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米朝首脳会談は「大阪冬の陣」後のエセ講和になるか

現状では6月12日の米朝首脳会談は開催される可能性のほうが高いようだ。

しかしながら、すでにご存知の方も多いと思うが、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長の高英起氏筋で、気になる情報が出ている。

一つは、「8月までには北朝鮮の戦争準備が完了する」ということ。

もう一つは、「米国を攻撃できるICBM『火星15』型が全国120ヶ所に配備されている」ということ。

いずれも北朝鮮の高官がソース。

「火星15」といえば、一連の弾道ミサイル実験において、もっとも最後のほうに発射された大型のもの。北朝鮮自身がICBMであると発表している。

高氏は情報の真偽について、「確認するのは極めて難しいが、北朝鮮の弾道ミサイルの配備状況については、米国ですらほとんど把握できていないと言われる」と記す。



アメリカは本当は北朝鮮の軍事機密を丸裸にしていない?

これは意外と(?)本当かもしれない。

トランプ政権はさも北の軍事施設を把握しているかのような口ぶり。しかし、正直に「よく知らない」と明かすと対北外交上不利になるので、虚勢を張っているだけかも。

実は、思い当たるフシがないわけではない。

昨年、国家安全保障会議(NSC)の元スタッフだったダグラス・パール元大統領補佐官は次のように言っている。

「どこにあるか見える標的は攻撃できるが、見えない標的は攻撃できない。北朝鮮の核・ミサイル施設がどこにあるか、我々は闇の中を手さぐりで探しているようなもの。だから米情報各機関が収集した情報は錯綜している」

先日のNHKの特番でウィリアム・ペリー元国防長官も次のように発言した。

「そもそも 我々は北朝鮮が いくつ核を持っているのか全く知りません。彼らが仮に核兵器を15発廃棄したと言っても まだ10発隠し持っているかもしれません。全ての核兵器を廃棄したかを検証するのは、もはや不可能なのです」

つまり、米国は、本当によく知らない可能性があるのだ。

というのも、偵察衛星による光学手法やシギント(電波・通信傍受)、亡命者の面談等による情報収集では、どうしても限界がある。

北朝鮮のような閉ざされた国の軍事機密を探る上で鍵を握るのがヒューミント(人間による諜報活動)である。しかし、どの国も成功していないと言われている。

北朝鮮は「出身成分」によって国民が細かく階層化され、機密に近づくほど相互監視・密告が行き届いているという。家族への連座制も普通に行われている。

中国の国家安全部や韓国のKCIAですらも、最高レベルの軍事機密にはアクセスできないらしい。それくらいスパイの潜入やエージェントの獲得が難しいという。

お粗末な日本の諜報力

だから私は「あの金正日の料理人だった藤本健二氏は戦後最高のスパイになれた人材だった」と言っている。

藤本健二氏を“戦後最大のスパイ”として生かせなかった日本
「金正日の料理人」ネタの続きです。 1994年7月、“建国の祖”金日成が死去しました。すぐに金正日が後を継ぎました。藤本健二氏はそんな人物と82年10月から顔見知りだったわけです。 しかも、金正日が最高指導者に就任した時には、専属料理人とし...

実は、彼は軍事情報もたくさん拾っている。それどころか、金正日やその他の幹部に付き添う間に、極秘の軍事施設にも出入りしている。

それを警察エリートが潰したのである。呆れてモノも言えない。いかにも戦後のエリートらしい、自ら国を守る意志のない、視野の狭い、杓子定規な連中だ。

日本の対外諜報もやはり二流だろう。最近、NHKの特番が、自衛隊の情報本部がシギントを担っているという、誰でも知っていることを、まるで極秘スクープであるかのように扱い、失笑を買った。デスクワークの内調の実力も変に誇張されることが多い。

やはり、実際に対象国の内部・中枢にスパイを潜り込ませて情報を取り、時には謀略まで仕掛けてみせる国こそ真のインテリジェンス強国だ。つまり、現場の泥臭い仕事こそ大事だと分かっている。その点、日本も戦前戦時中は凄かった、情報が生かされたかどうかは別として。時には歴史を動かし、戦局を左右する謀略を成し遂げている。

対して、北朝鮮はヒューミントにかけては一流である。日本の各界にエージェントを送り込み、世論操作や謀略をやっている。国力の弱さを諜報力でカバーしているのだ。

「米朝首脳会談→核査察」へと持って行きたいのは軍事的ニーズを満たすため?

