やっぱり馬鹿だった小泉元首相

オピニオン・提言系




みなさん、こんにちわ。

小泉元首相が脱原発派に転じたことはすでに周知だが、問題はむしろ間違った前提を基にして「自然エネルギーで原発の代替が可能」と説いて回っていることだ。

それに対して、「kwとkwhの区別も分からない」との批判があり、それがいつどこの発言かを私のほうで探してみた。それがこれ(↓)だった。

脱原発に転じた小泉元首相「うそ信じた自分を恥じた」FCCJで会見(201697日)

この動画の1:50頃にその種の発言が噴出する。

全体の内容は、主に「トモダチ作戦」によって被爆した米軍兵士側の視点に立ったもので、彼らを支援しなければいけない、と力説するものだ。

被爆した兵士たちと実際に面会して、彼らが鼻血を出したり、ガンにかかっているのを見て、福島原発事故による放射能が原因に違いないと確信したという。

福島の壊れた原子炉がアメリカ製であることには触れていない。

ただし、一部の欧米人記者から「福島の放射線量は実際には低く、米軍兵士の症状はちゃんとした医学的な根拠があるのか」と質問で突っ込まれているが、それに対して元首相は必ずしも医学的な根拠に基づかず、専門家の言葉が疑わしいことなどを挙げ、あくまで実際に兵士と会った自分の体験から被爆であると確信していると述べている。

これに関しては、確かに医学的な根拠、とくに数値の提示が待たれる。

動画の1:15頃に小泉氏は「自然エネルギーで日本はやっていける」と主張して講演を締めくくり、以後、質問コーナーに入る。



小泉元首相の発言の問題部分

さて、本題は「自然エネルギーで原発の代替が可能」という話だ。

ドイツ人記者が「日本は再生可能エネルギーの発電量が少ないが、どうやってそれを増やしていくのか?」と質問する。

で、1:50頃から、小泉元首相はこんなことを言い始める。

「いま、政府がたいして自然エネルギーを支援しなくてもどんどん伸びてますよ」

「事故起きた後、太陽光使えばいいって言うけど、(世間・専門家は)太陽光なんてわずかしかないって言ってました。(略)もし原発の電気と同じ100万kWの太陽光発電を出すためには、東京の山手線のうち全部を太陽光に使わないとできないって言ってましたよ」

「ところが、去年の3月時点でどうですか。山手線全部何にも使っていませんよ、潰してませんよ(略)そうしないと出来ないと(原発)推進論者は言ってましたけど、今、山手線のところ潰して太陽光なんてやっていませんよ。」

ここで私の補足。

つまり、小泉氏は「100万kWの原発の代わりをするためには山手線内と同じ面積をすべて太陽光発電に使う必要があると原発推進論者は言っていたじゃないか」と口を尖らせている。

で、自分で話しているうちに、「山手線内と同じ面積を」のはずが「山手線内を」というふうに錯覚していったようだ。もしくは、当初からそう錯覚していたのか・・?。

続けよう。

「ところが、2015年3月時点で、山手線の中、全部潰さないけども、2700万kW、太陽光でやっているんですよ、今。27倍だよ。2700万kW! だから100万kWの27倍を政府の支援がなくとも太陽光がやっちゃっているの!」

「これは原発10基分以上の電気を太陽光だけで出しちゃう

困ったことに、何重もの誤解が重なっているように思われる。

「一基の原発≒山手線の内側に等しい太陽光発電」は間違いか?

少し情報を整理しよう。

第一に、まず小泉氏が「間違いではないか」と評している「もしも太陽光発電で100万kW級原発の代わりをしようと思えば、山手線の内側に等しい面積(6千ha超)が必要」とする主張について、である。結論をいえば、この例えは正しい。

つまり、間違っているのは小泉氏のほうである。

これに関して、以前に私はこんな記事を書いている。

孫正義氏の「電田プロジェクト」は本当に駄目なのか?(前半・擁護編)
昨年、ソフトバンク孫正義社長は、耕作放棄地などにメガソーラーを建設し、電力需要の数割を賄うとする「電田プロジェクト」をぶち上げ、賛否両論を巻き起こした。当時の管総理の熱意もあって、8月には太陽光・風力・小規模水力・地熱・バイオマスによる発電

原発の年間発電量を70億kWhと仮定し、効率15%のパネル(*設備利用率12%)を発電所用地の9割に敷設するとした場合、ほぼ「5千ha」もの面積が必要になる。

また、風力ならどうか。大型風車で代替しようと思えば、互いに約200mの間隔は取らねばならないので、そのメッシュで考えると、直径100m級ならば「4262ha」もの面積が必要だ。

このように、両者とも山手線の内側の面積をほとんど使ってしまう。自然エネを代表する両者のエネ密度が極めて低いのは事実だ。

もっとも、小泉氏は、たぶん上の内容は理解できないだろう。

言ったように、たとえ話なのに、彼は本当に山手線の内側を使わなければならないかのように錯覚しているフシがある(*そこだけ太陽光線が強い、とか・・?)。

出力(瞬間値)と年間の総発電量の区別がついていない

第二に、何よりも電力の瞬間値と積算値の区別がついていない。

分かりやすく、1000ccのエンジンを積んだAとBの自動車で比較しよう。

Aのエンジンは、常に3600rpmの一定で回転を維持し、しかも一年間のうち7000時間も動いている。

対して、Bのエンジンは、同じ1000ccだが、時間帯によって3600rpmの回転数に達することはあるが、基本的に1200 rpmになったり2000 rpmになったりと気まぐれで、しかも夜間は完全停止し、一年間のうち1000時間程度しか動かない。

