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北朝鮮による日本人拉致問題を解決する「山田案」・後半

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6・中国が対日急接近を始めた背景

7・ドアから顔をのぞかせた中国に対して見返りをケチるな

8・日中新時代をもたらす戦略的互恵外交・その1

9・日中新時代をもたらす戦略的互恵外交・その2

10・戦略的互恵外交は戦後レジームを終わらせる

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6・中国が対日急接近を始めた背景

小泉首相の時代、日中関係は国交樹立後最悪と称されたが、06年9月から急速に改善へと向かった。05年3月の反日デモとそれに対する当局の対応、また日本に対する外交姿勢に見られるように、一時あれほど反日に狂奔していた国家が「戦略的互恵関係」なるものを提唱し、今では気持ち悪いくらいにわが国に擦り寄りはじめた。

このような変化は、いかなる事情によってもたらされたのだろうか。

ひとつにはアメリカの対中姿勢の変化であり、中国の対日融和政策への転換もその玉突きの結果としてもたらされたと考えられる。

06年3月、ペンタゴンは新たなQDR(向こう4年間の国防計画)を発表し、中国がアメリカを攻撃する能力を持ったことを脅威ととらえ、対抗策を講じるべきだとした。中国の軍事力増強が毎年二桁を維持し、イランやベネズエラ、キューバなどの反米国家へ接近していることもアメリカを警戒させる要因となっている。

さらにその翌月にワシントンで行われた米中首脳会談では、胡錦濤国家主席が信じがたいほど屈辱的な扱いを受けた。中国側の再三の要請にもかかわらず、アメリカ側は公式晩餐会で胡主席をもてなさなかった。胡主席の演説中には、記者団に紛れ込んでいた法輪功の信者がずっと喚き散らし、それが中国を除く全世界に実況放送された。胡主席は大中国の指導者としてふさわしい扱いを受けられず、完全に全世界の前で「面子を潰された」のである。少なくとも中国指導部はそう受け取り、内心で非常に憤ったはずである。

中国としては、この米中首脳会談でかつての米ソのような「世界を二分する超大国の関係」を世界に印象付けたかったが、完全にその出鼻をくじかれた格好になった。アメリカは中国をイコール・パートナーとは見なさなかったのである。

中国がアメリカの出方を読み違えた原因は、クリントン・江沢民時代の米中関係を引きずっていたからだ。当時から中国は「米中二大巨頭体制」が到来したものと錯覚し、アメリカの下僕にすぎない日本などはいくら侮蔑しても構わないとタカをくくっていたフシがある。それが05年の愚かしい反日デモと中国当局によるそのフォローにも表れていた。

だが、アメリカは世界における「唯一の覇権国」たることを基本戦略としている国である。中国を対等の地位に登らせる気などさらさらない。とくにエネルギー資源の争奪戦が両国の間で始まっており、このことがアメリカをして中国をライバル視する主因になっている。

アメリカの保守派の学者として有名なミアシャイマー博士の「オフェンシブ・リアリズム」によると、南北アメリカ大陸における「地域覇権国」であるアメリカは、他の地域での覇権国の出現を常に阻止しようという性向を持つという。それゆえ「他の地域に覇権国が出現することを防止する」ことが必然的に基本戦略となる。これは「アジアで日本が強大になれば中国を支援し、逆に中国が強大になれば日本を支援する」というアメリカの対東アジア外交の歴史を見ても、真実であることは明白だ。

おそらく、訪米で面子を潰された胡錦濤氏は、改めてアメリカこそが中国の宿命の敵であるとの認識を余儀なくされたと思われる。そして自分たちが夜郎国的な錯覚をしていただけでなく、日米両国を完全に敵に回した現状に対しても「しまった」と後悔したはずである。中国の侮日外交は完全にカウンターと化して、日本人を日米同盟強化へと追いやった。日米だけで世界経済の4割を占める。今やこの同盟関係にインドとオーストラリアも合流しつつある。

しかも、日本人の中台関係に対する見方はシーソーの原理に近いため、中国に対する敵意が高まった分、台湾に対する同情が強まった。つまり、中国は自ら「両岸統一」の障壁をも高くしたのである。世界の半分をあっという間に仮想敵に回しつつある中国は、自らの失策を悟り、世界戦略を根本から見直す必要に迫られた。

日本人は日米同盟の対抗軸として無意識のうちに日中関係を意識するが、実は中国人も同じなのである。アメリカとの関係が悪化すれば、彼らも無意識のうちに「同じ東アジア人としての連帯」を意識する。つまり、自然と日本に対して友好的になる。よって「戦略的互恵関係」なるものには、「日本篭絡」と「日米分断の計」の意図も含まれている。彼らは将来予定している台湾併合のためにもこれを欠かせない作業と考えているはずだ。

むろん、このような国際環境の変化だけでなく、対日接近のより大きな要因として考えられるのが中国の国内事情の変化である。

象徴的だったのが06年9月の上海市党委書記の解任劇だ。これは水面下で続いていた胡錦濤閥と上海閥との政治闘争の一応の決着を示している。軍権(中央軍事委員会主席)を掌握してからもなお上海閥からの抵抗を受けていた胡錦濤政権が、ついに名実共に真のガバナーとしての権威を確立したことを中国内外へ示す絶好のデモンストレーションであった。

周知のとおり、上海閥を率いてきた江沢民こそが反日政策の中心人物であり、彼が力を持つ間、胡錦濤氏は簡単に反日政策を緩和することができないと観測されてきた。実際、胡氏の先輩である胡耀邦元総書記が政敵から「親日派=売国的」として指弾され、失脚させられた実例も過去にある。05年3月の反日デモも、上海閥が胡氏に国際的恥をかかせるべく使嗾したとの見方もある。

元来、胡氏は胡耀邦の政治DNAを引き継いでいるので決して「反日」ではないはずだが、上海閥が力を持っている間は揚げ足を取られないためにも反日であり続けねばならなかった。日本に対して友好をアピールできるようになったことは、以前ほど江沢民に気兼ねする必要がなくなったことを意味する。

ただし、07年1月には人工衛星をミサイルで撃墜する実験が軍部によって強行されており、これもまた国際社会の前で胡氏に面子を失わせるのが目的とすれば、権力の掌握に何らかの不完全さがあるとも見て取れ、引き続き注視の必要性がある。おそらく党大会を機に軍部のトップの首を挿げ替えればいいというレベルでは済まない話のはずである。

また、その第17回共産党大会が選出した政治局常務委員の新陣容を見る限り、胡錦濤主席が依然として微妙なバランスの上に立っていることが察せられる。まず上海閥が4名もいる。呉邦国・賈慶林・李長春の3名は江沢民の腹心であり、新メンバーである上海市党委書記の習近平は上海閥の若手ホープであるという。しかも胡氏に寝返った曾慶紅は引退を強いられた。胡錦濤閥側も自らの後継者として共青団出身の若手ホープである李克強を常務委員会に入れたが、近い将来には習近平との激しい権力闘争が予想される。

これらの新陣容は明らかに妥協の産物であり、上海閥の影響が今なお完全に払拭されていないという観測の正しさを証明するものである。

上海閥との権力闘争に関しては興味深いことも囁かれている。胡錦濤主席が北京・天津を政権の経済基盤とする腹積もりではないかというのだ。中国の中央政府は各地方からの上納金で運営されているため、経済力のある上海が中央に対しても伝統的に巨大な発言力を有してきた。首都と上海との関係はちょうど日本の江戸と上方のそれに似ている。

上海人脈の跋扈に散々手を焼いた胡氏は、北京・天津を巨大経済圏に発展させるためにも海外の直接投資を必要としており、このことが胡氏をして日中関係の改善に急がせた要因のひとつではないかという見方もある。

対日姿勢の変化には、胡錦濤政権の掲げる政治目標も大きく関係している。第17回中国共産党大会を経て政権二期目を迎える胡氏は、「科学的発展観」を新たな指導理論として位置づけ、持続可能で社会各層の調和のとれた「和諧社会」の構築を目標として掲げている。具体的にはそれまでの経済成長一辺倒の路線を軌道修正し、都市と農村の貧富の格差を縮小し、社会保障を充実させ、公害の防止・省エネ技術の充実といった環境保護重視の姿勢を政策として打ち出している。

こういった政策は、日本が過去にずっと取り組んできたことであり、日本は国家として豊富な経験とノウハウを蓄積している。よって、中国が二期目の課題として掲げる政治目標を達成するにあたって、日本のガイダンスやノウハウ、あるいは投資の継続などが不可欠であると考えられる。実際、中国の新しい社会経済政策はまるで「日本」を目指しているかのようだ。今は爆発的な経済成長を遂げている中国であるが、いずれ低成長時代へと移行する。人口増加も今から20年後にはピークに達し、それ以降は減少に転じて少子高齢化社会を迎えるという。その宿命的に訪れる未来において、中国は成熟した近代国家へと変貌していなければならない。こういったプロセスは過去に日本が経験してきたことである。

