明けまして、おめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
ところで、年明け早々、風雲急を告げる状況になってきました。
先日、トランプの命令で米軍がイラン革命防衛隊のスレイマニ司令官の乗った車両を空爆して同氏を殺害しました。
その後の報道で知ったことですが、スレイマニ司令官はイライラ戦争時代からの英雄であり、イラン国民の人気も高く、最高指導者ハメネイ氏、ロハニ大統領につぐ実力者だったそうです。しかも、スレイマニと一緒に殺害されたのが、イラクのシーア派民兵組織「人民動員隊」のアルムハンディス司令官代理という人物。
アメリカでは今回の攻撃を大戦中の「山本五十六長官機撃墜」になぞらえる向きもありますが、私的にはむしろナチス親衛隊のヒムラー長官に例えたほうがしっくりする。
ナチスドイツでは、ドイツ帝国以来の「ドイツ国防軍」があり、それとは別個にヒトラー個人の軍隊である「親衛隊」が結成されましたが、イラン革命防衛隊もまたイラン正規軍とは別個にホメイニ氏によって新設されたエリート軍事組織です。
アメリカがいきなりヒムラー長官車両を空爆したらヒトラーとドイツ国民は激昂して対米開戦を決意するでしょうが、イラン人にとってそれくらいの衝撃だと思われる。
また、スレイマニ司令官率いるコッズ部隊は、国外のシリア・イラク・レバノンなどにあるシーア派武装組織を支援しているそうですから、それらの組織にとって、いわば「親分」が殺されたわけです。しかも、メンバー3万ともいう「人民動員隊」は自分のところの副指令も一緒に殺された。だから米軍に血の代償を支払わせると叫んでいる。
(Anti-US protest in India after Iran commander is killed in air strike | AFP)
仮にイランが直接報復に出なくとも、それらのシーア派武装組織が独自に米軍を攻撃する可能性が十分あります。
しかも、トランプ政権のポンペオやボルトンなどは、すでにそれらの組織が攻撃したとしても「イランに責任があると見なす」と明言しています。
イラクの「人民動員隊」だけではありません。
レバノンにおいて国家内国家を形成しているヒズボラ。
サウジアラビアが手を焼いているイエメンのフーシ派。
また、シリア内のシーア派武装組織は、すでにイスラエル軍と戦闘状態にあります。
どうも「イランが国際テロネットワークの中心である」というトランプの発言からすると、彼の頭の中でこれらが「テロ組織」と一くくりにされている可能性がある。
しかも、おそらく、これが平均的アメリカ人のレベル。彼らは「テロとの戦い=聖戦」だと9・11後に散々刷り込まれているため、これらの組織によって米軍に何十人かの死傷者が出れば、トランプ政権と一緒になって戦争に突き進む可能性も考えられます。
大昔に神と交わした契約を成就するのが本当のシオニズム
さて、世界中のSNSで「第三次世界大戦」がトレンド上位になっています。
その前哨戦たる(第五次)中東戦争ですが、これまで記事にしてきたように、私的には2019年に始まると思っていました。
おそらく、真の策源地はイスラエル(シオニスト)です。
日本では、アカデミズムによってシオニズムが狭義の意味に固定されています。
すなわち、パレスチナに祖国を再建してそこに帰還する、というものです。
間違いではないが、真のシオニズムは「旧約聖書の預言の実現」です。
これは「イスラエルの神との契約を成就させる」という意味でもあります。
ではヘブライ人は神とどんな契約を交わしたのか?
