中国人は朝鮮半島への民族大移動を始める

中国・アジア




歴史的に見て、大陸の帝国は、成立時の勢いや国力の膨張期に東西南北へと領土を広げた。漢の武帝の頃には、朝鮮半島も直接的な支配下に置かれた。そういう意味で、近年、急速に発展を遂げてきた現代中国が、毎年二桁の軍拡を行い、周辺に再び勢力を拡張しようとしているのはある意味“歴史法則”に適ったことで、不思議でも何でもない。

もっとも、ロシアと国境を接する北側に関しては、中ソ対立時に懲りているので(それでもシベリア極東地域に居住者を送り込んでいるが)、矛先はもっぱらインド亞大陸、南沙諸島、尖閣諸島、西太平洋、沖縄などに向かっている。



朝鮮半島“回復”の機会がやって来ようとしている

そうすると、「朝鮮半島にだけは向かわない」と信じるほうが非現実的ではないだろうか。実際、彼らの歴史観では、周の時代の諸侯が未開な土地を切り開いて朝鮮を建国したことになっている。毛沢東も蒋介石も共に悪びれもせず「朝鮮半島は中国領だ」という意味の発言をしている。むしろ、「朝鮮は真っ先に回復すべき土地」とすら言えよう。

彼らにとっては、半島が中国の直接的な支配下にない現状こそがアブノーマルなのだ。

原因ははっきりしている。「それもこれも日本という軍国主義に狂った国が中国から朝鮮を盗み出し、さらに終戦後には米ソが戦利品として横取りしていったせいだ。だから、元の“正常な”状態に戻さねばならないし、当然の権利である」…中国の為政者たちが内心でこう思っていたとしても、全然不思議ではない。中国が沈黙を守ってきたのは、単に半島に居座っているアメリカ軍に対抗できなかったからに他ならない。

そのアメリカが韓国からの撤退を予定している。2015年末、マッカーサー以来の戦時作戦統制権が米軍から韓国へと移管される。それに伴って順次、3万の将兵も引き上げていくようだ。彼らにとっての悪夢は、大量の戦死者を出した朝鮮戦争の再来である。もう二度と半島の厄介ごとに巻き込まれて自国の若者を死なせたくない。だから、かつてのアチソンラインまで撤退する。仮に介入の必要性が生じても、軍の展開は基本的に空と海に留める。

はっきりいえば、アメリカはもう韓国の面倒を見たくないのだ。ただし、自分たちが完全に撤退するまでは、韓国はまだ西側に籍を置いていてくれ、だから日韓で喧嘩してくれるな、ということではないのか。

韓国もまたこれを見越して、中韓同盟を次世代の安全保障体制の礎とするか模索中だ。ただ、自分たちの頭越しに暗黙のやり取りがあったことを理解しているだろうか。

朝鮮戦争は実質「米中戦争」だった。チップは半島の支配権である。結果は引き分け。アメリカとしては、血を流してまで得た戦利品で、かつ対冷戦の最前線であり防波堤であるから、それになり重宝してきた。ここへ来て、その権利を捨て去ることの意味は何なのか。

それは「朝鮮半島の運命に対してもはや責任を負わない」という意志表示なのだ。もっといえば「あとは中国が好きなようにしろ」と示唆しているのと同じだ。

中国人にとって“生存”ほど強い動機はない

というわけで、いよいよ中国が朝鮮半島の料理にかかる時がやってきたのである。歴史的に何度も繰り返されてきたことがまた起きるに過ぎない、ともいえる。しかし、今回に限っては、いつもとかなり様相が違うと思われる。なぜなら、通常の領土欲以外にも、もっと大きな、そして切実な動機があるからだ。それこそが「生存」である。

第一に、中国人は水や空気が清浄な土地を心から渇望している。つい先日の大気汚染は百都市以上に広がり、8億人あまりに被害を与えたという。今や河川や地下水、またそれを利用した農作物などにも有害物質が含まれ、安心して飲食することすら難しい。「とにかく今の場所から逃げ出して、水と空気のきれいな場所に移り住みたい」と、無数の中国人が望んでいる。

