見直されるべき藤本健二情報の凄さ

オピニオン・提言系
出典:藤本健二著『金正日の私生活』(扶桑社)より。果たしてこの二人は・・?




金正日の専属料理人だった藤本健二氏は、2004年刊行の『金正日の私生活』(扶桑社)の巻頭、次のようなイラストを掲げている。

文字の部分を起こしてみる(*人名のカタカナ表記は筆者による)。

金正日の家族については世界的に秘密のベールに包まれていて、北朝鮮国民ですら夫人の存在をよく知らないという最高機密である。

私はそんな彼らと十三年間ともにすごしてきた。

金正日には複数の妻がいると言われている。

そのうち男の子を産んだのは高英姫(コ・ヨンヒ)と成蕙琳(ソン・ヘリン)の二人。

しかし、成蕙琳の長男、金正男(キム・ジョンナム)は二〇〇一年五月の日本密入国に失敗したこともあり、後継者としては考えられない。

なので一般的には金正哲(キム・ジョンチョル)が金正日の後継者として有力視されていると言われている。しかし、私は金正日が「ダメだ、あれは女みたいで」と口にしているのを聞いたことがある。

一番気に入っていたのは、体格も長男とちがってがっしりした次男・ジョンウン王子であった。ジョンウン王子とヨジョン姫は存在すら表向きには明らかにされておらず、筆者の記憶をもとにイラストにおこしたものである。

つまり、こういうことだ。

14年前の少年少女時代の肖像だから、あまり似ていないかもしれないが・・。

藤本氏の記憶の中で二人が美化されてしまった面もあろう。

いずれにしても、今ではこの二人が北朝鮮を動かしている。



日本の情報機関の絶望的な情報センス

これは当時の時点では、ものすごい情報である。

なにしろ、日本の仮想敵国の最高指導部に関する情報だ。

しかも、西側各国の情報機関を出し抜いたと思われる。おそらく、中国の国家安全部は知っていたと思うが、KCIAやCIAはこの藤本情報で知ったのである。

しかも、後継者に関する情報は、彼の仕入れた豊富な情報の一例でしかない。

ところが、国内の情報機関はどこも彼のリクルートに動かなかった。それどころか、警察は彼をくだらない微罪で逮捕して、貴重な情報源を自ら潰してしまった。

藤本氏は寿司職人として頻繁に帰日し、必ず築地に寄って魚を仕入れていた。

よって、この場所を情報機関との接点にできた。ここで彼を獲得して、以後もここで情報をやり取りするようにすればいい。滞在中の藤本氏を総連がマークしていたから、たとえば、築地のトイレに二十分ほど入って、何でもいいから、新しく知りえたことをメモに書いてもらう。その直後、魚の卸店に立ち寄って、そのメモを渡せばいい。

これは一つの方法だが、密かに情報をやり取りする方法は他にもいろいろある。

しかし、内調も、外務省も、警察も、自衛隊も、公安調査庁も、どこも彼の潜在的価値を見出せなかった。この絶望的な情報センスは何なのか?

私は、根っこにあるのは、対米依存だと思う。日本は安全保障をアメリカに丸投げしている。何かあったら、アメリカに頼ればいい。それがプライオリティー。

だから、自分の血と努力で、大きなリスクを犯してまで、独自の情報を取ってこようという発想や意欲がない。ヒューミントの価値が分からない。

また、「一介の寿司職人にすぎない」などと、どこか藤本氏のことを侮っていたのではないか。実力ではなく肩書きで人を判断するのは一般人の悪い癖だが、インテリジェンスのプロフェッショナルならそんな真似は絶対にしない。なぜなら、あくまで情報の価値が判断基準だからだ。価値さえ高ければ、相手がロバだろうと何だろうと構わない。

改めて私のほうで、藤本情報の凄さを幾つか拾っていこうと思う。

文庫版 金正日の料理人 (扶桑社文庫)

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