それはイスラエルが「諸国民の王」となって、中東の覇者になることであり、また全世界の国々を従えることです。
その預言を信じ、神との契約を実現するべく、セルフ・フルフィリング・ポリシー(Self fulfilling Policy)をやっているのが「真シオニスト」です。
神との約束は絶対だ、反故にしたら我が民族が滅ぼされるだけだ・・・根源にあるのはこういう「信仰」なのです。理屈もへったくれもない。
対して、預言の成就は神がご自身の意志でなさることであり、人間が勝手に人工実現しようとしてはならんというのが正統派の立場です。
いずれにしても、シオニストにとって、イスラエルの地域覇権にとって最大にして最後の障害こそがイランだということです。
イスラエルの目線では、イランは依然として「ペルシア帝国」なのです。
シオニストに選ばれた大統領トランプ
しかし、イスラエル単独ではイランに勝てるかどうか分からない。
だからアメリカを友軍として参戦させなければならない。
そう考えると、2017年にシオニストに待ち望まれた男、ドナルド・トランプが大統領に当選したのは、果たして偶然なのか、という疑問が沸いてきます。
偶然だとするなら、あまりに出来過ぎている。
トランプ政権はすでに以下の親イスラエル・反イラン政策を実行しました。
1・エルサレムをイスラエルの首都と正式に認め、大使館の移転を決定した。
2・「イラン核合意」から離脱した。
3・ゴラン高原におけるイスラエルの主権を認めた。
4・イランと第三国との石油取引に制裁を課した。
5・イラン革命防衛隊をテロ組織に認定した。
イラン核合意は、2015年7月、オバマ政権時代に締結され、2018年5月、トランプがそれを一方的に反故にしました。
一般的には、民主党のオバマと、トランプとの方針の違いというふうに何の疑いもなく信じられていますが、私は調べていくうちに両者はグルだと思いました。
つまり、もともとイランの原爆開発を遅らせるのが目的だったわけです。
その辺りは以下に記しました。
オバマがイランのウラン濃縮に歯止めをかけた。そして、時間稼ぎが出来たから、トランプが「もう用済み」としてそれを反故にした。同時に、イランが濃縮を再開したら、それを攻撃の口実の一つに仕立て上げる・・・そんなペテンではないでしょうか。
事実、今回の攻撃を受けて、イランはウラン濃縮の制限を撤廃すると言っています。
今後、イランは一気に核武装へ突き進む・・・しかし、時すでに遅し。
その前にアメリカ・イスラエル・サウジアラビアと戦争状態に入るのではないか。
イスラエル指導部の想定外の不安定により2019年は戦争にならなかった
言ったように、私は本来なら2019年後半くらいが戦争時期だと思っていた。
しかし、2019年4月、リクードが総選挙に勝利したものの、僅差のため、選挙のやり直しが繰り返され、今に至るまで組閣のゴタゴタが続いています。
対イラン強硬派のネタニヤフ政権ですが、思いのほか、不安定な状況です。
この想定外の政情のため、2019年度に予定されていた戦争が伸びたのだと考えています。しかし、伸びるとしても限度があるため、やはり2020年度が危ない。
イランは「核合意」なるもので欧米にまんまと騙されたと悔やんでいるでしょうが、今度の戦争では、米軍の泥沼化を誘うべく、中ロが支援するのは確実です。
とくに「敵の敵は味方」「夷をもって夷を制す」という原理に極めて忠実な中国は、武器などを大量にイランとシーア派組織に支援する可能性がある。実際、今中東を飛び交っている無人機・戦闘ドローンの類いは中国製がほとんどと聞いたことがある。
しかも、イランの準同盟国といえる北朝鮮がどう動くか分からない。
イランが核武装に間に合わなかったとしても、秘密裏に北朝鮮が、いや、その親分ともいえるロシアが、イランに核弾頭を援助しないとも限らない。
「まさかそんなことが!?」と人々が疑うようなことが実際に起きるのが戦争です。
ただし、アメリカは西側諸国を巻き込んで、すでに2年以上もイランと北朝鮮に経済制裁を続けて、両国の国力を疲弊させており、何だかんだといって「実戦前戦争」の段階で優位に立っている。
やはり、アメリカの長期的な視点と深慮遠謀もすごいものがある。
おまけに、少なくともイランに関しては核武装を阻止した。
そして日本の選択・・・中東にのこのこ出かけて死ぬ運命
イランがイスラエル向けの核ミサイルを開発することは断固阻止してきたが、北朝鮮が日本の向けのそれを開発することに関しては熱心に阻止しない・・・。
ま、これがアメリカの日本に対する偽らざる本音でしょう。
しかし、従米安倍政権はこの時期、中東への自衛隊の派遣を決定しました。
繰り返しますが、日本の安全保障政策が日米安保以外に選択肢を持ちえないのは、野党などがまったく非現実的な対案しか主張してこなかったことにも大きな責任があります。
今さら言っても遅いが、北朝鮮の水爆実験と中距離以上の弾道弾の開発は、我が国の核武装にとって格好の口実だった。「我が国が核武装せざるをえないのは全部北朝鮮と、無法者を放置した中露のせい」で、政治的にも国際社会に筋を押し通せていた。
しかも、核ミサイルの実装と維持は、年間1兆円程度と試算されており、経済的にも十分現実的な選択肢と考えられます。
むしろ、核ミサイルを持つことによって、北朝鮮・中国と軍事バランスを取ることができ、中国とのむやみな軍拡競争をやらなくてすむわけです。
実は戦争と軍拡の予防に現実的に有効な方法こそ「核武装」だったのです。
その絶好の「機」を逃したツケの大きさを、これから思い知ることになるだろう。
結局、アメリカに従う以外に身を守る術のない日本は、「国の生命線であるサウジの石油を守る」などの大義を掲げて、中東で戦わされる羽目になるのではないか。
これは自民党・野党・親米保守・左派・メディア・知識人など、全員の責任だ。
「トリプル(三つの)国難」が見えていて、本当に憂鬱だ。