話を戻すが、要するに、米国はうまくブラフをかましているが、本当は、内心では困っているのではないか、ということ。

米の偵察衛星は地表数十センチのモノが判別でき、ミサイルの移動式発射車両のタイヤやキャタピラ痕まで追跡可能と言われている。だから、地下基地の出入り口までは分かる。しかし、広大な地下トンネル・交通網、大深度地下基地の中まで透視できるわけではない。

ちょうど、人間から見てアリの巣の全容が分からないのと同じである。

そう考えると、やたらと核査察にこだわる気持ちも理解できよう。

つまり、「体制を保証してやるから・経済支援してやるから」と囁いて、とりあえず査察チームを北朝鮮の内部に送り込む。その際に、大量破壊兵器の数・位置・開発体制などを一度徹底的に調べて、現状では欠落している軍事情報の穴埋めをしたいのだ。

むろん、正確な情報を得るだけでなく、ある程度除去できればなお結構。

だから、米国としても、米朝会談を一応は成功させ、とりあえず核査察までは漕ぎつけたいのではないか。しかし、それはむしろ軍事的ニーズを満たすためである。

敵の生物・化学・核兵器に関する正確な情報を得てから戦うのと、知らずに戦うのとでは雲泥の差がある。また、それらの兵器を一定除去してから戦うのと、せずに戦うのとでは、もっと違いがある。端的にいえば米国が一番嫌う「自軍の犠牲」に関わってくる。

「アメリカは北朝鮮と戦争をしたくない」というのはウソだろう。

トランプ個人も、本音では独裁政権を打倒して、ついでに軍産複合体を儲けさせて、自身も歴史的な英雄になりたいのだと、私は推測している。

しかし、自軍の犠牲者はなるべく減らしたい。というか、一定以上(たとえば1万人以上)の犠牲者が出ると、英雄どころか、逆に非難の的になる。

アメリカ人的には、これが一番耐えられない。

旧日本軍の陸海軍将官の中には、部下を大量に死なせてもケロっとしている人が多かったが、米国では「敗軍の将」は自責の念から憔悴しきって廃人になる人もいる。

トランプも政権の面々も、戦争が嫌なのではなく、これが嫌なのではないか。

北朝鮮の空約束作戦は必ず裏目に出て、米の軍事行動の口実になる

だから、トランプ政権が狙っているのは「エセ講話」ではないか。

ちょうど、豊臣家を攻め滅ぼすために、徳川家康がわざわざ講和したのと同じ。

老獪な徳川家康は、豊臣家の身の安泰を約束して、大阪城の外堀を埋めさせ、しかる後に言いがかりをつけて攻め滅ぼした(この例えは以前にもしたが)。

今回は、情報面の穴埋めであり、一定の大量破壊兵器除去である。

そのためにトランプ政権は「米朝不可侵条約」まで結んで、金正恩一族と独裁政権の安泰をいったん保証するかもしれない。

しかし、そんな保証など、さして意味はないのだ。

なぜなら、北朝鮮が約束を破ったら、その条約も即無効になるからである。

そして、北朝鮮は必ず破る。なぜなら、最初から完全非核化する気はないから。

これについては、私はずっと同じ事を説明してきた。

米国は「核兵器やミサイル兵器について正直にすべてを公開せよ」と要求している。だが、北朝鮮はすべてを差し出すつもりはない。必ず一定数を隠そうとする。

つまり「空約束」する。北朝鮮は必ず嘘をつく。絶対にごまかしにかかる。

重要なことは、トランプ政権もそんなことは先刻承知ということだ。

ここがポイントだ。そして違反を口実として、米朝不可侵条約の無効化を宣言し、攻め滅ぼすのである。あとは西側資本を入れて国を再建させるだけ。

このやり方については、下の記事でも述べたことだ。

今度のアメリカの戦争のやり方は怖いくらいに上手すぎる パート2
前回は「金正恩の役者ぶり」を称え(?)ましたが、しかし役者度でいえばトランプのほうが一枚上手だと思います。 なぜなら、彼はアメリカの真の方針を完璧に隠している。 前回の記事の締めくくりで、アメリカの本音は北朝鮮との開戦であると述べました。 ...

北朝鮮は長引いた経済制裁で弱りきっている。その上、核査察を利用して軍事機密を丸裸にする。そこまで状況を持っていって、そこから実戦に持ち込む・・米軍としては一番楽に勝てる方法であり、自軍の犠牲者を最小化できる方法だろう。

金正恩は「こんなことなら昨年に開戦しておくんだった、米帝にまんまと一杯食わされた」などと痛恨の念に苛まれながら死ぬことになる。

ありえないことだが、万一、北朝鮮が律儀に合意を守ったとしても心配ご無用。

「査察を妨害された」とアナウンスするだけでいい。米国がそう言えば、それが“真実”になる。誰も、嘘つきの北朝鮮の言い分なんか信じない。

米国が北朝鮮以上のでっち上げ名人であることを忘れるべきではない。対イラク戦争の時も、大量破壊兵器があると嘘をついて開戦した。

だから、前にも記したが、米朝首脳会談はキツネとタヌキの化かしあいなのだ。

Takaaki Yamada: