X

スポンサーリンク




日本は北朝鮮との戦争の「機」を間違えていないか

9月26日、トランプ大統領は、ホワイトハウスでの記者会見で、北朝鮮に対する軍事オプションについて、準備は完全に整っているとし、「選びたくないが、必要であれば躊躇しない」と発言した。

アメリカが北朝鮮の核保有を認めるか否かといった悠長な議論の段階はすでに終わり、状況は「いつ実戦になるか」というステージに入ったと思う。



なぜ今の北朝鮮は真珠湾攻撃直前の日本なのか?

9月20日、安倍総理は次のように国連で演説した。

「対話による問題解決の試みは無に帰した」

「すべての核・弾道ミサイル計画を完全な、検証可能な、不可逆的な方法で放棄させなくてはならない」

このような主張はアメリカと同じであることから、日本の姿勢というより、日米共通の姿勢といえる。ただ、以前に言ったように、政治的には不可能に近い。

北朝鮮が査察官の検証を有効にするためには、事実上、国を明け渡さなければならない。仮にモノをやり取りしなくても、技術者を受け入れたり、派遣したり、文書をやり取りしたりといった、知識や技能の伝達は可能であり、監視は困難だ。

また、独裁者だからいって、何でもできるわけではない。金正恩は部下を処刑することはできるが、莫大な見返りもなく核・ミサイル開発を廃絶することはできない。

つまり、上の安倍総理の言葉は、一見もっともらしいが、現実には政治的に不可能なことを相手に要求している点で、ハルノートとそっくりなのである。

もちろん、日米とも、最初から相手が飲めない要求であることを承知しているはずだ。その上でアメリカと一緒になって突きつけているということは、安倍総理の腹はすでに決まったのだろう。むろん、相手に無理難題を吹っかける理由は一つしかない。

