さて、前回(上)に引き続いて、今回も山口二郎法政大教授の「正しい危機感とは何か」という記事に突っ込みたい。教授の記事の後半はさらに酷くなる。
山口氏の記事を続けよう(*傍線筆者)。
[寄稿]正しい危機感とは何か
(出典:http://japan.hani.co.kr/arti/opinion/28364.html)
(略)万一日本を狙った攻撃であるならば、北朝鮮からのミサイルは数分で着弾するのであり、警報が鳴ってから逃げたのでは間に合わない。また、数分のうちに地下室、地下街に身を隠すことのできる人はほとんどいない。つまり、ミサイル警報は本当の攻撃に備えるものではない。(略)
さらなるダウトというか、ここが一番の問題点だ。
北朝鮮から発射された弾道ミサイルがて日本に着弾するまでの時間はおよそ9~10分。
今回のように発射4~5分のところで「Jアラート」を流したとすれば、われわれが避難に動ける時間は、ざっと3~4分といったところである。
山口氏は「警報が鳴ってから逃げたのでは間に合わない」と決め付けているが、本当にそうだろうか。3~4分あれば、人はかなりの移動・行動ができるはずである。
たしかに、直ちに「地下室や地下街に身を隠せる人」は少数派だろう。しかし、地下施設が見当たらなければ、コンクリート製の構造物を探せばよい。
日本人の8割は都市部に住んでいる。北朝鮮も狙うとしたら都市部だろう。屋外にいる人ならば、3~4分の間にたいてい何らかのコンクリート製の構造物を発見できるはずだ。その中に入れば、ミサイルの爆発爆風からかなり身を守れるのではないだろうか。
一般論だが、どこかの教授のご高説よりも、その辺にある公衆便所のほうがまだ役に立つかもしれない。なお、すでに屋内にいる人は一番奥まった場所を探せばよい。
この辺のところは、以前の記事(下)で述べたことと一部重複している。
とりわけ核ミサイル攻撃だったりすると、野外に突っ立っている人は、一瞬にして熱線で焼かれかねない。また、直後に凄まじい爆風も発生する。
だから冗談ではなく、公園で遊んでいる子供たちは直ちに公衆便所の中に隠れるべきなのだ。その一瞬の決断と避難行動が生死を分けると言ってもよい。
日本政府が実施している避難訓練は本当に馬鹿げているのだろうか?
しかし、そのようなとっさの行動様式は、訓練によってしか身につけられないこともまた事実である。そして、それを馬鹿馬鹿しいと切り捨てるのが山口氏だ。
日本国内では「避難訓練」が各地で行われた。避難といっても、警報を聞いた人々が頭を抱えてしゃがみ込むという程度のことである。ばかばかしいとしか言いようがない光景である。(略)頭を抱えてしゃがみ込めばミサイルの破壊力から守られると宣伝する政府は、太平洋戦争を戦った大日本帝国から何も進歩していない。要するに、日本の政府はミサイルから国民の生命を守ることについて真剣に考えているとは言えない。北朝鮮のミサイルの恐怖を煽ることは、政府に従順な国民を作るためと思われる。(略)
今の日本にとって必要なことは、いたずらに脅威を煽ることではない。朝鮮戦争以来半世紀以上北の脅威と向き合ってきた韓国の人々に、正しい危機感とは何か、教えを乞うことだと思う。
これに関しては、山口氏だけでなく、類似のことを言う人が少なくない。
たとえば、室井佑月氏も「トンデモ」などと嘲笑している。
だが、「頭を抱えてしゃがみ込む」のは本当に「ばかばかしい」のだろうか。
実はこれに関して、ブロガーの「dragoner」氏がイスラエル国防軍の避難マニュアルを引用されていた。これは私も知らなかったので、とても参考になった。
以下はそのサイトからお借りしたものだ。
見ての通り、ガザ地区やレバノンからのロケット弾攻撃を想定している。発射から市民がシェルターを見つけるまでの猶予は、国土の大半で90秒以内だ。
これに比べると、「Jアラート」を耳にしてから3~4分の猶予が与えられているわれわれは、まだ恵まれているほうなのかもしれない。その代わり、弾道ミサイルはロケット弾よりもはるかに威力が強いし、場合によっては核爆弾にもなりうる。
15秒や30秒以内だと、近くに適切な避難場所を見つけることも難しいかもしれない。ない場合は、とっさに伏せるしかない。こんなふうに。
上のアイキャッチ画像は、花嫁さんでしょうか?
