さて、次期トランプ政権ですが、国防長官のジェームズ・マティスと、安全保障担当補佐官のマイケル・フリンは、共にイランとイスラム教に対する強硬派です。
つまり、大統領・国防長官・安保担当補佐官の米軍3トップが対イラン強硬派。これは対イラン戦の布陣ともいえる。さすがシオニストがバックの政権ですな。
哀れ、イランのロウハニ大統領は、IAEA(国際原子力機関)の天野事務局長に対して、「相手が反故にしない限りは、イランは今後も核合意を守り続ける」(テヘラン共同)などと律儀に語ったとか。連中はイランが合意を守ろうが否が、そんなことは最初から関係ない。イスラエルが何としてもペルシアを倒したい・・背景にあるのはそれ。
すると、エクソンモービルCEOのレックス・ティラーソンが政権ナンバー3の国務長官に選ばれたのは、プーチン大統領と知己があって、対ロ関係改善のサインと一般には言われているが、それ以上に彼が「オイルのプロ」だからというのが理由かもしれない。
つまり、彼自身、世界最大の石油供給業者なので、中東大乱後のエネルギー政策の采配を期待されているということ。この見方はたぶん私が始めてだと思います。
仮にイランがホルムズ海峡を機雷で封鎖したらどうなるか、上の地図を見れば一目瞭然です。もしかして「掃海能力世界一」の海上自衛隊が向かわされるのだろうか。
どうも、私の悪い予感が当たってきたような気がしてならない。再び拙著『神々のアジェンダ』から以下に引用します(*傍線は今の筆者による)。
中東有事が重なれば石油危機が再来する
(略)非常にタイミングの悪いことに、これから中東情勢が急激に悪化していくと思われる。すると、世界的な石油危機が再来する可能性が高い。
周知の通り、14年の後半から突如として原油価格が急落し始めた。これはサウジアラビアが中心となって意図的に原油市場の需給バランスを崩した結果だ。1バレル100ドルを超えていた価格は、年末には40ドル代にまで下落した。その結果、3・11以降、発電燃料の高騰に苦しんでいた日本は、円安傾向にあっても、一息ついている状態だ。
この政治的な操作によってもっとも打撃を受けたのがロシアとイランとベネズエラ、そして北米のシェールガス・オイル企業とその投資家たちだ。
報道を見ると、すっかり忘れられているようだが、実はこれは80年代半ばにも使われた手口なのだ。当時、アメリカと中東のOPEC(石油輸出国機構)はこの方法でソ連とイランを標的にしたのである。この原油安政策がボディーブローのように効き、実質、ソ連経済は破綻に追い込まれていった。
だが、このトリックはそう何年も続けられないだろう。最大の理由は中東情勢の急速な悪化だ。そもそも、13年9月の時点で中東戦争になってもおかしくはなかった。当時、化学兵器使用問題を口実として、米欧はシリアと開戦する予定だった。プーチン大統領が横やりを入れて、うまく阻止したにすぎない。それから2年が過ぎた現在、中東情勢はさらに混迷の度を深めつつある。前章で見てきたように、ISが急激に勃興し、シリアとイラクを荒らし回っている。エジプト、リビア、イエメンにも内戦の火が及んでいる。
2016年現在、サウジアラビアの周辺はすべて戦火に包まれている状態だ。
果たして、このまま、この世界最大の原油生産国だけ無事ですむのだろうか。言ったように、私はサウジアラビアにも内戦が飛び火するのは時間の問題だと考えている。
その時、原油価格はどうなるだろうか。おそらく「元に戻る」だけではすまない。さらに上昇して、1バレル200ドルを目指す展開になっても不思議ではない。
すると、いったい日本はどうなるのか。大震災が起これば、石油生産設備と物流が被災する。それに加えて、財政非常事態に陥れば、円安・インフレなどの要因からもエネルギー価格が急騰すると予測される。ここに「原油それ自体の値上がり」が加わるのだ。
現在、エネルギー輸入費は年間20兆円程度だが、これが40兆や50兆円になっても不思議ではない。日本の貿易収支は大赤字になる。当然、所得収支の黒字でもカバーしきれないので、日本の経常収支は完全にマイナスだ。もしかすると、ガソリンは税抜きでもリッター数百円くらいになるのではないか。しかも、石油コストはすべての物価にかかってくるので、事は燃料代の急騰に留まらない。つまり、原油の元値(ドル価格)の暴騰は、エネルギーの大半を輸入に頼る日本にとって諸悪の根源ともなるのだ。
おそらく、日本経済は重症化し、庶民の暮らしも極端に悪化する。その「痛み」によって初めて日本人は覚醒し、本気で脱石油・脱化石燃料に取り組むだろう。それもいいのだが、できれば石油供給に余裕のある今の内に自覚的に脱石油に舵を切りたいものだ。
