反安倍政権側が前川氏の件で犯した致命的な過ち

オピニオン・提言系




さて、これは前回の記事と関連している。

前川元事務次官が引き起こす教育現場のモラルハザード
前川元事務次官が通い詰めていた風俗店は、暴力団の資金源になっており、新宿署が売春防止法違反で内偵していた。そのアンテナに引っかかった目立つ常連客が、なんと現役の事務次官だったということで、警察庁のトップにまで報告がいった。 私は以下の記事に...

前川元事務次官の「出会い系バー通い」を読売新聞が報じた経緯については、彼の信用を貶めるための官邸側によるリークとも囁かれている。

元全国公安警察のトップ(警察庁警備局長)だった杉田和博官房副長官がこの件を承知していたことを明かしているので、警察は元々、政府高官のスキャンダルを握り潰していたわけだ。で、いったん自身が握り潰したスキャンダルを、政治的判断から表に出したとすれば、前川氏の社会的信用に打撃を与えることを狙ったと疑われても仕方ない。

私も官邸サイドの謀略だったと推測する。

こういうやり方は、たしかに醜いものがある。

しかし、感心できないとはいえ、元来、前川氏の社会的地位と責任を思えば、政府高官のスキャンダルとして十分事件性があったわけで、それゆえ公開自体には一定の公共性が認められるのも確かだ。だから、私は少し前の記事でこう記した。

情報の入手経路がどうだろうが、読売新聞が報じたことと、これに対して菅官房長官が異例の個人批判発言をしたことは、まったく妥当である。

だから、政権運営に原則を置いた政治サイドの恣意的な行動を批判するのはいいが、「人を不当に貶めた」などと公開自体に噛み付くのは筋を違えていないだろうか。

なにしろ、前川氏を貶めているのは、彼自身なのだから。

繰り返しで恐縮だが、これは公人(しかも政府高官)のスキャンダルだ。しかも、発覚後に「貧困調査だ」などと取り繕い、世間を煙に巻こうとした(これも繰り返しになるが、そういう要素がゼロだったとは私も思っていない)。

おそらく、他の国であれば、二重の意味で、非常に大きな問題になっていた。この件を「個人の自由だ」などと擁護する人たちが少なくないが、私が確信するには、その「個人の自由」の本場である西欧や米国でもこれは決して許されなかったはず。

冗談抜きで、これはお隣の国・韓国でも蜂の巣をつついた騒ぎになったと思う。



官邸の謀略にまんまと乗せられた反安倍政権側

さて、以上のように、やり方はフェアではないが、官邸のリークを受けた(と推測される)読売新聞のスキャンダル暴露自体は、決して許されない行為ではない。

だから、前川氏を擁護してやまない反安倍政権側は、暴露報道の当初から「彼の行為はたしかに問題だが、それとこれとは別個の問題だ」と主張するべきだった。

本来なら、それでこの件はケリがついていたはずなのである。

そうやって、前川氏の告発内容と、彼の人格とを、当初から切り離して論じていればよかったものを、あろうことか、前川氏の人格と“善行”とを過度に褒めるという軽挙妄動に及んだせいで、かえって謀略に乗せられた格好になった。

つまり、不発に終わっていたものを、わざわざエサに食らいついたのだ。

もしかすると、「安倍政権を正面きって告発する勇気あるヒーロー」だから、あくまで“人格者”であり純粋に“公益”のために立ったという体裁でなければ困る、と算段したのだろうか。仮に安倍政権を窮地に追い込むには、そういうシナリオでなければ自分たちにとって都合が悪いと考えたとしたら、それは彼らが非難してやまない官邸側とさして違わない政治的な思考と言わざるをえない。公益とは次元を異にするものだ。

この件における正義と真実は、彼の告発内容の事実性のみにある。極端な話、前川氏がレイプ犯であろうが、安倍内閣が縁故政治をしたかどうかだけが大事なのだ。

むしろ、その公益からいえば、コレはコレで批判しなければならなかった。さらに言うなら、政治的な利益からしても、そうしたほうがよかった。

なぜなら、「教育者がこんなことをして許されるのか!」という素朴な大衆感情は、いくらメディアや知識人・有名人が擁護しようが、決して拭い去ることはできないからである。そして私もまた大衆の一員として、その直感的・情緒的な主張を是とする。

反安倍派は目先の政治戦術に固執するあまり自らの拠って立つ正義さえ捨てた

だいたい、普段から、安倍政権を追及する人たちといえば、道徳を掲げて他人を裁くことが三度のメシよりも好きなはず。私はメシのほうが好きなので相容れない立場だが、ここではとりあえず他人の「生きがい」にまで口を挟むつもりはない。

前回も言ったことだが、暴力団の管理買春の疑いが濃厚な風俗店に出入りした前川氏の行状を、「個人の自由だ、勝手だ」などと擁護し、あまつさえ彼を人格者などと持ち上げる行為は、このような社会悪と切り離せない社会矛盾をも是認した格好になる。

反安倍政権派といえば、いわゆる左派・リベラル派が多いと思うが、政治論争上のテクニカルな理由から及んでしまったとはいえ、みなさん的にはそれでいいのか。

土井たか子ではないが、「駄目なものは駄目」とはっきり言うべきではなかったのか。

それとも、子供たちを戦場に行かせるのはダメだが、売春施設ならOKということなのか。性を売るのも買うのも個人の自由なので無問題ということか。普段から「子供たちの未来のために」というスローガンを唱えている人たちが多いようだが、己の政治的主張のために子供たちをダシにしていると思われても仕方がない。

もともと左派やリベラル派を自認する人たちは「価値観」を拠り所としていたはず。今回、その筋まで曲げてしまったことで、政治的には死んも同様だ。

小さな過ちでも認めなければ追い込まれていく

しかしながら、これは単なる思慮不足とも考えられる。私もしょっちゅうその種のミスは犯しているので、ことさら責める気はない。

だから、彼をいったん人格者などと持ち上げてしまった人は、「判断ミスだった」と公に過ちを認めたほうがいい。そうすれば、些細なミスとして片付けられ、しばらくすれば忘れ去られ、過ちは消失することになる。そして、前川氏の公開した情報の中で、使える材料は大いに使って、税金という巨大利権に群がり、食い物にする連中――それが安倍政権かどうかともかく、一般論として――を、またどしどしなで斬りにすればいい。

実際、私もこの国の悪弊ともいえる“私物国家構造”には心底うんざりしている(言っておくが、それを非難しながら、他方で小沢一郎を持ち上げるのはやめるべき)。

2020年の東京オリンピックのケースでは、国民が騒がなければ、ゆうに1兆円くらいはゼネコンと政治家その他に掠め取られていたかもしれない。こういった構造はどの国でも大なり小なりあることなので、ことさら日本に特殊化するつもりはないし、「欧米ガー」の台詞は言いたくないが、実際、欧米よりも腐敗が酷いのは間違いない。

そういえば、森友学園に続いて、この加計学園でも、急速に「補助金事業の不透明さ・ノーチェックぶり」の問題が浮上してきた。

だが、己の思慮が足りなかったことさえ認める勇気のない人が、どれほどこの件で正義の剣を振るったところで、あまり説得力はないように思われるが・・。

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