新海誠監督の長編アニメ映画『君の名は。』が大ヒット快進撃中です。
今現在、国内興行収入が200億円を超え、ジブリの『ハウルの動く城』(同196億円)を抜き去り、なんと邦画作品としては歴代興収2位に躍り出ているとか!
しかも、アジアや欧米など、世界各国での上映も次々と決まるか、すでに上映開始しています。また、つい先頃、第42回ロサンゼルス映画批評家協会賞において、長編アニメーション賞を受賞したというニュースも飛び込んできました。
新海誠監督とスタッフ・関係者の皆様、本当におめでとうございます。
私もあの美しい映像が大好きです。これまでの新海さんの代表作といったら、やはり「秒速5センチメートル」かと。
さて、久しぶりにアニメ関係の話題が世間で大きく取り上げられたことで、かなり以前に書いたアニメ作品のレビューを思い起こしました。
以下は、『別冊宝島 このアニメがすごい! 985号』(2004年 宝島社)というムック本に掲載されもので、むかーし、私がサブカル系ライターをやっていた頃に書いた記事です。
同社の編集者から聞いた話ですが、「別冊宝島」の中でも、アニメ関係は結構売れ筋だったそうです。前半と後半に分けて紹介します。いずれもオススメです!
「獣兵衛忍風帖」(じゅうべえにんぷうちょう)
(以下レビュー)
「日本のジョン・カーペンター」。たまたま大手書店で立ち読みしたアメリカの雑誌で川尻監督のことがそんな風に紹介されているのを見て、興味をもった。絶賛に近い形で紹介されていたのが『ニンジャ・スクロール』なる作品。後で知ったが、全米で数十万本のビデオセールスを達成したのだとか。
だが、日本では不当に作品の知名度が低いのか、見つかったのはレンタルビデオ店の成人向けコーナーの片隅だった。いわば情報の逆輸入の形で知った作品だが、パッケージに描かれたくノ一陽炎の妖しい姿態に惹かれたこともあって、さっそく鑑賞開始。当初の、変な意味での期待(笑)はすぐに驚きへと変わった。これは単にエロスとバイオレンスだけの内容ではない! スピード感あふれるスタイリッシュな映像と、国家転覆という巨大な陰謀を背景にしたストーリー、そして何よりもひと癖もふた癖もある人間離れしたキャラクターたち…。す、凄すぎる!
物語は謎の疫病事件によって一つの村が全滅するところから始まる。これをきっかけに、孤高の雇われ忍者・牙神獣兵衛と地元望月藩のくノ一陽炎、そして公儀隠密の濁庵が出会う。それぞれ背負うものが異なる三人の行方に立ちはだかるのは、かつて獣兵衛と因縁のあった氷室弦馬率いる鬼門八人衆。盲目の剣豪一人を除いた残りは、もうほとんど妖怪人間状態(笑)。
敵味方が繰り広げる荒唐無稽な忍術合戦は、さしずめ忍者板『X-メン』といったところか(いや、影響を受けたのはきっと後者の方だろう)。しかも味方だけでなく敵側もまた内部に葛藤や愛憎劇を抱えており、アクションがない場面でも観る側を決して退屈させない。物語の佳境で姿を現す純で切ないラブシーンと、まるでランボーと化した獣兵衛・氷室弦馬の宿命の対決は、大げさではなくアニメ史に残る屈指の名場面だろう。
アメリカ人が絶賛し、ハリウッドの映画会社が実写化権を買い取ったのも頷ける。
(2016年付記:1993年に公開された川尻善昭監督原作・脚本の作品ですが、日本ではほとんど話題になりませんでした。しかし、本文中でも述べたように、北米で『Ninja Scroll』という題名でビデオ化されると、大きな話題になりました。当時、エロ・グロが登場する大人向きの本格アクションのアニメなんて、欧米ではなかったんですね。おそらく、作家の故・山田風太郎氏の「忍法帖シリーズ」の影響を受けていると思います。その中の『甲賀忍法帖』を原作としてGONZOがアニメ化したものに『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』がありますが、これも忍者合戦を描いています。ちなみにですが、2003年から『龍宝玉篇』なる『獣兵衛忍風帖』のTVシリーズが放映されましたが、映画版と比べると大幅にクオリティが落ちます。最初見た時、ギャグかと思いました。)
「バンパイアハンターD」
(以下レビュー)
大金目当てに、資産家の娘シャーロットを連れ去った貴族のマイエル・リンクの馬車を追跡していたハンターのマーカス兄弟が、遭遇した全身黒ずくめの男に問う。「あんたの名を聞かせてくれ」。男は青白い月をバックにたった一言、自己紹介する。「D」と。
こんな超クールな主人公が、悪に支配された闇の世界で緊迫感あふれるアクションを繰り広げる。ハンターも敵側も実に個性的。各人が持つ独創的な戦闘技が、シャープな映像で描かれるのが魅力だ。それに荘厳の域に達した美術も大きな見所の一つ。暗いヨーロッパ風の街並み、照りつける砂漠と乾いた西部の街、燃えるような夕闇の光景、所々に垣間見えるSF的な遺構…。まるで絵画のように美しい映像だ。とくに山間部にそそり立つ巨大な城は圧巻。闇の雰囲気が漂い、内部の装飾過剰は退廃的ですらある。
映像の緻密さと美しさは、二次元アニメとしては技術的にも頂点に達している。
むろん、ストーリーだって負けていない。Dの涼しい目と端正な横顔の裏には、格好いいだけではない、宿命に生きる男の哀しさがうまく隠れている。っそいて印象的なのが彼の純粋な微笑と優しさだ。翳りのある寡黙なDとおしゃべりな彼の掌の寄生生物というコンビも絶妙。
また、貴族と人間という立場を超えたマイエル・リンクとシャーロットの純愛は美しく、胸を締め付けられる。その愛する二人を見て、マーカス兄弟の一人レイラ――バンパイアによって両親を失い、その復讐のためにハンターとなった――の心境に訪れる変化も見逃せない(もっとも、なぜ二人がそこまで愛し合うようになったか、という理由が説明不足。物語のキーなだけに、原作の未読者に不親切で、純粋にストーリーの技術的な問題として気になった)。果たしてレイラは憎しみの心を捨てられるのか。本作品は川尻善昭監督以下、日本人クリエイターたちの世界の頂点に立つ仕事の結実に他ならない。
(2016年付記:これは菊地秀行氏の原作小説をもとに、やはり川尻善昭監督が制作したもので、1999年末から『Vampire Hunter D: Bloodlust』としてアメリカで先行公開されました。これは先の『Ninja Scroll』の成功を受けてのことです。だから、むしろ日本語版のほうが“吹き替え”かもしれませんね。ちなみに、吸血鬼ハンターDシリーズは、1985年に第一作がOVA化されています。物語の舞台は「貴族=バンパイア」が人類の支配者として君臨している遠い未来ですが、本文中でも述べましたが、原作を知らないままこの映画を見た人には、何のことだか分からない部分もあります。なんで貴族と人間との間で壮絶な死闘が繰り広げられているのか、私も当初は分かりませんでした。ただ、それを差し引いても、川尻監督の素晴らしい作品である事実には変わりありません。)