しかも、日本は同じ東アジアに属し、同じ人種であり、同じ漢字を使用する。中国にとって日本は、まことに手っ取り早いサンプルであろう。すでに日本の政官界は、中国からその過去の経験のデータの提出を各所で求められているという。中国における最近の市場経済に対応した法制定・改正(会社法や証券法、独禁法や物権法など)も日本のそれを参考にしているそうだ。

いずれにせよ、以上のような国際・国内事情の変化により、中国は「日本と仲良くしたほうが国益にかなう」と判断した。これらが対日急接近の背景である。

7・ドアから顔をのぞかせた中国に対して見返りをケチるな

中国には対日関係の改善に本格的に取り組まなければならない理由があった。その機会をうかがっていたところへ、タイミングよく安倍政権が誕生した。06年9月。奇しくも胡錦濤氏が上海市党委書記の陳良宇を解任し、権力闘争勝利のデモンストレーションを行った時期と重なる。日本国内でも、中国の内需を当て込んでいる経済界はこれ以上、日中関係を悪化させたくなかった。安倍前総理には関係改善の期待が高まった。こうして両国関係はこの時期に底を打ち、以後、現在に至るまで急速に改善に向かっている。

安倍前総理は卓越した外交センスの持ち主だったようだ。政権誕生後、真っ先に行った訪中のタイミングは絶妙だった。政争を勝ち抜いた胡錦濤閥に対する祝賀のメッセージを含んでいたのだろうか。また中国側としても、党の中央委員会総会初日に日本の総理を迎えたことは、日中関係重視の姿勢を内外に深く心象付けた形となった。1年という短い在任期間ではあったが、安倍氏は中国との間に「戦略的互恵関係」を構築することで合意するという道筋を残した。また、相手の計算づくの「日中友好」に応じつつも、一方で共産党独裁体制に対するけん制である「価値観外交」を掲げた。オーストラリアやインドとの関係強化も、「これは中国封じ込めではないか」と中国人を恐れさせるほどの外交的効果を発揮した。硬軟の二刀流を使い分ける安倍氏の外交手腕に、中国側も「侮りがたし」との印象を抱いたに違いない。

ちなみに余談だが、オウムのように日中友好を唱え、中国に対する批判を決して口にしない一部の日本の政治家を中国人は決して尊敬していない。内心で「利用価値のあるバカ」としか思っていない。河野洋平氏などはこの典型であると思われる。福田新総理がこのような侮りを受けるはずがないと、山田は信じている。

さて、07年4月に温家宝首相が来日し、日中は戦略的互恵関係の構築で一致をみた。中国指導部は「戦略的互恵関係の構築を通じて、平和共存・代々友好・互恵協力・共同発展の目標を実現する」とうたっている。これを「16字の方針」と呼ぶそうだが、かつての胡耀邦元総書記の「四原則」の再来を思わせ、胡錦濤現総書記の並々ならぬ意気込みを感じさせる。おそらく中国側としては「親日派・胡耀邦氏の再来」を印象付け、「また当時のように日中蜜月時代を築きましょう」という意味を込めたのだろうが、ハイレベルはともかく、日本の一般市民は温氏に非常に冷ややかだった。

だが、中国側の意欲をうかがわせるものとして、注目すべき変化が見られた。安倍前総理は「拉致問題の解決」と「国連安保理常任理事国入り」の2点に関して温家宝氏に協力を要請したが、中国側は以前とは打って変わって協力的な姿勢を見せたのだ。

むろん、文字通り「見せた」だけであり、現段階では実行の伴わないリップサービスでしかない。だが、かつては前者に関して「日朝間の問題だ」と冷たく突き放し、後者に関しては人民を操ってまで対日非難轟々を展開した国である。今や中国は、明らかにドアから顔をのぞかせ、半身を乗り出しているのだ。

この「踏ん切りがつかないで迷っている状態」の中国に対して、ここは思い切って彼らが必ず食らいつきたくなるような大きな“エサ”を投入すべきだと思うのは、私だけだろうか。この2点の実現によって福田新政権と与党が得られる巨大な政治的利益、また将来にわたって得られる戦略的国益に想像を馳せれば、判断に迷うべくもない。ここは小さな損失をケチるあまり、大きな利益を逃すべきではない。「ODAに代わる新たな資金メカニズムによる対中環境改善支援」程度では、エサとしてあまり小さすぎる。

