私は4月16日の以下の記事で、次のように記しました。
こうして、ロシアは直接戦闘に介入しないが、影で米空母艦隊の情報を提供することで北朝鮮に攻撃させる、というわけです。(略)朝鮮人民軍は、通常ミサイルか、弾道ミサイルか、魚雷か、機雷か、それとも高速艇による特攻作戦か、方法は分かりませんが、おそらく、米空母を確実に撃沈するために切り札の核兵器を使うだろうと私は推測します。
案の定と言うべきか、一週間後、次のニュースが飛び込んできました。
北朝鮮、米空母カール・ビンソンを「沈める用意がある」BBC News 4/24(月) 16:24配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170424-39689536-bbc-int北朝鮮は国営メディアを通じて、朝鮮半島に向かっている米空母を「沈める用意がある」と主張した。23日付の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、空母カール・ビンソンを「一発で撃沈」できると論説で書いている。「労働新聞」は、養豚場を視察する金正恩・朝鮮労働党委員長の記事に続けて、「わが革命軍は、米国の原子力空母を一発で撃沈できるだけの臨戦態勢を敷いている」と表明。「大きくてぶざまな動物」への攻撃は「わが軍の実力を示す具体例となる」と書いている。(*傍線太字筆者)
これは通常の対艦ミサイルというより、ニュアンス的には核攻撃を指しているのではないかと感じた人は多いと思います。ロシア的には、仮に北朝鮮が滅んでも、同国を操ってアメリカの二個空母艦隊を葬り去ることができれば、大成果でしょう。
アメリカがすでに有する対北攻撃の大義名分
さて、本題。アメリカは対イラク戦争のとき、「大量破壊兵器を隠し持っている」という理由から、国連決議無しでの先制攻撃に踏み切りました。そのせいで、サダム・フセインという分かり易い悪役がいたにも関わらず、国際世論は分裂しました。
この「政治的失敗」は後々尾を引き、アメリカを戦略的に不利な立場へと徐々に追い込んでいきます。彼らは当時のミスに懲りているはずです。したがって、今回の「対北戦争」においては「政治的正当性」の獲得に万全を尽くすと思われます。
第一に、「残虐な独裁者」という“分かり易い悪役”がいることは前回同様です。だから「圧政に苦しむ人々を解放する」という大義を掲げることができます。
第二に、北朝鮮は本当に大量破壊兵器を所持しています。自分たちで誇示しているので、アメリカとしては証明する必要すらありません。
第三に、しかも、アメリカは、それが他国ではなく「自国にとって差し迫った脅威である」と訴えることも可能です。北朝鮮はICBMを開発するだけでなく、堂々と米本土を攻撃するとまで公言しています。なにしろ、ワシントンを攻撃する内容の「公式脅迫ビデオ」まで制作している。だから彼らの危険な意図を全世界に対して証明することは実に容易い。戦後にロシアなどから「北朝鮮がその意図を持っていた証拠を示せ」などと要求されても、「はい、これが証拠です」とそのビデオ映像を出せばいい。
第四に、北朝鮮はその大量破壊兵器で周辺諸国を脅迫している。最近は米韓日だけでなくオーストラリアとニュージーランドまで脅迫しました。フセイン政権の場合、米以外にはイスラエルが“口撃”対象でした。国際世論は「イスラエルなら脅されても仕方がない」と考えて同情しませんが、日・豪・ニュージーランドへの脅迫は不当なものと考えます。しかも、北朝鮮はその種の公式声明を無数に垂れ流してきた。「周辺諸国を脅迫する悪者」というイメージほど、討伐を正当化するものはありません。
以上のことから、アメリカはすでに北朝鮮を灰にすることができる十分な大義名分を手に入れていると断言することができます。
しかも、「北朝鮮の脅威など存在しない、それは米帝のでっち上げた」という親北派の主張に対して、北朝鮮自身が反証を提供しているのだから、何とも滑稽な話だ。
