近い将来、アメリカ合衆国の南部で・・・。
みなさん、こんにちわ。
トランプ氏の当選後、全米各地で暴動が発生していますが、ニュース映像を見て何か気づくことはありませんか? そう、やたらと上の旗を見かける(笑)。
と、このように、トランプ支持派は概して白人比率が高く、それに対して、アジア人やラテン人っぽいのが詰め寄り、やたらとhysってpanicっている光景が多い。
この、メキシコ国旗を堂々と振っている皆さんは「誰」なのか。
今現在、全米に6千万人いるとも言われるヒスパニック・ラテン系の人たちです。比率的には米国民のほとんど2割弱でしょうか。
トランプさんは「300万のメキシコ不法移民を追放するぜ」と吼えていますが、不法移民自体は1千万人以上だそうです。
むろん、反トランプ派の中には、黒人・アジア系・イスラム系も多い。ただ、今回はこのヒスパニック・ラテン系の動きに焦点を絞ってみたいと思います。
スペイン侵略以降の苦難の歴史
このような「大きな集団」の動きをよむ場合、やはり時代の流れも関係するので、それだけ時間的にも空間的にも大きな視点が必要になります。
まずは「メキシコとは何なのか?」という点からです。
本質を一言で表すならば「アステカ帝国の後継国家」ではないかと思います。ごく簡単に歴史を振り返ってみます。
メキシコの地には、先史時代からアステカ帝国へと至る膨大な歴史がありました。
ウィキペディア「メキシコ」は次のように記しています。
1519年にエルナン・コルテス率いるスペイン人が到来した時点で、アステカの支配は約20万平方キロメートルに及び首都テノチティトランの人口は数十万人に達し、当時、世界最大級の都市であった。中心部には神殿や宮殿が立ち並び市もたって大いに繁栄した。
これだけの人口を擁する都市を維持するほどの高度な文明だったんですね。
だが、エルナン・コルテスと500人の部隊は、うまくアステカ帝国の内部対立などを利用して、国王を殺し、王朝を滅ぼしてしまいます。そして、西洋の進んだ軍事力で人々を支配し、首都テノチティトランの上に今日のメキシコシティを築き上げていきます。
その後、スペインによる植民地支配は300年近くも続きました。アステカ人に酷い苦役を背負わせるなど、非常に奴隷制度色の強い統治だったといいます。しかも、西洋人が持ち込んだ疫病によって、多くの先住民が命を落としました。メキシコの鉱山で採掘される銀はスペインの歳入を支えました。過酷な苦役と疫病によって先住民の共同体が弱体化していく一方で、アフリカからは黒人奴隷も連行されてきました。
ただ、徐々にスペイン人と先住民との通婚も進み、メスティーソ(両者の混血)が増えていきます。また、クリオーリョ(現地で生まれ育ったスペイン人)たちの間では、本国からの独立の気運も高まります。この辺りの経緯は少しややこしいのですが、1808年のフランス軍のスペイン本国侵攻が契機になっています。ナポレオンが兄のジョゼフをスペイン王位に就けると、そこから植民市でもスペイン独立戦争が始まりました。
せっかく独立するも、「リメンバー・アラモ」のアメリカに侵略される
独立戦争は1810年から1821年まで続き、結果的にメキシコとして独立します。しかし、そこからまた混乱につぐ混乱で、そこを欧米列強につけ込まれました。
しかも、メキシコのすぐ北側には、同じように新興の独立国家がありました。アメリカ合衆国です。膨張するアメリカとメキシコとの衝突は時間の問題でした。
さて、アメリカがいかにしてメキシコから領土を奪ったか。前回の記事で、ホセ・エリソンドという架空の大統領の口を通してまとめました。
やや長めの記事なので、面倒な方は、「メキシコの復讐」という見出しのところだけ読めば、手っ取り早く大枠をつかめるかと思います。
