「局外中立」ならそもそも北の核ミサイルは飛んで来ない

オピニオン・提言系




1・北朝鮮は事実上の核ミサイル保有国となった。とりわけ日本向けのノドンミサイルは兵器として洗練されている。

2・金正恩は非常に凶暴な性格をしている。サイコパスの可能性がある。

これが最新の現実である。このように、北朝鮮の脅威の「質」は根本から変化した。もはや過去の北朝鮮と、現在の北朝鮮を同列に考えてはならない。これを勘案しない冷戦時代そのままの対北戦略など、現実無視の固定観念であり、百害あって一利なしだ。

父の金正日の時代には、日本を核攻撃する暴挙はあまり想像ではなかったが、今は核ミサイルのボタンを危険人格のボンボンが握っている。この甘やかされた三代目は忍耐を知らない暴虐な独裁者であるため、最後には破滅的な行動に出る可能性は十分にある。

「自国が破滅することが分かっていながら核攻撃するはずがない」という思考は、ただの希望的観測にすぎない。米軍(又は米世論)を抑止するために、「こうなりたいか?」というデモンストレーションの意味を込めて日韓の軍事基地だけを核攻撃する事態も十分にありえる。要は、あらゆる最悪のことが現実に起こりうる可能性を想定すべきだ。

先の大戦の時も、1940年の時点で、ほんの5年後に日本の56都市が灰燼に帰している事態を想像しえた人は誰もいなかったが、それは現実に起こった。だから今回も最悪のリスクを想定しておくべきだ。そして、そういった脅威を防ぐために欠かせないのが、変化する国際情勢に応じて、常に戦略のほうも柔軟に練り直す、という当たり前の政治姿勢である。

ところが、日本の政治家は右であれ左であれ非常に思考が硬直しており、外界の変化に自分たちのほうを柔軟に合わせるどころか、逆に己の狭い常識に外界のほうを無理やり合わせようとする傾向がある。だが、北朝鮮をめぐる情勢が根本から変化した現実を(とくに与党の)政治家たちが素直に受け入れないと、火の粉を被るのは今回も国民である。

また、日本の政治家が陥りがちなもう一つの過ちは、技術論・戦術論に走ることだ。たとえば、海上配備型のSM3と地上配備型のPAC3から成るミサイル防衛能力を高めるために、イージス艦を8隻態勢にし、日米韓の情報リンクをより緊密にする・・・という具合に。

むろん、軍事専門の自衛隊はそれでいいのだが、政治のレベルではまず「戦略次元の解決策」を模索しなければならない。現実(の変化)への柔軟な姿勢を欠くことと並んで、この戦術レベルの対応への拘泥は、視野狭窄な日本の政治家の弱点ともいえる。



対北朝鮮での「米韓との連携強化」はなぜ大間違いなのか?

戦術的対策の強化以前に、そもそも北の核ミサイルが最初から飛んでこないようにするためにはどうしたらよいか、を考えるべきだ。そうすれば、朝鮮半島有事に際して「局外中立」の立場を採ればいいことが分かる。

北朝鮮がいくら脅威だといっても、有事に関わらなければ、その脅威はこちらには向かってこない。北朝鮮の立場にしてみれば、仮に中立国日本を攻撃すれば、米韓だけでなく日本まで敵に回す格好になる。だから、それは戦略的にもありえない選択である。

当然、現状の「日米韓の連携強化」戦略は破棄することになる。昔は正しかった戦略でも、今は正しいとは限らないということだ。

そもそも同有事の根っこにあるのは「朝鮮半島の正統な支配者は誰か」という対立だ。アメリカはその一方を擁立し、軍事支援した後見人的立場だ。つまり、米韓と北朝鮮は本質的・構造的な対立関係にある。対して、日本はそこまでには至らない。

むろん、拉致問題は絶対に許すことができないが、米韓と運命共同体になる理由としてはやや弱い。それゆえ、「日米韓の連携を強化せねばならない」という強固な思い込みというか、強迫観念さえ捨てれば、日本にとってその逆の選択肢も十分オーケーなことも分かってくる。

むろん、在日米軍にも関わらせないことが必要だ。事前協議で「出動は日米関係者救出に限定する」と強く釘を刺す。本来、当たり前の話だ。在日米軍は日本を守るために在留を認められているのであって、韓国支援のためにわれわれ日本人に核攻撃を受けるリスクを背負わせるというなら、今すぐ出て行ってくれと抗議するのが筋である。

また、対中戦略の観点からも、もはや「日米韓の連携」は意味を成さなくなった。従来、この“アジアの民主国家同士の連携”と信じられていた関係は、対中戦略も兼務していたが、すでに韓国という一角は崩れ、同国が民主国家というのも幻想だと知れた。

それどころか、仮に日中戦争になったら、韓国は陰で中国側につくだろう。アメリカに睨まれないよう中立を装うが、裏では中国軍に協力する可能性が高い。そういう意味でも、第二次朝鮮戦争に際してわざわざ韓国を助けてやる義理は何もないわけだ。

というわけで、日本政府は堂々、戦略を転換し、朝鮮半島有事の際の「局外中立」堅持を宣言してほしい。そうすれば、そもそも核ミサイルなんか飛んで来ないのだ。

また、局外中立の公約は、北朝鮮に対するカードにもなる。現実に同国が核と弾道ミサイルの所持を放棄することはありえないのだから、これも黙認することでカード化できる。拉致問題の全面的解決と引き換えに、この二枚のカードを切ればいい。金正恩にしてみれば拉致問題を解決――拉致は処刑済みの張一派の犯行とでもしとけばいい――すれば大きな戦略的利益を得られる格好になり、これまでとは打って変わって前向きになるはずだ。

当然、韓国は不利益を受けるが、もともと日本の集団的自衛権行使に反対しているのだから、これは彼ら自身の選択だ。日本が韓国と心中する道理は何もないのである。

2016年04月05日「アゴラ」掲載

(付記:この記事の発表後、「サダム・フセインのイラクがイスラエルにミサイルを撃った例があるじゃないか」と言う人がいましたが、米イラク戦争におけるイスラエルは、中立国どころか、完全な当事者国です。というのも、そもそもブッシュ政権に「イラクに侵攻すべきだ」と盛んに唆していたのがイスラエルだったからです。リチャード・パールなど、政権内のイスラエル・ロビーも働きかけていましたから、イラク侵攻の原因を作った存在でした。あと安倍総理が昨年「集団的自衛権を朝鮮半島には適用しない」と言ったのは、自衛隊は当該地の戦いに向かわせないという意味であって、後方支援しないという確約ではありません。これはかなり勘違いしている人もいますが、現状では依然として韓国の後方支援をすることになっています。これは「局外中立」ではありません。後方支援もしないし、在日米軍にも関わらせないという状態になって、はじめて中立といえます。)

スポンサーリンク




タイトルとURLをコピーしました