第二に、中国では男女比の極端なインバランスが生じている。適齢期で余っている男が数千万人とも言われ、さらに増えていくという。すでに国内では女性の争奪戦になっているが、絶対数が不足している以上、結局は「外」に求めざるをえない。

この二つの、とてつもない内部矛盾を解消するために、中国は必ず朝鮮半島を利用するだろう。まず狙われるのが北朝鮮である。今や中国人にとって、同国最大の富はウラン・レアメタル・石炭・鉄鉱石などの豊富な鉱物資源ではなく、清浄な水・空気・土壌それ自体なのだ。

また、それと同じくらい貴重なのが「女性」である。おそらく、大多数の中国人にとって北朝鮮の女性は「買える」対象として映っている。

それは当然、買春という意味ではなく、「経済的な優位を背景にした結婚が可能」という意味である。というのも、実態を言えば、すでに中国東北部ではそういう現象が一部で起きているのだ。

つまり、朝鮮半島への民族大移動は、中国政府の政策以上に、中国人の生存本能から引き起こされるものなのだ。そこがこれまでの“単なる侵略”とは異なる点である。だから、いったん始まったら、誰にもそれを押し留めることはできない。

もし、きれいな水や空気を欲するなら、チベットやウイグルに移住すればいいと思うかもしれないが、大多数の中国人にとってあまりに辺境過ぎる。また、これまで中国は半ば政策的にカナダやオーストラリアへと人を送り込んできたが、今ではかなりハードルが高くなった。それになんだかんだと言って、白人に頭を押さえつけられるのは嫌だ。

だから、移住したいが、あまり僻地に行きたくないし、中国人として大きな顔がしたいという彼らにとって、北朝鮮はぴったりなのだ。沿海部と地続きなので、同胞さえ増えれば内地に近い感覚である。列車やフェリーで気軽に行ける土地だ。欧米への“移民”のような悲壮な決意もいらない。一肌挙げたい者にとってぴったりの新天地である。

北朝鮮が中国領になる日

北朝鮮は遅かれ早かれ崩壊する。最近、とくに私が興味を引いたのは、中国が北朝鮮に対して、貿易代金10億ドル相当の支払いを渋っているというニュースだ。これは張成沢派が仕切っていた石炭や鉄鉱石などの輸出事業の稼ぎだという。中国は金正恩を北京に呼びつけて土下座させるつもりなのかもしれない。でなければ、「10億ドルを返して欲しければおまえのボスの首を取ってみせろ」と、反金正恩派を暗に唆しているのだ。

北朝鮮情勢は19世紀末の李朝に似てきたといえる。目先の10億ドルと、あるいは粛清される恐怖とから、反対派が金正恩の暗殺に及んだとしても不思議ではない。だが、自力では国内の混乱を収拾し難い。結局、中国の力を借りざるをえない。そうなると、袁世凱の時と同じパターンで、権力闘争に介入した中国軍がそのまま居座ってしまうだろう。中国は一言「中朝同盟に基づいた」と言えばいい。又は自分たちの傀儡にそう表明させればいい。条約に基づいている以上、国際社会は指をくわえて眺めるほかない。

こうして、北朝鮮の混乱に付け込んで、中国はまんまと首都平壌に軍を進駐させ、基地を建設する。あとは経済・人道援助名目で、本国の人・モノ・資金をどんどん引き入れていく。いったん、中国人の民族大移動が始まると、北朝鮮は好景気に沸くだろう。中国資本が巨大な都市開発を次々と手掛け、北朝鮮は建設ラッシュに沸く。それがまた移住を引き付けるという好循環になる。中国との直通列車が日に何本も往来し、毎日、何千人という単位で、中国のビジネスマンや労働者が“新天地”に押しかけてくるだろう。

