やや旧聞に属するが、日中平和友好条約の締結から40年にあたる2018年10月、安倍総理が訪中し、習近平国家主席と李克強首相と会談した。
日本の指導者としては7年ぶりの公式訪問である。
中国側は天安門に日章旗まで掲揚して最高の国賓待遇をした。
ちなみに、帰国直後、安倍総理は、招いておいたインドのモディ首相と首脳会談した。その上、外国首相としては初めて、モディ氏を山梨県の別荘に招待して、プライベートな夕食を共にした。安全保障上のパートナーであるインドへの配慮であり、また中国に対する暗黙のけん制でもある。習近平は「やはり安倍は侮り難し」と痛感しただろう。
この辺の安倍さんの外交感覚は天性の才能を感じさせる。
中国人は意外と単純――媚日に転じた分かり易過ぎる背景
さて、今回も「米中関係が悪化すると、中国が日本に擦り寄ってくるの法則」は例外ではなかった。
私は「トランプは史上最強の反中国大統領になる」として、大統領就任の11日前にこう記しておいた。
「かくして、価値観、経済政策、安全保障などのあらゆる分野で、近未来の米中衝突は不可避と考えても差し支えないでしょう。」
ただ、トランプ政権が中国に実害を及ぼす形で明確に「ケンカを売った」のは、2018年3月に過去最大規模の対中関税を発動した時である。
中国もさっそく対米関税でやり返したが、元々、互いに相手から得ている貿易利益が違いすぎるのだから、中国のほうが一方的に不利な舞台である。
そして、同10月の「ペンス副大統領演説」で、少なくともトランプ政権の間は、米中関係の後戻りがありえないことが誰の目にも明らかになった。
内容的には「米中冷戦の始まり」云々というレベルではなく、「悪の帝国」認定である。私の知る限り、かつてのソ連に対しても、ここまでボロクソに非難した例はない。
しかも、ペンス氏の中国に対する批判はすべて事実であり、何ら非はない。
昔から「道徳的な悪」には、自分自身を除いて容赦しないのがアメリカである。
以後、貿易問題、スパイ問題、南シナ海問題、中台問題などで、アメリカは容赦なく中国を追い込んでいくだろう。
どうやら中国も3月の時点で「アメリカは本気だ」と確信したらしい。
5月になると李克強首相が7年ぶりに来日。突如、関係改善に躍起になった。
こういった政治的な動きは、個人でも、集団でも、中国人の恐ろしく単純で分かり易い点である。問題はそれを「本物の友好」と涙する、一部のアホな日本人である。
本当は内外とも非常に不利な状況下にある中国共産党
昨年、習近平はグローバルなシステムの刷新を主導し、中華版「新世界秩序」を構築していくことを宣言した。私は以前これを「夜郎自大」だと酷評した。
中国はたしかに世界第二位の経済大国で、強力な軍隊を持ち、ずっと毎年二ケタのペースで軍拡してきたが、戦略面でいうと決して優位な状況とは言えない。
中国は台湾と構造的な対立関係にあるが、そこにはっきりとアメリカも加わった。これは米中国交回復以来の転換であり、どちらかが倒れるまで続く長期の対立である。
しかも、東南アジアでは今、ベトナムが急速に発展している。
日本ではベトナムの実力が過小評価されているが、十年後には大国の仲間入りを果たしてもおかしくはないほどのポテンシャルを秘めていると、私は信じている。
かつて主従だった伝統的な中越関係のしがらみに加え、中越戦争は明確に中国側の侵略によって始まった。「反中国家ベトナム」が年々、強国化しつつある。
さらにベトナムの向こうにはインドが控えている。中印は国境紛争を抱えるだけでなく、パキスタンを介して敵対関係にもある。互いに核ミサイルを向ける関係だ。
しかも、近年、インドは、中国の海洋進出にもっとも神経を尖らせている。
つまり、インドから台湾まで、中国は長々と紛争地域を抱えている。
今やアジアにおいて、独裁国家中国のみっともないパシリをしているのは、もともと中国の万年植民地だった南北朝鮮くらいのものではないか。
それはともかく、周辺諸国が中国という共通の敵で団結することが一番怖い習政権としては、この状況下で、日本まで本格的に敵に回したら「詰んだ」も同じである。とりわけ恐れているのが「日米共に反中」で一枚岩になることだ。
その内心の恐れの表れが、昨今の「恥も外聞もない手の平返し的な親日外交」なのだろう。共産党系『環球時報』が気持ち悪い「日中共存共栄論」を発表したり、天安門に日章旗を掲揚してまで安倍総理を国賓待遇したりするのもそのためだ。
それもこれも、日米および日米を含めた周辺各国を対中で連携させないことが、目下、最優先の外交戦略だからである。
しかも、中国の危機感が尋常でないことは「内憂外患」なことだ。
今、国内矛盾も激しさを増している。ウイグル族の独立問題では、英米のメディアも焚きつけにかかった。馬鹿がつく親中だったNHKも、この動きに連動している。
私はそれ以上に大きな問題なのが漢民族同士の構造差別であり、かつ今度の経済調整局面において予想される失業者・労働者層の不満の爆発である。
それが民主化運動や、法輪功(ファールンゴン)の反体制運動と結びつく・・中国的にはこれも怖い。だから中国では武装警察という形の対内軍備が大きい。
つまり、中国はたしかに膨大な陸軍を持つが、一方でひどく戦力の分散を強いられているのも事実なのである。だからとても日本まで敵に回してられないと手を引いた。
習近平は南シナ海にまで戦線を拡大し、個人独裁への道を復活させ、おまけに中華版「新世界秩序」を構築して世界を主導するなどという妄想に取り付かれた。
今、自国の実力をよく知る知識人たちからも批判が続出している。
やはり、習近平は“ラストエンペラー”である。
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