おそらく、アメリカが自国と周辺諸国の安全保障を事由として北朝鮮に先制攻撃を加えたとしても、「ロシアとその仲間たち」以外はとくに抗議することはないでしょう。少なくとも、対イラク戦争時のように、西側諸国が政治的に分裂する事態はありえないと思われます。だから政治的環境はすでに当時以上に整っていると言えます。
中ロを分断し、中国を「型」に嵌めることに成功したトランプ政権
むしろ、今回、分裂するとしたら、逆に“レッドチーム”の側ではないでしょうか。この点でもトランプ政権の策略はブッシュ政権のそれよりも一枚上手でした。
シリアとウクライナ問題を抱えるロシアは、今の時期、極東で積極的に動くことは難しい。だから、4月の6~7日、米中首脳会談という形で、実際には中国を呼びつけて、習近平に的を絞って恫喝したのは、実に優れた交渉術だったと言わざるをえません。
どうやら、トランプ大統領は、「今まで北朝鮮への経済制裁に消極的で、事実上、核開発を黙認してきたのだから、まず中国がなんとかせよ」と要求したようです。しかも、ただ要求を飲ませるだけではなく、貿易面で取り計らおうではないかとも提案。こうして「アメとムチ」を与えたところで、ディナータイムのシリア空爆で締めくくった。
案の定、習近平は縮み上がったらしく、米中首脳会談以降、明確に中ロの対応が割れ始めました。これで対北朝鮮問題ではほとんどロシアを孤立させた格好です。しかも、ロシアがいくら抗議したところで、世界の誰もまともに相手しません。「クリミアを侵略して併合しているくせに」でおしまい。これで「中ロ対策」もほぼ完了です。
もっとも、政治的にも軍事的にも手が出せない状況だからこそ、逆にロシアは裏でこっそりと米空母艦隊の正確な位置情報を北朝鮮に提供して(核)攻撃させるという、陰険な策略を実施するのではないかと、私は懸念しているわけですが・・。
アメリカの武力行使正当化にまんまと利用された中国
いずれにせよ、トランプ政権は非常に優れた外交手腕を発揮しました。
中国としては、いったんアメリカに歩調を合わせ、対北説得の「責任」を分担してしまった以上、同国が対北攻撃を始めても、非難がましいことは言い辛くなります。
また、アメリカはすでに戦後の利権獲得競争まで見据えているらしい。中国は当然ながら戦後の「獲物の分け前」の段階で図々しく様々な既得権益を主張するでしょう。しかし、北朝鮮をハンドルできなかった失態により、その説得力が弱まります。つまり、トランプ政権は中国に戦後にごちゃごちゃ言わせないための布石も打ったわけです。
実際のところ、アメリカは、中国が本当に北朝鮮問題を解決できるとは思っていない。わざわざ米中貿易を人質にして習近平を巻き込んだ最大の理由は、「中国ですら対話で解決できなかった」という既成事実を作るためであったと思われます。
世界は「親北国家で、事実上の後見人である、あの中国ですら駄目だった」という風に見なします。実際、アメリカは宣戦布告に際してそういう説明を使うでしょう。「よって、やむにやまれず・・」と、武力行使を「より」正当化できるというわけです。
どうやら説得を諦めたらしい中国
そして、実際に中国は北朝鮮の説得に失敗する可能性が高い。というか、中国は早くも4月22日の時点で、事実上「お手上げ」ともいえる論調を発表しています。
中国紙が軍事介入主張 「米韓侵攻なら」政権転覆想定 産経新聞 4/23(日) 7:55配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170423-00000052-san-cn【北京=藤本欣也】中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は22日付の社説で、米国が北朝鮮の核関連施設などを限定攻撃する場合、中国は軍事介入する必要はないと強調する一方、米国が北朝鮮に軍事進攻した場合には中国も軍事介入すべきだと主張した。