情けない話ではある。仮にも日本帝国の末裔たる私たちが、かつての帝国領だった地域に対して、アメリカと一緒になってハルノートを突きつけているわけだから。

しかも、9月11日に、アメリカの主導する国連安保理は、北朝鮮に対して「輸出収入9割断ち」の経済制裁を全会一致で可決した。

不愉快な話だが、北朝鮮はますます旧日本帝国と同じ状況へと追い詰められつつある。

おそらく、「さあ、早くそちらから殴りかかってこい!」というのが暗黙の意図。

アメリカの視点でいえば、日本軍の真珠湾攻撃は「成功体験」だ。今回も当然、そのケーススタディが念頭にあるに違いない。

つまり、最初の一発は北朝鮮に殴らせるということ。

これで戦争の大義名分が完璧になる。あとは本当にそれだけ。

だから、北朝鮮相手に、ハルノートや対日経済制裁の真似事をしている。

しかも、これは第三次世界大戦に向けたウォーミングアップ。

たしかに、アメリカはそれでいいだろう。なにしろ撃ってくるとしても、せいぜいグアムか、ハワイ。だが、私たちは本当にそれでいいのだろうか。

いつの間にか「日朝戦争」の構造になってしまった

それにしても、私が危惧していた通りの展開になってしまった。

前にも言ったが、日本は構造的には必ずしも北朝鮮と対立関係にない。

根底にあるのは、「誰が朝鮮半島の主であるべきか」という朝鮮民族内の争いである。その一方の韓国に対してアメリカが後見人の役割を果たしてきた。

つまり、「米韓 VS 北朝鮮」という構造。もしかすると北朝鮮のバックに中ロがつく可能性がある、というところ。

本来、「勝手にそっちでやってね。日本を巻き込まないでね」という話である。北朝鮮もまた現実主義者だから、「日本が侵略してくる」などと妄想はしていない。

在日米軍は日本を守るためにあるのであって、アメリカや韓国がやる戦争に日本を巻き込むなら出て行けというのが筋ではないだろうか。

ところが、巧妙に「日本 VS 北朝鮮」の対立構造へと誘導されてきた。

それが当初からの本質であるかのように、すっかり錯覚させられている。

今ではアメリカが「日本を守ってやろうじゃないか」などと言い出す始末である。

いつの間にか、話が変わっている。かくして日本は、よりにもよって旧帝国領だった朝鮮と戦争するところまで来てしまった。何か間違った気がするのは私だけか。

たしかに拉致問題は絶対に許すことのできない犯罪だ。どんな国でも相手に対価を支払わせるべきだと考えるだろう。しかも、当時、救出の「機」はあったのだ。

だが、私たちはそれを逃した。非常に言い辛いが、その機を逃した時点で、救出の可能性は非常に低くなってしまった。

戦争の「好機」はブッシュ政権時代だった

チャンスは今から12、3年前にあった。

当時のブッシュ政権の方針はどのようなものだったか。

イラクの次に北朝鮮を殺る

日本の核武装を認めてもよい

一緒に靖国神社に参拝しよう

などであった。これらは実際にアメリカ側からアドバルーンが上がっていた。

ちょうど拉致問題が発覚して間もなくのころであり、国民も怒っていた。

仮に北朝鮮と戦争するとしたら、あの時が「機」だったのである。ちょうど北朝鮮が最初の核実験を成功させる少し前だった。絶好のタイミングだったのである。

当時の小泉総理は、対イラク戦争に真っ先に賛成した大国の長だった。だから、褒美をやろうというなら、遠慮せずに貰っておくべきだった。

私は別に平和主義者でも何でもない。戦争するなら、この時がチャンスだった。

ところが、その当の小泉総理と外務省がチャンスを潰してしまった。

それどころか、生き残りをかけた北朝鮮にまんまと利用された。当時、外務省アジア大洋州局長だった田中均が考えたのが「三点セット」なる珍妙な戦略

核・ミサイル・拉致をセットにして包括的に解決するとかで、北朝鮮が提案を飲んだら、国際社会に復帰させ、経済支援するというふれこみだった。

結果はもちろん失敗。むしろ、三点セットのせいで拉致問題も一切進展しなくなった。

今にして思えば、田中均は、「日朝国交正常化を成し遂げて歴史に名を残す」という功名心を、北朝鮮によって吹き込まれ、うまく利用されただけだった。

北朝鮮の独裁体制を延命させた張本人(前半)
先日、レックス・ティラーソン米国務長官は「北朝鮮を非核化しようとする20年間の努力は失敗に終わった」と述べ、対北朝鮮政策の大転換を示唆した。 しかし、日本にも同じように対北政策における「15年間の失敗」がある。 アメリカの対北朝鮮攻撃に「待...

たしかに、彼は歴史に名のを残した。彼の望みとは反対の意味で。

おかしなことに、この何一つ問題を解決できなかった彼が最近、日朝外交の大先輩であり大外交官というツラをして、メディアに登場し始めている。

反面教師という意味でなら、彼のアドバイスも参考になるかもしれない。

しかし、明らかに元凶は小泉純一郎である。彼は目先のことに機敏に反応する触覚は発達しており、それが国内政争や大衆操作の上では有利に働いてきた。しかし、長期的な戦略とか長期的視野といったものは、まったく持ち合わせていない人物だ。

だから、当時のブッシュ政権の方針は、日本にとって何十年かに一度めぐってくる「好機」だったが、そんなことが小泉氏に分かるはずもなかった。

その点、安倍氏だったら、ブッシュ政権に乗じて北朝鮮を打ち殺しにかかった可能性が高い。しかし、それは彼の戦略眼というより、性質に拠るものでしかない。

だから、今は「機」ではないが、安倍総理は戦争でケリをつけようとしている。

だが、拉致被害者を取り戻すために、彼らよりもはるかに多い人命を犠牲にしてしまったのでは意味がない。だから復讐はすべきだが、戦争以外の方法を考えるべきだ。

以上のように、「流れ」として見た場合、日本は筋の悪い政治判断をしている。

北朝鮮が最初の核兵器を完成させる直前の「好機」には無意味な外交を重ね、逆に相手が強力な水爆や弾道ミサイルを完成させた今、戦いに猪突しようとしている。

「機」を間違えると、ろくな結果にならない。これは相場でいえば、天上で買うとか、底値で売るというような馬鹿げた行動というふうに考えていい。

いつ戦争になるかは私にも分からないが、一つ確信できるのは、金正恩は、自分が死ぬ時には、必ず相手も道連れにしようとする、ということ。

今年のクリスマスプレゼントが原爆ではないことを祈るのみである。

同日追記

仮にブッシュ政権時代に核武装を決断していれば、今頃、日本は対北だけでなく、対中・対ロにおいても水爆ミサイルを所有していただろう。

大事なことは、相手が対日核兵器を持つ以上、それに対してバランスをとるという発想であり、アクションだと思う。それによってむしろ戦争抑止になる。

相手が持つ以上は、こちらも持たなければならないのである。

国家主権を超える権力がない以上、国際社会は依然として本質的にアナーキーだ。よって最後にモノをいうのは、結局は暴力(軍事力)である。

悲しいかな、これが現実だ。だから、小さな暴力しか持たない国家は、より大きな暴力を持つ国家に、最終的には隷属させられる運命になる。実際に小国であればそれでいいかもしれないが、日本のように人類に対して責任を負う大国がそれでいいのだろうかと疑問に思う。

Takaaki Yamada: