当記事は、前回の「アメリカは最初から“外交的解決”なんかする気はない」と密接に関係しています。
多くの人が公式声明とか公式発表の類いに騙されている。
左派・リベラル派などは、日本政府のそれは疑ってかかるくせに、米政府が北朝鮮に「対話」を呼びかけると、「ほら見ろ、アメリカは戦争する意志はない」などと信じて、「右派は危機を煽り立てるな」などと言う。自分の願望と分析とは分けるべきだ。
それは全然“取引”になってない
最近、米政府は次のような欺瞞に満ちた声明を出した。
米国は北朝鮮との対話に関心、可否は金正恩氏次第=国務長官 2017年 08月 16日
(https://jp.reuters.com/article/northkorea-missiles-idJPKCN1AW042?il=0)
米国のティラーソン国務長官は15日、北朝鮮との対話について、(略)「われわれは引き続き、対話への道を探ることに関心を持っているが、これは金氏次第だ」と話した。
国務省のヘザー・ナウアート報道官は、北朝鮮がグアムへのミサイル発射を遅らせる可能性を示唆しただけでは十分でなく、「朝鮮半島の非核化を進める意志」を示すことが必要だと主張。「北朝鮮にはもっと多くが求められる」とし、「米国との交渉のテーブルに着くには、何をすべきか知っているはずだ」と述べた。
要するに、北朝鮮は非核化を決断せよ、そう信じられるだけの根拠を示せ、そうしたら米国と対話できる資格が生じる、というふうに言っている。
しかし、これが本当に「外交」なのだろうか。
私は北朝鮮がどうなろうが知ったことではないし、別にかばう意図はないが、このような条件が「対話への道」に繋がるのかというと、疑問であるのも確かだ。
北朝鮮はそれこそ30年にわたり国家の総力を挙げて核・ミサイルを開発してきた。その結果、軍内部には巨大な核・ロケット開発部門が築かれている。
だから、北朝鮮の視点でいえば、「非核化しろ」というなら「それまでの膨大な労力とコストの対価として1千億ドルは補償せよ」という話になる。
この金額はあくまで「仮に」の話だが、要は、これは、非核化の見返りとして10兆円くらいを援助すると提示して、はじめて成立する取引である。
しかし、日米韓も、国際社会も、そんな大盤振る舞いをするつもりはない。援助するとしても、せいぜい1兆か2兆円程度が精一杯。
いや、世論を考えれば、日本はそれすら政治的に不可能である。
つまり、これは最初から成立するはずのないディールなのである。
北朝鮮の非核化とその検証は現実的には無理
1994年、北朝鮮が核開発を断念する見返りとして、軽水炉・重油供与などのエネルギー支援を与えるとする「米朝枠組み合意」が成立したが、核開発施設への査察を厳密に実施しなかったため、秘密裏の核開発を許してしまった苦い経験がある。
仮に非核化をやることが決まったとしても、今度はぬるい検証はできない。どういうふうにならざるを得ないかというと、以前の記事でこう述べた。
北朝鮮の立場からすると、核・ミサイル開発を放棄したことを行動で示すのは至難の技だ。というのも、北朝鮮は何十キロという長大な地下トンネルや地下施設に、核・ミサイル関連の工場や研究所、部品・製品などを隠している。よって、開発放棄を証明するためには、それらのすべてに査察官が自由に立ち入り検査できるよう、認めなければならない。朝鮮人民軍からしたら、あらゆる軍事機密が筒抜けになるのと同じだ。
平たくいえば、これは「全面的に国を明け渡す」ということに等しい。どれだけ金正恩が独裁者だろうが、対国内での政治的立場というものがある。今まで散々、核・ミサイルの開発の成功を国威発揚に利用し、人民の対米敵愾心を煽ってきた。いかに独裁者とはいえ、米国に全面服従する真似をして、対内的な権力が保てようか。
しかも、そうまでしても安泰という保証はない。
アメリカによる2003年の対イラク戦争に度肝を抜かれたリビアのカダフィは、率先して核開発を放棄した。そして、「北朝鮮とイランもわれわれに続くべきだ」などと言っていた。だが、「丸裸」になった後に、リビアとカダフィがどうなったか?
金正恩にしてみれば、非核化したところで、
- 10兆円を貰えるわけではない
- 査察のために国を全面的に明け渡さなければならない
- それでいて、あとで殺されるかもしれない
ということになる。
仮に数兆円くらい貰えることになっても、国際調査団があらゆる秘密の施設に立ち入りできるように配慮せねばならない。そんなことが、現実にできるわけがない。
つまり、最初から無理難題を吹っかけているだけとも考えられる。
言ったように、アメリカは北朝鮮に対してかつての日本帝国の姿を重ね合わせている可能性があるというのが、私の説。
彼らは日米戦の前に、日本を無意味な外交交渉に引きずり回した挙句、「全中国から撤退せよ」という、常識的にもありえない無茶な要求を突きつけてきた。
日本の中国権益は1894年の日清戦争の頃から発生している。それで私たちの祖父の世代は「アメリカに目にもの見せてやる」というふうに開戦を決意した。
だから、今回のケースは、ハルノートに似ている面がある。「非核化するなら対話に応じる」などというのは、政治的な欺瞞の類いであると考えざるをえない。
つまり、最初から開戦するシナリオになっているということ。
だから、その前に、北朝鮮が自壊するか、中国がクーデターを扇動するか、自殺覚悟でカダフィのように大量破壊兵器の開発放棄・全面降伏するかしないと、第二次朝鮮戦争は起こるというふうに私は言っている。しかも、それは核戦争になる。
どうやら北朝鮮への石油禁輸措置が近い
さて、前回、石油禁輸の話をしたが、近々、それが行われる可能性があるようだ。
米、国連の対北朝鮮追加制裁に石油供給停止含める可能性=外交筋 2017年 08月 15日
(https://jp.reuters.com/article/northkorea-missiles-un-idJPKCN1AV01J)
[国連 14日 ロイター]米国は国連の対北朝鮮制裁の強化を提案するにあたり、北朝鮮からの繊維輸出の禁止、同国政府や軍への石油供給の停止を盛り込む可能性が高い。複数の外交官が明らかにした。
米外交筋からの情報ということだ。ロイターはロスチャイルド直結。
7月下旬の北朝鮮のICBM発射を受けて、それまで「THAADの配備に至った真相を追究せよ」などと命じていた文大統領が、180度ターンして「残りのTHAAD発射台4基の追加配備を急ぐよう指示」した。
一方、つい先日、日本の防衛省は、陸上タイプのイージス・システムである「イージス・アショア」の導入を決めた。来年度の防衛予算の概算要求に盛り込まれる予定。
アメリカ的には、日韓への武器セールスがうまく行った。
セールスのほうはとりあえず区切りがついた。
あとは本当に、北朝鮮への石油輸出を禁止して、最初の一発を殴らせるだけだ。