さて、本日は6月12日。
米朝首脳会談の直前に一発、記事をお見舞いしたが(前回記事)、その続編として、会談が始まったのを確認して、朝10時台にもう一つお見舞いしておきたい。
「リビア方式の核査察」と「段階的非核化」を融合させた解決策となる?
アメリカが北朝鮮に求める「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)の対象となるのは、ホンペオ国務長官によると、核兵器、その保管場所、核開発技術、製造施設などである。当然、容赦のない核査察が不可欠となる。
つまり、何だかんだといって、ボルトンのいう「リビア方式」に近い。
ただし、“一挙”非核化に関しては、トランプ側が再考する可能性がある。
というのも、非核化には時間がかかるとか、ゆっくりでよいというふうに、トランプ自身の姿勢が変化してきているからだ。
だから、この点ではアメリカ側が譲歩する可能性が高い。
そうすると、あくまでCVIDを求めつつも、非核化に関しては「やや時間的猶予を与えて、なおかつ段階化する」というふうに、トランプのほうが妥協するのではないか。
その進展具合に応じて、その都度、何らかの見返りを与えるという方式である。
この「非核化を段階化してその度見返りを貰う」というのは北朝鮮のかねてからの強い要望だから、この点に関しては北朝鮮が勝ち取ったといえるかもしれない。
ここまでやっても実はたいした見返りを貰えない北朝鮮
しかし、見返りといっても、終戦協定、国交正常化、米朝不可侵条約、体制保証、経済制裁の解除、そして在韓米軍撤退といったものらしい。
トランプは「北朝鮮に経済支援しない、日中韓がやる」などと言っている。
つまり、米国としては、納税者に負担を求めない方法を通すつもりだ。
だいたい、米政権もメディアも散々「非人道的な独裁政権」と非難してきたわけで、そんな相手に経済支援なんか政治的にもやり辛いだろう。
だから、非金銭的な支援ばかりを並べて、恩着せがましく「見返り」と称している。
他方、日本もまた、北が完全非核化・弾道ミサイル廃棄・拉致問題の解決を果たすまで、一切経済支援しないと明言している。この方針は国民から支持されている。
つまり、金正恩は、日米からの巨額の経済支援がない状態で、まず完全非核化しなければならない、という話になっている。
だから、金銭絡みでいうと、韓国がショボい援助をするだけ。
あと中国が貿易を活発化させるかもしれないが、北朝鮮からすれば、それは核放棄の対価ではなく、あくまで資源の輸出やサービスの正当な対価でしかない。
中国が何兆円ものタダ飯を北朝鮮に与えるとは思えない。だいたい中国にとって非核化は「日米韓と北朝鮮との取引」だろう。つまり、金銭面でいうと、中国もまたショボい援助でお茶を濁すだけ。大型の支援は租借権などの植民地化と引き換えでないとやらない。
すると、これは一国の非核化に対して、釣り合うような「見返り」だろうか。
私はむろん北朝鮮の肩を持つ者ではないが、こんなふうに北朝鮮の視点に立ってみると、米朝首脳会談がどれほど不平等であることか、分からないでもない・・。
再掲:北朝鮮は最初から「完全非核化」なんかする気はない
さて、アメリカは経済支援しない。日本も条件が満たされるまで、しない。
北朝鮮はこれまで核・ミサイル開発に国家の総力を注いできた。何兆円をつぎ込んできたか分からないし、第一、金銭では代えられない「民族のプライド」もあろう。
すると、「完全非核化」と「体制保証」程度が、本来釣り合うのだろうか。
トランプはそれでよしとタカをくくっているが、果たしてこれがフェアな取引だろうか。私は「ディール」として成立しないと言ってきた。
果たして、北朝鮮のほうもそんな「無理難題の類い」を実行するだろうか。
つまり、北朝鮮は本当に「完全非核化」をするのだろうか。
ないない。絶対に、ありえない。と、私は断言してきた。
そういえば、5月末頃に、米政府の海外向け放送「ボイス・オブ・アメリカ」が興味深い放送をしている。なんと、米国の朝鮮半島専門家30人を対象にアンケート調査をしたところ、大半が「北朝鮮の非核化意志は信じない。交渉による完全な非核化は難しい」と回答したというのだ。私も放送前からずっと同じ主張をしている。
私は以前に北朝鮮の交渉のやり方と意図を次のように推察している。
第一に、味方を作り、国際社会を分断する。
第二に、米朝首脳会談にむけて、事前段階で相手を自分のペースに引き込み、妥協させる。
