共産中国の運命は決した――開戦滅亡か、内乱分裂か、二つに一つだ!

テロ・紛争・戦争・崩壊
中国軍によってすっかり軍事基地化された南シナ海の人工島 出典:Stratfor Woody Island in the South China Sea Feb.17,2016




さて、前回からの続きだが、ある意味、ここから本題である。

中国はリーマン・ショック以降、空前の財政出動によって景気を下支えしてきた。これは日本のバブル崩壊後の対策に倣ったものらしい。この中国の思いきった景気対策は、当時の日本と世界の景気回復に大きく貢献したという。

だが、投資した金は回収しなければならないのが鉄則だ。地方政府や国有企業に湯水のごとくつぎ込まれた融資は、ちゃんと金融機関に返済されるのだろうか。一説に拠ると、中国各地のゴーストタウンに示されるように大量に不良債権化しているという。

どれだけ習近平政権が強がっても、市場の目はごまかすことはできない。トランプ政権の誕生後、中国の外貨準備高は3兆ドルを切った。トランプ政権はこれからもナヴァロ委員長の采配下、反ダンピングなどの名目で、中国の鉄鋼だけでなく、様々な製品に制裁関税を科していくかもしれない。

こうして米国が通商面でどんどん中国を締め上げていけば、ほとんど安いだけがとりえの中国製品は米国市場から締め出されていく。すると、AIIB(アジアインフラ投資銀行)や「一帯一路」構想どころか、国内の景気が悪化して、これまで先送りされてきた中国の不良債権問題が「金融時限爆弾」と化すのではないか。

一方で、共産中国の体制にとって、より深刻なのが経済以上に政治問題だろう。私の知る限り解説している人はいないようだが、実は南シナ海における軍事問題こそが共産党の一党独裁体制を揺るがしかねない“政治問題”そのものなのだ。

何のトンチだと思われるかもしれないが、それが今回の本題である。つまり、中国特有の政治文化というか、ガバナンスの原理に直結する大問題が潜んでいる。



中国の歴史から独特の「統治原理」を知る

そもそもなんで中国共産党なる一政治団体が、13億の人民を従えているのか、どこにそんな正統性があるのかという話である。「侵略者の日本軍を撃退して中国人民を解放したから」という話が捏造神話であることは、とっくに人民にバレてしまっている。

実は「適度な威信」に拠ると思われる。それは政治的な恐怖と暴力に、プラス「中国人だけが感じることのできる何らかの畏敬・威厳」である。彼らはその「適度な威信」で人民を従えている。奇妙な話だが、人々を大量に処刑して見せることもまた中国的「威信」の一つなのだ。ただ、そこはバランスであって、逆に「威信」を示しすぎても(つまり人民をあまり虫けら扱いし過ぎても)、今度は決起を促して自滅してしまう。

映画「ザ・ラスト・エンペラー」より

もちろん、これは大なり小なりどの国や民族にも当てはまることだし、とりわけ東アジア人には言えることだと思う。ただ、中国の場合、それが他よりも顕著だ。

このことは、私なりに中国の歴史や文化に興味があって、いろいろ調べていくうちに漠然と分かってきたことだ。というより、単に好きで陳舜臣の「中国の歴史」や司馬遷の「史記」、論語・孟子・荀子、韓非子、孫子、墨子などを読破していった。

20年も昔のことなので、内容の半分以上は忘れているが、漠然とした大筋なら、今でも覚えているつもりだ。こうして、中国の歴史や文化に接していくと、はっきりした法則ではないが、漠然とした「中国的ルール」が感覚的に分かってくる。

ちなみに、ここに挙げた書はすべてオススメなのだが、あえて一つだけに絞ると、「史記」は東洋人として生まれた者が生涯に一度は目を通さねばならない本だと確信している。私もいつか必ず、また読み返したいと思っている。

入門書として  現代語訳 史記 (ちくま新書) 筑摩書房 ¥842

本格全文セット  史記 全8巻セット (ちくま学芸文庫) 筑摩書房 ¥10,908

なぜ南シナ海問題は将棋でいえば中国が「詰む」図式なのか

話を戻すと、中国的ルールからすると、毛沢東が開闢した共産党“王朝”の「威信」に対して人々が絶対服従することによって、漢民族という巨大部族が曲りなりにもまとまってきたわけだ。例えるなら、それは樽を束ねている「タガ」だ。

