昨年の衆議院選挙中、安倍総理は川崎市の向ヶ丘遊園で遊説を行った(*)。
その際、安倍総理は詰め掛けた聴衆に対してこう言い放った。
「彼らの政策を変えさせる、そのための圧力であります。北朝鮮から『政策を変えるから話し合いをしましょう』と、そういわせる状況を作っていかねばなりません。私たちはブレてはなりません、北朝鮮の脅しに屈してはならないのです。」
安倍総理が何を狙っていたか、よく分かる言葉である。
そのため、昨年、日米が主導して、国連安保理で、北朝鮮の輸出収入の9割を断つ「9・11制裁決議」などを採択した。日米はその他にも独自に制裁を行い続けた。
こうした“最大限の圧力”をかけ続けた結果、どうなったか。
上の安倍総理の言葉通り、北朝鮮のほうから「非核化してもよい」と言い始めた。金正恩のほうから米朝首脳会談を提唱し、対話のテーブルにつくと言い始めた。
まさに安倍総理の思惑通りである。
もっとも、以前に指摘したように、両者の意思伝達の間に韓国が挟まったことで、「非核化してもよい」が「非核化を約束した」というふうに誇張され、トランプ大統領がそれを信じ込まされて自身の外交的勝利というふうに誤認している可能性がある。
ただ、それを差し引いても、とりあえず安倍総理の「圧力一辺倒外交」が功を奏した、それで正しかった、と見なしてもよいのではないだろうか。
(*)2017年10月5日
安倍総理の対北外交が正解だった
そういえば、安倍総理の対北外交に関して、私は以前にこんな事を書いた。
(前略)「最善の策」ではないかと私がやや感心しているのが、実は安倍総理の対北外交である。なぜか?
安倍総理は北朝鮮に対して「最大限の圧力をかけ続ける」という、戦争でもなければ対話でもない「第三の道」を選んでいるからだ。
上で述べたように、私は戦争には反対だし、かとって安易な対話にも反対だ。そもそも1994年の米朝枠組み合意以降、ずっと北と対話してきて、失敗だった。
だから、対話、対話と、何とかの一つ覚えみたいに叫んでいる者たちは、自分が平和主義者のつもりなのかもしれないが、実際にはただの無責任人間でしかない。
対して、安倍総理は、北朝鮮との対話が無駄に終わったこれまでの教訓をよく踏まえている。他方で、アメリカの武力行使には必ずしも全面賛成ではないようだ。
最大限の圧力を維持すれば、北朝鮮は泣く泣く非核化するか、それとも自壊に追い込まれるか、どちらかしかないはずだ・・・おそらく安倍総理はそう考えている。
そのために安倍外交は、国連安保理の全会一致でオーソライズされた「国際社会としての経済制裁」の実現に尽力し、成功に漕ぎ着けた。
金正恩にしてみれば、独裁者とはいえ、内政的に核放棄の選択は至難だ。かといって、検証可能な非核化をしなければ「輸出収入9割減」の制裁が続く。
白旗を掲げるか、それとも自壊するか・・。しかも、時間が刻々と体制を締め上げていく。つまり、北朝鮮は将棋でいえば「詰んだ」状態へと追い込まれているのだ。
これは日本の制約された立場にあって、ベストの戦略であろうと思われる。
事実、経済制裁によって北朝鮮が非常に困っていることは間違いない。というより、繊維産業や海外出稼ぎなどの分野で大量の失業が生まれ、石油の輸入も制限されて、ほとんど死活問題となっている。北朝鮮の独裁体制にとって残された時間は少ない。
「対話しろ」派と「武力行使せよ」派が拮抗する中で、そのどちらでもない安倍外交の妙技はもう少し評価されてもいいのではと思うのは私だけだろうか。
かくして、「詰んだ」北朝鮮はどう出たか? あれほどいきり立っていたのに、急に「非核化の意志がある。米朝首脳会談をしたい」と言い出し、自ら折れてきた。
それは偶然得られた幸運ではなく、明らかに日米の外交努力の成果である。
ただし、米朝の合意が成立するか否かは別問題
それまで自称左派・リベラル派は「安倍は北朝鮮と対話せよ」と叫んでいた。
いったい、彼らの言ってきたことは何だったのか?
結局、圧力一辺倒で正解だったではないか。
彼らはまた、南北首脳会談や米朝首脳会談などの“和平プロセス”が始まると、今度は一転して「日本は乗り遅れた、孤立している」と叫び始めている。早く北朝鮮と和解して見返りを与えないと国際社会から孤立するぞ、とでも言わんばかりに。
興味深いことに、北朝鮮も公式に似たことを声明している。
仮に独裁政権の腹話術人形たちの言うように「日本だけが蚊帳の外」だとしたら、ちょうどいいじゃないか。なにしろ、援助など一円もくれてやる必要はないのだから。
ちなみに、米朝の取引が成立するか否かは、また別の問題である。
断片的な情報が伝わっているが、すでに両者の著しい溝が明らかになっている。
トランプは「北朝鮮が非核化すると言っている」と言っている。
つまり、リビア方式のような一挙全廃を期待している。
対して、北朝鮮は、何段階かに非核化のプロセスを分けて、その度に対価をもらう方式なら、核放棄に応じられると言っている。
言ったように、この根本的矛盾は乗り越えることが難しいだろう。