第三に、一応「合意」にこぎつければ、今度は実際の査察段階でまた寝技に持ち込む。
第四に、結末としてAとBのシナリオを用意する。
Aのほうは北朝鮮が望むシナリオ。できるだけ時間を稼ぎ、トランプ政権の崩壊や中東戦争の勃発などの国際情勢の急変を待ち、相手が対北軍事行動をしている余裕がなくなったのを見て取るや、以前のようにちゃぶ台を引っくり返す。「本当は核放棄するつもりだったが、米韓のせいで、できなくなった」と、人のせいにしてご破算にするわけです。
Bのほうは望まないシナリオ。いわば北朝鮮にとって、最大限犠牲を払う最悪のシナリオです。それは一定の核物質や核弾頭を差し出し、部品や核施設の廃棄にも応じて、「これが全部だ」と騙すことです。
つまり「一部非核化」を「完全非核化」と誤認させる。実際にはかなりの核物質や核弾頭を極秘の施設に隠匿する。北朝鮮は世界でもっとも秘密の軍事施設を持つ国の一つですから、おそらく隠匿可能と踏んでいる。関係者には家族を人質にして口止めをしておく。
というわけで、北朝鮮は今、上のような方針で動いていると推測します。
つまり、馬鹿正直に全部核放棄するつもりなんか毛頭ない、最悪のケースでもなんとか一部の核放棄に留める腹積もりだ、というのが私の推測です。
今も私の考えは上と同じ。
しかも、当然、アメリカもまた北朝鮮の腹の底を見抜いている。
北朝鮮の約束反故を理由とした開戦
つまり、アメリカは無理難題を吹っかけているし、北朝鮮もまた無理難題を真正直に実行するつもりはない。
北朝鮮は絶対に「完全非核化」なんかしない。必ず裏切る。必ず合意を破る。
そして、重要なことは、アメリカはそんなことは先刻承知に違いないということ。
その時、いかなる協定も意味はない、というか、なくなる。
なぜなら、北朝鮮が約束を破れば、即無効にできるから。
つまり、北朝鮮が合意を破った時点で、体制保証の約束も自動的に反故になる。それは「核査察を妨害した」というような些細な理由でも構わない。
トランプは「あのロケットマンの小僧がアメリカと国際社会を騙した!」とか喚き散らしながら空爆に踏み切るだろう。
それは換言すれば、高価な精密爆弾やミサイルの在庫一掃措置である。また、国内の製造業と従事する労働者に対するボーナスである。
しかも、アメリカは最高に有利な状況で開戦することができる。
ただし、この思惑を実現するには、とりあえず北朝鮮に首脳会談のテーブルにつかせ、非核化について合意させておく必要がある。
そして、無理難題を吹っかけ、空約束させておく。
こうした「仕込み」を経て、はじめて相手の「約束違反・契約不履行」を責め立て、軍事行動の正当な理由とすることができる。
つまり、北朝鮮は内心でアメリカを化かすつもりだが、アメリカもまた北朝鮮を罠に嵌めようとしているのだ。何度も言うように、終着は必ず両者の戦闘になる。
どだい、アメリカが独裁国家を生かしておくわけがないのだ。
しかし、まだ続きがある気が・・。金正恩の隠された狙いとは!?
だが、上が第二幕だとしたら、まだ「第三幕」があるような気がしてならない。
金正恩にはまだ人々が気づいていない「切り札」があるように思えてならない。
実は、私が妙に引っ掛かっている点がある。
北朝鮮側は一貫して「朝鮮半島の非核化」という表現を使ってきたが、この意味するところは「在韓米軍の撤退」であると言われている。
これはトランプが前々から主張してきたことでもある。
つまり、「在韓米軍の撤退」に関しては、トランプと金正恩の明確な一致点なのだ。
むろん、マティス国防長官やポンペオ国務長官ら周囲はこれを否定しているが、トランプ自身は内心で実行するつもりではないか。
たぶん、北朝鮮は、交渉において、「非核化を段階化してその度見返りを貰う」という果実を勝ち取るだろうと思う。
さらに、トランプとの考えの一致により、その「見返り」の中で「在韓米軍の撤退」という条件も勝ち取るのではないか。
実は、金正恩は、米軍が約束違反を理由に攻撃してくる事態をよんでいるのではないか。そして、在韓米軍の撤退に生き残りを賭けた「活路」を見い出しているとしたら・・。
私は朴クネ大統領が辞任した直後という早い時期から「在韓米軍撤退」の可能性を訴え、「アチソンライン再び」という推測も述べてきた。
米朝首脳会談という屈辱の合意の裏で、「南北統一とは死ぬことと見つけたり」と、決死の行動に出る金正恩側の逆襲についても想定しておかなければならない。