前回は、金正日以下、幹部全員がローラーブレードを履き、転びながら乾杯をする“ドタバタ宴会”を紹介しましたが、藤本健二氏によるとこれは一度きり。
通常の将軍様の「御前宴会」は、下で藤本氏も描写していますが、「高い酒、美味しい料理を振る舞われて、帰りには豪華なお土産つき」という、実に羨ましいもの(笑)。
しかし、単にドンチャンしているだけなのでしょうか。どうやら、実際には、最高指導者・金正日ならではの人心掌握術も兼ねていたようなんですね。
そうやって連日の宴会を通して、部下との仲間意識や一体感を育む。
そして、実際に物質的見返りも与える。
つまり、直接的に接する幹部たちは、みんな金ファミリーの利権共同体のメンバーに迎える。ただし、「飴」だけじゃなく、裏切れば処刑という「鞭」も用意しておく。
このように、実に巧妙な統治術であることに気づかされます。
こういった手法は、政治家だけでなく、社長さんも参考になるかもしれませんね。
「御前宴会」の現場では、実際にどんなことが行われていたのでしょうか。
金正日の私生活―知られざる招待所の全貌
(以下、同書P123~128から引用 赤字は筆者)
クジが当たるまで飲み続ける幹部たち
夜の宴会では、たびたびこんなゲームが繰り広げられていた。
宴会場の壇上に大きなボードが用意され、ボードには一番から六十番まで、取り外せる箱がついている。それぞれナンバーがふられた箱の中には、何がしかメモが入っており、それが当たりクジならば、「冷蔵庫」「カラーテレビ」「DVDプレーヤー」「CDラジカセ」「ハンディカム・ビデオ」などの日本製家電製品がその場でもらえることになっていた。
ちなみに北朝鮮では冷房空調機のことをエアコンとは呼ばずに、通常「ダイキン」と呼んでいる。家電製品で圧倒的に支持されているのは日本ブランドで、とりわけ「ソニー」信仰は根強い。
金正日も口癖のように、「電化製品は日本製がナンバーワンだ」と日本製を絶賛するのだが、 面白いのは、「冷蔵庫だけはアメリカ製だ」と言っていることか。(略)
また、直接箱の中に百(米)札や五十(米)ドル札、十(米)ドル札が入っていることもあった。
もちろん、「ハズレ」のナンバーがあちこちに入っている。
ナンバークジゲームはこんなふうに進められる。
まず、幹部たちから順番に一人ずつ金正日の前に進み出て、コニャックやウォッカ・クリスタルを百グラム一気に飲まなければならない。それがワインのときは、二百二十グラムのグラスを一気に空けなければならない。
はじめからクジがうまく当たればいいが、外れたときにはもう一杯飲まなければ、ゲームに参加することはできない。(略)
幹部の一人は二回目も外れて三回日も外れてしまい、金正日が、
「お前はまだやるか?」ときくと、
「ハイ、もう一度やらせてください」と言って、四杯目のコニャックを飲んだとたんに金正日の目の前で倒れてしまい、表に運び出されてしまった。
こういう醜態は枚挙に暇がないほどあった。
苦手な酒で四苦八苦したエリート官僚
私の順番はいつも最後のほうだったが、一度こんなことがあった。
箱の中身を見て大物が当たった私は、金正日の側までスキップをしていくと、これが金正日に非常に受けたのだった。ニコニコ笑って私にきいてきた。
「藤本は何が当たったのだ?」
「大きな冷蔵庫です」
「そうか、それはよかったな。おめでとう」
金正日は部下たちに酒を飲ませて、その酔っ払いぶりを眺めて楽しんでいた。それは正月やクリスマスイブにとどまらず、ことあるごとに行われた。
金正日は宴会中、全員をよく観察していた。
たびたび党組織指導部第一副部長の張成沢(チャンソンテク)に目で合図をして、誰々に飲ませろと命じた。
それはたいていが、指名された相手が酔った振りをしているのがバレたときだった。ひとたび金正日に目をつけられれば最後、へベレケになるまで飲まされる。幹部たちも潰すために次々に酒を注ぎにくるので、どんな酒豪も足腰が立たなくなる。
揚げ句の果てに、車で家へ送り返される。
通常、金正日主催の宴会はお土産つきだから、それを楽しみにしてきたのに土産なしの手ぶらで帰宅させられるのだ。
高い酒、美味しい料理を振る舞われて、帰りには豪華なお土産つき。加えて、宴会の途中に金正日から小遣いをもらえることもたびたびある。(略)
こんなこともあった。