だから、威信を失ったとき、つまり支配者が己の支配領域に対して権威を示せなくなった時、中国はバラバラになるのである。

中国史のパターンでいえば、地方勢力が言うことをきかなくなり、やがて公然とした反逆が決定打となって、最後には天下全体がバラバラに空中分解する。

そして、そういう事態がひたひたと共産中国にも忍び寄っているというのが私の推察なのだ。しかも、引き金になりそうなのが南シナ海の軍事情勢なのである。

どういうことか説明しよう。

仮に中国がアメリカに手を出せばどうなるか。もちろん「米中戦争」である。そして中国側が必ず敗北するだろう。

その危険性は確実に増している。2017年、中国軍はすっかり南シナ海の人工島の軍事要塞化を完了した。戦闘機だけでなく、対空・対艦ミサイルも配備したらしい。

出典:Stratfor 南シナ海の人工島には各種ミサイルやレーダーなどがすでに配備済み

おそらくアメリカの狙いは先制攻撃させることだ。ただし、中国側もそれを承知しているから、「習近平=中央軍事委員会」のレベルでは、「絶対に米艦船に発砲するな」と現場に厳命して、罠に落ちないようにしているはずだ。

しかし、現場の軍人は、挑発を受ければえてして反応しがちだ。仮に人工島の基地から目視できる海域で米空母が悠然と航行したどうなるか。屈辱にまみれた現場の軍人たちが上官を突き上げ、場合によっては脅すくらいはするかもしれない。

こうして中央の意に反して、現場が勝手に攻撃に踏み切る事態もありえる。偶発的な衝突の可能性もある。いずれにせよ「開戦」すれば米軍の圧勝だろう。

では、逆にアメリカに手を出さなかったら、どうなるのか。つまり、指をくわえて“自国の領海”における“米帝の乱暴狼藉”をただ眺めていたら、ということ。

これは中国でいうところの「面子が潰れる」事態となる。誰の? むろん習近平の、である。すると、どうなるのか。今言った「威信」に関わる事態となる。

政権側が「わざわざ自制した」と宣伝しても、人民のほうは「怖くて手が出せなかっただけだ」という風に解釈する。共産党の威信の低下は避けられない。

それは今言ったように、樽のタガが外れるのと同じことである。

つまり、南シナ海の米軍に手を出せば、「米中戦争」になって完敗するし、手を出さなくても威信低下で国内の反乱を招く、という構図なのである。どっちに転んでも破滅・・・だから「詰んだ」のだ。

これまで進めてきた愛国政治が完全に裏目に出る習近平政権

実は、南シナ海問題では、政府の対応が「弱腰」だとして、共産党のほうが国民から突き上げを食らう現象までが現れてきている。

共産中国はとりわけ89年の天安門事件以降、反日(外敵)と愛国を煽ることによって国内の求心力を維持してきた。そうやって国民に対して散々ナショナリズムを煽ることによって、体制の矛盾から人民の不満を反らせてきたわけだ。

ところが、今やそれが怪物化して、人民に炊き付けたはずの側がコントロールできなくなりつつある。そればかりか、その愛国の矛先がしばしば政府の対外的な弱腰姿勢に向かうようになり、完全にブーメランとして跳ね返り始めた。

これは共産党支配にとって大変危うい状況だ。「対日戦勝」という正統性の虚構がすっかりバレた今、中国共産党を支えているのは今や「威信」だけと言ってよい。

しかも、習近平は総書記就任以来、「腐敗撲滅」と称して党と軍部に粛清のメスをふるい、人民に対しては洗脳と思想統制、規律を強化してきた。その結果、中国や朝鮮によく見られる政治的恐怖心の空気が強まり、最近は党幹部から習への「忠誠の誓い」発言が相次いでいる。自身への権力集中を高めて、政治局常務委員による集団指導体制から、再び毛沢東型のカリスマ統治体制に転換したがっているとの観測もある。

