米社会のエスタブリッシュメント(=伝統的エリート層)に対して、トランプ大統領と政権の理論的・思想的支柱のスティーブ・バノン首席戦略官が「アンチ」であること自体は間違いないと思います。しかし、トランプ政権が“反グローバリズム”と断定するのは早計でしょう。たとえば、国務長官のティラーソンはグローバル人脈に連なる。
私が思うに、トランプ政権がロックフェラー財団やカーネギー財団にメスを入れるまでは「本物の反グローバル派」とは見なせません。
つまり、トランプ政権の反グローバリズムが「どのレベルまでか」を見極めることが重要です。私はトランプ当選から2週間後に以下の記事を書きました。以来ずっと見守っていますが、その時の印象にまだ変化はありません(傍線太字は今の筆者)。
(前略)トランプの話で明確におかしい点があった。それは悪が常にヒラリーとクリントン財団のレベルに矮小化されていることだ。
これまでトランプは、さもアメリカの背後にいる国際勢力を追求するかのように印象付けながら、実際には「悪の本丸」への言及を巧妙に避け続けていた。そして、そのパシリの、そのまたパシリ程度の存在にすぎないヒラリーとクリントン財団だけを叩いていた。
だが、トランプが本当に「ISを操っている黒幕」や「9.11テロの背後にいる黒幕」を追及するはずがないのだ。なぜなら、どちらの背後にいるのもイスラエルだからである。そしてそのイスラエルを偏愛し、事実上のシオニストといえるのがトランプだ。
だから、ドナルド・トランプが巨悪を追及することなど、最初からありえないのだ。
この記事の後半では、以前にもこういう「地のアメリカ人」の大反発があった史実を記しています。当時、「影の政府」は、アメリカ民族主義者たちからの吊るし上げを食らったので、当然、このような動きはよく承知しているし、警戒しているはずだ。
一世紀前にも今とよく似た社会現象があったアメリカ
ちょうど今から100年前くらいでしょうか。
第一次大戦後から国際連盟の創設、そして20年代の世界恐慌、第二次大戦前に至るまで、今とよく似た流れがありました。だいたい20年間くらいでしょうか。
反グローバリズム、反連邦政府、アメリカ右翼・民族主義者、米一国主義、人民主義(ポピュリズム)、宗教右翼、福音派、草の根(グラス・ルーツ)・・・こういった反エスタブリッシュメント・反国際主義の動きが、第一次大戦から第二次大戦の間にも、ワーッと噴出しました。そういう意味で、これもまた“アメリカ伝統”といえる。
アメリカは基本的に超国家権力である「影の政府」が作った人工国家です。米英戦争(独立戦争)も、教科書的な歴史の解説とは裏腹に、実際には「外敵」を作ることでアメリカの市民を一致団結させ、独立を確立するのが真の目的でした。ソ連を作った時も、同じ工作をやっています。それが1922年の「シベリア出兵」でした。
「影の政府」が「本店」とすれば、彼らにとってアメリカは「最大支店」という位置づけです。だから、国際主義の牙城として活用してきた。
しかし、そんな事情など知る由もないアメリカ人(とくに非エリート層)には、当然ながら素朴なパトリオシズムや、他の国民と同じ様なナショナリズムの感情がある。だから、国際主義の連邦政府に対する反感が根強い。事実、建国以来、両者はえんえんと対立してきた。
で、時々、国際主義のほうが行き過ぎると、第一次大戦後のように、ナショナルな利益(つまり“自分たち”の利益)が犠牲にされていると感じたアメリカ民族主義者層がワーッと立ち上がって、結束して、一時的に社会を席巻してしまう。
この時と類似した反グローバリズムの怒りの感情が、今またアメリカで噴出しているわけです。「ティーパーティ」なんかもその一環でしょう。
今と昔ではユダヤ人に対する見方が大きく異なる
興味深いことに、昔と明確に違う点もある。それが「ユダヤ」に対する視線です。昔は、この層は、反ユダヤ主義とほとんど被っていました。ところが、トランプ政権は超が付くほどの「親ユダヤ」。トランプも、バノンも、その他のメンバーもそうです。
ここが目新しい。実は、ここ4~50年間、ユダヤ勢力は米国内で地道に「クリスチャン・シオニズム」を広めてきたんですね。単純にいえば、クリスチャンとユダヤは、最後に登場する救世主像こそ違うが、そこに至るまではほとんど被っている、だからユダヤとクリスチャンは兄弟だ、彼らは聖書に出てくる尊い民なんだ、という考え。
