「南アルプス横断トンネル」を鉄道と道路の併線にする案

オピニオン・提言系




昨年の10月、品川~名古屋間の「リニア中央新幹線工事実施計画」が国土交通大臣から認可された。ルートは「品川―橋本―甲府―飯田市―中津川市―名古屋」だ。「橋本」とは関東の人間にとってもあまり聞きなれない地名だが、八王子から7kmほど真南にある、ぎりぎり神奈川県に入る街である。

計画において最大の難所はトンネルの掘削だ。「甲府―飯田市」間は南アルプス、「飯田市―中津川市」間は中央アルプス(木曽山脈)をぶち抜く形になる。とりわけ前者は約60km弱もの長大なトンネル工事となる。しかしながら、現代では両サイドからシールドマシンで掘り進めて寸分の狂いもなく合流させるだけの掘削技術がある。現・リニア実験線は山梨・神奈川の県境から甲府南まで来ているので、これらのトンネルさえ完成すれば、橋本から中津川市までは一挙に開通したようなものである。

ところで、「南アルプス横断トンネル」といえば、道路用としても待ち望まれている。

以下の地図を見てほしい(*地図類はすべてグーグルから借用)。ご覧のように現在、中央自動車道は、甲府・飯田市間を直線で行くことはできない。いったん諏訪湖まで登って下るという、鋭角三角形の「迂回路」をとっている形だ。仮に南アルプスにトンネルができれば、ユーザーはこんなふうに遠回りしなくてすむ。

南アルプストンネル

そもそも、50年代の初期の構想では、南アルプスを横断する提案があった。しかし、技術的な理由から見送られたという(ウィキペディア「中央自動車道」より)。

だから、私は、「どうせ南アルプスをぶち抜くのだから、当然、自動車用も一緒に掘るのだろう」と勝手に想像していた。ところが、NEXCO中日本とJR東海に確認をとったところ、そうではないと言うのである。

つまり、鉄道用の計画しかないのだ。

ちょっと待ってほしい。もし、甲府・飯田市間を直線で行くことができるようになれば、首都圏・中部経済圏間を60kmほど短縮することができるのだ。「たった60km」と思われるかもしれないが、のべ何千万台という年間交通量を考えると、相当な経済効率のアップに繋がる。莫大な時間とエネルギーの節約分は、そのままコスト低下として企業や社会に還元されよう。

しかも、短縮できるだけでなく、新たな区間はほとんどトンネルであるため、従来のように雪害・強雨などの荒天の影響も受けにくい。

ちなみに、細かく言うと、これはトンネル工事ではないが、富士川町と甲府南ICの間にある国道140号の十数km分を「中央自動車道」として改装して連結する必要がある(つまり、南アルプス横断トンネルとは、正確には「甲府市富士川町―飯田市」間のことだ)。

地図南アルプストンネル

下の地図を見ても分かるように、「飯田市―中津川市」間の中央自動車道路用トンネルはすでに貫通しているため、道路に関しては南アルプスを掘削するだけいい。

南アルプストンネル3

よって、社会全体の利益を考えるなら、道路用のトンネルも南アルプスに通すべきではないだろうか。リニア同様、高速道においても東京・名古屋間をほぼ直線で行けるようになれば、物流への効果は計り知れない。しかも、両者を一つの工事にまとめたほうが効率的なのは言うまでもない。

つまり、リニア用のトンネルと道路用のトンネルの二本がいるにしても、組織も工期も別々でやるよりも、一つの建設会社が同時に二本のトンネルを掘ったほうが安くつく。やや強引だが、ガス管と下水道の工事を別々にやるよりも同時にやったほうがコストの節約になるのと似た理屈である。

もっとも、かつての国鉄や道路公団ならともかく、民営化された今では、自社のことで精一杯だ。コスト感覚のない親方日の丸体質も困るが、ただ、「日本のためにやろう」という気風がなくなったのも残念だ。穿った見方をすれば、中日本高速とて営利が最優先であるから、従来のルートをわざわざ短縮するような真似はしたくないのかもしれない。だいたい、道路利用収入は以前とほとんど同じなのにトンネル工費と維持費だけはのしかかってくるのだから、民間企業としては冗談じゃないという話だろう。

そこで政治の出番ではないだろうか。中日本高速一社に負担を強いるのではなく、かつての日本道路公団として臨時に負担を分かち合う、あるいは国から補助金が出る何らかの仕組みを作る。何よりもコスト削減のために、鉄道用のトンネル掘削工事と道路用のそれの事業統合が望まれる。おそらく、JR東海や中日本高速にとって、これはかなり迷惑な提案に違いない。

しかし、社会全体の利益はどうなのか。交通機関を利用する市民の目線ではどうなのか。巨大土木工事は誰のために、何のためにという、一番肝心な原点を見失わないでほしい。今ならまだ修正が可能だ。政治のリーダーシップを期待したい。

2015年03月12日「アゴラ」掲載

(再掲時付記:本文で「のべ何千万台という年間交通量」と書きましたが、読者から指摘されたところによると、もっと少ないようです。実は、私も想像でつい「何千万台だろう」と書いてしまいました。この場で訂正させていただきますが、過ちを明確にする意味でも、そのまま載せておきます。ちなみに、南アルプストンネルの全長は25キロということです。むしろ最長トンネルは品川から首都圏をもぐるもので40キロ弱だとか)

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