私は当初から一貫して同じことを主張しています。
- 第二次朝鮮戦争が勃発する。
- 北朝鮮は核兵器を使用する。
- 日本に核ミサイルが着弾するかは五分五分。
- 朝鮮半島で戦争をやることはそもそも「影の政府」の決定。
- ただし、戦争がいつになるかは分からない。
5番目ですが、そう断りつつも、やはり「時期」はもっとも興味深い対象のため、これまで無い知恵を絞ってあれこれ推測して来ましたが、すべて外れでした。
やはり「状況」というのは生きもののため、何が起きるか分かりません。
3月に入って韓国の文政権が金正恩に特使を派遣し、南北首脳会談と米朝首脳会談の開催が決定して以来、何か劇的に和平プロセスが進展したという空気になりました。
しかし、私の意見は以前とまったく変わりありません。
今も上の1~5と同じ考えでいます。
むしろ、私の分析では、世間の見方とは逆に「状況は悪化した」という気がします。
個人独裁を復活させた習近平に真っ先に駆けつけた金正恩
中国全人代が国家主席の任期制を廃し、習近平終身制への道を開くと、金正恩はそれまでの対中政策を180度翻して、いわば恭順の意を示しに訪中しました。
CCTV(中国中央電視台)は中朝首脳会談の一シーンを報じました。
それは習近平の言葉に対して、金正恩がかしこまって必死でメモをとる様子でした。
中国は内外に対して、どちらが主人で、どちらが従者かを、宣伝したわけです。
それまで金正恩は、建国史上初めて公に中国を非難しながら、環境の変化を悟るや否や、初の外遊・首脳会談の相手に習近平を選び、友好ムードを演出しました。
卑屈だと嘲笑する見方もありますが、環境の変化に応じて柔軟かつ素早く路線を変えてのける手腕は侮れません。この辺はむしろ日本の政治に不足している要素です。
興味深いのは、中国もまた金正恩を国賓待遇したことです。
対照的に、つい昨年12月に文在寅大統領が訪中しましたが、3泊4日の滞在中、ほとんど「ひとり飯」を食わされるほどの冷遇ぶりでした。
中韓・中朝関係は、ちょうど朴クネ時代と逆さまになったようです。当時、習近平は朴クネを国賓待遇し、核実験を強行した金正恩を冷遇していました。
それにしても、文在寅も媚中しまくりでしたから、中国からすればどちらも「ういやつじゃ」と映るはずなのに、どうしてこうも両国に差をつけるのでしょうか。
中国からすれば、南北を競わせて、忠誠競争をやらせている面はあるでしょう。この辺は昔ながらの属国操縦術です。
劇的な中朝関係改善の背景にあるもの――米中関係の急激な悪化
しかしながら、根本的には、やはり米中関係の変化ではないかと思います。
3月に入って、トランプ政権は、鉄鋼・アルミに輸入制限をかけ、かつ中国に対しては知的財産の侵害などを理由に最大600億ドルもの関税をかける強硬措置を打ち出しました。
金正恩の訪中はその後です。これは以前から両国で日程を調整していたが、中国がそのタイミングで訪中を許可した、ということです。そして、彼を大歓待しました。
これは対米メッセージでもある、というのが私の見方です。
それまで習近平は、どちらかというと、米国と一緒になって北朝鮮を締め上げることに協力していました。「金正恩斬首作戦」に、中国として米陸軍の非進出を条件にOKしていたとまで言われています。だから、北朝鮮も国営メディアの公式声明で、とうとう中国を名指し非難するまでになった。中朝関係はそこまで険悪になっていた。
ところが、中国としては、あれほどトランプ政権に譲歩してきたのに、経済制裁をやられてしまった。しかも、習近平の国家主席再選の直後というタイミングです。さらに、そのタイミングで、米軍はまた南シナ海で「航行の自由作戦」を実行しました。
習近平からすれば、米から公然と面子を潰された、裏切られた、という格好です。中国人民の前で恥をかかされたわけです。
これが無神経の産物か、それとも意図的な挑発かは、私にも分かりかねます。
先日、中国は米製品128品目に報復関税をかける対抗措置を示しました。
すると、今度はトランプがまた「中国は不正を正すどころか、米国に損害を与える道を選んだ」と批判して、中国製品に対する1千億ドルの追加関税の検討を指示しました。
かくて、現在、「米中貿易戦争」に発展したとまで懸念されています。
そして、この米中の急激な関係悪化で、北朝鮮が漁夫の利を得たわけです。
ちなみに、今日の米中関係は一年前から予告しており、何ら驚きに値しません。
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北朝鮮が中朝会談において明らかにした非核化条件
