高責任者だった村井秀夫は、地下鉄サリン事件から約一カ月後、南青山の当時教団総本部の前で、在日韓国人の徐裕行によって堂々暗殺された。徐は動機を「個人の義憤」で押し通し、すでに釈放されているが、こんな証言を信じる人間は誰もいないだろう。ちなみに、一水会の鈴木邦男や有田芳生はこの証言を支持し、声高に「単独犯」説を唱え、徐本人とも交友があるが、この二人が擁護しているせいで余計に怪しく思えるのは、私だけではあるまい(笑)。
もう一つ、地下鉄サリン事件からわずか10日後、当時の國松孝次警察庁長官が狙撃される事件があった。私も現場の南千住のマンションを見たことがあるが、銃撃の距離からしても完全にプロの犯行です。しかも、警察のトップ「警察庁長官」を狙った。これは絶対に国内の暴力団の仕業ではない。むろん、オウムによる自作自演でもはない。ちなみに、現場の遺留品として「朝鮮人民軍バッジ」や韓国の「10ウォン硬貨」があった。
つまり、現に、オウムのナンバー2と捜査側のナンバー1が暗殺対象になった。しかも、韓国や北朝鮮などの存在が何らかの形で関わっている。
そう考えると、麻原がそうだったとしても不思議ではない。ただ、彼は警察による逮捕まで完全に隠れていたので、暗殺しようにもできなかっただけと考えることもできる。しかも、麻原は1996年3月26日まで警視庁本庁舎の留置所に隔離されていた。
だから狙う側にしてみれば、麻原が東京拘置所に移されるまで、手出しができなかった。
しかし、拘置所で死刑囚に直接、薬物を盛れる存在となると、刑務官しかいない。広義には検察や法務省の事件関係者まで含めることができるかもしれないが。
ただ、もう一つの可能性が挙げられる。警視庁の奥深くには入り込めないが、拘置所の内側には入り込める又は入り込んでいる存在・・・「諜報機関」です。
日本の政治犯が最終的に行き着く東京拘置所にはある外国の諜報機関が入り込んでいる。オウムの背後には北朝鮮の影がチラつくが、しかし「北朝鮮だけ」とも思えない。
いずれにしても、麻原が何者かによって口封じされたと推測することは、決して突拍子もない可能性ではありません。
たとえば、オウムのハルマゲドン計画には、本当は外部の使嗾者・協力者がいて、彼らが真相の漏洩を恐れているのだとすれば・・・。
この話は実に危ない。