サウジが崩壊しても電力は止まらないが自動車は大打撃

オピニオン・提言系




先日、外交評論家の加瀬英明さんが、サウジアラビアの体制崩壊が近いというコラムを書いていました(*傍線は筆者)。

【日本を守る】サウジ崩壊危機の影響は 日本は電力が止まって“蛍の光、窓の雪”の生活  2016.12.15

日本の国力は、電力によって支えられている。

砂漠と、ナツメヤシとラクダと、石油が噴出する国々が集中するアラビア半島に、日本はエネルギーの80%以上を依存している。(略)

私はワシントンを訪れて、安全保障の関係者に「中国とサウジアラビアのどちらが先に崩壊するか、賭けをしよう」というが、賭けが成立しない。全員が私と同意見で「サウジアラビアだ」と答える。

サウジアラビアにISの不気味な黒い旗が翻る可能性は、かなり高いものがある。ISは、イスラム原理主義のイデオロギーだ。イデオロギーはいくら爆撃しても、粉砕できない。もし、サウジアラビアが崩壊して、アラビア半島が混乱に陥れば、日本は原子力発電所の稼働をほぼ止めているから電力が止まって、“蛍の光、窓の雪”の生活を強いられることになる。(後略)

ないない(笑)。

サウジ崩壊の件はともかくとして、原油が来なくなれば電力が止まるというのは間違いです。これはよくある勘違いなんですね。

以下は石油連盟2016年4月発行のデータです。

ご覧のように、日本の原油需要は約2億1900万キロリットル。そのうち、発電燃料になるのは、約1855万キロリットル弱。9%以下です。

これでも以前より多いくらいです。3・11前、国際合意により、石油火力は廃止するプロセスに入っていました。ほとんど発電には使っていませんでした。

原発が最終的に全部止まって、年間約1兆kWhの電力需要のうち、3千億kWh分の供給が欠落してしまいました。で、慌てて石油火力の解体工事を止めて、逆に修復して、無理やり動かしたわけです。それでなんとか需要に届きました。

それでも現在、日本の電力を支えているのは、主に天然ガスと石炭です。

しかも、供給先は世界中に分散しており、中東一極依存ではありません。石炭は言うに及ばず、LNGですら中東産はせいぜい3割くらいです。

ちなみにですが、100万kW級の原発が年間8割稼動すると、年間に70億kWhを発電します。すると、3・11前にどれくらいの原発が稼動していたか、だいたい想像がつくと思います。しかも、原発は導入費がバカ高くて、燃料費は格安というコスト構造ですから、この逆構造の火力で3千億kWh分を代替すると、どうなるか分かりますよね。

エネルギー問題に関しては、私も過去にいろいろと書いているので、よろしければ参考にしてください。問題全体を俯瞰するには適していると思います。

エネルギー問題を俯瞰する――石油・ガス・原子力・その他
エネルギー問題の俯瞰および全体戦略 日本国のエネルギーの流れと「超省エネ法」の紹介 エネルギー専門家と専門機関の過ちを見抜く 鳩山公約は「環境ベルサイユ条約」と化す 水素エネルギー社会は夢で終わる(その1)――燃料電池車への疑問 水素エネル



中東有事で石油価格は再び100ドル超えか!?

というわけで、電力と石油はあまり関係がないんですね。主として自動車をはじめとする運輸燃料と化学原料のために、原油を輸入している状態です。

表にあるように、需要の最大項目は自動車で、年間8800万キロリットルのガソリンや軽油を食っています。

だから、原油が止まれば、ここに最大の打撃が来るわけです。

というか、まず需給がタイトになり、先に燃料費の急騰がやって来ます。しかも、下のエネルギー白書の表をご覧のように、約9割は中東から来る。

たぶん、サウジで何かがあれば、たちまち原油は1バレル100ドルを回復するのではないでしょうか。実は、私もサウジの動乱はとっくに予想しているんですね。

以下は拙著『神々のアジェンダ』からの引用です。

 実は、サウジアラビアは別名「石油の出る北朝鮮」とも言われ、およそ世界最悪レベルの人権無視国家だ。世界のメディアからバッシングされてきたイランやリビアのほうがよほど“民主的”なのが実情だと言われる。王族が贅沢に耽る一方、ひどく貧しい市民層が存在する。極端な格差社会のため、市民の不満が鬱積している。そのため国家体制がどうやら限界に来ているようだ。いずれサウド家独裁に対する反政府革命運動となって、爆発する事態も考えられる。そんな状態だから、外部からの侵略に対して極めて脆弱だ。

2015年、ISに対する有志連合の空爆において、サウジアラビアは湾岸諸国サイドをリードし、さらに隣国イエメンの内戦にも介入し始めた。金持ち国らしく、最新のアメリカ製軍用機で民間施設を空爆し、何千人もの同じアラブ人を虐殺した。今までは札ビラを切るだけだったが、近年になって自ら軍事作戦を主導するようになった。だが、愚かにも同じアラブ民衆に対して戦争犯罪を行ったことにより、この独裁国家の命脈も尽きたといえる。とくに欧米側についたという評判は、イスラム世界では致命的である。

いずれISがサウジに侵入して、戦いを始めるだろう。あるいは、他の過激派組織や、自生的なゲリラ組織かもしれない。今の中東の混乱状況を考えると、近隣諸国が侵略を開始しても不思議ではない。いずれにしても、サウジ側の将兵には真の愛国心がない。贅沢三昧の王族に対して、心から忠誠を誓い、守ろうとする兵士などいない。だから、民衆によるゲリラ闘争でも始まれば、サウジの現体制は急速に崩壊していくに違いない。

『神々のアジェンダ』(P95~96)

これ、2015年の9~10月頃に書いた原稿です。

出典:サウジ空軍に爆撃されたイエメンの惨状 WSJ Updated March 26, 2015

どうやら、加瀬氏やワシントンの安全保障関係者も、見解が似ているようです。

しかも、当サイトをご覧の方は承知のように、私はトランプ当選後、イスラエルとイランとの戦争が来るかもしれないと、強く警告を発しています。

混乱はサウジだけじゃないんですね。もしかすると、シリアどころか、中東の広範囲で戦乱になるかもしれない。想像すると、ぞっとしませんか。

いったい、私たちはどうすればいいんでしょうか。

実は、2000年代後半からの石油価格の上昇、および将来の中東大混乱を見据えて、私なりに脱石油の戦略を考えていました。すでに発表済みですので、こちらのほうも参考までに。もっとも、もはや間に合わないかもしれませんが・・・。

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