さて、「自由朝鮮」を名乗る臨時政府ができたことについて前回触れた。
いろいろな意味で興味深い点がある。
たとえば、自由と民主主義と人道主義を掲げて北の独裁政権の打倒を掲げているが、他方で「金ハンソル」を擁しており、王朝の論理からいっても後継者レースに参入できる資格がある。つまり、儒教的な道徳的正当性だけでなく、血統の正統性をも打ち出せる。
むしろこちらのほうが「白頭山血統」のほうなのだ。
事は金正恩が異母兄たる金正男を暗殺した時から始まったようだ。
暗殺された金正男と生き残った“四代目”の金ハンソル
思えば、日本で金正男(キム・ジョンナム)が周知されたのがこの時だった。
偽パスポートでディズニーランドに行ったら捕まりました、という事件。
まあ、実際はもっと複雑で、密輸だの暴力団だのも絡んだ件なのだが、当時外務大臣だったアホ・無能・下品の三拍子が揃った田中真紀子が慌てて北京へ退去させた。
当時、北朝鮮の最高指導者は二代目の金正日で、後継者はまだ公式には決まっていなかった。だから、金正日の長男が勝手にこちらの網に飛び込んできたわけだから、本来なら滅多にない幸運であり、拉致問題解決の上でも人質として十分取引材料となりえる。
しかも、「公式」には自称金正男で、身元不詳のおっさん。いらくでも長期拘留が可能なのである。だいたい、マスコミに公開する必要もない。この男は北朝鮮のあらゆる秘密にも通じている。CIAと合同調査すれば、どんな秘密でも吐かせることできただろう。
ところが、即逮捕公開、即強制退去ときた。もうアホかと・・。
北朝鮮利権は元々、田中派のもの。大方、慌てた朝鮮総連が旧知の大物政治家に頼み、脳なしで汚職まみれの汚大臣様が裏で釈放に動いた、というのが事実ではないか。
さて、この金正男は今から約2年前、2017年2月13日、クアラルンプール国際空港で北朝鮮の工作員に暗殺され、改めて金正恩政権の非道さが浮き彫りになった。
言ったように、金正男は金正日の長男。正妻の第一子(のはず)。
一方、金正日と別の女性(高英姫 コ・ヨンヒ)との間に生まれたのが金正恩。
まったくの余談だが、「金正恩の本当の母は横田めぐみさん」というデマが流れているので要注意。どうも北朝鮮を軍国日本の後継者と印象付けようという工作に思えるが・・。
血統的には金正日の後継者たりえる金正男は、中国が「万一のカード」として同国の情報機関がガードしていたと言われている。だから、金正恩は、中国との関係悪化を覚悟してまで、自分の地位を脅かしかねない金正男を消したと考えられている。
ちなみに、金正日の専属料理人だった藤本健二氏によると、かなり早い段階から、金正日は、覇気のある金正恩のほうを後継者として決めていたようだ。
しかし、金正男は消されたが、まだ息子の金ハンソルが生き残っている。
この坊ちゃんをガードしているのが、先に「自由朝鮮」を立ち上げた「千里馬民防衛:チョルリマ・シビル・ディフェンス」(略称CCD)という組織らしい。
正体不明で、韓国情報機関と繋がっているという見方もある。
もしかして、本当のバックは中国かもしれないし、CIAかもしれない。
金ハンソル氏は、初代・金日成の血を引いている。
しかも、二代目・金正日の正妻系。
金王朝はまだ三世代だから、金ハンソルはまだ「傍流」というほど影の薄い存在でもない。金正恩が亡くなれば、十分に後継者に就任できる存在感がある。
この点だけを見れば、民主主義というより、ほとんど王朝の跡目争いに思える。
改めて「ベストの策は北朝鮮を内戦に引きずり込むことだ」
さて、臨時政府という器を作ったのはいいが、何もしなければ、かの「上海臨時政府」の二の舞である。戦後の韓国のみたいに、エセ戦勝国・エセ連合国で終わらないためにも、可能な限り北朝鮮と干戈を交えておかねばならない。
ここで韓国が保守政権でないのが致命的である。
かつての米韓同盟なら迷わず「自由朝鮮」を支援したであろう。補給能力では米韓が圧倒している。いったん北朝鮮北部に「解放区」ができれば、そこに武器・弾薬・食糧などをどんどん供給し続けることができる。日本も補給任務にヘリ空母を試験投入できたかもしれない。意外と義勇兵志願者も少なくないと思う。在日コリアンの中からも出るだろう。そういう人材を集めて、米韓軍がゲリラ兵として訓練すればいい。
そういえば、私は約一年前に、こんな記事を書いていた。
本来、このタイミングで韓国側にとってベストの策とは、日本の策に呼応して、金正恩独裁体制を内部から揺さぶることのはずだ。
つまり、最上策は朝鮮人自身に体制を打倒させることだ。要するに、シリアで外国の支援を受けたアサド政権打倒の民兵が立ち上がったのと同じ構造である。
文在寅大統領に謀略のセンスさえあればそれができたに違いない。
北朝鮮は韓国との国境線付近に戦力を集中しているため、北部が比較的手薄になっている。だから、北部の複数の箇所で反乱の火の手を上げる。
最初の決起グループは、韓国の特殊部隊員や諜報員・工作員が主導する形でもいい。あとは武器・食糧・資金などをどんどん供給していく。
「真人民軍」とでも名乗ればいい。「人民を苦しめる独裁体制を打倒して真の共和政を実現する」というスローガンならいけるかもしれない。北朝鮮のような国ではとくに食糧が“武器”になる。米、袋麺、ビスケットの類いなど、とにかく何らでもいいから反乱軍に食糧を撒かせる。対して、食糧を配給できない政権側は人々から見限られていく。
北朝鮮は北部が手薄だし、海岸線も入り組んでいるので、補給路には事欠かない。潜水艦や航空機などを通して物資を補給し続けることができる。西側の高性能小火器やトヨタのランドクルーザーなどをどんどん下ろしていく。複数箇所で決起することにより、政権側の戦力を分散することができる。
人民軍将兵には食糧・金・論功行賞などをエサにして寝返りを呼びかける。こうして地方の役所と軍基地を順番に落とし、解放区を広げていく。最終的には首都を包囲し、政権直下の親衛部隊を孤立させる・・。
金正恩にとって、こんなふうに内戦に引きずり込まれることが一番恐ろしいはずだ。また、この方法は費用対効果も高いに違いない。だから韓国にとって最善策のはず。
だが、言ったように、文大統領では駄目。一国の指導者たるもの、やはり「悪」の顔もなければならない。彼は悪い意味での善人だ。
対して、かつてのパク・チョンヒやチョン・ドファンのような軍人出身者なら、こういった謀略を是としたに違いない。
国際社会による経済制裁で北朝鮮が弱っている時こそ、本当はこのような政権転覆の謀略を発動するチャンスなのに、文大統領はくだらない反日ばかり実行している。
一年あまりが過ぎて、本当に「人民を苦しめる独裁体制を打倒」すると声明する組織が現れた。かつての軍人出身の政治家なら、チャンスと考えたに違いない。
私に言わせれば、米韓軍と北朝鮮との全面戦争よりは、こちらの選択のほうがはるかにマシである。
しかし、文在寅政権だと、逆に、彼らを北に売り飛ばしてしまう心配すらある。
そうでなくても、文大統領は、北朝鮮とのせっかくの融和路線を妨げるとして、「自由朝鮮」の存在のほうを煙たがるだろう。そして、当の韓国が支援しないのであれば、日米としても勝手な支援はできないので、せっかくの臨時政府だが、まことに気の毒である。