中東での局地戦が周辺に延焼しかねない危険性

オピニオン・提言系
出典:CNN




2013年06月、北アイルランドで開かれたG8サミットでは、シリア内戦についての対応が主要なテーマの一つだった。そこでは冷戦時代のように「西側VSロシア」の対立の構図がくっきりと浮かび上がった。米英仏(とイスラエル)は、アサド政権が化学兵器を使用したとして、反体制派への武器支援などを決定した。これに対してプーチンは反発し、アサド政権とイランへの支援を強化するという。

このサミットはすでに「忘れられた感」があるが、以後の推移の象徴として、むしろ後世の歴史家から注目されると思う。



わざわざ中東戦争に巻き込まれに行く米英仏

中東での戦火が連鎖的に拡大していく危険な図式が、ごく短期間に整えられた。一部の欧米諸国は、何らかの深慮遠謀なのか、自ら好んで状況に巻き込まれようとしているとしか思えない。アメリカは日本軍による真珠湾攻撃前と似た行動を取り始めた。イランに対しては資産凍結や貿易の禁止などの経済制裁をずっと続けている。シリア反体制派への武器供与は、英米によるかつての援蒋ルートを思わせる。

また、戦争を忌避してきたオバマ大統領をよそに、米議会は先んじてイランとの戦争が始まった場合のイスラエルへの軍事経済支援を議決した。中東の周辺海域では、米ロの海軍がそれぞれ展開中だ。

これで「米英仏・イスラエル・シリア反体制派 vs アサド政権・ヒズボラ・イラン・ロシア」という対決の構図がほぼ確定したばかりでなく、各国が導火線で繋がれた。歴史的に見ると、一対一の戦いより、集団化したほうが、各々、無責任で慎重さを欠きやすい。後者には、場合によっては北朝鮮も含まれるので、極東に飛び火する可能性もありうる。

アサド政権とヒズボラは、目下の内戦に勝利するためには、反体制派への補給を叩かねばならなくなった。これでイスラエル・トルコ・ヨルダンが巻き込まれる可能性が出てきた。

ただし、トルコとヨルダンは自国領を補給に使わせない措置によって攻撃対象から外れる第三者だが、イスラエルの場合は補給の当事者であるため逃れえない。

よって、イスラエルとヒズボラとの間に再び泥沼の戦端が開かれる可能性が生じた。

だが、もしイスラエルの一般市民が犠牲になれば、同国の世論は沸騰し、「やはりヒズボラのスポンサーであるイランを叩かねばならない」となるだろう。前回述べたように、ちょうどシリアとエジプトが混乱中であるため、中東戦争になっても今は両国から挟撃されるリスクが少ない。とりわけ中東最大のエジプト軍(数百機の戦闘機と四千両の戦車など)が国内に釘付けになっているのは好機だ。幸いアメリカの軍事支援も決まった。このタイミングでこの好条件が整ったことは、やはり偶然にしては出来すぎの感がある。

このように、ヒズボラがいったんイスラエルを攻撃すれば、次はいよいよ因縁のイスラエル・イラン戦争に発展する可能性がある。しかも、アメリカが同盟国としてイスラエルを支援するため、イランとアメリカの戦いにもなりかねない。ちょうど戦前の日本が、中国の後ろ盾をするアメリカを叩かざるをえなくなった構図に似ている。

すると、アメリカとしては、今度はロシアによるイランへの支援が大問題になる。ロシア製の地対空・対艦ミサイルなどに悩まされ、場合によってはロシア領内の兵站を叩くことを余儀なくされる。

プーチンはよほどのことがない限り、引かない。というのも、プーチンはアメリカとシオニストに対して激怒しており、場合によっては対決も辞さない姿勢だからだ。このことは「ロシアはこの連中から二度も強姦された」という彼らの憤りを知らないと分からないことである。壮絶な死闘の末、二度目を撃退したプーチンは、自分が敗れれば三度目に繋がりかねないと危惧しており、決着を付けたいと思っている。