ここはやはり「山田案」をエサとすべきではないだろうか。

すなわち、「日本はODA3兆円の債権放棄をもって中国および中国人民に対して過去の戦争賠償を実施する」という趣旨の「新日中条約」を締結しようではないか、と胡錦濤政権に持ちかけるのである。

胡錦濤氏はこの巨大な見返りに狂喜し、必ずや日本の要望に応えるであろう。

思えば、あの日朝首脳会談から5年あまりが過ぎたが、拉致問題は未だにこう着状態のままだ。国連安保理の常任理事国入りに至っては、日本は国際的恥さらしに等しいドタバタ劇を繰り広げてしまったといえる。

この2点の失敗に共通していることは、実現に当たって中国の協力が得られなかったことである。中国の協力が不可欠であることを最近まで理解していなかった、と言ったほうが正確かもしれない。だが、私はこのことを03年1月の段階でいち早く指摘し、さらに04年7月にはより明確に指摘していた。

8・日中新時代をもたらす戦略的互恵外交・その1

機は熟した。中国は対日接近を本格化させている。今こそ日本政府が「山田案」を果断に実行に移し、大きな国益を勝ち取るべき時期ではないだろうか。

07年4月、日中は「戦略的互恵関係」の構築で合意したが(*注)、私はこの国策方針に合致する形で「山田案」を両国が真に利益をえる「戦略的互恵外交案」へと発展させることにした。狙いは、政財界・有識者クラスのハイレベルな関係強化よりも、第一に互いの人民感情を劇的に好転させることである。実際、これが実施されれば、相互に相手国の人民に対する強烈なアピールとなり、日本人と中国人民は共に熱狂するだろう。

  • 第一段階……まず初めに中国が日本に対して「良いボール」を投げる。それは中国が北朝鮮に囚われている日本人拉致被害者とその家族全員を救い出すことである(*前述のように、この部分は「通常策」と、それが失敗に終わった場合の代案である「非常策」に別れる)。できれば胡錦濤国家主席が彼ら生存者を引き連れて、特別機で来日する。これにより胡錦濤氏は一躍、日本国民の英雄と化すだろう。日本人は皆、彼を「恩人」と称えることになる。
  • 第二段階……次は、前回の返礼の意味をこめ、日本が中国に対して「良いボール」を投げる。日本の総理が北京を訪れ、過去の日中共同声明等を発展解消した「新日中条約」を締結する。この21世紀の条約には新しい条項が追加されている。それが「日本はODA3兆円の債権放棄をもって中国および中国人民に対して過去の戦争賠償を実施するものとする」という項目である。これは何よりも中国人民に対する直接的なアピールとなるだろう。そして日中両国の間に長年、楔として横たわっていた「歴史問題」はついに解決する。

ここで上記について解説する。

このように、日本が中国の手を借りて「北朝鮮による日本人拉致問題」を解決することと、「ODA3兆円の債権放棄」という形で中国が日本から「戦争賠償」を獲得することは、交換条件になっている。どちらか一方だけが利益を得るのではなく、まるでキャッチボールのように両国が「互いに相手のためになる外交」を行うことが成功の要である。

むろん、中国によって第一段階が実行されない限り、日本が第二段階を実行する必要がないことは言うまでもない。また、中国に提案する際に、たとえば「08年末までに実行すること」という具合に期限を設けたほうがいいだろう。

そもそも、日本が上記のような外交を実行するためには、先んず国民の理解が得られなければならない。でなければ、世論が選挙で審判を下す。要は、政府が中国に対して賠償を実行することを民意が許さなくてはならない。それゆえ、まず初めに胡錦濤国家主席が日本国内で恩人視・英雄視される出来事が必要であり、それこそが胡主席の尽力による日本人拉致問題の解決なのである。そうすれば、親中で熱狂した日本の世論は、中国のためにODAの債権を放棄することに賛成し、政治家もまた安心して次の選挙に備えることができるだろう。なにしろ日本人は「空気」に従う民族である。

ちなみに、07年から来年にかけての日中の外交日程では、まず先の温家宝首相の訪日の返礼として日本の福田総理が訪中し、そして胡錦濤国家主席が来年4月あたりに訪日することが一応、予定されている。