ユダヤ人団体やモサドやCIAなどは、メディアや講演などを通じて、この「クリスチャン・シオニズム」の普及に努めてきました。根底には「キリスト教徒の根強いユダヤ人差別をいかに無くすか」という問題もありました。だから、黒人差別や女性差別と似た位置づけて、解消が図られてきたんですね。
どうやら、テレビ宣教師などは、たいてい諜報機関の工作員か、又は関係者と考えられる。こうやって、教義や演説、ビデオ・映画制作などを通して、地道に全米のキリスト教徒にうまく「親ユダヤ」を上書きしていったんですね。
500年前にスイスから始まった形而上操作
しかも、実は、これは彼らが500年前から地道にやってきたことです。ユダヤ人の立場からすれば、「いかにキリスト教という怪物をコントロールするか」が常に大きなテーマでした。生存上、欠くべからず戦略だったと言い換えてもいい。
私はその最初がスイスのバーゼルで誕生したジャン・カルヴァンのプロテスタンティズムだったと思っている。その少し前に、スイスの事実上の独立を決定付けたシュワーベン戦争があって、1499年、スイス十州同盟と神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世と間で「バーゼルの和約 Peace of Basel」が締結されました。
実は、これが今日のユダヤ・プロテスタント連合の始まりで、スイスにBISがある理由も本当はこれに由来していると、私は推測する。
本当はユダヤ民族こそが、カトリック原理主義支配に対する最初のプロテスタント(抵抗者・抗議者)であり、そこに続々と他の反体制派が合流していったんですね。で、彼らが最初の自治を勝ち取った記念すべき地方がスイスだった、というわけです。
で、バーゼルはライン川の起点でした。彼らはそこから河口域のオランダへと向かい、次に海峡を渡ってイングランドに入り込みました(以下参考)。
そして、クロムウェルによる内戦へ・・と繋がっていくわけですね。1640年代のピューリタン革命とウェストファリア条約で、彼らは確固とした基盤を固めました。
以来、「影の政府」は「宗教・思想爆弾」を次々と世に放ってきました。宗教戦争を煽り、セクト(分派)を作ることもその一つです。近代フリーメイソンも、彼らの作った政治団体であると同時に「新宗教」でもありました。近代のスピリチュアリズムも、彼らが影で散々広めてきたものです。彼らは「無神論」さえも創りました。
実は、20世紀の「クリスチャン・シオニズム」の普及も、その系譜に連なる宗教運動・宗教改革の一つでした。今も続いているので、過去形じゃないですね。
トランプ政権にもその象徴的人物が入っています。それがマイク・ペンス副大統領です。トランプやペンスの信仰は、長年の「影の政府」の形而上操作によるものです。
反グローバリズムはこうやってコントロールする
さて、話を戻しますと、かつて連邦政府の露骨な国際主義的政治に対して、地のアメリカ人からの猛烈な反グローバリズムの抵抗運動が興った。
で、国際勢力としては、その時、自分たちが吊るし上げられた苦い経験があるから、何らかの手を打たなければならないということは、当然承知しているはずです。
とりわけ、彼らは世界大戦を起こして、その戦後秩序として現国連を「世界政府」へと発展解消する一大プロジェクトを直前に控えている。
つまり、NATO軍が中ロに勝利して、戦勝国として全世界を従えた新たな秩序を一挙に構築するということ。しかも、その際に核戦争を演出し、「二度と悲惨な戦争を起こさないため」という理想の名の下に、国家主権そのものを世界政府へと返上するという流れへと持っていきたい。
だが、彼らは、歴史的な経験から、作用に対しては、必ず反作用が生じることを熟知している。つまり、史上最大の超グローバル政策の前には、同じく史上最大の反動が来ることも予期している。しかも、その動きが、軍と情報機関内部のレベルでも起こり、敵側であるプーチン・ロシアと組もうとして現れている現実も、しかと見通している。
この史上最大の「地のアメリカ人」のレジスタンスをどうハンドルするか?