同紙は、核・ミサイル開発を継続する北朝鮮に対し、米国が関連施設を空爆するなど「外科手術式攻撃」を選択するような事態には、中国は「外交手段で抵抗すべきで軍事介入する必要はない」と指摘。しかし「米韓両軍が38度線を越えて北朝鮮に侵攻」し北朝鮮の政権転覆を目指すような場合は、「中国はすぐに必要な軍事介入を行うべきだ」と主張した。同紙の「軍事介入」が何を意味するかは不明だ。 (*傍線太字筆者)
これは中国側の返答とも取れる論調です。
そして、実に明快なメッセージです。北朝鮮の核関連施設などに対する限定攻撃なら容認すると言っているわけです。つまり、中国は早々、対北説得を諦めた。ただ、米韓の地上軍が北朝鮮に入ってきたらこっちも軍事的アクションを起すぞと、しっかり釘を刺しているので、表向きでは決して白旗を掲げたわけではなさそうです。
どうやら、「各国は対話を」などと無責任な主張をしてきた中国自身が、真っ先に対話を諦めて、アメリカの武力行使を容認に踏み切ったようです。
では、アメリカ自身はどうなのかというと、過去に二度も北朝鮮から騙されているので、まともに対話する気はない。実際、北朝鮮がまたしても核開発停止や放棄を“約束”したところで、国際社会は誰も信じない。「狼少年」の寓話と同じです。
トランプ政権が中国に与えた期間は1か月程度か?
かくして、アメリカは北朝鮮を殺ります。
トランプ大統領は4月の始め頃、こう発言しました。
“If China is not going to solve North Korea, we will.”
(もし中国が北朝鮮問題を解決しなくても、われわれはやるぜ)
この「米単独行動示唆」はいつもの「軽口」ではなく、大統領として政権の公式ポリシーを表明したものです。この発言は、CNN、FOXニュース、NYT、WSJ、ワシントンポスト、そしてBBC・ロイターなどのトップを飾りました。つまり、これは「世界支配層としての公式表明」でもあるということです。しかも、後日、ティラーソン米国務長官がほぼ同様の内容を主張して、大統領発言を補完しています。
ということは、問題は、トランプ政権が中国に与えた「チャンスの期間」です。それが攻撃のタイミングを推し量る上での最大の材料と言えるでしょう。
おそらく、1か月前後の「ショート」か、それとも半年以上1年未満の「ロング」か、どちらかだと考えられる。
二週間程度では「チャンスをやった」ことにはならないから、最低限、1か月は中国に与えているものと推測される。つまり、5月7日頃にリミットが来る格好。
対して、より長期のチャンスを与えているとすると、大規模な艦隊をいったん帰還させて再集結を図らねばならない用兵上、最低半年くらいの期間は空ける必要が出てくる。ただし、北のICBM開発のリミットと、中東での戦争という「順番が圧して」いる事情から、1年以上もの対話期間をくれてやることは非現実となります。
その間の「ミドル」は、可能性として一番低いです。たとえば、半島周辺に集結させた軍事力を2~3か月も遊ばせておくとか、いったん艦隊を帰還させておいてすぐに呼び戻すとか、そういう無様な運用はあまり想像できません。
中国が早々に「お手上げ」ともいえる論調を掲げたことから、トランプ政権が中国に与えた期間は「ショート」である可能性がもっとも高いと考えられます。
つまり、5月7日が過ぎたら、トランプ政権は「われわれは中国に説得する機会を与えたが、北朝鮮は対話に応じようとしなかった」と堂々発表するわけです。
国際社会も「あの中国ですら無理なのだから・・」と、武力行為を容認します。
しかも、ちょうどその頃、横須賀にいる空母「ロナルド・レーガン」のメンテナンスが終わる予定です。本命、第七艦隊の出撃です。
そうすると、奇しくも(いや計算づく?)韓国大統領選挙の頃に、アメリカが北朝鮮と開戦するための政治的条件と軍事的条件がピタリと揃うわけです。
もしかして、新大統領がムン(Moon)で、開戦が5月11日の満月の日とか・・。
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