かくして、中国からの投資によって、北朝鮮は目覚しい経済発展を遂げる。ここ十年の中国の発展を思えば、十年後の北朝鮮はすっかり別世界になっているはずだ。しかし、裏を返せば、それは急激なスピードで中国に飲み込まれたことを意味する。しかも、北朝鮮の巨大な党と軍隊をリストラされた人々が底辺労働者となって中国人の暮らしを支え、新たなヒエラルキーの下層を形成しているだろう。

戦前の満州には、毎年百万人の中国人が押しかけてきたという(つまり日中戦争中も、国民党や共産党の支配下よりも日本の支配下のほうがいいと判断した者がたくさんいたわけだ)。おそらく、それ以上の移民現象となる。なにしろ、現代の中国の建設会社は、十万人規模の都市開発なら簡単にやってしまうのだ。しかも、土地はすべて国有で、タダ同然。凄まじい機械力と輸送力に支えられた、空前の民族大移動となるに違いない。北朝鮮のうら若き女性たちも、金を持った中国人から順に次々と掻っ攫っていくだろう。

中国の地方と化していく朝鮮半島

もっとも、中国としては、韓国が統一する形になっても全然構わない。どうせ北朝鮮の次は、韓国も支配するつもりだ。現状、ただでさえ黄色信号が点っている韓国経済にとって、崩壊した北朝鮮の面倒を見ることは、確実に重荷となる。そこへ十年後には、人口減少と超高齢化という構造的危機までが被さってくる。ストックの乏しい韓国は、当然、中国からの投資なしではやっていけない。中国もまた韓国に救いの手を差し伸べる。

中国は韓国に対して、常に笑顔外交と熱烈歓迎を忘れない。それどころか、韓国を特別扱いして、自尊心をくすぐる。およそ、侵略とは正反対の態度だ。韓国人も華夷秩序における二番手の地位を約束されたかのように錯覚するだろう。それに従い、在韓中国人も急増していく。しかし、両国経済の一体化とは、韓国が「中国の地方化」しているという意味だ。そして、帰趨が決したところで、中国は突然、その本性をむき出しにするだろう。

中国の戦略の根本にあるのは「孫子の兵法」だ。半島に対する「城攻め」、つまりあからさまな侵略は下策だ。「戦わずして得る」方法こそ上策である。

要は、中国人をどんどん移住させてしまえばよい。あとは生めよ、増やせよ、親戚を呼び寄せよ、だ。それを続けていれば、いずれは漢民族とその子孫が、元の住民を圧倒する。その影響力で現地の政治を腐らせ、侵食し、やがては国そのものを乗っ取る。彼らはそういう遠大な発想ができる。シッキム王国と同じで、最後は国民投票により“民主的に”併合してしまえばよい。

もっとも、このような流れが一挙にひっくり返る可能性も少なくない。なぜなら、前提となっているのが、強大な「中華帝国」の存在だからだ。

よって、中国が内乱に突入し、バラバラに分裂して互いに争うようになれば、むしろ統一韓国のほうが延辺など満州の一部を吸収してもおかしくはない。未来に関しては常に「ネバー・セイ・ネバー」だ。

意外と「日帝パターン」になるかもしれない。日本もかつては朝鮮・満州に民族大移動を行ったが、帝国の崩壊と共に元の木阿弥に帰した。つまり、中国が散々投資した分が、結局は、ごっそりと韓国人のものになる結末だ。

韓国にはそういう奇妙な悪運の強さがある。

2013年12月31日「アゴラ」掲載

(再掲時付記:戦時作戦統制権の返還については、韓国内の親米派の巻き返しがあったようで、アメリカに懇願して、またまた延期になったようです。しかも、北朝鮮が長距離核ミサイルの開発を行って公然とアメリカを挑発し、南シナ海では中国との軍事的緊張が増してきたので、アメリカとしても再度、韓国の取り込みを図ったようです。その象徴といえるのが、「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の在韓米軍配備決定です。韓国国防省が正式発表したのが2016年7月ですから、つい最近のことです。中国は猛反発しています。韓国の、この腰のふらつきぶりは、李朝末期を思わせますが、今回は、紙一重のところで中国による属国化を免れたのかもしれませんね)

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