前回の「南アルプス横断トンネルを鉄道と道路の併線に」という記事に補足しておきたい。未読の方は先に目を通していただけると幸いです。
記事の趣旨は、南アルプスを横断する「リニア用」のトンネルを掘るのだったら、ついでだから「中央自動車道用」のトンネルも平行して掘ったらどうか、というものだ。
それによって二つのメリットがあると述べた。
一つは、道路用のトンネルを掘ること自体のメリット。現在、中央自動車道をつかって東京と名古屋の間を行き来する自動車は、年間に何千万台もある。トンネルによって上記のルートを、距離にして約60キロ、1時間弱ほど大幅に短縮できれば、どれほど経済効果があるだろうか。行き来している貨物と旅客の膨大さを考えると、企業にとって大きな人件費と燃料費の節約になり、それは最終的には社会全体に還元されよう。
もう一つは、鉄道用と道路用のトンネルを同時に掘ることのメリット。私は、どうせ掘削工事をやるなら、「組織・工期を別々でやるよりも、一つの建設会社が同時に2本のトンネルを掘ったほうがコストダウンに繋がる」という意味のことを述べた。
私はこれは経済の常識であり、詳しい説明をするのは野暮だと思って省いたのだが、どうやら分かっていただけない方もいるようなので、少し補足の説明をさせていただきたい。
どんな巨大プロジェクトでもそうだが、膨大な資材と人件費の投入が必要だ。仮に、山脈をぶち抜いて1本のトンネルを掘削するのに100万トンのセメントがいるとする。当然ながら同じようなトンネルを2本つくるためには、200万トンのセメントがいる。
すると、資材費のほうも2倍になるのだろうか。そうではなく、倍額から3%引とか、5%引きになるのである。こういった経済における規模のコスト効果の現象は、われわれのごく身近にある食料品とか日用品でも見ることができる。
しかも、これは人件費にも当てはまる。こういった工事は当然ながらIRや道路会社が自分でやるわけではなく、元請けのゼネコンに発注する。ゼネコンは担当部署ごとに様々な工事を下請けに割り振っていく。下請けはまた孫請の業者に振っていく。こういった巨大工事では三次、四次というレベルではとうていすまない。いずれにしても、発注者が支払う工事代金に人件費が織り込まれている構図には変わりなく、そういう意味では資材費と同じ細目でしかない。
おそらく、トンネルが1本から2本に増えれば、実働部隊自体は、ほぼ倍近い人員が必要になる。そうすると、発注元は人件費を倍に増やさなければならないのだろうか。そうではなく、ここでもやはり倍額から5%とか10%を値引くことができるのである。というのも、下請け業者は総利益を見ているから、仕事と人員が2倍になって、その結果少々叩かれたとしても、総利益が前の1・7倍になるなら、十分に受けるに値すると判断するからである(またそう足元をみて発注者も叩くのである)。
しかも、こういった巨大プロジェクトは、管理部門もまた巨大だ。ほぼ同じ工事が二つあるとして、組織・工期を一つにまとめれば、ある程度は管理部門の中で重複する仕事を省くことができる。というわけで、1本のトンネルを掘るのに1兆円かかる――南アルプス横断トンネルはたぶんそれくらいかかると思う――とすれば、同じ組織が2本同時に掘ることによって、たとえば5%のコストダウンに繋げることができる。つまり、工費は2兆円から1兆9千億円に下げることもできる。工事の原資は、結局はわれわれユーザーの利用料であるから、浮いた1千億円はユーザーに還元される。
ただし、いかにメリットがあるとはいえ、南アルプス横断トンネルの掘削計画を鉄道と道路の併線に変えるには、世論や国政が動くしかない。NEXCO中日本一社だけでなく、大勢で負担を分かち合う仕組みも必要だ。むろん、仮に併線化したとしても、私個人には何らの利益もない(残念だが世間には「おまえはゼネコンの回し者だろう」などと邪推する者も少なくない)。ただ、それでも公益の観点から提案している。この提案に賛成していただける方は誰であれ歓迎する。できれば新聞や雑誌も取り上げてほしいと思う。
2015年03月18日「アゴラ」掲載
(再掲時付記:全体的に大雑把な記事です。しかも、前記事でも付記しましたが、「年間に何千万台」というのは適当に書いたものですので。正確な交通量を知りたい方はご自身でお調べください)