実は、私個人は前々からこの事態を予測し、ネット上でEVの普及を訴えてきた。日本は約9千万klのガソリン・軽油需要を満たすために、毎年2億kl以上もの原油を輸入することを強いられている。自動車の電化こそが唯一にして本質的な対策である。
最後のところ、決して本の中でウソを言ったわけではありません。
それがこれです。
日本が中東での派兵に追い込まれる日
震災による直接的ダメージ、財政非常事態、そして中東有事……将来のエネルギーを取り巻く環境はまさに「三重苦」である。たぶん、読者の中には「こんなに不運が重なるはずがない!」と、お怒りになる人もいるだろう。だが、私は悪戯に恐怖を煽っているのではなく、本当にこの種の“最悪の事態”を想定しておくべだきと信じている。
しかも、悪い時には悪い事が重なるもので、もっと嫌なことを言わねばならない。中東発の石油危機は“次の危機”へと連鎖していく可能性があるのだ。それが「戦争」である。
仮に中東有事になれば、コストが急騰するだけでなく、石油供給が一時遮断される可能性もある。「中東が駄目なら、その分をよそで」と言いたいところだが、石油の増産には莫大な設備投資が必要なため、各国ともそう簡単にはいかないらしい。
日本は官民合わせて、だいたい200日分くらいの石油備蓄量を持つ。業務とは関係ない自動車利用を自粛するなど、節約モードでなんとか1年くらいはもつだろう。
だが、その先は? 分からない。すると「石油の一滴は血の一滴」の再現だ。どこかで聞いたスローガンである。その時、日本人は、平和国家にあっても、やはり石油は戦略物資であり、その安定確保は国家の生命線であり、安全保障問題なのだと気づく。つまり、自分たちが生きるためには、ある種、力ずくで石油を確保するのもやむなしと。
ある意味、日本は太平洋戦争開戦前夜と似た状況に立たされるわけである。
当時の日本の石油需要は、たかだか500万kl程度で、現在の約2億数千万klからすると比べ物にならない。それでもアメリカの禁輸政策により死活問題になった。とりわけ海軍は、このまま座して死すか、動けるうちに戦争に活路を求めるか、という選択を迫られた。ちょうど、ドイツの“快進撃”の最中で、英仏蘭の植民地支配が揺らいでいた。今なら植民地を横取りできるし、第一、放置しておいたらドイツに取られかねない。
かくして、東條英機内閣は開戦(南方作戦)を決定した。石油の出るスマトラ・ボルネオ島は、当初は重要資源確保のため、帝国直轄領の予定だった(のちに独立を与える方針に変更)。「大東亜共栄圏」は松岡洋介の思いついたキャッチコピーだった。
このように、ある種の「状況」によって、当時の日本は戦争へと追い込まれていった。むろん、それを作り出したのは、日中戦争や南進政策などの戦略ミスであったり、ルーズベルトの思惑であったり、欧州で勃発した戦争の影響であったりする。だが、それらも、やはりそれ以前の状況に動かされた結果ともいえる。つまり、ある意味、人間が天に操られている面は否めないのだ。だから状況をコントロールできる立場にない日本は、今回も己の意志に関わりなく、戦争へと追い立てられてしまう危険性が十分にある。
最近やたらと「自衛隊の掃海能力は世界一」と吹聴される機会を目にするが、おそらく最初は後方支援とか、ホルムズ海峡の掃海作業から始まるはずだ。しかし、機雷を撒いた国からすれば、それは敵対行為である。攻撃を受ける可能性は十分ある。また、湾岸諸国の油田・パイプライン・シーレーンの防衛において、西側兵士の死者が必ず出るだろう。当然、後方に“隠れている”日本に対して、西側国際社会の非難が巻き起こるはずだ。
「なんで日本だけ石油供給を守る戦いに参加しない?」と。「タイやフィリピンでさえも自国兵士を犠牲にしているのに、なぜおまえらだけリスクを負わない?」と。
平和憲法を盾にする日本は、針のムシロに座らされ、袋叩きにされる。しかも、身勝手なことに、その憲法を押し付けた張本人のアメリカが率先して日本を非難し、仲間外れにしてくるかもしれない。大方、これが国際社会の現実ではないだろうか。
以上はあくまで仮定の話にすぎないが、要するに石油に全面的に依存する限り、中東有事になれば、自分が望まない状況に追い込まれても不思議ではない、ということだ。
『神々のアジェンダ』(P136~141)
これは2015年の9~10月頃に書いた原稿です。
サウジの崩壊、そしてイスラエルとイランの戦争・・・やはり、自覚的に黒い液体の呪縛から自らを解き放つ以外に、日本の生きる道はないのではないでしょうか。というわけで、私がせっせと戦略を考えたことは無駄ではなかったと思う今日この頃です。
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