ここが大衆操作のプロたる「影の政府」の腕の見せ所です。結論から言うと、彼らは人間心理に知悉している天才集団なので、勝負は最初から付いている。
彼らは「ここらでガス抜きしておこうか」と考えた。だから、あえて自分たちの利益とは逆のこともしてのける。そして、自分たちへと向かってくる反グローバリズムの拳に対して、決して拳で返したり、払いのけたりしない。合気道の要領で、その腕を掴んで、むしろ進む方向へと押しやる。そして自分たちではなく、別の的に拳を誘導するわけです。で、すでに彼らはそのコントロールにほとんど成功しつつある。
もうお分かりでしょう。
それがヒラリーとクリントン財団だというのが私の見方です。
トカゲの尻尾きりにされるヒラリーとクリントン財団
上の引用記事でも言いましたが、クリントン財団が奇妙なまでに「巨悪」に祭り上げられていることに対して、私はずっと引っ掛かっていた。
しかし、大衆の怒りの矛先をヒラリーとその取り巻きに向け、避雷針役として処分するつもりだとしたら、説明がつく。本当はパシリの、そのまたパシリ程度の存在なのに、うまく巨悪に仕立て上げ、すべてをクリントンのせいにする。最終的にはFBIに逮捕させるのかもしれない。そうやって反グローバリズムの怒りのガスを抜く。本当の黒幕はまんまと難を免れるという寸法です。ヒラリーはそのための「生贄」というわけ。
ビル・クリントン元大統領はローズ奨学生でしたが、これは「影の政府」にとって、アメリカ支店の現地人幹部候補生のようなもの。つまり、ヒラリーも含めて、しょせん彼らは「影の政府」のメンバーではなく、使用人にすぎないんです。
彼らは最後には夫妻を避雷針にして、使い捨てるつもりなのかもしれません。
だから、トランプが過激な反ヒラリーでも、「影の政府」にしてみれば、全然構わないどころか、むしろ望むところなのです。仮にトランプがそういう筋書きを知っていて協力しているとすれば、今起こっていることは、完全なヤラセです。反グローバル派は、最初から騙されていることになる。第二に、操られているというより、これはトランプ側とグローバル権力との利害の一致なのかもしれない。
そして第三に、(この可能性が一番低いが)トランプが本当に何も知らずにクリントン派を攻撃しているとしたら、「影の政府」によるグローバル派のガス抜き工作に、ただ単に利用されているだけということになります。
そもそも、2016年5月、トランプがキッシンジャー邸を訪問する様子がCBSなどの大手メディアでライブ中継された時点で、彼が真の、徹底した反グローバル派という見方は怪しくなっていた。あれは「跳ね上がりのトランプのやつにちゃんと鈴をつけておいたぞ」という、仲間内に対するメッセージだったと思われます。
つまり、トランプ政権は、あくまで「影の政府」の核心的利権を損なわない範囲で反グローバリズム言動や政策を許されているに過ぎないわけです。だから、反グローバル派といえば、そうかもしれないが、それは”コントロールされた”という但し書きが必要です。
しかも、肝心な対外政策はキッシンジャー自らが牛耳っているので、あくまで「対内的」に「ガス抜き」をやる自由が許されている程度です。確かに、「影の政府」からしても、彼の言動・行動はやや行き過ぎているのかもしれないが、核心的利権を損なわない限りにおいては全然構わないわけです。彼がジャクソン主義者であろうと何だろうと。
もしかすると、トランプに本当に反グローバル派のガス抜きの使命が与えられているとすると、FRBくらいは潰させるかもしれない。超権力は元々「グローバル電子通貨」システムに移行したらドルもFRBもお払い箱にする予定なので全然構わない。
仮に一線を越えれば、リンカーンやケネディのように消すだけです。まあ、その前に、ニクソンのようにスキャンダルで政治的に暗殺し、政界から追放してしまうでしょうが。
だから、繰り返しますが、トランプがクリントン財団だけではなく、ロックフェラー財団やカーネギー財団にもメスを入れない限り、本物の反グローバル派とは見なせないと断言しておきます。