モンゴル帝国の二の舞になるアメリカ、そしてグローバル通貨の登場

歴史
ウィキペディア「クビライ・カン」より




ペルシア系のソグド人。彼らは東西間の物資の流通を担っていた商人であった。なぜ彼らはモンゴル帝国の征服事業に力を貸したのであろうか?

シルクロードにはたくさんの小さな国があった。貿易商はそこを通過するたびに関税をとられる。こうして、一方から一方へ品物が届いた時には、異常なほど高額になった。

あまりに値段が高いものは消費者から敬遠される。純粋な運送経費に彼らの利益を上乗せしただけであれば、もっとも消費は伸び、ビジネスも拡大するはずだと、彼らは悔やんだに違いない。だから、彼らは関税を無くしたかった。そのためには一つの巨大な国家を作り、国境を無くしてしまえばよい。そうすれば、その帝国内では、実質的な自由貿易が可能となる。そこで彼らが目をつけたのが、野蛮だが勇敢な戦士の集団だった。

必ずもそればかりではないが、彼らの資金と情報はモンゴル帝国が拡大していく上で大きな役割を果たしたようだ。モンゴル帝国の経済政策は色目人官僚(ペルシア人やアラブ人など)が担ったという。こうして今風にいえばGDPが増え、結果的に税収も増えた。その豊富な財力がまた帝国の軍隊とその遠征、広大な領土の維持を支えた。



パクス・モンゴリカと斬新な通貨政策

1206年に初代チンギス・ハンが遊牧国家を打ち建てたときには、領土は今日のモンゴルとさほど違わなかったが、第2代のオゴデイのときには領土がカスピ海にまで達していた。だが、あまりに版図が拡大すると、通商上の問題も生じてくる。大きな取引のたびに、商人から商人へ大量の銀貨が渡される。だが、物理的な限界があるし、治安上の問題も生じてくる。そこで銀貨の換わりになるものとして紙幣が考えられた。これならば大きな取引であっても、その度に何百キログラムもの銀塊をやり取りする必要がない。

だが、紙切れを通貨とする場合、それを誰が発行するのか、本当に必要な時にちゃんと銀貨と交換してくれるのか、という点が問題になる。つまり、権威・信用といった「不可視の問題」である。むろん、紙切れの価値を保障できるのは帝国政府しかない。

1236年、第2代オゴデイ皇帝は、かつてモンゴル自らが滅ぼした金朝の紙幣制度を参考にして「交鈔(こうしょう)」を発行した。巨大で強力で安定した政府が保証してくれることによって、商人たちは安心して紙幣を使うことができ、これによってますます経済は発展した。当然、偽造しようと考えるものがいる。そこで紙幣の柄を複雑化して印刷を難しくし、「これを偽造した者は死罪に処する」という脅し文句も添えられた。

至元通行寳鈔とその原版 ウィキペディア「交鈔」より

至元通行寳鈔とその原版 ウィキペディア「交鈔」より

こうした帝国の斬新な通貨・貿易政策に支えられ、ユーラシア経済は大きな繁栄期を迎えた。ウィキペディアがそれをうまくまとめているので引用させていただこう。

モンゴル帝国の再編とともに、ユーラシア大陸全域を覆う平和の時代が訪れ、陸路と海路には様々な人々が自由に行き交う時代が生まれた。モンゴルは関税を撤廃して商業を振興したので国際交易が隆盛し、モンゴルに征服されなかった日本や東南アジア、インド、エジプトまでもが海路を通じて交易のネットワークに取り込まれた。後年この繁栄の時代をパクス・モンゴリカ(あるいはパクス・タタリカ)と呼んでいる。

ウィキペディア「モンゴル帝国」より

帝国の興亡と軌を一にする通貨価値

さて、14世紀に入ると、後継者をめぐる内乱などにより、帝国は急速に衰退していく。他方、財政が逼迫すると、帝国政府の官僚の中には、信用創造の機能を利用しようと考えるものが現れ始める。