よって、戦況次第ではロシア軍が援軍として直接シリア・イラン領内に入ってくる可能性もありうる。つまり、最終的にはアメリカとロシアの戦争に発展していっても不思議ではない。

このように、かつて朝鮮半島を舞台にして米中が戦ったように、今度は中東を舞台にして米ロが激突する可能性も出てきた。こうなると第三次世界大戦である。しかも、漁夫の利を狙う中国がその成り行きをじっと見守っているという構図がまた恐ろしい。最後はやはり両者が疲弊したところで中国軍がサウジの原油を奪いに行くというオチかもしれない。

イスラエルはこのところシリア領内にあるロシア製ミサイルを盛んに奇襲攻撃している。これは軍事侵攻の前触れとも受け取れる。つまり、反体制派を直接支援すると称して、内戦中のシリアに電撃侵攻し、一挙に宿敵アサド政権を叩き潰すわけだ。対イラン戦の露払いとして、まずはシリアを打倒し、イラクのように傀儡政権を打ち立てて分割統治し、以後は対外戦争能力を持たない“民主的な”国に改造するのも、彼らとしては悪い選択ではない。

中東は日本の戦国時代に等しいので、何が起きても不思議ではない。

憎悪の応酬と大規模テロ再び?

欧米が戦争に巻き込まれることに関しては、明確な受益者がいる。現在、イスラエルとアメリカの軍産複合体の利害が一致する状況が形成されつつある。

イスラエルにとってイランは大国であり、屈服させるのは容易ではない。よって、孤独な戦いを強いられるよりも、一緒に戦ってくれる同盟国がいてほしい。欧米の支援もありがたいが、より望ましいのは彼らが自分の戦いとして積極的に参戦してくれることである。とりわけ(世論の後押しを受けた)アメリカ軍ほど頼もしい存在はない。

他方、軍産複合体にしてみれば、生き残るためにも本格的な戦争の勃発が不可欠である。対イラク戦争(2003年3~5月)から10年。そろそろ「輸血」を欲している。

しかしながら、その際に問題となるのが世論だ。しかも、今回は大統領からして乗り気ではない。オバマは一貫して平和指向の人物だ。彼は比較的内向きであり、国内の問題に専念していたいというのが本音だ。アメリカの二重権力状態はしばしば指摘されるが、軍事行動に消極的なオバマは、対イラン問題などで国内から様々な圧力を受けている。それに対し、彼は真正面からの軋轢を避け、今までのらりくらりと時間を稼いできた。

受益者サイドからすれば、このような政治的膠着状況を一挙にひっくり返すのが、例によって「相手からの先制攻撃」というやつだ。しかも、民間人の犠牲者が出れば、世論の怒りも倍増する。あとは「リメンバー何々!」と国民を煽っていればいい。そうすればオバマ個人の意志に関係なく、彼は米大統領として開戦の決断を迫られよう。

ということは、彼らにとって一番都合がよいのは、9・11のようなテロが再び発生することである。それに些細な形でシリアやイランが関わっているだけでいい。激昂する欧米の市民にしてみれば、それで十分、報復の口実になる。その下地ともいえる、受益者サイドによる「欧米VSイスラム」の対立の扇動は、すでに始まっている感がある。

イスラム教徒を挑発するのは簡単だ。たとえば、預言者ムハンマドを侮辱したり、コーランを燃やしたりする。著名人が公然とイスラムを見下し、侮辱する。映画やCM、コメディなどを使って揶揄・嘲笑する。これは近年、実際に行われていることである。

これに対して、イスラム過激派のほうはまるでガソリンに火がついたように容易に激昂し、報復として犯罪・テロ・暗殺に走る。これをメディアが大きく取り上げる。受益者サイドは、こうして互いが相容れない仇同士であると認識させ、憎しみ合うように仕向ける。

もともとテロから生まれたイスラエルにとって謀略はミームのようなものだ。一方、軍産複合体にとっては、ロビー活動と世論操作はお手の物だ。大多数の市民は「誰がそれによってもっとも利益を得るか」など、考えない。

