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「南海トラフ地震」は有史以来、最悪の被害となる

3・11の時の惨状

少し前に関東大震災について触れましたが、今度は南海トラフ地震についてです。

政府の被害想定は二段階に分けて発表された。

まずは12年8月。国の有識者会議は、同震源域で「M9.1」という最悪水準の巨大地震を想定した。その結果、死者は約32万3千人、負傷者は約62万人強、全壊・焼失棟数が238万6千と推計された。とりわけ津波による被害がもの凄い。20メートル以上の津波が7県と東京都島しょ部に押し寄せ、約23万人が死亡。高さについては一部で30mを超すとした。ただし、適切な避難・対策次第では最大5分の1に減らせるとしている。

出典「内閣府・南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ第一次報告」

次に13年3月。経済的な損害額が最大220兆3千億円(*東日本大震災の十倍に相当)に上り、避難者は1週間後には950万人に達すると発表した。一方で、今から防災対策を進めることで118兆円に減らすこともできるとしている。

出典「日本経済新聞 2013/3/18 18:00」

このように、M9クラスの「南海トラフ地震」が発生すれば、有史以来最悪の被害となる見通しだ。ライフラインなどの細かな被災は新聞社のまとめた表が参考になる。中でも上水道の復旧には最長二か月かかるとしているので、水の備蓄強化は必須だ。

出典「日本経済新聞 2013/3/18 18:00」



問題は太平洋沿岸一帯の交通・瓦礫・住宅・産業の状況だ

この巨大地震は、東名高速道や新東名、国道一号線、東海道本線・新幹線などを寸断すると思われる。表にもあるように一か月は不通で、一般車両が道路を通行できるようになるまで長期化する可能性もある。つまり、東西の物流の動脈が長期間断絶する可能性もあるわけだ。おそらく、甲府市や飯田市などの山間部を横切る中央自動車道は大丈夫だろうが、その代わり凄まじい渋滞が恒常化することは容易に想像がつく。

瓦礫は東日本大震災の約15倍が想定されているが、被災があまりに多府県に渡っているため、そもそも持って行き所があるか疑わしい。長期間の瓦礫放置は復旧の遅れを内外に印象付けるだけでなく、何よりも現地の人心に悪影響を及ぼす。素人意見で申し訳ないが、有害物質を含まないモノなら海岸にどんどん埋め立てる他ないと思う。

もっとも深刻なのが住宅の被害だ。なにしろ、20メートル以上の津波が何百kmもの沿岸に襲い掛かる。史上空前の浸水・倒壊被害をもたらすことは間違いない。

個人的なことを言えば、私が三度も見た「凄まじい津波の夢」は、どうもこの時の様子であるような気がしてならない。だとするなら、都市部も津波の被害を免れない。

しかも、何百万人もの人々が住む所を失うだけでなく、長期間、仕事も失う。各県の被害額の表を見ても分かるように、愛知県と静岡県の被害が併せて約50兆円と、突出している。この両県は製造業、とりわけ自動車産業の集積地だ。まさに巨大津波の襲来が想定されている地域に、日本を代表する水準の部品工場が建ち並んでいるのだ。

今のままでは、「南海トラフ地震」が国内の自動車関連産業を一時的にせよ半身不随にしてしまうことは必至だ。自動車はわが国の最大の輸出品目である。最大の稼ぎ頭を失ってはならない。これはもはや日本全体の経済・雇用の問題でもある。

ズバリ言ってしまうと、豊川・豊橋・浜松などは震度7の揺れと大津波に襲われる危険性が高い。せっかくの地震研究も現実の対策として生かさなければ何の意味もない。最高の対策は「予防的措置」だと言われている。つまり、被災予想地域から企業や住民そのものを減らしていく方法だ。政府・愛知県・静岡県の行政側と、トヨタや部品メーカーなどの企業側は、タッグを組んで新たな工業団地を整備し、今のうちから工場の移転などを進めるべきだ。災害の復旧や建て直しには莫大な費用と時間がかかるが、移転だけならはるかに少ない投資ですむ。それに伴って、関係する住民と商業施設もまた移転していくだろう。この「危険地域から自主的に離れる」というのが実は一番の対策なのである。

しかも、時期は切迫している。可及的に速やかに移転を始めてほしいと思う。

このように戦後、西日本の太平洋沿岸地域において人口と産業が高度に集積化した結果、来たる「南海トラフ地震」は「有史以来最大の被害」をもたらす可能性が高くなった。

太平洋沿岸一帯のライフライン、交通・物流網、生活・産業基盤は、最初の一撃で甚大な被害を受ける。そこにインフラの寸断、エネルギー供給の停滞、経済・企業活動の麻痺などが重なるため、地域の人々が直面する困難は想像を絶するものがある。

被害想定では、つい「大きな数字」に惑わされてしまいがちだが、やはり「生活者目線」で自分と家族の「等身大の被害」をイメージすることが何より重要だ。かくいう私も、次なる「関東大震災」では被災する側にいる。だから、「南海トラフ地震」で同じ立場にある人々には、くどいほど言いたい。政府・自治体の支援、企業努力だけでは限界がある。「避難所に逃げ込めばいい」というものではなく、そういった場所でも必ず水・食糧・エネルギーの不足に直面するものと覚悟してほしい、と。もしかすると、あまりに被災者が多ければ、屋根のあるスペースの確保すらできない可能性もありうるのだ。

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Takaaki Yamada: