「トンデモ予言者大集合」から外された記事を掲載する

文化全般
本の裏表紙のマーク。別に私がイルミではありません。




1998年に発売したこの本の章立ては次のようになっていた。

  • 第一章 トンデモ大偉人の巻 6項
  • 第二章 トンデモ大言壮語の巻 5項
  • 第三章 トンデモ予言研究の巻 6項
  • 第四章 トンデモ宗教大予言の巻 6項

ご覧のとおり、第二章だけ他と比べて数が少ない。

実は、当初の原稿では、他と同じ様に6項目あったのだが、編集部の上の人の判断で、1記事を外されてしまったのだ。それが以下に関するものだった。

『世紀末の黙示録』である。題名だけ見ると、恐ろしそうな本である。

なんでこの本に関する原稿が外されたかというと、「トンデモ予言者大集合」を出版した当のKKベストセラーズの本だったからである(笑)。

私としては、もう少し懐が深くあってほしかったのだが、なにぶん、この本を担当した編集者がまだ在籍しているとのことで、ボツになってしまったのである。

というわけで、第二章だけ5項目という、いびつな形で出版された。

で、その時の原稿を掲載しようと思って前回の記事を書き始めたわけだが、日ロ首脳会談に関するニュースを見てしまったせいで、話が思いっきり反れてしまったのだ。

というわけで、本来の趣旨通り、以下に掲載する。




地球の水を盗んだのはどいつだ!?

 『世紀末の黙示録』宮川玄気(みやがわげんき)著作

(KKベストセラーズ 1991年12月 新書版219ページ 780円)

著者の宮川玄気氏は昭和四年、福井県生まれ。子供の頃に、暗闇の彼方から飛んできた大小たくさんの玉(龍神の魂)を飲み込むという異常な体験をしたことにより、超能力を授かったという。以来、氏は神の声を聞いたり、他人の病気を治したりすることができるようになったそうだ。現在は山梨県の上九一色村で宗教法人「天徳舎」を主宰、「神籟の教理」なる教えを人々に伝えているそうだ。

なんでも「神の声が聞こえる」ようになって以来、予言ができるようになったそうで、その的中率の高さに対し「苦しんだこと」や「我が身を恨んだこと」さえあると、特殊能力者ゆえの苦悩を吐露されている(そういえばエスパー能力を持つアニメやマンガの主人公も同じ悩みを抱えていたっけ)。

本書について宮川氏は、「予言の書である。われわれを取り巻くあらゆるものが、今後どうなるかを断言している」と語っている。そしてその上で、「興味本位に読んでいただいてもかまわない。私の予言が当たった当たらないを話題にしてくれてもいい」と言う。

つまり、いくら突っ込んでもいいとお許しが出ているわけで、筆者としても遠慮呵責なくやらせてもらおうと思う。

それにしても、この本の内容は、題名から想像するイメージとはずいぶんと違う。てっきり天変地異やハルマゲドンの話題が頻出する終末予言の路線かと思いきや、政治・社会情勢、環境異変、大事件、果てはスポーツ・芸能関係等に関する話題まで、極めて広範囲かつ世俗的な予言で占められており、いわゆる「人類が滅亡の危機にさらされている」式の脅迫的な話題はほとんど登場しない。つまり「世紀末」的でも「黙示録」的でも何でもない。

ただ、人類存亡に関わる話題がまったくないわけではない。

たとえば、宮川氏は「地球はやがて月のようになる」と訴えるのだ。氏は近年の地球温暖化や砂漠化現象といった環境問題を考えるうち、「水の存在」に着目する。

大事なのは水だ。どこへ行っても水がない。工場が使った。地下水が汲み上げられた。しかし水が循環するなら、当然、元へ戻ってこなければならない。だが、使っても使っても元へ戻らない。戻らないでどこかへ行ってしまっている

宮川氏は、これが進行すると地球がいずれ月のようになると心配し、「地球の永遠の繁栄を願うならば、まず(水を)地球から逃がさないことを考えるべきだ」と主張するのだ。

どうやら宮川氏は、年々地球から水が逃げていると信じ込んでいるらしいが、驚くべきはこの御説が宇宙人の恐るべき陰謀の暴露にまで発展していくことだ。氏の話を続けよう。

いったい、この宇宙のさい果てに、宇宙人というのはいるのだろうか。いるぞ。たしかに、いる。よく聞け。今、地球を考えてみると、だいたい二〇〇〇メートルクラスの山の頂上から、海にいるはずの貝の化石が出てくる。つまり昔は海だったわけで、水深二〇〇〇メートルだけ浅くなり、どこかへ水が行ってしまったことになる。

言うまでもなく、これは昔、海底だった所が地殻変動によって隆起したに過ぎないのだが、宮川氏は「水がその分だけ減った」と考え、さらに「誰かが盗んだからに違いない」と推理するのだ。そしてどういう思考回路の作用か知らないが、「かつて月の水を盗んだやつがいる」と“犯行の前例”を探し当てる。

月は死の世界だという。昔、運河や湖があったという。ところが、今は水一滴もない。その水はどこへ行ったのか。宇宙の果ての、宇宙人が住んでいるみずみずしい緑の楽園ともいうべき惑星へ移っていっているのだ。そこには、満々とたたえられた水があり、そこに浮かぶ楽園がある。そこで宇宙人が、すばらしく発達した生活をしているのだ。(中略)「UFOで攻撃しかけてくる」とかいうが、そんなバカなことは絶対にしない。地球の水を月に運び、そこに彼らは緑のしたたる楽園をつくるだろう。

要するに宮川氏は、「地球の水が減っている」→「盗んだやつがいる」→「宇宙人はかつて月の水を盗んだ前例がある」→「ゆえに犯人は宇宙人だ」という思考過程で宇宙人の存在を論証しつつ、同時に地球の水を盗んだ犯人であると決め付け、地球もかつての月の二の舞いになると警告しているのだ(笑)。

たぶん、H・G・ウェルズやジュール・ヴェルヌの頃のSFでも、こんなひどい話はなかったと思うぞ。

宮川氏は「(宇宙人は)地球の砂漠化を左うちわでながめて、『とうとうやってやったぞ』というだろう。地球から水がなくなるとき、宇宙人の存在を誰もが肉眼でみることができるであろう」と締めくくる。

一体、どんな宇宙人やねん!?

おそらく宮川氏は、グレイやキャトル・ミューティレーション、ダルシィの遺伝子実験などといった、一般に流布する宇宙人陰謀ネタをまったく知らないだけでなく、SF小説や映画の類いもご覧になったことがないのだろう。こういう人の想像する宇宙人の陰謀というものは、100%純粋な妄想で彩られている分だけに、かえって新鮮な驚きに満ちている。

 宮川氏のおそるべき断言の数々

さて、宮川さんは様々な分野に渡ってたくさんの予言をしている。

たとえば、「臓器売買用の生体飼育産業がはこびこり出す」とか、「チェルノブイリの原発事故に似た事故が欧州で二つ起こる」などといった大きな事件から、エイズの特効薬や風俗・ファッション、宗教の行方、皇太子の結婚、巨人軍や阪神タイガースの動向若貴の将来や宮沢りえ・勝新の今後、上がる株やマンションの値段の推移に至るまで、よくもまあこれだけ雑多な予言ができるものだと感心してしまうくらいの幅と量がある。

その中でも特に面白いのが、やたら“大物感”のただよう断言調の予言の数々である。ちょっと順番に紹介していこう。

欧州内乱についてもふれておかねばならぬ。(中略)大事件が起こるとすれば、ここから起こる。(中略)いったいどんな大事件か。それは、せっかく一緒になった東西ドイツの分離である。(中略)九二年の秋ごろにははっきりするが、臭いな。わしが新聞記者なら徹底的にもぐり込んで調べあげるがな。(中略)分かれるか分かれないか、このまま行くか行かないかを神におたずねすると、どうも西ドイツは東ドイツの隣人を見捨てるようだ。(中略)とにかくこのままではすまん。絶対に収まらん。

まず今後、おそらく半永久的に富士山の噴火はあり得ない。学者はプレート説をいう。地殻が動いたりねじ込むというプレート説だ。まるでみてきたようなウソをいっておる。(中略)沸騰してくると、ヒューっと音がして、ボコボコっとあふれ出て、やかんの蓋を吹き飛ばす。これが地震の原動力の圧である。火山の圧力である。今日、九州のほうで、阿蘇の山やら雲仙の山がブツブツ、ブツブツとやっている。(中略)もうすでにプツプツ、プツプツと圧が抜けているから、大災害には至らない。(中略)よく東海大地震の予想がなされるが、そんなものは、あるわけがない。

「今は原子力に頼らざるを得ない」というが、その原子力はいかに精密な機械でいかに優秀な人たちが管理しようと、必ず事故になる。絶対に大事故がある。でも、それが日本では起こらない。めったなことでは起こらない。なぜなら、日本人の性格というものはそうできている。

宮沢の命運は決まっておる。次の総裁選に出てくるなどということは十中八、九、無理だと断言しておく。一度やらせてもらってオジャン、これだ。(中略)北方領土返還など、ソ連の内部がガタガタしている今こそチャンスなのだがな。こういうときに強気の攻めができないで「まあ、お茶でも一杯」。それが宮沢だ。

人類のためという大前提でいくと、じつは、救世主といえばいえる人物が一人いる。その人物は、負けたけれども正義の味方で、パレスチナ解放を叫び、イスラエルというユダヤ国家を否定しようとした。いうまでもないが、それはフセインだ。(中略) 中東を平和に治め切る。もしもフセインが勝っていたら、そうなっていたであろう。

(これから出現する恐ろしい病気とは)まず、男性性器の短小。極端に小さい男性性器を持った人間が現れる。せいぜい一センチ、出ベソ程度の大きさしかない。(中略)次なるは骨喰い病。(中略)自分で自分の骨を吸い取るという病気だ。(中略)全身けむくじゃらという病気もある。サル人間といえばいいかクマ人間といえばいいか……。もちろん、人間の言葉はしゃべれない。動物的に叫ぶだけである。じつは、この病気もすでに出現しておる

じつは、エイズにしても癌にしても要は細胞のなせるわざだ。みな、細胞のなれの果てなのだ。それがエイズになったり、あるいは結核菌になったり、あるいは癌細胞になったりしている。(中略)細胞の生命には核がある。つまり、癌にしろ、エイズにしろ、そういうものには生命がある。魂がある。だから魂との対話、すなわち癌細胞との対話、エイズ細胞との対話が必要なのだ。対話のあるところに理解が生まれる。こういう意味において、エイズは簡単に治せるものなのだ。

(人間の寿命について)生活にリズムをもった、心得ある人々なら一二〇や一三〇はわけはない。しかし、平均寿命データは縮まり、早死にが多くなる。やむを得ないな。そのような奴を、いちいち助けてはおれんからな。

ところで、水上艇という飛行機がある。しかし、いよいよ飛行機にかわって、ジェット飛行機が海に着水する。だが、そんなものは発明のうちに入らん。(中略)どこの大学とはいえんが、九二年の秋ごろかな。その機械にかかるとコレステロールがきれに取り除かれてすっきりする。そんな機械ができあがりそうだ。(中略)そうだ、今一つあった。灯台もと暗しだった。画期的な地震予知計だ。震度三なら一週間前にわかる。古今東西世界第一、震度五とか関東大震災のような災害を一〇日も前に予知できるであろう。これは、もうできあがっている。(※この地震計はなんと宮川氏の発明だというが……)

10

四国の石鎚山には、霊場というか霊山というか、修験者の集まりそうなところがある。(中略)石鎚山には、夢を持って山に入り、神仏の信仰を志したにもかかわらず、不幸にして無念の仏になった者たちの霊が、今もさまよっている。じつは、大川隆法という幸福の科学を引っ張る男には、こうした霊がついている。(中略)申しわけないが、織田信長ではないが、あっという間に出てきてパッと終わる。大川隆法はそのような宿命をお持ちのようだ。あと七年どうかな

11

(野球は)今はコンピューターでデータを研究して敵を知り、己を知る時代だ。そういう隠れた表に出ない管理野球の中で、教育されている。動物的な勘というような野球はもう古い。となると、長島が出る幕はない。こんな脳味噌ではあかんのだ。もしもこういうような、ビッグネームだけでチームを引っ張りたいとすれば、よほどバカな球団だ。

12

(ヌードになった宮沢りえの将来について)人は死して名を残す、虎は死して皮を残す、という。しかし、宮沢りえは皮を残す。この意味が分かるだろうか。(中略)早まったな。裸になるのが早すぎた。(中略)あとに待っているのは、水入れを包む皮袋の運命。骨董品屋の軒先の吊るしもののような芸能生活を送ることになるだろう。

とまあ、こんなに大口を叩いて後で困らないのだろうかとこっちが心配になってくるほど、大物感あふれる氏の大言壮語が次々と放たれるのである。

日本人が世界を我が物顔に自由にできる?

さて、宮川氏は、例のノストラダムスの「一九九九年の予言」に関して画期的な解釈をしている。アメリカに関係があるというのだ。

(前略)北米大陸を目を細めてみると、痩せ衰えてきて、いまにもバタンと牧草の上にぶっ倒れそうな、骨だらけの牛に似てきた。

その牛を「ああ、ここら辺りで捨ててやろうか」と、そばに立って小さな男がニヤニヤと笑っている。この小さな、ニヤけた表情をしているのが日本のようだ。そして、もちろん見捨てられて、ばたーんと朽木が倒れるように牧草の上に倒れかかっている牛がアメリカ大陸だ。

ノストラダムスさんはえらいことをいうたもんだ。このお方、アメリカの滅亡を予告したのではないか。そのように思える。これはアメリカの滅亡だ。

と、宮川氏は「えらいことを、えらい昔にいった人がおるものだ。これは間違いないぞ」としきりに感心しているのだが、仮にアメリカが衰退するとしても、なんでそれが「倒れかかった骨だらけの牛」で、またそれを凌駕する日本が「ニヤけた小男」に例えられるのか!?

いずれにしても、これは宮川氏以外には誰も思いつかない画期的な予言解釈であることは間違いない。

さて、アメリカといえば、驚くべきことに宮川氏は日米の再戦をも予言している。

普通はまさかと思うが、氏はいつもの歯切れのいい口調で「黄色人種対白色人種」ないし「東洋人対アメリカ・ヨーロッパ連合」の戦いは十分に考えられるとし、最後には「そして日本は勝つ」と言い放つ。

この戦争(ちなみに氏には明らかに、人類最終戦争といった終末思想的な概念がないらしく、これも普通の意味での戦争のようだ)は「今から七〇年後」というずいぶん先の話だそうで「日本は巧妙に、戦いの仕掛人かつ勝利人となり、世界の王者になっていくであろう」とのことである。

そして、「有色人種が世界を制覇する時代が必ずくる」とし、「肩身の狭い思いで人種差別に泣いたその逆転劇が演じられる」ことこそ「世界大戦」と言うべきだと訴え、「そして有色が勝つ」とまた断言した上、「今、アメリカさんが世界に君臨しているように日本が君臨する時代がやってくる」などと締めくくる。

もしかして、宮川氏は欧米人に何か個人的な恨みでもあるんじゃないの(笑)。

さらに宮川氏は、現在のところ世界のリーダーと呼べる人物はおらず、「ブッシュも、うぬぼれちゃいかん。とてもリードなどできはしない」と叱りつけた後、「日本人の救世主出現は無理としても、もしも世界をリードするような人物が登場するなら日本人であろう」とし、人種戦争に有色人種が勝利した暁には、「そのとき世界を我が物顔で自由にできるのは、やはり日本人だろう」と自信満々で大言壮語する。

うむ~、これだけ100%大日本マンセーな予言は私も初めてだ(笑)。


以上。

というわけで、なぜこの本が「トンデモ大言壮語の巻」に入っていたか、十分お分かりいただけたと思う。ちなみに、この原稿を読んだ植木不等式さんはこう感想を漏らした。

「90年代はいいトンデモ本がありましたねえ」

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