私たちもやはり、頑丈な建物内に避難できても、できなくとも、同じ様に頭を抱えてしゃがんだり伏せたりしたほうがよいのではないだろうか。
これを山口教授は「ばかばかしい光景」とわらう。教授の論理だと、イスラエル国防軍は戦前の日本帝国レベルの馬鹿で、国民の生命を守ることについて真剣に考えておらず、目的はあくまで「政府に従順な国民を作るため」ということになる。
ちなみに、ガザからロケット弾が撃ち込まれるのは、イスラエルの過酷な異民族統治政策が原因ではないかと訝る人もいよう。私もそう思っている。
しかし、そのような政治次元の問題と、緊急時における技術的な対応策の是非は、分けて考える必要がある。日本の現状に当てはめるなら、たとえ安倍外交が間違っているとしても、避難法までが間違っていることにはならない、ということだ。
韓国に教えを乞うとはこういうことだ
さて、山口氏は、以上のように日本政府の対応を何から何まで非難しながら、「では具体的にどうしたらよいか?」という自分のアイデアは何も言わない。
その代わり、彼は「正しい危機感とは何か、韓国人に教えを乞え」などと訴える。
「は?」である。先ごろ、韓国は空襲警報をソウルの中心部で流して地下街への避難訓練を行った。また、戦車を街に繰り出しての軍事訓練も行っている。
下の韓国軍作成の動画などは、「こちらから打って出るぞ」という意志表示ですらある。
(韓国軍が「平壌攻撃」映像を公開)
山口氏によると、韓国人は「正しい危機感」の持ち主だそうだから、以上の対応策もまた正しく、日本が学ばなければならない、という理屈になる。
だが、仮に安倍政権がこのような韓国の対応策を真似たら、普段の山口先生の政治信条からすると、総理を百回くらい叩き斬らねば辻褄が合わなくなるのでは?
百歩譲って、山口氏の主張が事実関係の点で間違っているのは仕方がないとしても、自己矛盾しているようでは、最初から議論以前のような気もするのだが・・。
そろそろ、日本・韓国・イスラエルだけでなく、アメリカのグアムや西海岸でも、ミサイル攻撃からの避難法は、どこも似たり寄ったりだと知ってもいい頃だ。
そうすると、ズレているのは、それを指して「ばかばかしい光景」などと嘲笑している自分たちのほうだと気づくはずだ。
もっとも、「ハンギョレ新聞」などという独裁政権の御用ジャーナリズムの記事に対して、真面目に突っ込む私のほうが野暮なだけかもしれないが・・。
山口二郎氏他は元空将の記事を読むべし
さて、「Jアラート」発令にイチャモンをつけているのは何も山口氏だけではない。
私はあくまで山口氏の主張に対してモノ申したわけだが、同様のことを言う政治家やテレビのコメンテーターは掃いて捨てるほど現れている。
彼らがいかにナンセンスの塊か。幸い、元空将の織田邦男氏が一刀両断されている。全文はぜひともリンク先で読んでいただきたい。
著作権上、ここでは一部だけ引用させていただきます。
ミサイル発射、Jアラートで嘘八百を垂れ流したテレビ~日本に求められる普通の安全保障リテラシー~ – 織田邦男
(出典:http://blogos.com/article/244163/)
(前略・ミサイル発射を伝えるワイドショーは)国民をミスリードする酷い内容が多かった。そもそも基礎的知識に欠けており、「ピント外れ」を通り越し、誤った知識をお茶の間に垂れ流していた。(略)
高名なコリア・ウオッチャー曰く、「破壊措置命令が出ていないのに、Jアラートを出すというのは納得いきません」と。これに対し、スタジオの雰囲気は「そうですよね・・・」と一挙に政府批判の様相に転じた。政府批判は自由だが、正しい事実に基づいてなければ、ただのアジテーションに過ぎない。(略)
「破壊措置命令」は稲田朋美防衛大臣の時からとっくに出されていた。だからこそ、イージス艦も日本海で警戒監視を続けており、PAC3も中国、四国地方に展開しているのだ。加えて「破壊措置命令」と「Jアラート」は全く関連性がない。
次のようなことを真顔で述べるコメンテーターもいた。「今回、自衛隊は『破壊措置』が実施できなかった。だから日本のミサイル防衛システムは役に立たない」と。
