当記事は前回の補足。
前回、全国公開されたばかりの『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(原題「DARKEST HOUR」)という映画を取り上げた。
チャーチルは大政治家であり、ナチスドイツと勇敢に戦って連合国を勝利に導いた立役者の一人ということになっている。それが戦後の世界では“常識的な歴史観”ということになっており、とりわけ欧米人はまったく疑いもしない。
まあ、彼ら欧米人は幼少より間違った教育とメディアによって洗脳されているわけだが、私がおかしいと思うのは、日本人までがそういう連合国史観を受け入れてしまっていることだ。実は「属国」というのは、こういう価値観の従属から始まっている。
「東京裁判史観」に異議を唱える右派でさえ、チャーチルに対しては極めてポジティブな印象をもっている。とくに「保守派」を自称する人々にとって、チャーチルはその鑑であるかのように持てはやされている。彼こそ成熟した保守政治家なのだと。
それだけでなく、日本の左派もチャーチルに対しては批判的なことは言わない。
だが、彼は旧態依然としたゴリゴリの植民地主義者だったという事実が都合よく忘れられていないだろうか。私に言わせれば、大英帝国がやっていた砂糖プランテーションや奴隷貿易はナチスの犯罪とどっこいどっこいだ。彼はナチスの侵略から人々を解放したかのように言われているが、自分の帝国からインド人を解放しようとは思わなかった。
「日本はドイツの過去の清算に学べ」と主張するのは歴史に無知な証拠
呆れたことに、むしろ左派系の知識人のほうが、西側メディアの権威に盲目的に従う傾向が強いようだ。だから、西側メディアの口にあわせて、平気で「ドイツは過去を直視して清算した」とか「日本はドイツの過去の清算に学べ」などと主張したりする。
これは正確な史実に基づかない、まったく誤った思考であり主張である。
事実として、ドイツは「ホロコースト犯罪」については熱心に謝罪と賠償を重ねてきたが、「植民地支配」と「戦争犯罪」についてはほとんど清算していない。
ホロコースト犯罪というのは、言うまでもなく、ヨーロッパにいた何百万ものユダヤ市民を駆り集めて抹殺しようとした国家犯罪である。当時、300万の軍隊をもつユダヤ帝国が存在して、ナチスドイツと戦争していたわけではない。ユダヤ人はただ単にそこに住んでいただけである。その人々を抹殺しようとしたのが「ホロコースト犯罪」である。
対して、当時の中国は、すでに蒋介石の独裁的な帝国であり、300万の軍隊がいた事実を忘れてはならない。仮に日中戦争と同列に比較できるものがあるとしたら、それは「独ソ戦争」であって断じて「ホロコースト犯罪」ではない。
そもそも、戦争犯罪とは、戦争相手国に対する戦争法規違反の行為を指している。具体的には、捕虜虐待、相手国の民間人虐殺、無差別爆撃などを意味する。
対して、ホロコーストは世界大戦前から始まっており、戦争とは次元を異にする。よって、「ホロコースト犯罪」と「戦争犯罪」の区別は厳につけなければならない。
つまり、ドイツはたしかに「ホロコースト犯罪」については清算してきたが、「戦争犯罪」についてほとんど清算してこなかったのだ。だから、今、ロシア、ポーランド、ギリシアなどの被害各国から、次々と賠償問題を提起されているのである。
ドイツの残酷な植民地支配を受けて、人々を大量虐殺されたナミビアなどは、まともに謝罪すら受けていない(本当に最近になって微かな謝罪を得られたようだが)。
要するに、日本の基準では、ドイツは過去の清算なんかほとんどしていない。
しかし、ドイツはホロコースト犯罪について清算してきたことで、通常の戦争犯罪まで清算したように世界から誤認されてきた。いや、ドイツ人自身もそう錯覚した。
欧米メディアとその価値観を疑え
そういう錯覚を創って国際世論を誘導してきたのが欧米メディアである。
欺瞞にも「ドイツが過去の清算をした(そして日本はドイツに学べ)」などと過剰にドイツを賛美しているメディアや近代史学会の背後にいるのは誰なのか?
