さて、前回。
日本帝国は「ハルノート」を突きつけられた瞬間に暴発したが、北朝鮮は「完全非核化」という「対北版ハルノート」を突きつけられても「空約束」という形でいったん飲むフリをしたので、曲がりなりにも「交渉」を継続する形になっている、と述べた。
しかし、将棋でいえば北朝鮮が詰んでいる状態には変わりない。
2018年6月、第1回米朝首脳会談が開かれ、北朝鮮が非核化について努力することに関して「合意」がなされ、一転して米朝融和ムードへと転換した。
例によって、自称リベラル派は「日本が取り残される」と主張し始めた。
だが、彼らはほとんどの場合、「逆神」の指標でしかない。
今度ばかりは北朝鮮の「非核化詐欺」も通用しなかった
私はこの時から「空約束であるから結局は破綻する」と散々書いてきた。そして、当時のアンケートによると、日本国民の7割くらいも北朝鮮の約束を信じていなかった。
つまり、リベラル派の知識人よりもごく普通の国民のほうが慧眼なわけだ。
それまで北朝鮮は、非核化の約束だけをして国際社会から援助を騙し取ってきた。
たぶん、今回もその成功体験が通用するとタカをくくったのだろう。
とりあえず、約束だけはしておいて、交渉の段階でずるずると寝技に持ち込んで、援助を引き出しつつ、突然キレたり、ゴネたりして、相手を自分のペースに巻き込む。
そして、最終的には、非核化の実行をうやむやにしてしまう・・そんな腹積もりだろう。
しかし、今回ばかりは通用しなかったようだ。
金正恩政権は、非核化の実行を取引材料にして、まず国連決議に基づく経済制裁を解除させることを目論んだ。だが、2019年2月末の第2回の米朝首脳会談において、トランプ大統領はきっぱりと「完全非核化しない限り解除しない」と断言した。
しかも、ロイターによると、ほとんど「リビア方式」を突きつけたらしい。
北朝鮮的には、人質解放とか、寧辺の古い核施設の爆破とか、相手に見返りを与えたつもりであるから、アメリカから何のお返しも貰えなくて、不満タラタラである。
そして、批判の矛先を、トランプの側近のポンペオとボルトンに向け始めた。
だが北朝鮮は“延命”の間に「最強の友」を得てしまった
しかし、ここが大事なポイントであるが、「対北版ハルノート」後も北朝鮮はずるずると延命の道を選択し、その結果、経済制裁によって国力は衰退する一方であるが、他方で、それによって「幸運」とも言える大きなメリットを手にしつつあるのも確かだ。
それが、アメリカを「共通の敵」とする中国との同盟関係である。
周知の通り、アメリカは本気で中国を潰しにかかり始めた。
航行の自由作戦、中国を「敵」認定したペンス演説、台湾を認める姿勢、ファーウェイ締め出しと副会長逮捕、そして全中国製品に対する25%の関税・・・。
中国はついに「貿易戦争」という用語を使い始めた。
トランプ政権内でも「西洋文明 VS 異質文明の戦い」という十字軍的発想が出ている。
もともと、金正恩と習近平は、最高指導者に就任した当初、めちゃくちゃ仲が悪かった。だから当初の習政権は、朝鮮半島におけるパートナーをほとんど朴クネの韓国に乗り換えていたくらいである。習政権はアメリカの対北制裁にも賛成していた。
その中朝が「対立」から「接近」へと舵を切ったのが2018年から。
この辺の経緯は以下の記事に記した。
先日、不満を募らせた北朝鮮はついに「弾道ミサイル発射」を行った。これは国連決議に違反する。近いうちに北朝鮮は元の「反米」へと逆戻りするだろう。
しかし、今度は決して「孤立」しているわけではない。
ずるずると時間を稼いでいるうちに、中国が完全に反米へと舵を切った。したがって、習近平と金正恩がアメリカを共通の敵として結ばれるのは時間の問題である。
最強の「友」を得られるのだから、金正恩的には忍耐した甲斐があったろう。
先日はプーチンにも接近したが、ロシアとの首脳会談は不調に終わった。
よって、今の北朝鮮にとって益々、中国の存在感が大きいはずだ。
日米視点では、グズグズしている間に事態が悪化したとも言える。
このように、金正恩は再び日米に対して強気に転じているから、安倍総理が拉致問題等について金正恩と首脳会談したいなら、中国に対して何らかの貸しを与えて、習近平から金正恩に対して働きかけることが、実現の一番の近道だろうと思う。
いずれにしても、この「新中朝反米同盟」は、私の予想では、これから中東で始まる戦争にも大いに関係してくるはずだが、それは次回に回したい。