また、この第一段階の際、日中友好の「空気」また「ムード」を両国で盛り上げるために、私は以下のような政治的演出の実行を提唱したい。

それは来日した胡錦濤国家主席に皇居で天皇皇后両陛下と並んでもらい、日本人が万歳三唱する熱烈歓迎を受けていただく、というものである。そして、その映像を日中両国全土さらには全世界に向かって放映するのだ。この演出により、日中関係が根幹から変化した事実を世界に印象付けることができる。

むろん、胡主席は日本国内で英雄と化すだけでなく、中国内とその他の世界においても名声を獲得することができるだろう。中国は人権問題で国際社会からいつも叩かれているので、胡主席が純粋に人道上の問題を解決してみせることは格好の汚名挽回の材料となるに違いない。そして第二段階の「新日中条約」調印により、胡主席の権威・カリスマはさらに高まることになる。

毛沢東・周恩来は、台湾と争っていた国家正統性の問題に拘泥したこともあり、72年の日中共同声明において日本に対する賠償請求を放棄するという判断を下した。この最初のボタンの掛け違いにより日中両国の歯車は常にかみ合わなくなったが、重要なことは今日この決断が中国人民から「歴史的なミス」との烙印を押されているという事実である。

よって、もし胡主席がこれを正せば、その権威と名声は毛・周両氏に並ぶ歴史的なものとなる。かくして、政権第二期がスタートする直前に、胡錦濤政権は国内での統治権威の高揚と完全なる権力基盤の確立に成功することができるのだ。

いずれにせよ、以上の「戦略的互恵外交」を実行すれば、日本側は拉致問題を解決することができ、また中国側は戦争賠償の獲得という政治的・経済的利益を得ることができる。日中双方がともに利益を得ることができるのだ。

*……07年4月の温首相来日の際、日中首脳会談が行われ、両国は以下の共通認識に達したとの日中共同プレス発表が行われた(以下「戦略的互恵関係の基本的な内容」)。

1)平和的発展を相互に支持し、政治面の相互信頼を増進。各々の政策の透明性に努力。

2)エネルギー、環境、金融、情報通信技術、知的財産権保護等互恵協力を深化させる。

3)防衛分野の対話及び交流を強化し、共に地域の安定に向け力を尽くす。

4)相互理解及び友好的感情を増進。青少年、メディア等の交流、文化交流を強化する。

5)朝鮮半島、国連改革、東アジア地域協力等、地域及び地球規模の課題に共に対応。

9・日中新時代をもたらす戦略的互恵外交・その2

以上の第一・第二段階でも日中関係は大いに改善するが、この際、改善に向かって勢いのついた両国関係をさらに前進させ、それを固定化させるべく、さらなる「互恵外交キャッチボール」を続けるべきである。

では、その後に続く「キャッチボール」について述べる。

  • 第三段階……中国が日本の国連安保理常任理事国入りを支持する。英米仏はすでにOKしているので、残るはロシアの説得だけということになる。今ではロシアも前向きである。おそらく日本は同メンバー入りを確実にする。これにより、中国との過去の清算問題を終わらせたことと相まって、日本は本当の意味で「戦後」を終わらせることに成功する。
  • 第四段階……日本は上記への感謝・返礼として、中国の環境問題改善のために国家の総力をあげて協力することを表明し、かつ実行する。その資金として、日中両国は先に破棄された日本のODA債権も積極的に活用する。これにより中国はもはや日本に対して返済する必要のなくなった「浮いた資金」を環境対策に投じることで自国の環境改善を加速化することができ、日本もまたこの協力を通して京都議定書の温室効果ガス削減目標値に近づくことができる。

上記について解説する。

中国が日本を国連安保理の常任理事国に迎え入れることは、実は中国にとっても大いにメリットがある。わが国はこの点を彼らに強調すべきだ。

第一に、アジアのライバル国をパーマネント・メンバーに引き入れた決断により、中国は世界から「寛大かつ度量のある大国」と見なされ、国家の威信を高めることができる。それはまた日本に恩を売ったと同時に、常任理事国内に味方をひとり作り、将来の孤立を防いだ結果にもなるだろう。これが第二のメリットである。

周知のとおり、現在、西洋世界では急速に「中国異質論」が台頭し始めている。欧米での中国非難の代表的なものとしては、「天然資源欲しさにアフリカの非人道的な独裁政権を支えている」、「危険な食品を輸出するモラルのない国だ」、「知的所有権を侵害しつづけ、われわれに損害を与えている」…といったものが例として挙げられる。中国に対するネガティヴなイメージがマスメディアによって急激に拡大生産され始めた。とくにアメリカでは議会で対中非難決議が幾度となく繰り返され、有力議員による激しい中国非難が相次いでいる。