おそらく、ホロコースト犯罪の清算事業の受益者たちである。
そういう連中が「ドイツ人よ、よくやった」と褒め称える。世界中の知識人がその価値観を疑うこともなく、腹話術人形に成り下がっている構図のようだ。
他方で、なぜ欧米メディアは、アメリカがベトナムを侵略して200万人を虐殺した事実、今なお300万の生存者が化学兵器の後遺症に苦しんでいる事実、およびその戦争犯罪に対してアメリカ政府が一切の謝罪も賠償もしない事実を、問題視しないのか。
なぜ、オランダやフランスの戦前の植民地支配、そして戦後のアジア再侵略と大量虐殺を問題視しないのか。しかも、その再侵略期間に日本を裁いていたというのに。
なぜ、ドイツのアフリカ植民地支配や、ロシアへの侵略虐殺はお目こぼしなのか(日本の“植民地支配”や中国への侵略虐殺はいつまで経っても問題にされるのに)。
つまり、過去の清算に対する欧米の価値観や判断基準は無茶苦茶なのである。
欧米のジャーナリストや歴史家ですら、この程度のレベルである。日本に駐在しているNYTなどの(いわゆる)ガイジン記者たちなど、すべからくこの程度だ。
マーティン・ファクラー Martin Facklerのような人物はその典型である。
一般の欧米人も非常に歴史に無知で、自分たちが過去の清算を何もしていない事実すら知らない。逆に、日本がいかに過去を清算してきたかの事実も知らない。
そんな無知で偏向しまくった欧米メディアが全世界の言論空間を支配している。
自分の頭で考えることもなく、欧米の“権威”に盲従しているのは嘆かわしい。
むろん、自分たちがジェノサイド等の最悪の戦争犯罪をやり、かつ過去の犯罪を一切直視しない又清算をしない分際でありながら、執拗に日本ばかり非難するのは、中韓も同じである。韓国人は大統領や大手メディアから下っ端の活動家に至るまで「人類の普遍的道徳」なる価値観を掲げ、日本を裁いているが、その同じ基準を自分には絶対に適用しない。また、近年は北朝鮮に対しても適用しなくなった。あくまで日本を裁いて優越感を得る時にだけ「人類の普遍的道徳」を持ち出す。それで正しい歴史認識と言っている。
それがおかしいとも思わない・・まさに韓国の幼稚な国民病のようだ。
言ったように、「日本はドイツの過去の清算に学べ」と説教している欧米自身が過去の清算なんかほとんど何もしていないのだから、彼らも中韓と同じレベルである。
いずれにせよ、歴史問題に関しては、総じて国際社会には未だ正義がないのだ。
日中戦争は日本の侵略、日韓併合は韓国の責任が大
ちなみに、単純に右翼や保守派と混同されるかもしれないので誤解がないように付け足しておくが、私は「中国に対しては戦争賠償すべきだった」とふうに考えている。
大東亜戦争は多面的なところがあり、旧日本軍は中国に対しては馬鹿げた侵略と虐殺を行ったというのが私の歴史認識である。この点では私の考えは前々から一貫しており、一切の揺ぎが無い(つまり、1972年の日中条約はボタンの掛け違い)。
ただし、どこから中国に対する侵略であったかというと、私の視点はやや独特で、華北分離工作以降であるというふうに考えている(*これは別の機会に詳述する)。
また、中国に対する侵略と虐殺だが、あくまで国家同士の戦争上における戦争犯罪行為であって、ホロコースト犯罪と同列視してはならないと考える。
さらに言うなら、南京虐殺に関する中国の政府公式主張は実態を誇張している。
韓国に関しては、かねてより「日韓併合の責任の大半は韓国側にある」と主張している。日清戦争後の下関条約で、日本は韓国を正式に独立させ、近代化を支援した。ところが、韓国の高宗以下、特権層は自己犠牲を忌避して、日本を追い出した。その後、ロシアを後ろ盾として、鉱山権や漁業権などの国の権益を次々と欧米列強に売り飛ばし始めた。そうやって手っ取り早く、国を売って現金化して、それで贅沢を始めたのである。
