さて、アメリカが北朝鮮に対して「核・ミサイル開発を放棄しろ」と要求を突きつけていることは散々述べましたが、気になるのは、この要求が中国を通して4月の前半に伝達されていたとしたら、その後に相次いだ韓国系アメリカ人の拘束は、もしかすると北朝鮮なりの回答なのかもしれない、ということ。
たしか、ここ最近、3人ほど逮捕されて、抑留者は計4人になったはず。これは露骨な人質であり、アメリカとの交渉材料でしょう。
そういえば、韓国の朴クネ政権も、産経新聞の加藤達也・元ソウル支局長を“名誉毀損”なる言いがかりで逮捕し、対日交渉を有利に謀ろうとしたくらいですから、こういう人質をとる汚いやり方は、南北に共通しているのかもしれない。
問題は、これが「アメリカの要求を呑むつもりはない」という北朝鮮の意志表示だとしたらどうか、ということ。わざわざ相手を挑発しているとも言えるから、これは「徹底抗戦」の意志表示とも取れなくはない。
さて、そんな中にあって、5月8日と9日、ノルウェーのオスロで、米朝非公式協議が行われました。報道によると、北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソンヒ)北米局長と、米のピカリング元国連大使らとの会談です。
このピカリング(Thomas R. Pickering)という人物について英語版ウィキペディアを見てみました。一言でいうと、確かに大物ですが、現役には遠い。
レーガン政権とブッシュシニア政権時代にまたがって国連大使を務めた人物です。2001年に政界を引退してからは、よくあるように、様々な団体(企業や非営利団体など)の幹部や名誉ポストに就いています。今年85歳ですから、言っちゃなんですが、タフな交渉ができるとは思えない。
対して、崔善姫(チェ・ソンヒ)北米局長は、通訳時代からずっと対米交渉に従事してきたエキスパートであり、今は金正恩直下と言われている。
現役バリバリの相手に対して、これだけ現役から遠い人間をよこすということは、どうやらアメリカ的には、まともにネゴシエイトする気はないようです。ローマ法王のいらぬお節介に対して適当に応えただけなのかもしれません。
アメリカと北朝鮮の対話のチャンネルはまだ続いている
ところで、5月11日、米朝非公式協議後、北京空港に戻った崔善姫(チェ・ソンヒ)北米局長が日本のテレビ局の突撃取材に応じる一幕がありました。
Q:今後もアメリカ側と協議?
A:今後もチャンスがあれば話し合っていく
Q:対話する準備は?
A:条件が整えばトランプ政権とも対話しようと思う
Q:核は放棄するのか?
A:(返事なし)
どうやら、何らかの成果はあったようです。私が引っかかったのが、協議後の、この崔氏の表情です。いったい、この笑顔は何なのか?
(出典:http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000100566.html)
しかも、部下と思われる左の男性まで晴れやかな表情です。何か北朝鮮にとって具体的な成果がないと、こういう表情にはならないでしょう、普通は。
崔善姫(チェ・ソンヒ)女史は事実上、三代目ボンボンの代理人です。まだこの人を通して、辛うじてアメリカと北朝鮮の対話のチャンネルが維持されているようです。前回言ったように、北朝鮮は、騙すつもりで電撃的に核・ミサイルの放棄に応じるかもしれません。そういう時間稼ぎ戦術は彼らの得意であり、これまでの成功体験です。
たぶん「条件が整う」というのは、そういう意味で言っていると思う
私個人としても、そうしてほしい。とりあえず、そうやって、いったん地域における(核)戦争を回避することを優先すべきです。その上で、北朝鮮が今回も国際社会を騙す腹積もりであることをきっちり見抜いて、部分的に国を明け渡したことを利用して、内側から何らかの体制転覆を仕掛けていけばいいのではないか。あまりに希望的観測かもしれませんが、それが犠牲を最小限に抑えるための最良の選択だと思います。
金正恩が最期に「うわーっ、騙すつもりが騙されたあ、やはりあの時戦っておくべきだったあ」と断末魔の叫び声を挙げる・・それが理想的なやり方です。
今の国際社会のリーダーに大阪冬の陣で豊臣側に外堀を埋めさせたような策士がいないことが残念です。北朝鮮を追い込んで暴発させるやり方は、米軍産複合体的には万々歳でしょうが、日本からしたら下の策ということをきっと後で痛感するでしょう。
(*それにしても、このチェ女史の会見場面を何度かニュースや動画で見たことがありますが、核保有を正当化していたり、アメリカを批判していたりと、実に堂々と自国の立場を代弁している。残念ながら、稲田朋美氏では足元にも及ばない。こんなふうに全身で国家を背負える外交官にしろ、女性政治家にしろ、今の日本では全然見当たらなくなりました。辻元清美みたいな反対の人材ならいっぱいいますけど・笑)