中国が毎年二桁の水準で軍事力を増強し、石油欲しさに反米国家と連携していることも、アメリカの対中不信感を増大させている。

ロシアは今のところ「親中」であるが、プーチン政権以後はその保障はない。なぜなら、ロシアでは一般国民レベルで中国に対する敵意と警戒心が徐々に高まりつつあるからだ。上海協力機構も「同床異夢」といわれている。中国政府は「ロシア人民は親中である」と思い込みたいらしく、その種のアンケート調査を公表しているが、これは明らかに政治的に作られた虚偽だ。ロシア国民の右傾化と対中警戒心の高まりを考えるなら、ロシアもまた何かのきっかけで「反中」に転じる可能性が十分にあると言わざるをえない。

このように、現実に「中国異質論」が世界的に高まりつつあり、将来、中国が国際的に「四面楚歌」に追い込まれることを防止する意味でも、日本の同常任理事国入りを後押して味方として引き入れておいたほうが、中国としてもメリットが高いはずだ。

ただし、胡錦濤政権がこのような「親日行為」を実行するためには、国内の政敵の力が削がれている必要があり、そういう意味でも前段階として「新日中条約」の締結による胡錦濤氏のカリスマ性の向上は不可欠であると考えられる。

むろん、中国が日本の国連安保理常任理事国入りを後押しすること自体が「交換条件」である。この「第三のボール」の返礼として、今度は日本が「中国の環境改善に協力する」という「第四のボール」を投げ返すのだ。

周知のとおり、中国の環境問題は深刻である。河川の枯渇や水源・土壌の汚染、産業界におけるエネルギーの無駄遣いや森林の減少と国土の土漠化といった問題は、4千年の歴史を終わらせかねない危険性を孕んでいる。この対策のためには、数十年前に公害問題や石油危機を克服した日本の経験と技術が不可欠だ。中国の環境改善には巨額の投資が必要であり、環境省はこの分野の将来の市場規模を12兆円と試算している。それを見込んで日中両政府の思惑も一致し、協力体制がすでに始動している。

中国は現在、毎年、日本へのODA返済として1千億円以上を充てているが、仮にその借金が「新日中条約」により帳消しになれば、浮いた資金を丸々環境対策に投じることも可能となる。これを環境省・経済産業省が進める対中環境ODAと併用すれば、中国としても環境改善スピードを“倍化”させることが可能となる。むろん、その対策を日本企業が受注する仕組みを作れば、日本もまた京都議定書が定める温室効果ガスの削減目標の達成にいっそう近づくことができるし、その過程で中国はさらに日本企業の先端環境技術を吸収することもできよう。

京都議定書の議長国であり、数値目標導入の提唱国である日本は、1990年度基準で6%の温暖化ガス排出削減を国際社会に公約している。しかし、現状は「プラス8%」という危機的状況である。この目標を日本は2008年から12年の間に実現しなければならない。そのためには「京都メカニズム」と呼ばれる、他国の排出権購入と削減協力によりその削減量を自国のものとしてカウントする方法に頼るしか道はない。そのために日本は中国の環境問題改善に尽力するしかないが、これでは中国が一方的に利益を得ることになり、あまりにアンフェアである。しかし、日本の国連安保理常任理事国入りを中国が後押しすることが「交換条件」となれば、「中国は他人のフンドシで相撲を取っている」という不公平感もある程度は解消され、日本の世論も納得することができるだろう。

いずれにせよ、これにより中国は自国の環境問題をさらに改善し、また日本は炭酸ガス削減目標の達成により近づくという、一石二鳥の結果となるのだ。

このようにして日中が互いに「互恵外交」のキャッチボールを行い、日中双方がともに利益を得てこそ、本当の意味での「戦略的互恵関係」と呼べるのではないだろうか。

10・戦略的互恵外交は戦後レジームを終わらせる

日中は07年4月、「戦略的互恵関係」の構築で合意したが、現時点ではその中身は乏しいと言わざるをえない。従来と同じで、「わが国が中国に対して一方的に与えるだけの関係」に近い。いい例が「環境問題」である。それが深刻化しているのは中国であり、越境する黄砂や酸性雨、日本海の水質汚染という形で日本は単に迷惑を被っているにすぎない。日中両国は5項目にわたって合意をみたが、実際には2項の「エネルギー、環境、金融、情報通信技術、知的財産権保護等互恵協力を深化させる」という項目以外、具体性に欠け、とりたてて中身がない。「政治面の相互信頼を増進」とか、「共に地域の安定に向け力を尽くす」といった、はっきり言えば抽象的な文言が多く、別に「戦略的互恵」を銘打たなくても通常の国家間で行われていることにすぎない。