カリフォルニア・ネバダ・ユタ・アリゾナ・ニューメキシコ・テキサスの6州は、もともとメキシコの領土だったんですね。つまり、当時のメキシコは、今のほとんど倍の大きさだったわけです。1830年代にアメリカ人(アングロサクソン)の入植を認めたことが間違いの元でした。彼らは反乱を起こし、勝手に“テキサス共和国”として独立します。しかも、すぐにアメリカ合衆国が併合。当然「アメリカ・メキシコ戦争」へと発展しますが、メキシコ軍は惨敗し、首都メキシコシティを占領されてしまいます。それで不利な条約を強要されて、テキサスからカリフォルニアまでをごっそりと奪われました。
ジョン・ウェインとメル・ギブソンに対する幻想
前回の記事でも触れましたが、この戦争の時のアメリカのスローガンが「リメンバー・アラモ」(笑)。汚いやり方で自分たちが侵略しておいて、もうアホかと・・。ジョン・ウェインは変に美化されていますが、彼が主演・監督として『アラモ』なる怪映画を制作し、侵略の史実を逆さまに描いたことは、歴史に対する犯罪です。
ちなみに、私が似た腐臭を感じたものに、マヤ文明を題材にしたメル・ギブソン監督の『アポカリプト』(Apocalypto:2006年)なる映画がありました。アステカのすぐ隣、中米のところにあったのがマヤ文明です。メル・ギブソンは、異文明に対するリスペクトのカケラもなく、マヤを未開・野蛮・残酷に描くことに腐心しました。しかも、マヤ人を、性的趣味に取り付かれた、ある種の変質者として描写しました。これは彼のような熱心なキリスト教徒がしばしば抱く未開人のステレオタイプ像の一つですが、実際にはキリスト教徒たちが自身の内部に抑圧した性的願望を外部に投影したものにすぎません。
最悪なのが、エンディングに暗示された政治的メッセージです。その“アブノーマルで狂ったマヤの社会”からの脱出者たちが、最後に行き着くところに、いかにも文明然としたスペイン人の上陸隊がいた、というオチでした。これを見たアホなクリスチャンは、「やれやれ、こんな野蛮な連中だから、滅ぼされても仕方がないな」と思うことでしょう。実際にそうやって彼らの罪悪感を低減することが狙いの一つだったようです。
ハリウッドは『アヴァター』のような素晴らしい映画を作る一方で、このようなあからさまなプロパガンダ映画も平気で作ります。あの『パール・ハーバー』も、日本の戦闘機が地上の民間人を機銃掃射するとか、無茶苦茶な歴史捏造をやっていましたね。あれは米軍の戦争犯罪なのに、日本軍の行為に摩り替えているわけです。
メキシコまたメキシコ人とは何か?
いずれにしても、メキシコという国が誕生してまもなく、アメリカに侵略されて、領土の半分を奪われました。これが近代メキシコの処女体験・原体験なわけです。
これが今日のメキシコ人にもトラウマとして残っているようです。そして、このことがメキシコ人としてのアイデンティティ形成にも一役買っている。
さて、キリスト教による「教化」によって、アステカ人はいったん固有の言語・文化・記憶の多くを失ってしまいました。しかし、元来、ラテン系の人々は、ゲルマン・アングロサクソンよりも、比較的混血をいとわず、現地に同化していく傾向があります。長い期間をへて、今ではメスティーソ(両者の混血)が約6割になりました。約25%の先住民とあわせれば、広義のアステカ系が圧倒的多数派です。文化的にも、先住民系とスペイン系のそれが融合しました。アステカ文化の再興・再評価も続いています。
おそらく、当初は、異文明を接木したために、人体でいえば免疫不全のような状態に陥ったと思います。そこから長い時間をかけて、その地の人々は、アステカ文明に根を持ちながらも、スペインにもまたルーツを持ち、両方の文化をうまく融合した独特の社会を作り上げることに成功しました。それが今日のメキシコです。
現在、メキシコの人口は約1億3千万人です。宗教はカトリックが8割以上。遺伝的にも文化的にもアステカ帝国とスペインの両方にルーツを持つ人々が主な国です。あらゆる面で北のアングロ・アメリカとは根本的に異質の存在、それがメキシコと言えます。
(2につづく)