タイトルを見て「あれ、逆じゃないの?」と疑問に思った人も多いと思います。
なにしろ、マスコミでは「日本はEVシフトに乗り遅れた」という主張がトレンド。そのEVメーカーの雄で、今や飛ぶ鳥を落とす勢いなのがテスラ。
対して、これまで次世代車として燃料電池車の開発と普及に尽力し、多数の部品メーカーを抱えるトヨタなどは、EVシフト競争において大きく出遅れている。
しかし、私はあえて逆を予想するんですね。
といっても、最近、トヨタは将来のEV生産に向けてマツダ、スズキと相次いで提携しましたが、そういった挽回の動きを根拠にしているわけではありません。
その前にまず、EVシフトそのものは、内外の調査会社やシンクタンクの予測よりもさらに早く進むと思われます。2020年には中国市場だけで約300万台のEV・PHVの販売枠が政策的に作り出されます。これは年々拡大されます。
しかも、似た動きは欧州、インド、米カリフォルニア州でも起こっている。
かつてのマスキング法のように、メーカー側は否が応でも対応を強いられますから、この世界的な潮流はもはや止めようがない。日本でも公用系や通勤・買い物がメインのユーザーから、どんどん切り替えが進行していくでしょう。
トヨタの発表とそれに対するイーロン・マスクの揶揄
ところで、先日、トヨタが次のようなプレスリリースをしました。
トヨタ、全固体電池搭載のEV発売へ 数分で充電、22年国内 2017年7月25日
(http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2017072502000061.html)
トヨタ自動車は、現状の電池よりも飛躍的に性能を高めた次世代の「全固体電池」を搭載した電気自動車(EV)を二〇二二年にも日本国内で発売する方針を固めた。現在のEVの弱点である航続距離を大幅に延ばし、フル充電も数分で済む。(後略)
これに対して、テスラのイーロン・マスク氏が次のように言い放ちました。
テスラCEO、車載電池開発巡りトヨタを挑発「口では何とでも言える」2017/8/3
テスラCEO、車載電池開発巡りトヨタを挑発 - 日本経済新聞【シリコンバレー=中西豊紀】米電気自動車(EV)メーカー、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)がトヨタ自動車のEV事業を挑発している。同氏は2日、トヨタが開発しているとされる高容量の新型電池について「サンプルを持ってきてくれ」と...(前略)トヨタが開発しているとされる高容量の新型電池について「サンプルを持ってきてくれ」との表現で商用化に否定的な見方を示した。
トヨタはEVでの遅れを取り戻すため、リチウムイオン電池の倍の容量があり充電時間も数分で済む「全固体電池」を搭載したEVを開発中とされる。決算会見でこのことを問われたマスク氏は「アンドロメダ星雲への瞬間移動のように口では何とでも言える。我々か第三者の研究所で検証させてくれ」と返答。実現可能性に疑問を呈した。(略)
と、まあ、挑発的とも思える発言です。
テスラは今年に入ってから売上が前年同期比の倍のペースに伸びています。自ら電池の量産にも関わっていますから、自社技術の優位性に相当な自信があるようです。
ついにお披露目されたトヨタの革新的な二次電池
しかし、トヨタの「全固体セラミックス電池」は、お膝元の日本では非常に大きく報じられ、素人の私でも大変感心したくらいなので、イーロン・マスク氏が詳しく知らないはずがありません。
もしかすると、ある種の恐れから、強がってみせたのではないでしょうか。
以前からトヨタの新型二次電池の噂がありましたが、2016年7月、正式にお披露目されました。
開発したのは、東京工業大学の菅野了次博士とトヨタ自動車の加藤祐樹博士です。
新たな全固体電池の特徴として、博士たちは、
- リチウムイオンの伝導率が従来の倍の固体電解質
- 数分でフル充電可能
- キャパシタよりも優れた出力特性
- 一千サイクルの充放電を行っても電位は安定していて実用に耐えうる
などの特徴を挙げています。
キャパシタというのは、電気を化学変換して貯めるのではなく、そのまま貯めるもので、それゆえ急速充放電が可能ですが、他方でどうしてもエネルギー密度が低くなるという欠点があります。この新型は化学電池でありながらそれを実現したところが凄い。
博士たちは分子構造まで明らかにしているので、間違いないと思います。
(http://www.huffingtonpost.jp/nature-publishing-group/electric-battery_b_11076660.htmlを参考)
EVの最大の差別化ポイントはバッテリーだ
周知の通り、トヨタは2010年にテスラと資本提携しましたが、2016年末までにテスラの保有株式をすべて売却して、関係を解消しました。
そして、同じ頃に社長直轄のEV開発組織を設置しています。
穿った見方をすれば、すべてはこの新型電池の開発成功が背景にあるのではないでしょうか。誰であっても「もうわが社はテスラの電池技術など必要ない」と考えるはず。
だから、この切り札をくれてやるのが嫌で、資本提携の解消したのではないか。
なぜ「切り札」になるのかというと、EVというのは、バッテリー以外の部分ではほとんど差別化できないからです。電動モーターはすでに9割以上の効率なので、ほとんど伸びしろがありません。あとタイヤやボディなど、どれも似たり寄ったりです。
だから、この革新的なバッテリーさえあれば、他社のEVに大きな差をつけることができます。充電時間の短縮は利便性に、また充電容量のアップは航続距離に直結します。
トヨタはプリウスPHVで「屋根発電」を実用化していますが、塗装型の太陽電池を使った「ボディ発電」の技術も持っていると言われています。これは海外メーカーもモーターショーで展示していましたが、市販はまだだと思います。
トヨタが2022年に発売する予定の「全固体電池」搭載のEVは、本当に次世代の革新的な自動車になるかもしれません。テスラやボルボなどの欧米メーカーが先行していても、この世界初の次世代車で、一挙に巻き返しが可能とも予想できます。
この新型電池の前には、さすがのイーロン・マスクも、トヨタの本社に行って三顧の礼を尽くすほかないのかもしれません。
それにしても、菅野了次博士と加藤祐樹博士は、ノーベル賞級の発明を成し遂げたといえるのではないでしょうか。
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