私は昨今の「米朝融和ムード」とは正反対の記事を書いた。
ムードに流されている人々は、次の現実を忘れていないだろうか?
第一に、アメリカは一貫して北朝鮮に完全非核化を要求している。
第二に、アメリカはそれに対して経済支援はしないと明言している。また、それが達成されない限り、経済制裁も解除しない方針だ。
以上の姿勢に何ら衰えはない。
常識的に考えて、仮に金正恩政権を生かすつもりなら経済支援をするはずではないだろうか。そうすると、アメリカの本音が別のところにあるのが分かる。
謎を解く鍵は次の言葉だ。トランプは「北朝鮮に経済支援しない」と明言する一方で、「将来の北朝鮮の繁栄」を謳っている。なんでこんな矛盾したことを言うのか。
実はアメリカの真の立場からすれば何も矛盾はない。要は「独裁政権が倒れて普通の国になれば、西側の資本が入ってきて繁栄するぞ」と暗に言っているだけなのだ。
つまり、金正恩体制が倒れることは最初から予定の内なのである。
「カラー革命」や「アラブの春」の背後にいたアメリカ
しょせん、アメリカが独裁政権を生かしておくわけがないのである。
東欧の「カラー革命」や、中東から北アフリカ諸国にかけての「アラブの春」を思い起こしてほしい。表向きは「社会の内部矛盾に怒った市民が自発的に決起した」ということになっているが、裏では米国務省、CIA、USAID(合衆国国際開発庁)、ソロスのオープンソサエティ財団などが市民を扇動して、政権打倒に動いていた。
なんで北朝鮮だけ例外などということがあるだろうか。
もっとも、独裁者(一族)であっても、西側の支配下に入り、自国の資源を西側資本に売り渡す契約をするなら、しばらくは丁重に扱ってもらえるようだ。その典型がサウド家。あと、カザフスタンのナザルバエフもそうだろう。彼はたぶん共産党時代から西側のエージェントのはず。だから、金正恩も国内のウランやレアメタルなどの鉱物資源を欧米資本に総取りさせれば、打って変わって丁重に扱ってもらえるかもしれない。
しかし、中国にとって北朝鮮のウラン資源が垂涎の的である以上、それは中国が絶対に許さないだろう。アメリカもまた中国との戦いに舵を切った以上、彼らを利するつもりはない。北朝鮮問題はそれ単独ではなく、米朝合戦の陣取りゲームでもある。
北朝鮮も他の独裁国家と同じように打倒されるだろう。
独裁国家打倒とはいえ、しっかりした大義名分が必要
北朝鮮だけ許されるなどということが、あるわけがない。だが、アメリカとしても、いかに相手が独裁国家とはいえ、それだけを理由に相手を殺せるわけではない。
アメリカは対イラク戦争の時にそういう振る舞いをして国際社会との摩擦を引き起こし、結果的に自身も疲弊した。近年は中ロも反抗的だし、やはりアメリカといえども国際社会を説得できる材料がなければ安易に軍事行動を起こすことはできない。
しかも、北朝鮮は瀬戸際外交のプロだ。極限で自制し、公然と内外の市民を攻撃せず、また先制攻撃もしない以上、米の開戦の口実は極めて限られてくる。
端的にいえば、北朝鮮を攻撃するためには、もう一回、約束を破らせる以外にない。
それについて詳しく述べたのが前回の記事だった。
「なぜ『非核化の約束を破った』が米の軍事行動正当化の理由になるのか?」
それによってアメリカは国際社会を説得できる大義名分を手にできるわけだが、その後、どの時点で軍事行動に乗り出すかを見極めるのは難しい。
アメリカとしては、軍事的なニーズからも、とりあえず「核査察」までは持っていきたいのではないかと私は考えている。北朝鮮の軍事施設には米軍にも謎の部分が多いらしい。その上、なるべくなら一定の大量破壊兵器も接収しておきたいはずだ。
だから、最初は鞭だけでなく飴も使うし、それが甘いとか、妥協に見えるかもしれない。核査察までは、そんなふうに「両者の馴れ合い」が続くかもしれない。
友好ムードを演出するアメリカの腹の底
そういえば、トランプは最近、やたらと金正恩を持ち上げてみせ、米韓合同軍事演習の廃止などの譲歩もしている。表面的には、相手に妥協したようにも見える。
これに対して世間はかなり誤解している。私は北朝鮮が合意を翻すための「口実」を日米が潰しているのだと考える。安倍総理の非核化資金提供も一役買っている。
つまり、「非核化のための金がない」だの「米韓が軍事挑発している」だのといった「言い訳」ができないように、日米が尽力しているのだ。そうやって相手が一定の非核化に着手せざるをえないよう、巧妙に追い込んでいるわけだ。
これを「米朝和解」などと見なす向きが多いが、これから一方的に非核化の実務をやらせるのに、なんで相手を非難しなければならないのか? その上、「核査察」という形で相手の内部に入り込むには、褒めたり、おだてたりすることも必要である。
だから、アメリカの思惑からすると、「譲歩」「融和」「友好」は当然である。
しょせんは、アメリカが北朝鮮を型に嵌めるためにやっている方便だ。表面の友好ムードだけを見て、両国の根本的な立場の違いが埋まったと錯覚してはならない。
今、非核化詐欺をやっている北朝鮮は、そうやってトランプからおだてられて、実行を迫られて、ほとほと困っているはずだ。思いのほか“友好的な”トランプとアメリカに安堵して、ずるずると一定の「核査察」を許してしまうかもしれない。
しかし、我ながら例えが昭和だが、これはジャイアンがスネ夫のファミコンを狙って、「おれたち親友だぜ」と“仲良く”しながら家の中に上がりこもうとしているようなものである。
スネ夫に待っているのは、ファミコンを奪われた上、殴られる運命である。
だから、どこかの時点で、必ず米朝の馴れ合いは終わり、一転して両国関係は悪化する。散々説明してきたように、両者の立場は根本的に、決して相容れない。
第一、北朝鮮は最初から「完全非核化」などやる気はないし、政治的にもできない。
アメリカとしては「可能であれば」核査察まで持っていきたいのだろうが、無理と分かれば一転して非核化詐欺をがなり立てて金正恩を刺しにかかるだろう。