この頃、金玉均の独立党の生き残りで、日本留学組の徐載弼が「独立新聞」を創刊し、属国の象徴たる「迎恩門」を壊し、清からの独立を祝う「独立門」を建てた。
徐載弼らの独立協会メンバーは、国王とその取り巻きによる国の切り売り行為を糾弾した。今日、韓国の独立派というと、もっぱら日本からの独立のために戦ったと信じられているが、この時期の独立派は「このままではロシアの属国になる」として政府を批判していたのである。高宗の下にある内閣は、徐載弼を追放し、協会の解散と主要メンバーの逮捕に踏み切った。こうして独立協会は1898年末までにほぼ壊滅した。
この時点で、韓国が将来、ロシア領になることは決したといえる。そして、韓国人は、日露戦争の時に、ただ傍観するだけで、一切戦おうとしなかったのである。
日本に続いてロシアに宣戦布告して数万でも派兵していれば戦勝国になればものを。
日韓併合は、こういった韓国の30年にわたる自業自得の結果でしかない。
ところが、韓国人は上に挙げた史実を知らないのだ。自分の国の歴史なのに。
それくらい、韓民族の恥となる事実や都合の悪い事実が政府によってトリミングされてきた。下関条約第一条は黙殺して、又、国の権益を欧米列強にバーゲンセールした事実は「外国に侵奪された」などと歪曲する。これが国史編纂委員会の手口である。
今年の3月1日、この「独立門」で、文大統領らが日本を非難し、日本からの独立をみんなで祝っていたが、アホも極まれりである。大統領からしてこのザマだ。
まさに自国の過去の歴史を直視できない民族に未来はないとは、韓国のことだ。
戦後、日本は「筋」を間違えた。賠償すべき中国には(毛沢東の決断をいいことに)賠償せず、賠償する必要のない韓国に対しては実質賠償してしまったからだ。
政府はカウンター・プロパガンダの微々たる予算くらい出せ
私は上のような近代史論をどんどん英語で世界に発信したいと思っているが、はっきり言って経費がないと難しい。なぜなら、そういう作業に集中的に取り組むには、ほとんど専業でやるほかないからだ。私と同じ苦い思いをしている人は多いはずだ。
政府が「カウンター・プロパガンダ」のための予算枠を作ったらいいと思う。
たとえば、外国語で世界に向けて発信するサイトには月々20万円程度を支援する。
仮に100人くらいの発信者を公費支援しても、年間予算は数億円程度。内閣府や外務省に専門部局を立ち上げたとして、その運営費を含めて年間10億円あれば十分だ。
はっきり言って、こういった対外情報戦において、何の役にも立たない穀潰しの外務省職員の膨大な人件費を思えば、これでも費用対効果は絶大である。
ないしは、外務省外局の国際交流基金を「カウンター・プロパガンダ機関」へと内部改変すればいい。今、国際交流基金はどうでもいい事業に数百億円を浪費している。
ところが、子供の戯言みたいな言論を垂れ流す山口二郎のところには6億円だかの科研費が投入されるのに、こういう大事なことには一銭も公費が出ないときている。
安倍総理や自民党もとっくの昔にやっているべきだったが、未だにやらない。こういう現状は異常としか言いようがない。おれも革命家になろうかと思う(笑)。
さて、話がどんどん反れてしまった。
要するにだ、ウィンストン・チャーチルという人物、また彼を描いた映画は、こういう欧米の無知と偏見と歪んだ価値観から、過剰なほど絶賛されているに過ぎない。
また、こういうのは、欧米リベラル派の、ちゃんチャラおかしい、デタラメ・矛盾だらけの歴史観もさることながら、前回言ったように、ステルス洗脳なのだ。
世界支配層が、対ロシア戦の予定に合わせて、大衆心理を操作しようとするものだ。単にイギリス人が精神的オナニーをしたいがための映画だとしたら、私もここまで酷く言わない。それに誰よりも英米はじめ欧米の大衆こそが洗脳の犠牲者なのである。
だから、私に言わせれば、二重の意味で許せないのである。
欧米の権威に盲従する日本の知識人や文化人も、本当に情けない限りである。