さて、むかーし、『別冊宝島 このアニメがすごい! 985号』(2004年 宝島社)というムック本に掲載したアニメレビューの後半です。
『青の6号』
(以下レビュー)
全編に渡る海洋での戦闘シーンは瞬きするのも惜しまれるほどのド迫力。洋画も含めた全ビジュアル作品でも屈指の完成度に違いない。何かと既出感に萎えることも多いSFアニメのメカ類と戦闘シーンだが、『青6』は斬新なデザインと3DCGの駆使によって久しぶりに新境地を切り開いた作品といえる。
それにキャラデザインも嬉しい。ふっくらとした頬の質感と丸顔が特徴的なデザインは、村田蓮爾氏によるもの。漫画誌『快楽天』の表紙を長く担当していたなどマルチな活躍で、ご存知かもしれない。主人公の一人・紀之真弓のぴっちりしたダイビング・スーツの胸元チラリには思わず目も釘付け。ただし、半ばディズニーの風の獣人=敵キャラ(デザインは別担当)の姿に、個人的にはやや齟齬も感じたが。
それにストーリーの重厚さが、卓越したアクションと動く村田キャラ初見参といった話題性十分の要素に決して引けを取らない点も見逃せない。おそらく大きなテーマは共生の思想であり、それを実行できない人間の業だろう。
紀之と並ぶ主人公の速水鉄は、仲間を失った過去もあって厭世的な態度を隠さないが、一方で人類10億人を死なせたマッドサイエンティストのゾーンダイクと人類を「しょせん同じ穴のムジナ」と呼んでみせるなど、二元対立を超克した視点の持ち主として描かれている。
人類の生存を賭けた戦いにイケイケの周囲をよそに、キーマンの彼はひとりゾーンダイクと会って真意を確かめ、両勢力の橋渡しを務めようとする。彼に助けられたことで同じく異端者になる敵の水生生物ミューティオや、理解者である親父風情の艦長、そして獣人へと遺伝子改造された親友とのやり取りは、物語を見事に構造化する役割を果たしており、見逃せない。
ゾーンダイクの台詞が意図的に聴き辛くしてあることもあって、全体として説明不足の感も否めない。言ってもせんないことだが、物語がもっと長ければよかったのに。
(2016年付記:原作は1967年に「週刊少年サンデー」で連載されていた小澤さとる氏のマンガです。GONZO制作で1998年からOVA化されました。バンダイチャンネルが1話まるごと公開していますので、それを貼り付けました。アニメの内容は上のようなものですが、もともとの原作は、今思えば、すごく時代を先取りしています。
以下、ウィキペディア『青の6号』より引用します。
第2次世界大戦後二十数年を経て、潜水艦による海中航路が発達した世界を舞台に、海中航路の安全を守る国際組織「青」所属の潜水艦「青の6号」と、国際テロ組織「マックス」との攻防を描く。世界中に拠点を持つ国際テロ組織。世界経済に影響を与えるほどの資金力を持ち、国土を持たない「散在国家」としての承認を各国政府に要求している。その一方、「首都」となる本拠地を太平洋の某所に建設しつつあり、太平洋における覇権を握るべく各国海軍に対してテロを続けている。首領は一つ目の覆面で顔を隠した人物で、その正体は最後まで不明のままであった。
作品が古すぎて私も原作は未読なんですが、なんかとても面白そうですね。第二次大戦から二十数年後の未来として早すぎますが、2020年代くらいでしたら、ありそうな話です。SFのクリエイターはしばしば時代を先取りしますね。
実は、手前ミソですが、私も、さる文学賞の最終候補まで行った作品の中で、インドネシアの島々を買い取って超国家的なインテリジェント自由都市を運営している「ポセイドン社」なる企業帝国を登場させたことがあります。作中では、同社は「九九九種類に及ぶ多種多様な仮想現実の提供とマシンの販売・レンタルなどの事業によって、年間に百数十兆円という空前の売上高を計上している」と説明しています。2006年の時です。
どうです、こちらはテロ組織ではなく、大企業ですが、なんかありそうな話でしょ。実は、シリーズ化したら、同社と主権国家との戦い、とくに太平洋での熾烈な海中戦争を描くつもりだったのですが、幻に終わりました。しくしく・・・)
「パーフェクトブルー」
(以下レビュー)
冷酷な資本主義の下で単なる「商品」として創られた「偶像」に憑かれた人間たちの病理をうまく描いている。アイドル時代の自分と堕ちてしまった現実の自分との間で次第に引き裂かれ始める霧越未麻や、そんな彼女に己のかつての夢を重ねるマネージャーの中年女性ルミ、あるいは「アイドルの未麻」を偏執的に愛するあまり、その偶像を守ろうとする狂信的な追っかけの若者などは、たしかに実在感がある。現代社会のいびつな面を下敷きにした物語は、華やかな芸能界の裏事情を抉り出す一方、どこか物悲しくもある。
見どころは、徐々に精神的に追い詰められていく彼女が、同じ時期に女優として劇中劇『ダブル・バインド』で多重人格女性を演じていることもあり、次第に己の深層心理を映し出す「もう一人の自分」の登場という幻覚に度々襲われ始め、現実と虚構の区別がつかなくなっていく過程だろう。実に見事な演出だ。たしかに「サイコスリラー」と称されるように、劇中劇をうまく活用したフェイク・シーンが多用され、見る方も未麻の心理同様、平衡感覚を失う。
しかし、迷宮に誘われ、夢と現実の狭間で翻弄される快感だけが持ち味ではない。物語の骨格自体は実にしっかりとしており、最後にはきっちりと謎も解明され、着地したという安心感を失わない。つまり、巧みに計算された一級のミステリーにも仕上がっている。
今敏監督は今一番「買い」の映像作家だろう。誇張ではなく、宮崎駿とは異質のファンタジーを創造することによって、彼の後継者と目される人になると思う。周知の通り、黒人とつり目の北東アジア人が登場しない点が宮崎ファンタジーの限界である(宮崎キャラは欧米ではよく「ユーロピアン・ルッキング」と評される。しかし、今敏はかつて酒見賢一が『後宮小説』で、また鈴木光司が『楽園』でカラードのファンタジーを描いてみせたように、われわれの世界に真に根ざした物語を違和感なく創造できる人だ。
(2016年付記:今敏さんは2010年8月にガンで亡くなられました。前半では、冒頭で『君の名は。』の新海誠監督について触れましたが、私は将来、日本と世界のアニメ界を背負って立つのは新海誠さんと並んで今敏さんだと確信していたので、本当に残念でなりません。この場を借りて、心よりご冥福をお祈りしたいと思います。
ところで、今敏監督は上の「パーフェクトブルー」で一躍脚光を浴びた方ですが、マイベストはやはり『千年女優』ですね。これはかのスピルバーグも大絶賛だったそうです。というわけで、アイキャッチ画像は、レビューしたわけでもないのに、同作品の絵を使わせていただきました(笑)。締めはやはり一番のオススメにしたいです)
アニメ映画『千年女優/Millennium Actress』を是非ご覧あれ!