仮にアメリカで、また英仏で、多数の市民が殺害されるテロが起きれば、問答無用の挙国一致で戦争に突き進んでいくだろう。われわれ一般人は「悲惨な戦争を望む者など誰もいるはずがない」と思い込んでいるが、実際には渇望する集団がおり、しかも政界やメディアに大きな影響力を持っている。

日本の生き残りのために

ごく短い間に、イスラエルがイランの核関連施設を先制攻撃する以外にも、戦争になるオプションが増えてしまった。バイパスができたことで、6月のイラン大統領選挙で比較的穏健派のロウハニ氏が当選したことの意味は半ば失われてしまった。

よって、そう遠くない将来に中東で戦争が起きてしまうと私は思う。しかも、結局は欧米も巻き込まれるだろう。そしてこの戦争はとんでもない悲惨な事態に発展していく可能性がある。

第一次・第二次大戦が勃発する寸前まで、あそこまで狂気に満ちた殺し合いをする羽目になると事前に想像した人はほとんどいなかった。アメリカが蒋介石に大量の武器を援助し始めた時、そのわずか4年後には東京が大編隊の爆撃で灰燼に帰すと予測した人はいなかった。いても、世論の袋叩きにあっていただろう。

だが、「未来について絶対ないということは絶対ない」の格言通り、現実には誰もが予想だにしなかったもっとも悲観的なシナリオが実現した。

日本は、戦争に巻き込まれたくなければ、あるいはテロの標的になりたくなければ、シリア内戦をはじめとする中東の揉め事について沈黙を守り、絶対的中立を堅持すべきだ。戦争をしている当事者にしてみれば、敵を支援する者もまた敵に他ならない。

ところが、ナイーブな日本人は「国際貢献」という言葉に弱い。そして、世界に認められたがっているその日本人の気持ちにつけ込もうとするヤカラがいる。

たぶん、「戦費だけ毟り取られて感謝もされなかった湾岸戦争の二の舞になる」とか、「中東の石油に一番依存する日本が何もしなくて、アメリカの若者だけが犠牲なっていいのか」などと、揺さぶってくるだろう。

当然、尖閣問題と天秤にかけてくる。だが、「尖閣問題で米軍の支援を得る代わりに中東に国防軍(自衛隊)を派遣する」というこの取引は、まったく割に合わない。尖閣諸島は死守するだけの戦略的価値はない。いったん奪われても、最終的に取り戻せばいい。対して、勇んで中東などに介入すれば、兵士たちはまず生きて還れない。彼らに待ち受けているのは、敵のBC兵器や中性子爆弾の餌食になる悲惨な運命だろう。

だから声を大にして言いたい。中東で勃発する戦争には絶対に関わるべきではない、と。

2013年07月23日「アゴラ」掲載

 10月22日、ロシアのプーチン大統領(右)は、シリアのアサド大統領が、過激派組織「イスラム国」の掃討に向け、シリア国内の一部の反体制派武装組織との対話の可能性も視野に入れていることを明らかにした。モスクワで会談を行った両大統領、20日撮影。クレムリン提供(2015年 ロイター/Alexei Druzhinin)

10月22日、ロシアのプーチン大統領(右)は、シリアのアサド大統領が、過激派組織「イスラム国」の掃討に向け、シリア国内の一部の反体制派武装組織との対話の可能性も視野に入れていることを明らかにした。モスクワで会談を行った両大統領、20日撮影。クレムリン提供(2015年 ロイター/Alexei Druzhinin)

(再掲時付記:今にして思えば、13年9月の時点で中東戦争になってもおかしくはなかった。当時、化学兵器使用問題を口実として、米欧はシリアと開戦する予定だったらしい。プーチン大統領が横やりを入れて、うまく阻止したにすぎない。それから3年が過ぎた現在、中東情勢はさらに混迷の度を深めつつある。ISが急激に勃興し、シリアとイラクを荒らし回っている。エジプト、リビア、イエメンにも内戦の火が及んでいる。)

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