今回の米朝共同声明に対する米朝の見解の相違は異常なほどだ。
声明では「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)という文言を盛り込むことに失敗したとの見方があるが、ポンペオ国務長官は「完全非核化」という表現に「不可逆的」の意味も含まれていると明言している。
また、トランプは「強力な検証をやる」と記者会見で述べている。
そもそも過去の国連安保理決議や6カ国協議の声明でもほぼ同様のことが謳われており、今回の米朝合意がそこから後退することはありえない。
つまり、アメリカは非核化で妥協する気はさらさらない。それに関して政権内で意見の対立もない。ポンペオとボルトンが対立しているというのはフェイクニュースだ。
対して、北朝鮮が「完全非核化」をやる気がないのは、今の時点でも見え見え。
朝鮮中央通信は一貫して「朝鮮半島の非核化」という表現を使っている。対内的にも「わが国はこれから完全に核放棄する」とは、ただの一言も言っていない。
「朝鮮半島の非核化」とは何なのだろうか? どうやら、「西側の核保有国は南朝鮮の後ろ盾をやめて朝鮮半島から出て行け」という意味らしいのである。
平たく言えば、アメリカを中心とした国連軍・在韓米軍の撤退と以後の不干渉だ。くるくると態度を変える北朝鮮だが、この方針だけは一貫して内外に押し通している。
このように、同じ共同宣言に対して、米朝それぞれが自分流の解釈をしている。
米朝両国は早ければ「非核化工程表」の協議で再び対立する
何度も言っているが、どだい、金正恩にとって、莫大な経済的見返りもなしに、30年かけて築き上げた国家資産を破棄(=完全非核化)することなど不可能。
しかし、今回、対北交渉したトランプ政権の面々は、分かっていてトボけているのか、それとも本当に鈍いのか(まさかそれはあるまい)、北朝鮮のいう「朝鮮半島の非核化」を、北朝鮮自身の非核化の約束というふうに解釈している(笑)。
ちょうど、今はジャイアンが「お前の家の完全非核化でオレたち合意したよな? なあ!」と言っているようなもの。今回の米朝“和解”とは、そういう和解である。
しかも、トランプは「強力な検証」すなわち「核査察」にできるだけ早く取り掛かりたいとしている。その具体的な内容と時期を盛り込んだのが「非核化工程表」だ。
これから両国の高官級で、この「非核化工程表」の協議に入ることになっている。
「何々をいつまでにやる」という具体的行動のプランがこの工程表だから、共同声明みたいな理念とは次元が異なる。北朝鮮もこれまでのようにゴマカシようがない。
だから、早ければこの時点で両国の相違が一挙に表面化し、必ずトラブルになるはずだ。もしくはその「実行・査察段階」でトラブルだろう。
トランプは生粋のビジネスマンで、有言実行男だから、相手が「約束」を履行しなかったと知ったら、とたんに態度を180度かえるだろう。
しかも、トランプは「金正恩氏を信頼している」などとおだてている分、裏切られたと分かった時は、己の失策を認めたくないために、より相手を責め立てるだろう。
きっとトランプは「裏切られた、騙された!」と喚き始める。
対して、北朝鮮もまた、例によって相手に対する非難声明を始める。
その時、今の米朝和解ムードは吹っ飛び、一転して緊張関係になる。
しかも、「後がない」だけに、もっと怖い。
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