おそらく中国側にしてみれば、実質的利益を得られる2項以外は「オマケ」みたいなものかもしれない。実際、2項を精査すると、「エネルギー・環境・金融・情報通信技術・知的財産権保護」などの面において、日本が中国から教えや恩恵を得るものは皆無と評してよい。むしろ、「情報通信技術」を除いた残る4つは、まさに中国にとっての“危機的要素”ばかりである。よって「戦略的互恵関係」なるものの正体は、中国が日本から貪欲に利益を引き出すための策略に等しいと言わざるをえない。

これでは本質的には日中関係は何も変わらないだろう。とくに日本国内の空気が、この“新日中友好”に対して完全に冷め切っている。アンケートによると国民の7割もが中国を嫌悪している。なにしろ、72年の国交樹立以降、中国が日本に対して具体的に何か恩恵を与えてくれたことは一度もないので(記憶にあるのはパンダをよこしたことくらいだ)、今では「われわれは日中友好という名の詐欺に騙されていたお人好しだったのではないか」という思いが強くなっている。

国家間の関係はギブ・アンド・テイクで成り立つが、中国はギブばかりで日本に対して具体的にテイクをしたことがない。メディアもまた日々「反中」「侮中」を拡大生産している。日本人は年を追うごとに中国とその社会の粗探しをしては嫌悪を募らせている。温家宝首相の来日も、結論から言えば日本人に与えたインパクトはゼロであり、周恩来氏の千分の一の印象もなかった。今では大半の日本人はそんなイベントがあったことすら忘れているし、温氏の顔すらもよく覚えていない。

つまり、中国がいくら「日中友好・戦略的互恵関係」をうたったところで、利権のあるハイレベルはともかく、一般の日本国民が「何を今さら」と冷め切っているのが現状である。この点が70年代や80年代と大きく異なる点だ。

当時は、誰よりも日本の国民自身が日中友好を支持しており、政治サイドもその空気の後押しを受けていた。日本では最終的にこのような一般国民の「空気」こそが物事を決するのであり、中国側にもこの現実を真摯に直視してもらう必要がある。

一方、中国人民の日本に対する見方も厳しい。政治的な意図によって反日を煽られた面があるとはいえ、8割もが日本を嫌悪しているという。このような対日観の根底にあるものは、やはり過去の戦争である。しかもこれは中国人自身も気づいていないことかもしれないが、日本帝国から侵略を受け、莫大な被害を受けた史実もさることながら、実はその後に「復讐を果たせなかった」という悔しさこそが中国と人民を真に呪縛するものの正体ではないか。

彼らとしては、その上、国交樹立時に「戦争賠償の請求を放棄する」という譲歩までしたのだ。おそらく、身を切る想いであったに違いない。しかも、その道徳的英断が日本において正当に評価されているならまだしも、「どうやら日本人はさして恩に感じている様子ではないらしい」と彼らの目には映っている。

日本人からすれば、過去の戦争に対する反省および中国に対する贖罪行為に関して中国側にも理解不十分な点や悪しき誤解が多い。だが、現実問題として中国人民が心の底に対日不満を鬱積させているのが事実である。しかも危険なことに、ここに幼稚なナショナリズムを肯定した愛国教育や一般市民層の発言力の拡大、そこから醸成される排外・極右的な空気、さらに二桁の軍事力増強といった要素が重なりつつあるのだ。つまり、心理的にも物理的にも中国は大規模な外征に打って出る準備を整えつつあると言えよう。

復讐を果たせなかったという悔しさは、思いのほか人を長期にわたって呪縛するものらしい。そしてその想いに囚われている中国人民は当然、「日本に対して復讐を遂げるべきだ」と考え、その行為を正当化するだろう。

以上のように、日中両国民の互いに対する感情はかくも悪化しているのが現状だ。

そしてこの事態を打開するものこそ「山田案」であり、「戦略的互恵外交」に他ならない。これが実施されれば、相手国の人民に対する直接的な友好メッセージとなり、繰り返すが、互いの人民感情を劇的に好転させる結果をもたらすに違いない。わが国にとっては何よりも中国人民の民心を掴む策略であり、それを通して指導部をも掌握することができる。

