2017年12月18日、トランプ大統領は「国家安全保障戦略」を発表しました。前回の発表は2015年のオバマ政権の時でした。
大統領は演説のほとんど冒頭のほうで、こう宣言しました。
「われわれはならずもの政権、テロ組織、多国籍の犯罪ネットワークと対峙している。さらにロシアと中国というライバル・パワーズとも直面している。両国はアメリカの影響力や価値観、富に挑戦しようとしている。」
つまり、中ロは「ならず者政権」や「テロ組織」とほとんど同列の位置づけです。
また、戦略の文書のほうでは、こんなふうに指摘しています。
「中国とロシアは現状変更勢力(リヴィジョニスト・パワーズ)である。アメリカの力、価値観、影響力、国益に挑んでいる。両国に関与を強め、国際機関や国際取引に取り込めば信頼できるパートナーになるという過去20年間の政策を再考しなければならない。」
「ロシアはアメリカの世界への影響力を弱め、同盟国との分断を図り、世界各国の政治事情(国政選挙など)に干渉している。」(*以上、読売新聞12月20日付より)
と、このように、トランプ政権が中ロに対してあからさまに現状変更勢力(リヴィジョニスト・パワーズ)との烙印を押した事実に対して、驚く向きもある。
しかし、私に言わせれば、これは単なる“追認”に過ぎない。
中ロがリヴィジョニスト・パワーズに認定されたのは2年半も前だった
私は2016年8月の「今は世界大戦の政治戦の段階であり後に実戦が訪れる」という記事の中で、次のように触れていました。
2015年6月、ドイツのエルマウで開かれたG7サミットは「中ロ非難共同声明」を採択した。同声明は、クリミアを併合したロシアと、南シナ海を一方的に埋め立てて軍事基地化を進める中国を名指しして、領土の一体性・国際法・人権の尊重を謳い、「力による現状変更」に反対すると表明した。
つまり、西側国際社会は「公式」に、中ロに対して「国際秩序を乱す存在=現世界システムへの挑戦者」という烙印を押したわけだ。
(略)この「儀式」は象徴的意味としても大きい。なぜなら、第二次大戦前の国際連盟において、日独が公式に「国際秩序を乱す側」に認定された歴史をなぞっているからだ。
(略)今回、国連ではなくG7サミットでその認定が行われたのは、国際連盟と違って国連では「ベトパワー(拒否権)」をもつ安保理常任理事国を排除できないからにすぎない。
(略)前回の「中ロ非難共同声明」から約1年後の、今年5月の終わり頃。西側諸国は、今度は日本の伊勢志摩に集まってサミットを開いた。
(略)総じて、二度のG7サミットは、世界に対して「中ロは国際秩序を乱す悪者」だと、上手に印象付けることに成功している。
つまり、オバマ政権の時に、中ロはとっくに“現状変更勢力”と指弾されているんですね。とすると、トランプ政権は単にその方針を踏襲したということです。
ドナルド・トランプは最初からグローバル勢力に反旗を翻していなかった(単にその中の少数派閥の側だっただけ)
私はこれまで世界支配層が全世界の支配を目指していること、それに対してプーチン・ロシアが反旗を翻したこと、胡錦濤の中国がロシアに合流したこと、それゆえ世界支配層は世界大戦を起こしてでも中ロを従えようとしていること、等を述べてきた。
つまり、中ロを戦前の日独的存在に位置づけ、国際秩序を乱す悪者に仕立て上げることは、何よりも世界支配層の方針というわけです。G7はそれに従っているにすぎない。
トランプ政権は2017年12月にその方針をはっきりと踏襲した、ということです。
とすると、トランプ政権が「グローバリストに反逆するナショナリストの政権」であるとする見方はやはり間違っていることになる。このことは政権誕生当初、ずいぶんと吹聴された。トランプは世界権力側のヒラリーを逮捕するなどと言う人もいた。
正直、私も混乱した。というのも、トランプの「対ロ方針」「反移民」「経済政策」などは、たしかに世界支配層の意向に逆らうものだったからです。事実、トランプは今もCNNやNYTなどの世界支配層系メディアからバッシングされている。
トランプに対する評価は、とくに陰謀論界では真っ二つに割れたと言えます。
しかし、私はすぐに、彼個人がどうあがいても、大きなところで世界支配層にコントロールされているなと感じました。というより、これは世界支配層の内部対立が表面化しているのではないかと推測した。実際、彼らはしばしば内部で揉めている。
たとえば、「米派VS欧州派」「石油VS原子力」といったものがある。しかし、日本政府内に様々な対立があっても、日本政府という枠組みそのものが崩壊するわけではないように、影の政府もまた内部対立くらいではびくともしない。こういう内部対立を見て「世界を支配する二大勢力がある」と誤解している研究家が存外多い。
だから、トランプがグローバリストに反逆しているとの見方に対して、私はすぐに否定的な記事を書いた。それどころか「ネオ・ネオコン」じゃないかとの見方を示した。
おそらく、世界支配層内で、シオニスト強硬派が勝手な行動を取っているのではないか。たとえば、エルサレムの首都認定などは、世界支配層の統一意志ではないのかもしれない。つまり、トランプは反グローバリストというより、世界支配層内の特定派閥の側に立ったため、その他大勢の側から叩かれているというのが真相ではないだろうか。
もはや“ネオコン戦争政権”と化したトランプ政権
さて、昨年8月、トランプ政権から、正真正銘のアウトサイダーだったスティーブ・バノンが排除されました。彼は「アメリカ・ファースト」の理論的指導者でした。
「我々が戦って勝ち取った『トランプ大統領』は終わった」
バノンはそう言ってホワイトハウスを去りました。
政権の二重性については、私も引っ掛かっていました。どうやら、バノンという“政権内抵抗勢力”の排除はその解消の一環らしい。かくして、トランプ政権はケリー、マクマスター、マティスという3人の軍人が幅を利かせる「準軍事政権」と化した。
トランプはまた北朝鮮とイランを指して「ならず者政権」の烙印を押しました。これがブッシュ・ネオコン政権の好戦的外交の踏襲でなくて何なのだろうか。
ということで、やはりアメリカは戦争に突っ込んでいくだろう。
そして、発足から一年を終えようとする今、中ロに改めて“現状変更勢力”の烙印を押したわけです。これで完全に世界支配層の意向に沿っていることが証明された。
トランプが世界支配層に対して立ち上がったヒーローであるかのごとくずっと持ち上げてきた人たちは、これから苦しい弁明をしなければならないだろう。
仮にヒラリーが大統領になっていたとしたら、どうだったでしょうか。
おそらく、私たちは今と似た光景を目撃していたと思います。つまり、“ヒラリー大統領”もまた北朝鮮とイランを槍玉に挙げ、中ロを仮想敵国と認定したでしょう。
つまり、どっちが大統領になっても、結局、根本的な違いはなかった、ということです。
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そういう人でなければアメリカ大統領にはなれないのだ、という事。最後にふるいにかけるのは「らりるれろ」達です。国民ではありません。