「破壊措置命令」が出ているからと言って、「破壊措置」をするとは限らない。(略)ミサイルの着弾地が不明な場合や、明らかに着弾地点が太平洋と分っているミサイルは現行法制上も破壊措置はとれない。(略)
「Jアラート」についても、随分いい加減なコメントが流されていた。(略)
「警報が出されてから、ミサイルが飛んでくるまでに数分しかないから意味がない」「地下や頑丈な建物の中に避難しろといっても、近くに無い場合はどうするのか」「避難出来るような場所なんて、ほとんど無いし、Jアラートなんて意味はない」等々。
「Jアラート」は全国瞬時警報システムであり、対処に時間的余裕がない大規模な自然災害や弾道ミサイル攻撃等についての情報を、国から住民まで直接瞬時に伝達するシステムである。(略)ミサイルが頭上に到達するまで数分しかないのは事実である。また田舎では、近くに「地下や頑丈な建物」など無い方が普通だろう。だからと言って「Jアラート」など意味はないかというとそうではない。
今、自分が置かれた環境の中で、数分間という時間があれば何ができるか。ミサイル脅威に対しては、数分間という時間内で、自らを守るための最適の行動をとることが求められる。まさに危機管理そのものである。その行動を促すスターターが「Jアラート」なのである。
危機管理にベストはない。あれもない、これもないという環境下で、最悪事態(核ミサイルの着弾等)を想定し、工夫をしながら被害の最小限化を図る。自分を守るのは自分であり、誰にも頼ることはできない。(略)数分の間でできることをやって自分自身を守れということであり、個人の危機管理そのものなのである。(略)
誰が訂正するわけでもなく、誰も正確に解説できないため、テレビでのこのコメントがあたかも真実のように定着しかねない。テレビしか情報源を持たない主婦や老人などは、「そうだな」と信じても不思議ではない。(略)
ミサイル発射を探知し、概ねの方向性が分かった時点で、とりあえず関連地域に「Jアラート」を流すというのは、危機管理上も合理的であり正しい。(略)
民進党の有力幹部がツイッターで次のように堂々と主張していたのには驚いた。「ミサイルの追跡が完璧だったなら日本を狙ったものでもなく、ブースターの落下も100キロ以内というなら日本には無いという事も分かっていたのでは? 警戒警報乱発は『狼少年現象』を起こし却って危険では」と。(略)誤認識の誹りは免れない。
繰り返すが日本を狙ったものだと分かる時点は、ブースト・フェーズ終了後である。その時点で「警戒警報」を流しても、また「ブースターの落下」が日本国内と分かった時点で「警戒警報」を流しても、国民は最早対処行動をとる時間的余裕はない。(略)国会議員の安全保障リテラシーがこの程度であることに背筋が寒くなる思いだ。(略)
危機管理で最も大切なことは危機の到来を、できるだけ早く関係者に周知徹底することだ。特に時間的余裕が制約されるミサイル防衛ではそうだ。(後略)
いかがだろうか。私は、織田氏のおっしゃることは、もっともだと思う。
政治家やテレビのコメンテーターは、何十何百万という人々に影響を与える存在だ。あまりに自身の責任について無自覚で、不勉強すぎやしないだろうか。
屋外にいる時に「Jアラート」が鳴り響いたら、素早く避難できる頑強な構造物を探す、なければ物陰に隠れたり、伏せて頭を抱えたりする・・これは極めて妥当かつ合理的な対策である。山口二郎氏や室井佑月氏、また朝日新聞の社員などが壁のシミになるのは勝手だが、その他大勢の人に誤った情報を流すことだけは止めてもらいたいものだ。
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こういう教授が授業をもつと、純真な学生は簡単に感化され、思考停止に陥る。教授の言うことを聞かなければ単位がもらえない。簡単に編入学できない日本の大学、企業の転職のように辞めればいいとはならないので、個人の活動と、大学の講義は、きちんと線引きしなくてはいけないし、できないなら大学を辞めるべきだと思う。