「この世の誰もが『紙幣=一定量の銀』だと信じて疑わない。だから手元の紙幣をあえて銀に交換する必要を感じない。ということは、紙幣を刷るだけで、無から富を作れるのではないか。事実上、銀の保有量を増やしたに等しい効果が得られるではないか。紙幣の増発によって軍事支出を補うなどの、財政の穴埋めに利用できるはずだ・・」

人々が信じきっている状態を悪用しようとするこの試みは、その規模が小さいうちは問題とならなかった。しかし、あまりに兌換準備量を超えた紙幣の増発が続くと、商人が紙幣を役所に持っていって「銀と交換してほしい」と頼んでも、「手元に銀がない」と拒否される例も増え始める。やがて政府は、銀と紙幣の交換比率の改定や、交換停止などへと追い込まれる。銀の裏づけを失ったことで、紙幣は益々乱発されるようになる。

インフレになると、人々は紙幣の価値を疑い、銀を欲しがるようになる。財政の逼迫・通貨政策の混乱は、そのまま経済の弱体化へと繋がっていく。それがまた税収を減らし、帝国のさらなる衰退に拍車をかける。モンゴルの支配層がラマ教へ傾斜したことも財政問題悪化の一因だという。一方で、その状況を見て、ヨーロッパと中国から帝国に対する反撃も活発化する。かくしてモンゴル人は北走し、かつての帝国も崩壊する・・・。

米ドルの運命とその先に控えるグローバル通貨

さてさて、ソグド商人、自由貿易、国際流通紙幣の発行、帝国の衰退、インフレ、宗教への傾斜、他国の反撃・・・などについて述べてきたが、実はこれは長い「前ふり」みたいなものである。私が言いたかったのは、実は、妙に今日のアメリカの姿とダブって見えるということだ。現代では、ソグド商人に相当するのはグローバル企業だろう。だが、自由貿易の推進は、必ずしもその国や国民にとって最良の選択とは限らない。

かつて交鈔のたどった運命は、現代のドル紙幣にとっても決して他人事ではないはずだ。ドルもまた1971年のニクソン・ショック以降、不換紙幣化し、以来、どんどん減価していると言われる。中ロが主導する非ドル経済圏も拡大しつつある。アメリカは双子の赤字も放置してきた。基軸通貨特権に胡坐をかいて貿易赤字は構造化している。

近いうちに、おそらくほんの数年以内に、ドルの命脈は尽きる。必ずハイパーインフレとなる。インフレとは何か? それは「その紙幣をもつすべての人々に対する課税である」とミルトン・フリードマンは喝破する。つまり、集中的な酷税が形を変えたものだ。

仮に新ドルが発行されたとしても、それは国際通貨にはならない。もはや一国の通貨がそれを担える時代ではないと思われる。実は、ここからが本題(笑)なのだが、「グローバル通貨」のディファクト・スタンダードはもう分かっている。

大量の銀をやり取りするのが煩わしくて紙幣を作ったモンゴル帝国の故事は、現代にも通用する。20世紀後半になると、大量の紙幣のやり取りすら煩わしいということで、銀行間システムを利用したオンライン決済が行われ始めた。そして今日、情報ネットワークが社会全体を覆い、電子的な決済が個人の消費までもを急速にカバーしつつある。

通貨には、明らかに「広域化・統一化」「バーチャル化」という一貫した流れが存在している。つまり、「金属貨幣→兌換紙幣→不換紙幣→銀行オンライン取引」である。この歴史的な方向性からすると、貨幣進化の最終形態はすでに見えている。

つまり、完全なるバーチャル存在の「世界統一電子マネー」である。ドルの次に来るのはこれだ。そして、これが人類史上初のグローバル通貨となるのである。

(*おそらく、いったん世界恐慌を演出し、そこから世界統一通貨へと誘導していくシナリオだと思われます。)

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