つまり、戦略的互恵外交とは「日中の真の国交正常化」を意味しているのだ。

とくにわが国は、自国の安全保障のためにも中国人民の対日復讐心を今ここで骨抜きにする手を打っておくべきである。つまり、相手の心理的な武装解除を行うのだ。

ODA3兆円の債権を放棄するというのは、たしかに大きな政治決断である。だが、それによって得られる国益を見据えれば、大いに実行する価値のある戦略であるはずだ。

われわれは、「日中共同声明第5項の賠償請求放棄は毛沢東と周恩来が決めたことだから変えるべきではない」などと考えるべきではない。なぜなら、日中国交樹立時の中国内の状況は、独裁者・毛沢東が何でも好き勝手にできる状態にあったからだ。つまり、当時は民意を無視してそれが強行されたと考えるべきであり、事実、今日の中国人民はその時の決断に対して明確に「毛沢東と周恩来の歴史的ミスだ」との審判を下している。われわれは、この現状の民意こそ重視すべきであり、よって中国人が日本に対して憤り、見返りを要求する正当な権利があることを理解し、この際、ケチな発想は慎むべきである。

さて、ここで改めて「拉致問題」という原点に返ろう。

今や「拉致敗戦」なる言葉までが使われ始めている。今次「日朝戦争」において、わが国が「拉致された生存者とその家族の全員を救出する」という戦争目的を達成できなければ、たしかに敗戦と言わざるをえない。

だが、本当に勝負はついたのだろうか。私はそうは思わない。戦争を遂行するに当たって従来は同盟戦略を間違えていたというのが私の考えである。日本はあまりにアメリカの対北圧力に依存しすぎていたが、これが誤りであった。最新の6カ国協議(07年10月)の成果では、「北朝鮮が12月31日までに核施設の無能力化や核開発計画の申告等の非核化2段階措置を完了すれば、アメリカが北朝鮮をテロ支援国リストから削除する」ことが決まり、今年初め頃の米朝交渉が追認された。これは日本の立場からすれば、拉致問題の解決に関して日米同盟が役に立たなかったことを意味する。

こと拉致問題に関する限り、比重を移すべきは中国との“臨時の同盟関係”である。私はそれを最初の段階から見抜き、主張してきた。

この「山田案」の存在は、日本政府にとって残された希望であり、幸運である。なぜなら、「北朝鮮による日本人拉致問題」という戦後最大級の国難に対して、「自身のインテリジェンスによって解決した」という事実を歴史に残すことができるのだから。

しかし、肝心の指導者にそれを見抜く力量がなければ、何の意味もないのも確かだ。

私自身も歴史の偶然に驚いているが、奇しくも福田康夫氏が新総理に就任した。周知のとおり、父親の福田赳夫氏は1976年12月から2年間、総理を務め、78年には鄧小平氏を日本に招き、日中平和友好条約を締結した人物である。

つまり、福田新総理が「戦略的互恵外交」の実施を決断すれば、親子二代にわたり日中間の縁を取り持つことになる。それこそ福田氏の歴史的使命なのかもしれない。

今や福田氏自身は、あらゆる意味で拉致問題を解決しなければならない立場にある。拉致被害者の最初の帰国に際しては、安倍氏との路線対立があったと言われている。総裁選挙中には「私の手で解決したい。私を信頼し、応援してほしい」と明言した。福田氏としては、この約束を果たし、安倍前総理との違いを証明して見せなければならないはずだ。また、これは福田氏個人の問題に留まらず、2年以内に総選挙を迎える自民党の命運にも関わってくる。端的にいえば、拉致問題を解決すれば与党は選挙に勝つ。なぜなら「戦争」における勝利ほど国民を熱狂させるものはないだからだ。

幸い、拉致問題解決の鍵を握る中国が対日接近を始めた。日中関係に関しては06年9月以降、プラスの政治資産が重なりつつあり、これを活用することでわれわれは拉致問題解決の突破口を切り開くことができる。それを成し遂げるのが「戦略的互恵外交」だ。

小泉純一郎総理の時代、日中両国は「負のボール」を互いに投げあった。だが、今度はそれとは正反対に「正のボール」を投げあい、ともに勝利者となるべきである。

その結果として得られる成果こそ、真の意味での「戦後レジームからの脱却」であろう。

(了)

*すべての文書は「あんときのエノキダケ」に収録しています。

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