ほぼ1年前、アメリカは電撃的にシリアをミサイル攻撃しました。
それを受けて、私は次の記事を書きました。
「ネオ・ネオコン」の本性を現し始めたトランプ政権 2017年4月8日
(前略)報道に拠ると、トランプ大統領が中国の習近平国家主席夫妻を晩餐会に招いたのが米東部時間(以下同)の6日午後7時。
で、東地中海の米駆逐艦からミサイルを発射したのが同じ日の午後8時40分。トランプ氏は夕食中に攻撃の進展状況を聞いていたという。
そして、同午後9時40分、記者団に軍事攻撃の命令を正式発表。
つまり、米中首脳会談日の、しかもわざわざディナータイムの時間を選んで、シリアへのミサイル攻撃を行った、ということです。(略)
それにしても、つい先月末に、米大統領報道官や米国連大使が「ISの掃討を最優先とするので、アサド政権の退陣には固執しない」という内容の声明を発した、その舌の根も乾かないうちに、これですからね。180度手の平返し。
4日にサリン攻撃が行われ、すぐに白ヘル軍団が現れて被害者たちを救助してビデオ撮影して回り、6日にはもうミサイル攻撃・・。
米、シリアにミサイル攻撃 空軍基地へトマホーク59発
というわけで、トランプ大統領は、習近平との首脳会談中に、59発のトマホークミサイルをシリアにぶち込みました。
標的となったのは「シャイラット空軍基地」。
当時、アサド政権側は本当に市民に向けて化学兵器を使用したのか?
以下は、軍事情報に詳しい「JSF」さんの当時のツイッターからの拝借です。
これはミサイル攻撃を受けたシャイラット空軍基地の様子。ある格納庫の前に何か茶色い容器が山積みにされているのが分かります。
で、「JSF」さんのツイートの写真と比べてみると、私には「同じ」とまでは断言できないが、そっくりなものが写っているのは確か。
やはりアサド政権側は化学兵器を使用したのか・・・一応、疑いが残りました。
このタイミングでアサド政権が化学兵器を使用する不思議
さて、1年後の現在。
つい先日、トランプ大統領が周囲の反対を押し切って「シリアから撤退する」と発言しました。すると・・。(*赤字筆者)
シリア政権、東グータ空爆に化学兵器使用か 49人死亡 2018年4月9日11時22分
内戦が続くシリアの首都ダマスカス近郊の東グータ地区で7日、空爆があり、現地の救援組織などは化学兵器が使われた疑いがあり、子どもを含む少なくとも49人が呼吸困難などの症状で死亡したと明らかにした。トランプ米大統領はシリアのアサド政権による使用とみなし、「大きな代償を払うことになる」と警告した。昨年4月に続いてミサイル攻撃などに踏み切る可能性もある。
アサド政権や同政権を支援するロシアは「偽情報だ」として、政権側による化学兵器の使用を真っ向から否定した。
東グータ地区は内戦勃発時から反体制派の拠点だったが、ロシア軍の支援を受けるアサド政権軍が95%超を制圧。反体制派はシリア北部への撤退で合意したが、同地区のドゥーマを支配する反体制派武装組織「イスラム軍」の一部戦闘員らが撤退を拒否していた。このため、政権軍などは6日、ドゥーマへの空爆を再開した。
「シリア民間防衛隊」などによると、7日の空爆で子どもを含む500人以上に、塩素ガスなどの化学兵器によるとみられる症状が出たという。空爆は8日朝になっても続いたが、政権軍側とイスラム軍の交渉の結果、従来の合意通り、イスラム軍が政権側の捕虜を解放し、シリア北部へ完全撤退することが確認されたという。
シリアでの化学兵器の使用をめぐっては、国連が2016年に、アサド政権が14年と15年の過去2回、化学兵器を使ったと結論づける調査報告書を発表した。
トランプ米大統領は8日、自身のツイッターで、アサド大統領を「けだもの」と呼んだ上で、アサド政権を支援するロシアやイランにも言及し、責任があると指摘した。トランプ政権は昨年4月、アサド政権軍が化学兵器を使用したと断定して、シリア空軍基地をミサイル攻撃している。今回の化学兵器使用疑惑が浮上した後、トランプ大統領はフランスのマクロン大統領と協議し、共同して対応することで合意した。(テヘラン=杉崎慎弥、ワシントン=杉山正、モスクワ=喜田尚)
いやはや、不思議。アサド政権がまたしても化学兵器を使用とか・・・。
アサド大統領はよほど仇敵の米軍にいてほしいんでしょうか(棒)。
それにしても、「化学兵器が使用された」と主張しているのは「現地の救援組織」なんですね。日本や欧米のニュースで流される救急活動の様子も彼らが撮影したものです。
東グータのドゥーマに、撤退を拒否する反体制派「イスラム軍」が立てこもっているから、シリア正規軍が空爆したという論理だと、被害現場を撮影したのは当の反体制派と考えられる。当然、彼らにはアサド政権に不利な情報を流す動機がある。
実は、シリアの内戦がここまで激化したのは、ワッハーブ派やムスリム同胞団系の外国人傭兵がどんどん入り込んでいるかだと言われている。
私自身は、謀略の策源地はイスラエルではないかの説を唱えている。
仮想敵国のシリアそのものの弱体化、対イラン戦を見据えた前哨戦、地域のアラブ人減らし等、何重もの動機を兼ねた驚くべき深慮遠謀です。(以下参考記事)
どうもシリア内戦を終結させたくない勢力がいる。
シリア上空で米ロの激突が懸念される
まあ、それは横に置いておいて、喫緊のことを考えましょう。
国連安保理で米ロが鋭く対立している。
化学兵器使用の調査をするとの提案は、ロシアのたった一票で否決された。五大国の不当な特権「ベト・パワー」です。前も言ったが、国連は、国際連盟以下です。
トランプ大統領は、今回は空母打撃群を派遣すると言っている。
つまり、今回はもっと大規模な空爆なる可能性が高い。空母を派遣しておいて、巡航ミサイルだけの攻撃ということは、あまり考えられない。
しかも、一年前と違うのは、今度はロシアが阻止すると言っていること。
シリアの地中海沿岸側には、すでにロシアの地対空ミサイルS-400が多数配備済み。
S-400 Triumf SAM In Action
Russia’s Lethal S-400 Air Defense System on Their Way… S-400 Triumph – SA-21 Growler
対して、このロシア製の防空システムと確実に対決することになると思われるのが、お馴染みの米レイセオンのミサイル・トマホーク。すでに株が上昇しているとか。
US Military Tomahawk Missiles Launch [Part 1] From USS Porter (DDG 78) & USS Ross (DDG 71)
Tomahawk Missile Flying To Destroy The Target
しかし、今回は、S-400が米海軍の戦闘機や戦闘爆撃機を打ち落としてしまう可能性がある。防空システムはロシアがシリアに売ったものだから、直接的にはロシアの責任ではありません。ただ、問題は、アメリカやトランプがどう見なすか、ということ。
シリアの迎撃行為にロシア軍がどこまで関わっているのか。情報面で協力したか、現場で顧問をしたか。だいたい、ロシアが米軍機を撃ち落すためにシリアにシステムを売ったのではないか・・・。等など、やられた米側は必ず粗探しして責任を追及します。
まあ、米ロ関係がいっそう悪くなることだけは確かでしょう。