さて、焦点の米朝交渉ですが、4月8日の読売新聞の報道などによると、金正恩が習近平と会談した際、核放棄に応じるには、以下の条件が必要と語ったようです。
- 制裁の解除。
- 米国による確実な体制保証の先行。
- 核放棄に伴う全面的な補償を受けられること。
中国外務省は中朝首脳会談後、金正恩が非核化には「段階的で同時並行的な措置が必要」と述べたという。
こういった条件が満たされるなら、北朝鮮としても核の完全放棄に応じるというわけです。
さて、1は説明するに及ばず、2はおそらく米朝不可侵条約の締結などでしょう。そして北朝鮮にとって一番重要な条件が3です。
北朝鮮は祖父の金日成の時代から三代・30年以上にわたって核を開発してきました。私は散々言っていますが、北朝鮮からすると、やはり10兆円くらい貰わないと、割が合わない。私は別に北の味方をしているわけでなく、どの国であってもこれくらいの要求はするだろうと考えます。ましてや強いる側の米国が核保有の特権国です。
日米と北朝鮮の思惑は乖離しており、衝突は不可避。その時、中国は・・・
しかし、北朝鮮の主要対手国である日米の意志は以下です。
- 莫大な経済支援は支払わない。そもそも国内政治的にも独裁国相手に支払えない。
- 先行して「大きな見返り」は与えない。
今、日米がやっているのは「兵糧攻めで餓死したくなければ核兵器と核開発を放棄せよ」という圧力外交です。要は「死か、それとも核放棄か、どちらかを選べ」です。
対して、北朝鮮は、非核化する代わりに何が何でも莫大な経済支援をくれ、という立場。よって、両者の立場は根本的に矛盾があるわけです。
また、見返りの先行がないのも、過去にそれで騙し取られた経緯があるからです。
最初のボタンの掛け違いとなった1994年の「米朝枠組み合意」では、エネルギー支援を先行して与え、失敗に終わりました。北朝鮮はその「前科」のある身です。
また、その後の2005年の合意では、非核化のプロセスとして、
- 第一段階・・・寧辺の核施設の停止封印
- 第二段階・・・核施設の無能力化と全核計画の申告
- 第三段階・・・核施設・核物質の解体廃棄
という“段階的措置”が決まりましたが、北朝鮮の裏切りで無に帰しました。
金正恩が今回も非核化には「段階的で同時並行的な措置が必要」と訴えています。
つまり、「支援の実行と、非核化プロセスの一段階実行」という「行動対行動」の原則であるべきだと、関係国に要求しているわけです。
当然、交渉では「妥協点」を探る格好になりますが、私の予想では、これから両者の「対内的な政治的制約」が最大の障害となり、決裂すると思われます。
平たくいうと、日本の立場でいえば、日本人を拉致して弾道ミサイルを撃つような国に対して、植民地の補償だか何だか知らんが、数兆円も支援できるか、という話です。
対して、北朝鮮の立場でいえば、いかに気ままに部下を処刑できる独裁者金正恩といえども、それ相応の見返りもなしに人民軍に非核化を命じることができるか、です。
両者が政治的に不可能なことを実行できる場合にのみ、妥協は成立するでしょう。
どうやら、トランプ政権としては、国連決議の「9・11」制裁を維持しつつ、それとは別個に米国として実行中の「独自制裁」部分を解除し、それをもって「見返り」とする案が浮上しているらしい。日本でもそれに類する「小見返り」なら可能でしょう。
しかし、北朝鮮がそんなスズメの涙程度の見返りで核を放棄できるわけがない。
おそらく、日米と北朝鮮の両者が対内的に可能な限り妥協しても、なお合意には圧倒的に届かない、というのが本当のところではないかと思います。
つまり、結局、会談は物別れに終わるということです。
米朝首脳会談はトランプ大統領の意向で5月末までに行われる予定です。
なんで「5月末まで」なのか? いったい何の期限を意味しているのか?
おそらく「外交交渉は終わり、軍事行動に移る」というリミットなのでしょう。
さて、ここで上の中朝接近の伏線が生きてくる。
最近になってからの急な中朝接近は、両者の利害の一致によるものです。
つまり、対米での中朝の結束は以前より強まったわけです。習近平は、今度は従来と一変して、金正恩政権を支える側に回る可能性がある。
自分の面子を潰してくれたトランプに一泡吹かせるために、もしかすると1950年代さながらに朝鮮人民軍を軍事的に支援することもありえるかもしれない。
これだけでも以前よりは状況は悪い。しかも、中国のことだから、北朝鮮の暴発カードを、南シナ海問題や台湾問題と絡めて使ってくる可能性がある。
たとえば、米軍の対北朝鮮戦争をむしろ使嗾し、泥沼化させて、その機に「中華民族の夢」たる台湾領の“回復”を実行する、といったふうに。