夫人同伴で寡会に参加した軍大将七人のうち一人、金明国(キムミョング)が酩酊して、
「将軍様、戦争が始まったら我々が全員でお守りします。地下室も整いました。室温は二十二度に設定してございます」
と地下二百メートルにあるといわれる防空壕の完成をベラベラ喋り出し、酔いが吹っ飛んでしまった。六十人規模で、九番木蘭館(モクラングァン)宴会場で行われた宴会の席上のことだった。さすがにその場所だけは言わなかったが・・。
そういえば、日朝交渉の代表として出てくる、一九横分けの髪型の姜錫柱(カンソクチュ 現・第一外務次官)はからきし酒が駄目な男だった。少し飲まされるとグロッキーになって、外のソファで横になっているタイプなのだ。(略)
姜錫柱にはこんなエピソードもあった。
平壌の八番宴会場で、恒例の、将軍様の前に整列して乾杯する儀式で、ウォッカ百グラムを一気に飲み干すという超ハードな夜があった。
これは酒の苦手な者にとっては拷問に等しい。
「整列!」
すでにできあがっている張成沢が大声を張り上げると、幹部たちが金正日将軍の前に並んだ。
全員のグラスにウォッカが注がれているか、張成沢がチェックして回った。
姜錫柱のところで立ち止まった張成沢は、彼のグラスを嗅いでみて首をかしげた。
次に、姜錫柱のグラスの透明なウォッカに水を垂らした。
ウォッカと水が混ざり合う模様ができるはずなのに、何も起こらなかった。
姜錫柱うなだれた。
「おい、ウエイター。二倍大きいグラスにウォッカを注いでこい!」
金正日が姜錫柱に命じた。
「飲め! お前はそういうインチキをやるのか! 早く飲め!」
そのときの姜錫柱の情けない顔といったらなかった。
しかし、姜錫柱はいまや日朝交渉の主役として注目を浴びるエリート官僚の地位を築いた。北朝鮮労働党幹部で酒が弱くても出世できたレアケースである。
細心の注意を要するお酌の回数
もう一人忘れていた。
愛すべきケチの労働党経理部長・林相鐘(リムサンジョン)。
ふだんまったく飲めない林相鐘が、ブランデーのパラディッシュ百グラム三杯に賞金千五百米ドルがかかったとき本当に飲んだのにはびっくりした。(略)
ところで、宴会の席において、金正日へのお酌には気を遣っても遺いすぎるということはない。実に扱いが難しく、細心の注意が必要である。
金正日へのお酌の回数は三回までが鉄則。それ以上酒を注ぎにいくと、
「何回も注ぎにくるな!」
と怒鳴られ、酒を注ぎにこない者には、
「なぜ注ぎにこないのだ!」と癇癪を爆発させる。
それらを逐一、張成沢にチェックさせており、金正日の不興を買った者は、当分の間、宴会には声がかからないことになっている。気難しい権力者の姿がそこにあった。
(以上引用終わり)
なるほど、やはり将軍様用の地下防空壕は実在するんですな・・。
というわけで、私も思わず豪遊!!
(*´∀`)ぷはーっ
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・・・・
(´;ω;`) しくしく
それにしても、金正日は酒宴を通して部下を掌握する天才ですね。
私を含めて、どんな人間でも、彼の手にかかれば、うまく体制に取り込まれてしまうでしょう。共犯になる以外に生きる道はないのですから・・。
ただ、藤本氏によると、それでも金正日は幾度か暗殺されかかったという。
すると、部下を処刑しまくっている現最高指導者の金正恩は、本当はうまく部下の人心を掌握できていないことの裏返しではないかとも考えられる。
この6年間、金正恩政権は、全国民を核・ミサイル開発という一つの国家目標に集中させ、恐怖政治と、外敵の脅威を煽ることによって凌いできた。
しかし、今ではその目標が達成されて無くなり、経済制裁で特権層も含めた国民生活が悪化し、国民を焚き付けられる外敵もいなくなった。
今年2月末の第二回米朝首脳会談決裂以降、金正恩政権は、発足以来、もっとも基盤が揺らいでいると私は思う。恐怖政治の反動はいつか必ず起きるでしょう。
前も言いましたが、「自由朝鮮」擁する“四代目”の金ハンソル氏は、金正日の正妻系統なので、理念面だけでなく、血統面でも十分に金正恩の対抗馬に立てる。
今年「何か大きな変動」が起きる予感がします。
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