問題は、こんな風に恐怖と威圧で党内や人々を支配している最高指導者が、南シナ海の“自国の領海”で好き勝手に振舞う米軍に対して「何もできない」時だ。中国外務省は「主権を損なっている」と激烈に非難している。だとするなら、習近平主席様は、外国から主権を損なわれても、手も足も出せない弱虫・ヘタレということになる。

習近平国家主席・中共中央総書記・中央軍事委員会主席 Marko Djurica-REUTERS

“愛国心”に燃えた人民が怒って共産党を突き上げるだろう。習近平は部下と人民の前で大恥をかく――面子を失う――ことになる。すると、中国人はどんな反応を示すだろうか。軽蔑交じりに「あいつ怖くないよ」ということになれば、たちまち支配者側の言うことをきかなくなる。日本語のニュアンスで言えば「ナメる」に近い。つまり、被統治側の人民が共産党政権を完全に「ナメて」かかるようになるのだ。

これは共産中国という帝国を束ねていた「タガ」が外れることを意味する。

近未来、中国は軍区ごとに分裂か? 自由中国の誕生なるか?

これまで抑え付けられていた市民や労働者は、公然とデモを行うだろう。それは容易に反政府運動へと発展する。決定的なのは地方勢力が公然と反逆する事態だ。これで中国が内乱・分裂へと突き進むことは、決定するようなものだ。

もちろん、「共産党政権が威信を失ったから」というのは「最後のきっかけ」のようなもので、分裂の原因そのものはとっくに内在している。たとえば、民主政ではなく、統治者の正統性が不明瞭というのもそうだし、昔からの中央と地方の対立もある。西部にはウイグルとチベットの民族自治問題もある。

「人間の集団はエゴで動く」という法則がある。これは個々のレベルでは善意で行動する人がいても、集団になると個々の違いが平均化され、必ずその集団の利益を満たすことが行動の動機になるという意味だ。これが巨大な帝国における地方の分離独立の原理にも関わってくる。とくに、中央の課税政策に対する地方の反発は、古今東西、常に地域の自立独立の原動力となってきた。

近年までの中国のように、国全体が発展していく時代なら、まだ不満も少ない。だが、低成長時代に入ると、一転して地方は守りに入り、地域エゴが噴出する。自主財源が豊富な地域ほど「なんでおれたちばっかり搾取されて、他の地域の貧乏な連中を養ってやらねばならないのか」という不満を強めていく。中国の地方政府の中には、北京・天津・重慶などの直轄市を除き、自力で発展してきたという自負を持ち、中央からの搾取に対して潜在的に強い反感を持つ地域もある。たとえば、広東省などだ。

ただし、分離独立に際しては、軍事力というバックが不可欠なのも確か。だから、軍系企業などの形で、軍部と地元経済の結びつきが強い地域ほど、独立しやすくなる。私は中国の軍部のことはよく知らないが、自主財源を持ち、軍閥化が相当進んでいるという話はよく耳にする。将軍クラスはあえて軍区間を行き来させるらしいが、佐官か尉官以下になると地元生え抜きになるらしい。こういう組織は元から軍閥化しやすい。

1912年の辛亥革命の時は、省単位で一挙に帝国が崩壊したが、今回は軍区単位で分裂するかもしれない。あるいは漢民族地域が「北の共産党派と南の分離独立派」という風に二分され、西部のウイグル・チベットが第三者として別個に独立する形になるかもしれない。どういう形になるかは予想できないが、分裂すれば中には広東省のように即“先進国”になれる地域もある。

ただ、より強力な民族主義国家となって再統一するというシナリオが考えられないではない。日独の例も見ても分かるように、民主化の初期ほどナショナリズムへの反動が強い。だから、願わくば「大唐帝国崩壊モデル」を迎えて欲しいと思う。再統一するなら、そこから文治主義の「宋」へと至った歴史を繰り返してほしいものだ。

いずれにしても、トランプ政権の対中「再封じ込め政策」(re-Containment policy)によって、中華人民共和国の命運は定まった。あと数年の命脈だと確信する。

買って応援! マンガで読む嘘つき中国共産党 新潮社 ¥1,080

スポンサーリンク




タイトルとURLをコピーしました