小泉元総理に質問したい。

果たして、AとBの自動車の年間走行距離は同じだろうか、と。

もちろん、Aのほうがはるかに長い距離を走ることができる。

もうお分かりのように、Aのエンジンが100万kWの原子力発電で、Bのエンジンが同じ100万kWの太陽光発電のことだ。

一年間は8760時間である。そのうち発電所がどれくらいの時間動いているかを表すのが「設備利用率」とか「稼働率」と呼ばれるものだ。

原発の場合は年間稼働率80%くらい持っていけるが、太陽光発電は人為ではなく日照が決めるので、日本国内だと年間12%前後がせいぜいだ。

砂漠だと倍以上の日照時間がある。だから、アメリカの砂漠の事例を引っ張ってきて、「ほらアメリカでは太陽光発電の値段はkwhあたり○○円ですよ」という主張をする人を度々見かけるが、参考程度にしかならない。また、日米では土地代からして違う。

いずれにせよ、その稼働率で考えると、同じ100万kWの出力でも、原発は年間に70億kWhを発電するが、メガソーラーは10・5億kWhしか発電しない

よって、小泉氏が、原発の100万kWと太陽光の100万kWを同列に置いて考えているのは間違いだ。また、2700万kWの太陽光設備を指して「原発10基分以上の電気」を出せるとするのも誤解というか、理解不能。普通に計算すれば4基分のはずだ。

しかも、それはあくまで発電量であり、出力は太陽次第でくるくると変わるから、バックアップの二重投資を強いる、商用電力としては極めて品質の低いものでもある。

(以下、参考記事)

自然エネルギーへの幻想を助長する「原発何基分」という表現
先日、日本経済新聞を見たら、一面に「太陽光発電、原発6基分に」というインデックスがあり、そんな馬鹿なと思いながら他面の本記事のほうを開いてみたら、こんなことが書いてあった。 「太陽光発電の国内導入量が年内に500万キロワットを超え、600万

太陽光発電ほど政府の過剰な支援を受けている事業はない

第三に、小泉氏は、太陽光発電の普及に関して、まるで政府の支援がないかのように言っているが、これも錯覚であることは言うまでもない。

彼はずっと政府の人間をやっていて、固定価格買取制度(フィード・イン・タリフ制度)が何か分かっていないらしい。

民間事業者が指定の自然エネルギー発電所を建てたら、電力会社は20年間の固定価格でその電力を買い取らなければならないという制度だ。

これは法律でそう決めているわけで、政府の強制力そのものである。

私はこの悪法の施行前に「こんなことをしたらメガソーラーだらけになるに決まっている」と警告する記事を書いた。買取価格は40円以上になるとも警告した。

ソフトバンクなどの初期に参入した業者は、kWhあたり42円で電力を買い取ってもらえる。私は「総コストからすると、半分近くが業者の利益になる」として、日本の電力市場が外国企業に食い物にされるだろうと警告したが、その通りになった。

で、その業者の儲けは誰が負担しているのか? 買い取る電力会社ではない。電力会社はまた「再生可能エネルギー賦課金」として、われわれ消費者に転嫁するのだ。

つまり、政府という権力が、法律で、われわれ消費者から税金の代わりとなるものを徴収して、それを民間業者にプレゼントしているというのが、事の本質なのである。

仮に工場で何かの製品を生産していて、生産した分だけ、キッチリと、すべて他人が高めの固定価格で20年間も買い取ってくれる、という制度を想像してほしい。

そんなうまい商売があるはずがないのだが、政府が権力を使って、本当にそういう商売を認めてしまったのだ。しかも、ある種の盲目的な大衆的フィーバーを背景に・・。

暴走しているのは原発ではなく小泉元総理

書いているうちに、また段々と腹が立ってきた。

要するに、小泉純一郎の頭の中身をぶちまけると、こんなふうになる。

「政府の支援もないしに民間が次々と太陽光発電所を作ってくれるじゃないか。2015年3月時点で2700万kWじゃないか。100万kWの27倍だ。これなら50基の原発の代替なんて簡単じゃないか。今までおれは電力会社や専門家に騙されていたのか」

彼はそういうことを講演で必死に力説しているのである。

はっきり言って、何重にも勘違いしていて、手の施しようがない。

最近は、この主張を引っさげて、政局にも介入し始めた。

東京新聞とのインタビューでは次のように発言している。

小泉氏は「首相の権限は強い。もし首相が(原発ゼロを)決断すれば、自民党はそんなに反対しない」と政治決断を求めるが、安倍晋三首相では「やめられない」とも述べ、原発ゼロの実現には首相交代が必要だとの考えを強調した。

しかも、最近、この「反原発倒閣」で、なんと小沢一郎と組むというニュースも入ってきた。せいぜい「小沢不動産」とコンビでメガソーラーでもやるがいい。

(ところで、自分で言うのも何だが、私は6年前にこんな素晴らしい記事をたくさん書いている。今一度、エネルギーに関心のある人は参考にしてほしいものである。)

孫正義氏の「電田プロジェクト」は本当に駄目なのか?(後半・批判編)

孫正義氏の「電田プロジェクト」は本当に駄目なのか?(前半・擁護編)

自然エネルギーへの幻想を助長する「原発何基分」という表現

今のメガソーラーは“メガ負債”となる

原発の代わりが務まる自然エネルギーは今のところ地熱だけ

まだ早すぎるメガソーラー事業はいったん白紙撤回にすべき

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